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アーロン  作者: ラー
五章 上

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67/255

一話

5章です

~エテルニタス帝国、謁見室~


「セオドール陛下、エーベルト様が来られました」

玉座に座るエテルニタス帝国の皇帝に宰相のファーナーが膝を付き、報告する。

「そうか、エーベルトが来るか。ククク、昔話でもしに来たのか?」

玉座に深く腰を掛け、ひじ掛けに肘を掛け、その上に顎を乗せた白髪交じりの壮年の男が頬を歪めながら悪童の様に笑う。


皇帝セオドール・エテルニタス。エテルニタス帝国5代目の皇帝であり、御年56歳でかつてはエーベルト共に戦場を駆け、その名を響かせた。今でこそ髪は白が多くなり、顔にも政務の疲れか年相応の皺が見えるが若き頃は精悍さのある美青年であった。傲慢な所はあれども国の王という立場からすれば特筆する程では無く、自信に溢れた姿は戦場に置いてエーベルトの2番手ではあっただろうが兵士たちの士気を上げた。今でこそ、最前線に立つことこそないが強大で広大なエテルニタス帝国の皇帝として政務に励んでいた。


「かも知れません。もしかしたら嘗てセオドール陛下が戦場に初めて立った時の話しでもしに来たのかもしれません」

未だに膝を付いたまま話す男は若くしてエテルニタス帝国の宰相の座に就いた才子、ファーナーだ。彼は生まれ持った才を帝国の貴族学園で存分に磨き、25の頃には現在の地位に就任し、その辣腕を振るってきた。性格は良くも悪くもエリートと形容されるような性格をしており、プライドが高い。また、綺麗な顔立ちであるにも関わらず、眉間に常に皺が寄っている為に気難しそうな印象を良く受けている。


「確か、若き日のセオドール陛下がエーベルト様に「何故、それほどまでに強くなり、何故、戦うのか」と問うたところ「弱きものを守り、大陸の平和の為である」と答えられたとか」

立ち上がったファーナーはそうセオドールに語る。

「ハッハッハッハッハ!そうだそうだ、いかにも奴が言いそうな事よな」

それを聞いたセオドールは愉快そうに大口を開けて笑う。しかし、それを見るファーナーの顔は酷く無機質だった。


それからそう時間も経たないうちにエーベルトが謁見室に到着したらしく、彼の入場を告げる声が部屋に響く。大がかりな扉が開かれ、エーベルトがまるで自分の庭であるかのように、堂々とした英雄の称号に恥じない雰囲気を纏ったまま謁見室のど真ん中を悠々と歩く。その背後にはファーナーと同じく貴族学園を近年首席で卒業した才媛、ルイーナが綺麗な黒髪を靡かせながら続く。

エーベルトは鎧を着たままで皇帝の前であるにもかかわらず正装の1つもしない。それだけでなく前回の使徒との戦いで手に入れた破壊神の神器、災禍の槍も背負われている。

エーベルトは自身こそが王であると言わんばかりの雰囲気であったが誰もそれを咎めるような事はしない。勿論、帝国の英雄であることも理由だがそれ以上に帝国を支えてきた武力がもし自身達に向いたら、そう考えるだけで自然と畏怖され、文句の1つもいう事が出来ない、というのが現実だった。また、エーベルトとセオドールは嘗て戦場を共に駆けたが10年前に仲違いを起こして喧嘩別れしたような物だった。当時はかなり大きな騒ぎにもなったうえ、エーベルトの手配書も回ったがエーベルトを倒せる人物など居るわけもなく、実質メモ用紙にしかならなかった。

「ハッハッハ、久しいなエーベルトよ。お前と会うのは何時ぶりか」

セオドールはゆったりとした動きで立ち上がると楽しそうな口調で、それこそ本当に旧友に会えたと言う表情で持って話しかける。

「10年振りか。壮健そうで何よりだな、友よ」

エーベルトは表情こそ変わらないが特に険のある声色では無く、泰然自若と言った雰囲気を保ったままだ。

「ククク、そうかそんなに経ったか。して、此度はなんの用で持って来た?昔話でもしに来たか?」

「その通りだ、友よ。嘗て初戦場にて俺がなんと言ったか覚えているか」

「ククク、確か我が「何故、それほどまでに強くなり、何故、戦うのか」と問い、お前が「弱きものを守り、大陸の平和の為である」と答えたのだったな」

先のファーナーとの会話のまま、繰り返すようにセオドールは言葉を発する。しかし、それで愉快そうなのはセオドール本人だけでずっと近くに居るファーナーもエーベルトも後ろに立つルイーナも無表情、いや、懸念していた事が当たってしまった、とでも言いたげな、得心がいったような顔を浮かべる。

「?」

それを見たセオドールは異様な雰囲気に首を傾げる。

「・・・エーベルト様、これは間違いないかと」

ファーナーがエーベルトの方へと振り返る。

「・・・そうか。まさか、と思ったが事実の様だな」

どこか諦めた様な、憐れむような、悔いるような、いや、やはり何も感じていないような雰囲気を纏ったエーベルトが言葉を返す。

「なんだ?どうしたお前達、言いたい事があるのならハッキリと」

未だに状況がつかめていないセオドールだけが多少混乱したような雰囲気で持ってそう問い始めた瞬間だった。ビュン、という風切り音が謁見室に響く。その直後、セオドールの身体は上半身と下半身が分かたれていた。

「な、ゴフォ!どうゆう事だ、エーベルトォ!!」

血を吐きながら、セオドールは怒りを交えながら絞り出すように叫ぶ。

「闇に墜ちるお前に気付けなかった俺を恨むがいい。さらばだ、友よ」

セオドールを切り捨てたエーベルトは短く、そう告げる。

「グッ、ッガ、おのれエーベルトォ!!」

既に人のものとは思えない声でセオドールは呪詛の様にエーベルトの名を叫ぶとその体は次第に魔物の様に黒い煙となって消えていく。

「定めに抗い、迫りくる運命を破る為。以前、セオドール陛下よりそれがエーベルト様の答えと聞いておりました」

ファーナーはエーベルトの背を見つめながらそう呟く。

「私も同様です。しかし、エテルニタスの皇帝にまで闇が迫っていたなんて・・・」

ルイーナもファーナーに同意する様に呟く。

「もはや事態は一刻を争うか・・・ファーナー、ルイーナ、件の用意は整っているか?」

「「は、もちろんです」」

エーベルトがそう言えば当然、とでも言うように揃った返事が返ってくる。

そして、セオドールの身体が完全に消えると同時にエーベルトは空になった玉座に向かうと先程までセオドールが座っていたように、王として玉座に座る。それを見届けたファーナーは玉座の前の階段下に立ち、その反対、少し前にルイーナが立ち、右手を掲げる。

「今、セオドール陛下は崩御された。よって、これより先々代の皇帝の姉君の子、エーベルト・エテルニタス様が即位される。帝国に栄光あれ!」


再び、謁見室の扉が開く。そして3人、種族も格好もバラバラな者達が入ってくると謁見室の中央程で止まり、横並びになって膝をつく。

「我らはこれより、この大陸に迫る闇に対抗し、打ち破る事が出来る新たなる勢力を作り上げる!」

エーベルトに最も近い所に立つファーナーが宣言する様に力強く謁見室に居る人間たちに向かって叫ぶ。

「・・・まずは大陸を完全に手中に収める」

短くエーベルトは宣言すると玉座から立ち上がり、右手を掲げて握りこむ。屋根で遮られてはいるが天を見つめるその視線は鋭く、英雄にふさわしい意志を孕んでいた。

「表を上げ、近くへ」

ルイーナが膝をつく3人にそう言えば彼らはルイーナたちと同じ場所まで来ると再び膝をつき、頭を垂れる。また、ルイーナとファーナーも同様に全員がエーベルトの間で頭を垂れた。

「己が役目を果たせ。我らが大陸を統べる」

最後にそうエーベルトが締めくくり、こうして英雄エーベルトによるクーデターは速やかに成し遂げられたのだった。


「まぁ、簡潔に言えばこんなところだろうか」

ヘンドリーナによって語られたのはざっくりとではあるが確かにエーベルトがクーデターを起こしたという説明であった。しかし、その中で分からないのが闇、という名称だった。

「所で、その闇に墜ちるっていうのはどういった事だ?何となくは分かるが・・・」

「そうだな、例えばエルフが分かりやすかろうよ。強い憎しみや怒りが精神を蝕むと彼らはダークエルフに墜ちるだろう。だがあれはエルフ特有では無く、人間は勿論、どの種族でも似た様な事が起こるのだ。他にも闇の存在、邪神やその眷属、又は汝らが遭遇した破壊神の使徒などによって歪められれば闇へと容易く人は墜ちる」


ダークエルフ、まず滅多に外で見かけることはなく、見かけたら高確率で襲い掛かってくるエルフの亜種だ。元々エルフであるがゆえに会話も出来なくはないが大半は狂ったように襲ってくるため、魔物などと同じような扱いだ。アーロンも嘗て森林で遭遇したことがあるが奇襲を掛けられ、殺し合いにしかならなかった記憶がある。それこそどうしようもない、そうとしか表現できないほどに殺意にまみれた存在であった。

「なるほどな、だが皇帝はそういう感じでもないんだろう?種族差があるのか?」

城の内部の事は知らないがアーロンが有ったダークエルフの様になっているのであればもっと早くに問題が出ているはずである。

「あぁ、エルフは起源の事もあって他種族よりも遥かに闇に墜ちやすく、その際に暴走しやすいからな。流石にそこまで暴走することは他種族では珍しい。だがそれは発見が遅れることと同義である、という事だ。とくに徐々に負の感情を積もらせていった場合は本人も自覚がないまま闇に墜ち、気付いた時にはまったく別の存在に成っていた、ということも十分にあるのだ」

それを聞いてアーロンは思わず顔を顰める。ならばそれこそ王宮の様な場所は多くの感情が入り乱れていることは想像に易く、気付いた時には国が一気に乗っ取られても可笑しくない。なればそれだけ聞けばクーデターと言うよりも強引ではあったかもしれないが国を救ったのと同義だ。だからこそ、ヘンドリーナの顔が優れないのが疑問になる。

「なぁ、ならそれは悪い事ではないんじゃないのか?確かに強引だとは思うが」

アーロンが自分の考えを加えながらヘンドリーナに疑問点をぶつけるがやはりヘンドリーナの顔色は悪い。

「ウム、確かに、傍目からすれば悪い事ではないのだ。しかし、そのまま他国すべてに戦争を吹っ掛ける、という事が納得いかないのだ」

重々しくヘンドリーナは口を開く。

「なるほど、大陸でもっとも強大なエテルニタス帝国の皇帝が闇に墜ちていた。これは由々しきことだ。ましてや人は特に闇に墜ちにくい以上、間違いなく手引きした闇の手のものが居る。そして、それが大陸中に居ないとは馬鹿でも思うまい。特に、最近は使徒の異常な復活に隠れていた者達も出て来た。そこに願望器の出現情報。なるほど間違いなくこの大陸に闇が迫ってきておる。そしてそれに対処するために英雄エーベルトが指揮をとって備える、それも納得できる。加えるなら時間もそれほどないだろうという事も、だ。だが、対話の1つもすることなく、最初の手段から大陸すべての国へ宣戦布告をして戦乱を自ら起こす、とういのが納得いかん、というだけだ」

そう言って顔を歪めるヘンドリーナの気持ちはアーロンにとって分からないものではない。しかし、エーベルトのやり方が理解できないわけでは無い。そもそも答えはすべてが終わらなければ出ないものであるだけにアーロンも目を閉じ、首を落とす以外ない。

「兎に角、これより、私はエーベルトに反対の立場に立ちながらこの国が暴走することが無いように立ち回らねばならん。・・・尤もどれほど意味があるかは分からんがな」

そう呟く彼女の姿はいつもより弱弱しく見える。

「反対派か・・・因みにそれでお前は大丈夫なのか?」

「あぁ、あの英雄ならばそれも呑み込んで己の意志を貫こうとするだろう。なに、精々奴の部下、強いて言えば宰相の小言と嫌味が増えるくらいだ」

少しばかり気にかけて心配してみれば彼女自身はあまり、気にはしていないようだ。そもそもヘンドリーナもれっきとした強者だ。であればアーロンが心配する必要もないのだろう。

「そうだ、汝らもどういった立場に立つかよく考えておくと良い。もし、私と轡を並べるのであればまた、ここに来てくれ。なに、戦場に立てとも英雄と相対しろとも言わぬよ。私も闇の勢力が手を伸ばすのは望まぬがゆえにな」

その言葉を最後にアーロン達は集まりを解散したのだった。

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