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アーロン  作者: ラー
四章

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十八話

「あら?アラアラアラ?誰かしら?邪魔をしないで欲しいのだけど」


カエドーティアと呼ばれた女はヘンドリーナの気を受けて尚、顔色一つ変えることなく愉快そうにも不愉快そうにも思える顔と声を出す。


「何だ、もう忘れたのか。まぁいい、今の私は少々不機嫌だ、とっとと死ぬか逃げるか選ぶがいい」


ヘンドリーナはそう言うとアーロン達を庇うように立つと投げ飛ばした剣を拾うと腰の剣も抜き、構えを取る。


「フフフ、落ち着きのない子。でも貴方と戦うのは大変そう。フフ、また会いましょう?」


カエドーティアはそういって嗤うと魔法で周囲に光を放つと次の瞬間にはその姿を完全に消してしまっていた。そして、姿が無くなるとともに重苦しかった気配も霧散し、まだ警戒の為か意識を張っているヘンドリーナの気だけが残っていた。




「ハァハァ・・・すまん、助かった」


緊張から解放された反動でアーロンは思わずと言った様子で膝をついてしまう。息も荒く、背中にじっとりと張り付くような冷や汗も気持ちが悪い。耳にはまだ彼女の嗤い声がこびりついているようにも感じられる。エンリータはまだ呆然とした様な気配を感じるが意識は飛んでいないようでこれならば直に戻るだろう。


「ふむ、怪我はないようだな。いやカースが残っているか?」


長剣を鞘に戻しながら気を静めたヘンドリーナが近付いてくる。


「いや、こいつらは龍と戦ったときのだ、あの女に何かされたわけじゃない」


何とか息を整え、立ち上がりながらヘンドリーナに返事を返す。


「そうか、ならばいい。さて、汝も起きよ」


ヘンドリーナはそう言うと遠い目をしていたエンリータの頭を叩き、目を覚まさせる。


「イタッ!って、あのなんか怖い人は?それにヘンドリーナさん?」


思ったよりも意識が飛んでいる。しかし、いつもの調子であることに心なしか安心感をアーロンは覚える。


「・・・助けてもらって直ぐで悪いんだが今の女は一体何なんだ?予想はつくがな」


アーロンがそうヘンドリーナにそう聞けば彼女は一度目を瞑ると頷く。


「うむ、奴はカエドーティア。破壊神の使徒であり、合成魔獣の母とも呼ばれた使徒だ」


使徒、これで出合うのは2人目。なるほどかなり厄介そうな気配がするのも納得である。


「まぁ、それは一旦、置いておこう。何、きちんと説明はしてやる。まずは帝都まで戻る。ここで話す意味はない故な」


そう言われてしまえば変に反論する必要もない、アーロンは頷き、最後にもう一度だけ息を吐くと荷物を背負いなおす。


「そう言えばアンタ、どこから来た?そもそもアンタ程の人がなぜここに?」


ふと疑問が湧く。そもそもここまで来るのも忙しさや組織がらみのしがらみで来られないが故のアーロン達だ。


「それもまとめて話す。さ、手を出せ」


そう言われ、不思議に思うが素直にアーロンとエンリータは手を出す。そうすると直ぐに視界が歪み飛ぶ前兆が全身を駆け巡る。


「は?おいおま」


アーロンは瞬時に口を開くがそれよりもヘンドリーナの魔術が発生する方がはるかに速い。何なら詠唱すらも聞こえなかったようにも思えた。


(そう言えばこいつの二つ名は・・・)


そこでアーロンの意識は途絶えた。




ドシン、何か固いものに倒れ込んだ衝撃が流れ込む。同時にすぐさま意識が覚醒して震える足とのぼせた様な平行感覚に気合を入れて立ち上がる。


「クッ、ここは」


そう言って周囲を見渡せば見覚えのある建物、エテルニタス帝国の教会、ヘンドリーナとの打ち合わせに使っていた場所だった。相変わらず人もおらず、寂れているがその退廃感がどこか美しかった。


「さて、早速と言いたいがまずは身体を休めるがいい。話はそれからでも遅くはあるまい。明日以降、近いうちであれば私は此処にいる。体が休まり次第来るがいい」


そう言うとヘンドリーナはこちらの返事も待たずに教会の奥に消えて行ってしまった。




一連の流れを呆然と見過ごしてしまったアーロンだったが直ぐに気を取り直す。本当であれば今すぐにも問い詰めたい気持ちがあるが疲れているのも現実と思い直し、エンリータを起こすとともに教会を出て行く。教会を出ると少しばかり傾き始めた太陽が燦々と顔を焼く。そのまぶしさに目を細めて空を仰ぐ。ついさっき死にかけたとは思えないほどに突然日常に戻されてしまったばかりに心がまだ追いついていない気もするが呼吸をするたびに肩の荷が落ちていく。


「ん~戻って来たねぇ。実感はないけど!それにお腹も空いてきちゃった!」


同じように空を見ていたエンリータがそう呟く。


「そうだな・・・兎に角、宿に行くか」


そう言ってアーロンは力なく、馴染の宿に向かって行く。




結局、宿で体を綺麗にして軽く食事を取ってしまえば張り詰めていた意識は一気に睡眠に傾く。それも龍と戦い、使徒と相対したのだ、肉体的にも精神的にも疲労というものは酷かった。アーロンの頭の中では次の日にはヘンドリーナに会いに行こうと考えてはいたが噴き出した疲労は収まる事を知らず、ほぼ2日間の間ベッドの上で過ごすことになってしまった。それからも教会で解呪をしたりしている内に3日経ってようやく全快から見て8割程度まで回復した。気持ち的にはかなり休んだ感覚があるが取りきれない疲労は寝すぎか寿命を削った代償か、その判断はアーロンにつかなかった。反対にエンリータは肉体疲労は軽かったためにアーロンが寝込んでいる間に足りなくなった資材の買い込みをしてくれていた。




「よし、待たせたな。今日は教会に行くぞ」


朝、朝食のパンを齧りながらアーロンは同じようにしているエンリータに声をかける。


「うん、いいよ。そう言えばアーロンが寝ている間、街中で帝国兵の人が慌ただしくしていたけれど何だと思う?」


そう言われ、目線を上に向けながらアーロンは考える。


「・・・一般的に兵士が忙しそうにするのは戦争が近い時か賊や魔物の類が入って来た時なんかだ。街の人間はどうだ?」


「う~ん、そこまで変わらなかったかなぁ・・・でもいつもより大きな幌立てた馬車が多かった気もするよ」


そう言われ、アーロンの考え的には戦争の方に大きく傾く。


「なら戦争でも起きるのかもしれんな。それが麦や鉄であれば、だがな。いい機会だ、ヘンドリーナにそれも聞いてみよう」


もし、戦争だとすれば立ち回りは慎重にならざるを得ない。特に国に所属していないアーロンにとってはいつも以上に警戒されかねない。


「そうだね、ヘンドリーナさんなら何か知ってそうだしね」


納得したのかエンリータはそのまま食事に戻るがアーロンはどこか嫌な予感が頭をよぎるのだった。




そして2人はヘンドリーナの拠点である教会に入る。教会内はやはり何一つ変わることなくまるで時が止まってしまっているかのようだった。そして、教会の奥、最初に出合った時と同じようにヘンドリーナは立っており、自分たちが来ることを分かっていたかのようだった。


「ふむ、よく来たな。体も大分回復したと見える」


ヘンドリーナは軽く頷きながらこちらに近づいてくる。


「お蔭様でな。で、早速だが話を聞きたい。それとこれが神器だ」


そう言って懐から指輪を出して手渡す。


「ウム、確かに受け取った。さて、何から話すか」


顎に手をやり、彼女は上を向く。


「あぁ、なら最初に俺たちの方から報告しよう。その方が手間が無い」


アーロンがそう言えばなるほど、と返されて先を促される。そしてアーロンは自分たちが戦った龍との戦闘の詳細とニィスについて、そして使徒との会話の内容について詳しく、話していく。一通り聞き終えたヘンドリーナは暫く難しい顔をしていたが纏め終わったのか閉じていた目を開き話し始める。


「・・・ふむ、まずはご苦労だった。邪龍マルヴァースはこれで暫くは復活することはないだろう。尤も他の要因が重なれば甦ってはしまうがな」


そう言われ、特に驚きはない。そもそも龍は邪龍であっても神の代行者、使徒が死なない様に龍が死ななくても特に不思議はない。


「でだ、そのニィスと呼ばれるものだが確かに古来よりその名前は確かに存在する。帝国の歴史書にも同じ名前と見た目が記載されていたはずだ」


「そうか、因みになんだがあいつは何者で何が目的なんだ?」


自己紹介の様に語られはしたがそれだけで分かる事は極めて少ない。これからも関わってこないとは言えない為、出来る限り多くの情報が欲しかった。


「ふむ、期待されている所すまないがニィスと言う存在に対してそれほど多くの事は残っていない。分かっているのは、あれは願望器のような物である、といことだけだ」


「願望器?」


「あぁ、だが人間にとって必ずしも都合のよいものではない。あれは人々の願い、希望や夢、絶望や呪い、それらを一切区別することなく叶えてしまう。勿論、規模が大きいものから小さいものまで何でもだ。しいて言うなら感情の様なものも無くはない為にえり好みはするようだがな」


「厄介だな・・・」


思わず口からうんざりしたような声色が出てしまう。


「あぁ、おまけにアレも死という概念を持たない。殺そうと思っても殺すことは英雄殿でも難しかろうよ」


「そりゃ、本当に嫌な奴だ。因みに過去、どんな願いを叶えた、見たいのはあるか?」


「そうだな、正確な規模は分からない。だが動乱の陰にも安寧の陰にもいる奴だ、それこそ世界が破滅を望めばそれを叶える存在を、それに反対する人が多ければ英雄を生み出すくらいはするだろうな」


「想像もつかんな。構えるだけ無駄か」


諦めた様な声が出る。なにせ分かったのは誰にも予測できない歩く災害なのだ。考えたところで備えるだけで手一杯、アーロンの手に余るのは間違いなかった。


「うむ、だが何か想像を超えた出来事が有ればソレが背後に居ると思って間違いない。おまけに事の起こりは小さい事も多い。アレに気を取られ過ぎぬようにしておくが良い。人間の寿命は短い」


そうヘンドリーナも締めくくる。


「さて、それであの使徒の事だが、あれはカエドーティア。嘗て英雄とその仲間が殺した使徒だ。尤も最近復活した様でな、今は奴の持ち物であった創造の聖杯を探している」


そこまでは大まかに分かっている事だ、アーロンは無言で続きを促す。


「性格は残忍、命を研究道具程度にしか考えていない女で特に破壊神に対しての忠誠心のような物もない。厄介な女だ。また、元人間で破壊神によって使徒に作り替えられた元研究者らしいが詳しい事は分からん。なにせ100年以上前の人物だからな」


「・・・厄介な奴だから敵になるのか敵だから厄介なのか分からんな。で、その聖杯はどんな効果があるんだ?」


名前から推測は出来るがずれていたら厄介だ、そう思い質問を投げる。


「ウム、出来ることは新しい生命の創造とそのための知識だ。代償は記憶と創造の対価、分かりやすく言えば命だな。それでカエドーティアは無数の未知の軍勢を率いていたがゆえに合成魔獣の母の異名を持っていたわけだ」


少し聞いただけでも分かるほどに最悪の組み合わせである。今のアーロンであっても全く知らない無数の魔物と永延と戦う事を強いられるのは御免である。むしろ英雄とその仲間は良く一度とはいえ殺せたものだと感心してしまう。


「とはいえ、奴本体はそこまでの強さはない。汝が全力を出せば十分に勝機がある。むしろ奴を探すよりかは聖杯を探す方が良かろう。少なくともアレの手に渡らなければ脅威度は互いに下がる」


それで安心する程馬鹿ではないが少しは気が軽くなるのも現実。アーロンはため息を吐く。


「そうか、まぁ、俺から出来ることは少ないからな、気にし過ぎないようにしておこう。あぁ、そう言えば最後に聞いておきたいんだが帝国は戦争でも起こすのか」


エンリータから聞いた情報を元にここに来るまでに市場も見てきたが確かに少しばかり慌ただしい空気が帝国内に蔓延しているように思えた。しかし、それを聞かれたヘンドリーナは今までで一番の苦い顔を見せる。


「ウム、それについてだが・・・いや、汝らは早めに知っておくべきだな」


余りにも都合が悪そうな顔であったために思わず話を聞かずに逃げ出そうかと思ったが機先を制されたようヘンドリーナが口を開く。


「先日、汝らが龍の討伐に向かって直ぐに帝国の英雄エーベルトがクーデターを起こしたのだ」


そのシンプルながらあまりの内容にアーロンは大きく目を開く。この大陸に大きな動乱のうねりが迫っていた。



良ければ評価、ブクマ等していただければ幸いです。


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