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アーロン  作者: ラー
五章 上

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二話

繋ぎはやっぱり膨らましにくい

「なんか大変な事に成っちゃったねぇ・・・」

宿の酒場の隅に置いてあるテーブルでアーロン達は食事をしながらこれからについて話し合っていた。大仕事を片付け、ヘンドリーナとギルドからの報酬も貰い、今は実質打ち上げであるにも拘わらず雰囲気は少しばかり暗い。エンリータも普段であれば顔を真っ赤にして騒いでいただろうし、アーロンももう少し先にはなるが冒険者のランクが8に上がり、2つ名と竜殺しの称号が与えられることになっているのだから同様に顔を真っ赤にして羽目を外していただろう。

「・・・こればかりは1冒険者にはどうしようもない。なら、未来を考えるのが肝要か」

ジョッキを乾かしながら肉料理をつまみ、愚痴の様に溢す。実際、アーロン達に国が起こしたことを変えるような力はない。であるならば早急に決めなければいけないのはどちらに着くか否かである。

「兎に角、お前はどうしたい?」

アーロンはそう言ってエンリータに水を向ける。

「う~ん・・・難しいような、そうでもないような・・・でも心情的にはヘンドリーナさんかなぁ。依頼の事もあるしね」

そう言って腕を組みながら彼女は首を傾げる。だがヘンドリーナ寄りであるのはアーロンと同じようだ。

「いや、先を見るならエーベルト様でもいいと思うんだけどね。でも納得できないまま付いて行ったらどこかで、そうで無くとも全部終わった時にモヤッてしそうなんだよね。だったら命がけではあるんだろうけど一回正面からぶつかって、話し合っても良いと思うんだ。勿論、話し合いから出来るならそれが一番いいんだけど、エーベルト様はもう直ぐにでも宣戦布告すると思うしね。なら今は納得しやすいヘンドリーナさんに付いてってみたいなぁって」

首を傾げながら語られる内容はアーロンもなるほどと思う話だ。

「そうか・・・まぁ、俺も少しばかり納得がいかない部分があるのも事実。そもそも逸話や唄でしかエーベルトの事は殆ど知らないのも現実だからな。一旦、戦乱が鎮静するまで細々とやっていくのも悪くないと思ったが難しいだろう。なら納得がいく方に付くのは道理か」

そう言うとアーロンは手を上げて飲み物を注文する。

「あ、ワタシもお代わり!うん、やっぱりそっちの方が気分が良いからね。ま、所詮無所属の冒険者なんだし、好きにやろうよ」

そう言うとエンリータはほんのり赤くなった頬で笑った。


翌日、アーロン達は再びヘンドリーナが居る教会の扉を潜る。ヘンドリーナはいつもの様に来るのが分かっていたと言わんばかりに視線の先で立っていた。

「フム、来てくれたか。一応確認するが私の方に加担してくれる、という事でいいのか」

「あぁ、今のところは、と付くがな」

ヘンドリーナに近づきながらアーロンは短く返す。

「あぁ、それで構わん。汝らを拘束することは私であっても難しいからな。それに一時的であったとしても力を貸してくれると言うのであれば十分だ」

そう言ってヘンドリーナは薄く笑う。

「で、早速だが俺たちは何をすればいい?戦場に出るわけでもないんだろう?」

結果的に戦場に出る事はあるかもしれないが前日にヘンドリーナは戦場に出ろとは言わなかった。であれば別の仕事か今まで同様に神器集めが濃厚だろう。

「ウム、汝らに依頼するのは今までと同じで破壊神の神器集めだ。神器はエーベルトも集めるために奔走している。・・・今の所、私たちが所有している神器が2つ。【崩壊の王冠】と【叡智の指輪】だ。エーベルト側は知っている限りでは【災禍の槍】だな。後の7つはまだ大陸で眠っているか所有者がいる。1つは考古学者が持っている【狂乱の籠手】だな。後は以前会った使徒カエドーティアが【創造の聖杯】を探していた件だが彼女本来の神器は【全能の仮面】と呼ばれる方だ。そこから推測するに既に仮面は持っていて聖杯を探している、という可能性がある。となれば現在、最低でも半分の神器が其々の勢力に渡っている、と言った所か」

ヘンドリーナがそう締めくくる。

「じゃぁ、俺たちは残りの物を探せばいいのか?それとも当てが?」

「ウム、基本的にはそうなる。再優先は当然【創造の聖杯】にはなるが流石に状況が難しいからな、焦らなくてよい。何より使徒が先んじて回収した場合は戦乱中でもそっちに全員で掛かる事になるだろう。そこでだ、汝らには新たに見つかった神器をエーベルト達よりも速く回収してほしい」

「なんだ、見つかったのか?」

アーロンは今まで一切新情報が出てこなかった為に少しばかり驚きを持って聞き返す。

「あぁ、と言ってもこれはエーベルト達の方に探りを入れた結果だがな」

そういってヘンドリーナは疲れた様な顔を浮かべる。昨日の今日で得た情報なのだろうか?であれば凄まじい情報網か本人の隠密能力がずば抜けている。

「兎に角、今から汝らには出来る限り急いでカロールに向かって欲しい」


カロール、以前に行ったイリシィオ小国のさらに先、火山を背負った場所に位置する国だ。国を囲むように火山から溢れる溶岩が流れ、街中ではアウローラの様に温泉が湧いており、非常に空気が熱い。また、溶岩などを利用した鍛冶の名所でもあり、腕利きのドワーフが集う場所でもある。


「神器はカロールの新官長が持っているらしい。簡単に渡してはくれないだろうが兎に角交渉してみる他あるまい。それともう一つがイリシィオ小国を通らない街道、カロールとの中間あたりにある霊峰カエルム、ここが有力らしい。こちらは環境が最も敵になるだろう。となれば恐らくだがカロールの方がエーベルト陣営は先に攻めるはずだ」


霊峰カエルム、なるほど雲よりも高くに聳え立つあの山で探し物は相当堪えるだろう。アーロンも踏み入れたことが無い場所だ。分かっているのはカロールとは反対にかなり寒いだろうという事だけだ。


「分かった、兎に角出来るだけの事はしよう」

頭の中でこれからの旅をどう進めていくか算段を立てながらアーロンはそう言って依頼を了承する。

「助かるぞ。あぁ、それともう一つ、別件を頼みたい」

ここまで来ればいまさら多少の事が増えても変わりはしない。アーロンは顎で続きを促す。

「あぁ、汝らにはカロールに向かう前にエーベルトの父親に会って神器を預かってもらいに行ってほしいのだ」

「は?」

しかし、ヘンドリーナが話した情報は言葉としては理解できても内容は一回で呑み込めなかったアーロンは気の抜けた返事をしてしまう。

「エーベルトはエルフの血が流れているのは知っていよう。そして父は純潔のエルフ。表に出て来ることは普段ないが未だに存命でな。エーベルトもいきなり襲撃を仕掛ける事はしまいよ。神器を預けるに足る人物でもある」

ヘンドリーナはこちらの唖然とした顔を気にする様子もなくつらつらと言葉を述べる。

「ちょっと待ってくれ、それは俺が行くよりもアンタが行く方が良いんじゃないのか?忙しいのは分かるが」

エーベルトの父、エルフであれば生きていてもそこまで違和感はない上、多少興味はあるが神器を預けるのだ、アーロンよりもヘンドリーナの方が適任に思える。

「ウム、一理ある。しかし、私はここでエーベルトと帝国の挙動からまだ目を離したくはない。次いでかの御仁は嘗て賢者と呼ばれたエルフでもある。汝もそれなりに理解しておるだろうが古神の加護の手助けや神器に関する情報もあるかもしれん。それゆえ、一度会っておくが良いさ」

そう言われては、アーロンは納得するより他ない。加護は大分馴染んではいるが使い方は魂に直接刻まれたようなもので改めて解説が貰えるのならば有り難い事でもある。

「分かった。なら俺が行こう。因みにどこに住んでいるんだ?」

「ウム、御仁は今、帝国近くの森、その奥の結界の中で暮らしておる。これが森の地図だ」

そう言われ、渡された地図を見てみれば本当に帝国近く、それこそエンリータと初めて会った森の奥地であった。

「あれ、これって私たちが会った森じゃない?ホントに近くだね。ていうかそんな所に住んでるんだ」

同じように地図を覗き込んできたエンリータも気付いたのかそんな事をいう。

「ウム、あの森は初級の冒険者にとっても手ごろで帝国にとっても木材を確保するために使うがあまり奥へは足を踏む入れることはないからな。その上結界で御仁の家への道は閉ざされている。それこそ一定以上の実力者か招かれた者しか入れないようになっているのだ」

そう言われれば確かにかなり近場でアーロンも何度も踏み入った森だが奥へは行ったことが無かった。

「結界は今の汝ならば抜けられるはずだ。エンリータ、汝も抜ける際にアーロンの手でも掴んでおけば問題ない。では頼むぞ」

そう言ってヘンドリーナはアーロンに神器を手渡してきた。

「何かあればまたここに来るがいい」

その言葉を背に、アーロン達は教会を出て行くのだった。


「あのエーベルト様のお父さんかぁ・・・どんな人なんだろうね?」

宿に戻る道すがらエンリータがそんなことを聞いてくる。

「さぁな。だがなんの癖もない、というのは望めないだろうな。何つったてあの英雄の父でエルフなのに帝国皇族の姫君と子を成したんだ。まともなわけが無い」

少し考えて口に出してみるがやはりまともな人物、とは思い難い。とはいえ、それからかなりの月日は経っていることを踏まえればだいぶ落ち着いている可能性もあるが。

「ま、そうだよね~うん、でも少しだけ会うのが楽しみだよ」

そう言ってエンリータは笑う。

「そうだな。あぁもしかしたらお前も何か得るものがあるかもしれんな。何と言ってもエルフだ、魔術も弓矢も得意だろうからな」

「あ、そうだね!うん、もっと楽しみになって来た!」

不安はあれども新たな出会い、アーロンは胸を疼かせながら宿に足を向けるのだった。



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