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アーロン  作者: ラー
四章

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63/255

十五話

「■■■■■■■!!!!!」


凄まじい音が周囲に響き、マルヴァースの頭部から血が噴水の様に吹きあがる。アーロンの一撃はマルヴァースの右目上から下顎までしっかりと断ち切った。今までで一番の手ごたえと反応に順調に加護にのめり込んでいるアーロンの口角はさらに上がる。反対に妙に冷静な部分では龍も予想外の強打を貰えば人間の様に悶絶した声を出すのかと変な方向へ思考が流れていた。とはいえ、絶好の機会はまだ続いている。ここで攻撃の手を緩めるわけにはいかない、アーロンは身体に力と魔力を籠めて更に武器を振るう。可能ならここで息の根を止めたいと思うのは当然だ。何より、こうしている間にもアーロンは自身の寿命がどんどん削られるような感覚がする。


「グギャアオオアオアオアオオ!!!」


幾重かの攻撃の後にアーロンはマルヴァースの顎を打ち、頭を跳ね上げさせる。ボロボロになった頭部は血煙を噴き上げ、屑になった肉が花吹雪の様に宙に散る。もとから少しばかり崩れていた肉体はここにきてようやく致命傷が入ったようにも見える。目からも赤い涙を流す姿は嘆く様にも恨んでいるようにも思えた。しかし、加減などしてやれるわけもない。もとより手をつなげるような関係でもない、ならば後は押し切る。そう覚悟を手に込め、今にも消えてしまいそうな意識を繋ぎ止めながらアーロンは無防備になったマルヴァースの胴体に向けて走りながらグレートソードを振り絞る。そして一気に振り抜いた。硬い鱗と柔軟性を伴った皮の手応え、続いて厚い筋肉と弾力性のある脂肪、最後に諸々の内臓たちを引き裂いたような感触が伝わり、それと同時に刃を引き、自信は一気に駆け抜ける。人間で言う所の背骨に当たる部分には届かなかったがほぼ真っ二つと言ってもいいほどにアーロンのグレートソードはマルヴァースを切り裂いた。


会心の一撃、その感触を手にアーロンは抜けた先で跳ぶと同時に身体を反転させ、地面を滑りながら着地する。それに合わせるように加護を一気に2まで下げれば水から上がった時の倦怠感を何倍にもした重みがずっしりと全身に圧し掛かり、口に鉄錆のような臭いが充満する。


(チッ、思ったよりもダメージが大きい・・・おまけに自損のせいか治りも遅い)


アーロンは口に溜まった血を吐き捨てながら眉間に皺を寄せる。この全身に走るダメージが敵に与えられたものならばもう少し素直に治ったのだろうが今、アーロンの身体に走る痛みは限界を己の意志で超えたことによる副作用であった為に再生の反応が悪い。つまるところこの傷は只の傷ではなく代償の一環として加護が認識しているという事だ。そうなるとアーロンの本来の身体と頭はこれを傷だと認識するがアーロンに手を貸す加護は代償として見ている為に結果、いつもより再生の反応が悪くなっているのである。


「さて、それにしてもどうなった?」


霞む目でマルヴァースの方を見ればその巨体は全身から血と蒸気、更には濃い魔力を垂れ流しながら崩れ落ちている。しかし、死んではいないのか食いしばる様な声と徐々に気配を強くする魔力を顔に感じる。


「本気でいっているのか・・・これが龍か」


思わず呆れた様な乾いた声が漏れ出てしまう。なるほど、致命傷であることは疑いようがない。それはアーロンの直感にも先程まで感じていたほどの強い力を感じない。しかし、その弱り切った気が復活してきているのもまた事実だ。おまけに傷は凄まじい程の蒸気を湛えながら治り始めている。今も、ようやく援護が出来るようになったエンリータの矢が幾重も降り注いで入るがその速度には決して追いつけ無さそうだ。となればあれはもう暫くすれば再び立ち上がり、此方にその脅威を振り撒くだろう。アーロンは内心、そのしぶとさには思わず感服せざるをえなかったと同時に龍に対する畏敬を覚える。


「ふぅ・・・やるしかねぇか」


グレートソードを杖の様にして、アーロンは立ち上がり、構える。既に足は震えているし、腕も相棒の重みに負けてしまいそうだった。息は荒く、目は未だ霞んでいる。加護の代償で失われた寿命、何か大事なものを無くしてしまった時の様な喪失感が胸を締め付け、空いた穴に風が吹いたような気すらする。それでも唇を噛み、意地で足を立たせ、誇りに胸を張り、信念を持って目を開く。マルヴァースも、もう動ける程に回復したのか立ち上がり、塞がりきってはいない傷から魔力と蒸気を吹かしながらこちらを怒りの眼で睨み付けて来る。


「行くぞぉ!!マルヴァース!!!」


先手必勝、いや、この場面で言うならば後手必負と言った所か、もはやもう一撃、致命傷を叩きこんだ方が勝ちなのは間違いない。マルヴァースも今までは傷が再生するとともに魔力の殻を強化し、発生させていたが今はそんな余裕はなさそうだ。


アーロンが近付くとマルヴァースは今まで使ってこなかった尻尾を持ち上げて迫るアーロンに対しての武器にしようとするのが見える。また、再生の勢いが緩くなるとともに頭上に魔力の珠が浮かび上がり、魔法の準備をしていることがハッキリと分かった。まだ、傷のない背面を盾に魔法で攻撃、最低でも時間を稼ぎ、じわりじわりとこちらの首を絞めようと言うのだろう、ここにきて尚、相手も自身に有利な盤面にするための動きにためらいが無い。


振り下ろされる尻尾を見る。太く、棍棒の様なフォルムの尾は真っすぐ、しかし、かなりの速度でアーロンの頭上を目掛けて落ちて来る。流石に今のコンディションと加護の階位では受け止めるのは難しい、そう判断したアーロンは回避に舵を切って横に逸れようとするが尾はそれを追尾する様に付いて回る。


歯を食いしばり、更に足に力を込めてアーロンはマルヴァースを中心に、円を描く様に走る。全身から嫌な音と痛みが襲い掛かるが潰される事は避けなければならない。そうして駆け回り、側面に回り込めば流石に届かず、無人の地面に尾は振り下ろされた。しかし、直撃こそしなかったがその尾は威力を証明するかのように地面を割り、砕けた破片がアーロンを襲う。


グレートソードでは捌ききれない、それだけははっきりとアーロンに分かる。極限の集中の中、引きのばされた意識の中で向かってくる瓦礫を見て経験則からそう結論が出る。奥ではもう完成する魔法珠が発光し、今にも弾けてしまいそうだ。カウンターは出来ない、後手必負なのだから。ならばどうにかして捌けないものを捌ききって近づき、一撃を入れる。それしかない、アーロンは歯を食いしばり、肩に背負うグレートソードを握りしめ、マルヴァースと同じように地面に向かって叩きつけた。


爆発、同時に穿った地面から同じように瓦礫が前方に津波の様に飛び、ぶつかり合う。規模で言えば若干アーロンの方が弱いが自身に当たりそうなラインにのみ放ったお蔭か上手く拮抗し、衝突地点は間欠泉が湧いたように土砂が立ち上る。そしてアーロンは一か八か、立ち上る砂煙に向かって駆けだす。何故ならば迂回していては魔法の格好の餌食になる上に更に次の手段を相手に考えさせる余裕を与えてしまうからだ。戦いの主導権を譲りたくはない。それゆえの自殺紛いの特攻だった。


瓦礫たちが上に飛んでいる間に砂煙の壁を潜って意表を突く、これ以上の手はアーロンには思いつかない。念のため、そして次の手の為にグレートソードを傘のように上へ掲げて一寸先も見えない砂煙を掻き分ける。最後に見たマルヴァースの位置を頭で何度も繰り返しながら真っすぐ進めば突然目の前が晴れてマルヴァースと目と鼻の先に躍り出る。しかし、土煙の左右からアーロンが見えなかったことで警戒を十分にしていたのだろうマルヴァースはしっかりと目線をこちらに向けており、魔法もちょうど完成してしまっていた。紫色の極光が天から降り注ぐとともにアーロンの身体がほんの僅かではあるが重くなり、力が抜けていくような感覚が体全体に襲う。


(カースか!つくづく嫌な所を突く!)


マルヴァースが放ったのは物理的なダメージこそないが光を浴びた者の能力を抑え込む効果を持った呪いの魔法だ。


カース、人間側では呪術に分類されるもので未だ解明し切れていない学問の一種でもあり、基本的には上位の魔物や呪いの道具、ダンジョンなどの宝箱から受けることが多い。効果は単純に能力の減衰でそれはあらゆるものに及ぶ。筋力や思考力はゆうに及ばず五感や魔力、すべて平等に力が抑え込まれてしまうために冒険者からは非常に嫌われている。一応、呪われた道具などであれば手放せば戻るが魔物や宝箱の罠によるものは聖神の加護を持っている者に解呪してもらうのが一般的でまた、軽度であれば聖水の類を飲めば解呪することも出来る。その為、解くのは難しくないが問題は掛かった後に加護の所有者である聖職者の類に会うまでに死ぬことが多いことだ。当然、街中で呪われることは少なく、基本は人里離れた危険地帯で呪われるのだ、帰りの際に疲れがあり、能力が弱体化されているのでは危険度は跳ね上がる。勿論、それに備えて聖水を持ち歩くのは悪くないが聖水は寿命が短く、軽度にしか効かない。聖職者はそもそも戦闘に一切向かない為にダンジョンで宝探しでもするのでなければ連れ歩くのは困難だ。つまるところマルヴァースの放ったカースの魔法はどちらに転んでもアーロンを酷く追い詰める物だった。


(何とか俺の魔力で抵抗は出来ているが時間の問題。いや、もとより無かった時間が更に無くなっただけ、やることは変わらず速攻でケリを付けるのは変わらん!)


幸い、残りの敵の手札は多くない、腕か、尾か、はたまた他の物理のみ、なら戦士の領域、つまりアーロンの得意分野だ。


アーロンは奥歯を噛みしめ、上に掲げていたグレートソードを更に後ろへ靡かせて、カースを撥ね退けるように大地を踏みしめてマルヴァースの手が届く範囲に踏み入った。


踏み入った瞬間にマルヴァースが全身を旋回させながら左手で一面を薙ぎ払うようにして凶悪な爪を光らせてアーロンを切り裂こうとしてきた。最初の頃と比べると大分速度と威力が落ちた様にも思えるがアーロンの体力も大分落ちている為に余裕はない。むしろ下がれない分、状況は悪い。


(やるしかない、今、ここで払いのける!)


そう決断するとアーロンは足で地を割り、助走で付けた勢いをグレートソードに乗せる。狙うは当然、迫る左手だ。何故ならばただ前に進めば背後に相手の手を残したまま次いで来るだろう尻尾に対処するのが難しくなるからだ。それならば旋回初めで威力が低い腕の方がいくらか勝算が見える。おまけに尻尾が切れてもこの場面では勝ちにつながりにくい。どうせならば無防備な正面が欲しいのは当然の事だろう。


「オラァァァァァァァアアアア!!!」


吼え、張り詰めていたグレートソードを解き放つ。グレートソードは纏う赤黒い魔力を火花の様に散らしながら真っすぐ正面から向かってくる左腕、広げられた掌と衝突する。そして長い爪が鎌の先端の様にグレートソード越しにアーロンの頬を切りつけていくがアーロンは気にも留めず、ただ前へ刃を押し込んだ。


意外にも拮抗は一瞬ともいえる程短い時間だった。魔力の殻が無いのもそうだが思ったよりも柔らかく、軽い印象がグレートソード越しに手に伝わる。もしかしたら再生などに多くの魔力を使った弊害かも知れない。もしくは弱体化は事実なのだから限界が近かった可能性もある。兎に角、この結果はアーロンにとって僥倖とも言える結果だった。


マルヴァースは左の手が半分以上飛んでいったためか少しばかりバランスを崩す。この局面で決定的な弱点を晒したマルヴァースを見逃すわけもなく、アーロンは切った左手に見向きもせずに今度は自身の身体を切った勢いのまま回す。そして、切っ先は少しだけ地面に引っ掛けたままに背負い投げの様な姿勢で前を向く。マルヴァースはやや前傾で、旋回は難しくなったためだろうか奥の手と言わんばかりに口を大きく開き、乱杭歯を剥き出しにしてアーロンの身体を噛み千切ろうとしている。


「ウ、ウォォォォォォォォォォ!!」


ギリギリ、後ほんの少しでも遅れれば先にアーロンの身体が千切れていただろう瞬間、アーロンは地面に刺さった先端を引っこ抜き、加速されたグレートソードを再び正面から振り下ろした。


カウンター気味に出された一撃は牙がこちらを傷つけるよりも先に口の先端から頭部にかけて一気に両断する。その勢いは刃の触れていない首まで届くもので胴体に差し掛かるまで一直線に切れ込みを作り、その巨体をずらす。そして今までの比ではないほどに血を吹き出させ、その体を作っていた濃厚な魔力が宙にほどけ消えていく。アーロンは確かな手ごたえを感じつつも万が一の事態に備えてその場を飛び退き、虚脱感に襲われる体で崩れていくマルヴァースを睨む。


それからマルヴァースの身体を構築していた魔力、あるいわ龍特有の何かが行き場を失ったかのように暴走を始め、小規模な爆発を起こし始める。何か嫌なものを感じたアーロンは更に後方へと逃げながらもその光景を目に焼き付ける。


次第に大きくなっていく爆発は遂にマルヴァースの巨体を覆い隠すほどになったかと思うとその上から突然に大きな黒霧が発生してすべてを呑み込んでいってしまう。


何が起こっている、そう思うも調べることも出来ないアーロンは茫然と眺めていると最後に大きな爆発音とともにすべてが黒霧に呑み込まれ、破壊痕だけを残して消えてしまったのだった。

良ければ評価、ブクマ等していただければ幸いです。

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