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アーロン  作者: ラー
五章 上

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四話

それから2人が戻ってきた後、流石にこのまま世話になるのも気が引けたアーロン達だったがオーレウスに引き留められ、食事と寝床まで提供してもらう事になった。アーロン達は和やかな雰囲気の中でひと時を過ごした翌日、庭先でオーレウスに別れを告げる。

「世話になった。恐らく神器が再び手に入れば来ることになる」

「ありがとう!お世話になりました!」

アーロンは短く別れと次回の予定を告げ、エンリータは丁寧に、元気よくお礼を告げる。

「いえいえ、久しぶりに楽しい時間でした。私は基本的にここから出ることはありませんから、どうぞ、また来てくださいね」

それにオーレウスも好々爺といった雰囲気で持って返す。

「アーロンにエンリータ、これから先、この大陸は大きな時代のうねりに呑み込まれていくでしょう。しかし、それに負けない様に頑張ってくださいね。あなたたちの旅に良き出会いが在らんことを!」

そう言って手を振るオーレウスに背中越しで手を振りかえしながらアーロンは来た道を引き返していく。


「いやぁ~会う前はどんな人かと思ったけどいい人だったね!」

結界の外、幾分上機嫌なエンリータが手を頭の後ろで組みながら呟く。

「あぁ、あれが英雄の父とは言われなければ分からんな」

秋の麦畑の様に輝く髪は似ているかも知れないが記憶の中であってもエーベルトの方が全体的に荒々しく、主張が強い。それに比べてオーレウスは穏やかで、心地の良い軽さがあった。

「ハハハ!そうだね!そうだ、カロールはこのまま真っ直ぐに行くの?」

そう言えばまず、神器を預けに行くという所で話が止まっていた。

「そうだな・・・思ったよりもスムーズに用事が終わったうえ、水も補給し直せた。よし、このままカロールに向かうとしよう」

実際の所、半分くらいは以前にイリシィオ小国に行った時と同じ道のりである。エンリータも一度通った事がある道であるし、あの時よりも遥かに強くなった今ならば比べものにならない程にスムーズに行けるはずである。それに懸念として、遅れれば遅れる程エーベルト達が軍を率いて来る可能性が高まる。であればイリシィオ小国圏内は早々に超えてしまいたいと言うのが本音だ。

「了解!じゃぁ、早く森は抜けちゃおうよ!ワタシが言うのも変だけど新人の人にも悪いしさ」

アーロンの様な、見るからにベテランと言った雰囲気の人間がうろついているのは要らない不安を感じさせかねない。

「はぁ、ま、それはそうだな。良し、少し走るぞ」

そう言って2人は連れだって出口に向かって走り出すのだった。


2人が森を出てイリシィオ小国に向かって4日程経過した頃、2人はまだ知る由もないがエテルニタス帝国は本格的に大陸全土に向けて宣戦布告の準備を進めていた。

嘗て、神々の力を借り受け、破壊神とその使徒を倒した英雄エーベルト・エテルニタスは皇帝セオドールを退け、エテルニタス帝国の帝位に付いた。

クーデター後、エテルニタス帝国の宰相ファーナーは帝国の潤沢な資源と豊富な国力を生かし、大規模な軍隊を組織した。同時にそれを率いるための将軍を4人、地位も生まれも気にすることなく、純粋な能力で将軍として大抜擢した。

自身と同じく、貴族学校を主席卒業したルイーナ・ライラックを自身の補佐兼、帝国内務統括、黒狼将軍に任命。ファーナーの下で国内の掌握をさせる。更に、希少種族であるアーラ族のフラッデルを白馬将軍として登用。大陸の西方軍の総大将に任命し、西の大国フォスト・アギオースの攻略を命じた。

10年前、帝国のスラムで若者をまとめ上げて騒動を引き起こし、鎮圧された後に人を率いた市街地戦の才覚を認められて軍人になった孤児、ラエル・ブリッツィを蒼龍将軍として登用、東方のイリシィオを初めとする小国群及び、リーベタース連邦の攻略を命じる。最後に先々代の皇帝から仕えていた老将軍ハダクーシス・モルターを不死鳥将軍として登用、南の大国、アウローラ王国の攻略を命じた。

エテルニタス帝国皇帝エーベルト・エテルニタス自身は片手で数えられるだけの親衛隊を結成、己を主軸に国との戦争よりも闇の勢力、および神器等を中心に行動を開始する。こうしてエテルニタス帝国は大陸のすべてに対して戦いを挑み始めた。かくして大陸は、激動と混沌の時代へと突入し始めたのである。


アーロン達はオーレウスの家から順調に旅を続けていた。つい先日に国境を越えて、嘗て怪我をしたエンリータを担ぎこんだ村から出発する。まだ戦乱の気配は此処まで届いていないのか、いつもと変わらない空気が村には漂っていた。しかし、街道を走る商人の数は以前来た時とは比べものにならない程に増えており、同時にそれにつられた野盗の数が増え、それを守る護衛の人間も多い。街道も明らかに踏み直されており、帝国の先兵が此処に来るのもそう遠くはないだろう。むしろ偵察部隊であれば既に来ている、と見るのが普通だ。街道を外れた場所を探せばきっと軍の人間が駐屯した後が見つかっても可笑しくはない。

「あの時と違って本当に騒がしくなったね・・・おかげでワタシたちの旅は順調だけど」

エンリータがまたすれ違った商人の一団を眺めながら呟く。

「あぁ、きっとどこからか漏れたクーデターの話が一気に商人の中で回ったんだろうよ。むしろ今、急ぐ連中は遅いぐらいだろう。まぁ、大陸全部に喧嘩を売った以上どれだけ物資があってもいいんだろうが」

商人たちの行先は明確に帝国行きのものが多い。拮抗すると商人が考えればもう少し行先はばらける上、本拠地が無くならない様に地元へ力を入れるはずだ。だがこの商人の流は大陸すべてに喧嘩を売っても帝国が最後に勝つと見ているのだろう。どちらにせよ商人としては今が売り時で、それが出来るだけ長く続くのが望ましい。であれば場合によっては劣勢になりすぎないよう帝国の敵にも売りさばきに行く商人が増えるのも時間の問題かもしれない。だがまずは帝国へのコネと保身が第一と言った所なのだろう。もしかしたら護衛の人間たち、冒険者なんかも場合によっては帝国へと流れ込む者も増えるだろう。尤も、劣勢になった時に直ぐに本拠地を捨てる人間が信用されるかは分からないが。

「それにしてもワタシは戦時中の冒険者経験がないんだけどこういう時、ワタシ達みたいな所属無しってどういうふうに動くのが良いの?」

純粋に疑問に思ったのだろう、エンリータが小首を傾げる。

「そうだな、俺も流石にここまで大規模なのは初めてだからな・・・とはいえ、俺たちは冒険者、好きにやれば良い、が極論ではあるな。あぁ、そうだ。実の所、国に所属していても冒険者はそこまで信用されている訳じゃない。理由は分かるか?」

「理由?ん~・・・あ、命令を聞かせるのが難しいとかかなぁ?」

「まぁ悪くはない。だが根本ではないな。いいか、一番の違いは俺たちが冒険者で軍人じゃぁないってことだ」

「?どういう事?やる事は一緒じゃない?」

それを聞いたエンリータは首を更に横に曲げてしまう。

「いいか、俺たちは少数で自由に仕事を取って魔物と戦ったり、護衛や郵便をこなすのが基本だ。また、遺跡やダンジョンなんて呼ばれる危険域に飛び込んで調査や探索なんかもするな。反対に軍人も似た様な事はするが彼らにとって最も重要なのは対人間及び対国家だ」

「あぁ、そっか!ワタシ達とは相手が違うんだ!」

軍人は文字通り、軍だ。集団を個として行動し、自身の感情や意志よりも国の意を最優先にする。また、一番相手にするのは同じ軍人であり、戦時中に魔物との遭遇はむしろ避ける。また、彼らはどこまで行っても運命共同体で互いに強い信頼で結ばれていると言っていい。それ故にいざとなれば個人の意思で好き勝手出来てしまう冒険者は信用されにくい。また、軍人は冒険者と違って個人としての武勇は重要視されない。勿論、高いにこしたことはないが個人が強いだけなら軍としての強さに成りえないからだ。それよりも全体の平均値が高く、命令を遂行させる力の方が大事だろう。そう言う経緯で冒険者は国軍を動かす側からも扱いに困るし、軍人からしても普段一緒に居ない奴との結束は出来ない。なにより、冒険者は金で容易く動く傾向があるのも低評価ポイントだろう。それ故に国に所属している冒険者は戦時において戦力ではあるが扱いにくい奴らという評価を受けるのだ。それもエテルニタス帝国の様に国力が高い国からすればなおさらである。

「その上、普段から軍人みたいに誇りと忠誠で動くんじゃなくて金と名誉で動く俺たち冒険者は国の上層部からすればいつ裏切るかも分からない集団だ。仮に力があっても使いにくいだろうよ」

「あぁ、そうだよねぇ・・・ワタシ達は根無し草だしね。それに本当に国の力になりたいなら国所属の冒険者じゃなくて国所属の軍人になる方が当たり前だよね」

得心がいったのか苦笑いをエンリータは浮かべる。

「あぁ、だから戦時中であっても冒険者は軍の周囲で魔物退治が主になるな。後は軍の雑用だ」

「あ、でも小国ならその限りでもないんじゃない?」

「あぁ、まぁな。小国なら確かに主戦力になることもあるがその場合は大抵劣勢だ。報酬は悪くはないだろうがリスクが大きくなる。それをどう思うかだ」

今回の帝国の宣戦布告に対して各国は間違いなく足りない戦力分として冒険者を集めようとするだろう。信用できなくとも自国だけで抵抗できない以上、冒険者という人出が欲しいと思うのは自然な流れだろう。後はどの程度の報酬が出せて集まるかだ。とは言え、戦争中にどこにも所属しないのはある意味すべての国に狙われる事にもなりかねないので大半はどこかに所属することになるだろう。

「ま、そんな上手くはいかないよね・・・ワタシ達も今は所属してないようなもんだけど、これってどうなるんだろう?」

「さぁな、とはいえ今の俺に対して強引なアプローチを仕掛けるところもない気はするがな」

これでも新たな龍殺しだ、引き入れたい陣営からの手紙がギルドに来る可能性は高いが強引に来る可能性は低いだろう。

「ま、今のワタシ達にはどうしようもないか」

そう言ってエンリータは大げさに肩を落とす。

「兎に角、今は神器だ」

項垂れるエンリータを横目にそう言ってアーロンは暮れ始めた太陽を追いかけるように歩を速めるのだった。



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