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アーロン  作者: ラー
四章

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十四話

ギアを一つ上げる、言葉にすれば一言に過ぎないがその効果は絶大だ。加護にも階位があるのは常識で階位が上がるごとに力が上昇し、選択肢が増える。力の上昇率で言えばそれは加護次第だ。例えばエンリータの持つ暗神の加護であれば魔力や膂力が上がるようなことはないが代わりに五感が鋭敏化する。能力でも暗神にまつわる魔術の使用及び強化がされる。そしてアーロンが持つ暴神の加護は勿論代償を支払う事による圧倒的な自身の強化というのが最もわかりやすいだろう。正確に言えば暴走による限界突破だが今までアーロンは大きな代償を払わずに出来ることだけで戦っていた。勿論これだけでも十分な強さを持つがニィスによって弄られたマルヴァースには届きそうにもなかった。それ故に意図的に抑えていた階位を加護による力で強引に上げたのである。現在の階位は4、元々の階位は2だったことから数字だけなら倍、しかしその効果はそれ以上だった。そしてこの代償と強化はアーロンと非常に相性がいい。なにせ昔から魔術で似たことを何度もしてきたのだから然もありなんと言った所だろう。


アーロンは先程からは比べものにもならない速度でマルヴァースに迫る。突然の変化にマルヴァースは対応が遅れ、ドラゴンブレスを小刻みに放つがそのことごとくをアーロンは置き去りにする。また、更に発光しているグレートソードで溜めたブレスでなければ弾くことも可能なのではないかと思わせる程気炎に満ちている。そして楽々とアーロンはマルヴァースの懐に潜り込むとその巨体を支える足に向けて刃を閃かせる。当然、魔力の殻にぶつかり、聞きなれた音が響くが同時に擦れるような、硬いものを引き裂くような音が中に混じる。それは強引にアーロンが殻を切り捨てる音だ。本来ならば一定の条件を満たさなければ破る事の出来ない防御が食い破られている動かぬ証左。


そしてアーロンはグレートソードを振り切ればすぐに足を動かして回避と次弾につなげるための行動に出る。


幾らかぶつかって分かった事だがこのマルヴァースはそこまで近接戦闘が強い訳ではないようで、精々殻による防御と引き剥がしに硬直を生むための咆哮、そして自らの腕を振りまわす程度だ。勿論、いずれも龍のスペックで行われれば天災そのものだがその差が埋まって行けば対処することが出来る。これはアーロンが戦いの中で下した判断だった。流石に遠距離の打ち合いでは勝ち目がないがならば離れなければ良い、そうして腹をくくったアーロンはマルヴァースの足元でロンドでも踊るかのようにクルクルと動いては遠心力を乗せてグレートソードを殻へ打ち付けていく。


殻は凄まじい速度で削れ、これにはさすがのマルヴァースも焦りを覚えるのか一度アーロンも受けた咆哮を構えるのが見えた。


(咆哮、だが、ここは先に押し切る!)


冷静に、しかし大胆に、自信を持ってアーロンは此処が攻め時と瞬時に決断して予備動作の為の僅かな間無防備になるマルヴァースへと渾身の一撃を打ち込む。渾身の一撃はアーロンの望むまま、殻に大きな切れ目を作り、そこから音を立てて霧散する。そしてその勢いは止まることなく初回と同じようにマルヴァースの腹部を切り裂いた。


引き剥がしのために準備された咆哮の予備動作は殻を割られ、晒した肉体を龍鱗と共に切られた痛みと怒りの為の絶叫へと変えられる。更にマルヴァースにとっては不幸な事だがアーロンの連撃はこれから始まるのである。




傍目には押し始めたアーロンが形成有利、そう見られるだろう。しかし、その内実はまだマルヴァースが有利である。最初にも言ったが現在のアーロンの強さは代償を払うが故に強いのだ。また、階位自体も無理やり上げている状態でもある。それらの代償は決して軽いものではない。そもそも階位と言うのは身体に、もっと言えば魂に加護が馴染んでいく深度を現したようなものだ。つまり、時間が掛かる事であり、アーロンが加護を書き換えたのは最近であるが故にただでさえ代償がいるところへ加えてドーピングしているのと変わらない。今はまだアーロンがもともと持ち得ている力を穴の開いた風呂桶の様にして対価とすることで戦えているがこれが無くなれば今度は寿命を筆頭に身体のどこかからか機能不全の様になっていくだろう。強力な力には必ず代償が必要になる。それを体現するような状態故に龍の生命力が勝ればアーロンはあっけなく自滅するか寿命を大きく減らして撤退、という形を取らされる上に周囲に多大な被害をもたらすのは想像に難しくない。つまり、アーロンは今、激流の中でおぼれ死ぬか泳ぎ切るかの瀬戸際に居ると言っても過言ではない。




「ウォォォォォォォォ!!」


マルヴァースの絶叫に負けないほどの大声を出しながらアーロンはグレートソードを己の最高速度で振り続ける。一振りすれば鱗が飛び、二度と振れば血が舞い、三度振れば肉を絶つ。アーロンは此処で殺しきる覚悟を持って連撃を繰り出す。そうで無くとも致命、ないしは足の1つは切り落とすべくグレートソードと全身に力を込める。アーロン自身、目には見えないが自身の限界、絶命は左程遠い所にある訳では無い事は分かっている。流石に命の限界までは超えることは出来ない、となれば最速最短での決着を目指す以外に生き残る術はない。そしてグレートソードを振るっているとマルヴァースの左目に矢が突き刺さる。目だけは龍であっても守れない故の弱点、そこを遠くから見ていたエンリータが見事撃ち抜いたのだ。これで更に事は有利に運ぶ、そう思われたがそこは龍の意地か、強烈な魔力の奔流がマルヴァースの全身から放たれ、アーロンは吹き飛ばされてしまう。命を削って強化しているにも拘らず簡単に飛ばされ、アーロンは渋い顔で歯噛みしてしまう。それと同時に龍の恐ろしさを改めて実感してしまう。普通ならばとっくに決着が付いても可笑しくなどないダメージを入れたにも関わらず最低条件の四肢の1つも切り落とすことは敵わなかった。精々腹部に深めの切り傷と左足が3分の1程度切れた程度だ。おまけに龍は魔力の塊のような存在、これではダメージは残っていても易々と回復されてしまう。しかし、今出来ることは着地して次に備える事だけ、あまりの理不尽にアーロンはため息が出てしまいそうだった。




それからほどなく着地したアーロンは地面を滑りながらマルヴァースを睨み続ける。マルヴァースは今までの状態から魔力の質が大きく変化していた。身に纏っていた殻は靄の様な形で体に纏わりついていたはずだが今では色こそ同じだがオーラとでも表現するのがぴったりな様に発生していた。範囲も今まではほぼ身体にぴったりと言った具合だったものが3回りは大きくなり、なるほど正しく殻と表現できるほどに大きい。これでは近づくことが難しくなり、逆にマルヴァースは自身が得意とする中遠距離での戦いに集中できるだろう。仮に割られることになっても間違いなく一挙動入れることが出来そうなのも挑戦者からすれば最悪と言った所だろうか。そして、あれほど切った体の傷も今、蒸気をあげて塞がれてしまった。見た目だけなら無傷のままだ。矢が刺さったはずの目も問題なく治ったらしく、見れば見る程徒労感が湧き出る。自身はこの間にも命が削り取られていくと言うのにこの差は酷いと言っても許されそうだ。


(それでも、まだ俺の足はついている。手も動けば頭も回る。相棒も変わらず。なら、勝機は十分にあるはずだ)


いかに絶望的な状況であれ、それが敗北を意味することにはならない。息の音が止まるその瞬間まで人は負けではない。ならば抗い、争う事こそこの場においてたった一つの正義だった。


アーロンは一瞬だけ目を閉じ、開くと同時に口角を上げる。そして、今までと同じように大地を蹴る。


「グギャアオオオォォォォ!!」


咆哮と共にマルヴァースから魔法が放たれる。色は新緑、風が奥から吹きつけ、前へと進む身体を無理やりに押し返そうとする。その上、アーロンの纏う魔力を貫通しながら肌を切り刻まんと鋭い風が刃となって吹きすさぶ。通り過ぎ、行き場を失った風たちは渦巻き、徐々に大きな竜巻が周囲を削り取ろうとしているのが分かる。それでもアーロンは足を止めるわけにはいかない。止めてしまえばサンドバッグにされるだけだ。


「ウォォッォォォォォ!!」


負けてしまわぬように、腹の底から声を出し、自らを鼓舞するする。近づくごとに力を増す風を魔力の刃で切り開き、己の足で前へ進む。それを阻むようにマルヴァースはブレスを放ってくる。それでもアーロンはひたすらに前へ踏み出す。


(この風ではエンリータからの援護は期待できない。なら兎に角、個の力で破る!!)


歯を食いしばり、一瞬だけ更に加護の階位を上げて魔力の斬撃を飛ばす。ほんの僅かな間にも拘らず意識が真っ白になりかけるが全身に吹きつける鎌鼬による痛みが現実へと引き戻してくれる。黒い半月は鳥の群れが進むように風を砕き、まだ距離が有ったマルヴァースまでの道を切り開いてくれた。アーロンは障害が消えた道を全速力で駆け抜ける。当然、殻で攻撃は止まってしまっている為に余裕があるマルヴァースは開いた道を閉ざすように風で通り道を挟み込みながら自らはブレスで道上のアーロンを消し飛ばそうとする。しかし、アーロンは止まらない。死地に向かってただ真っ直ぐに馬鹿正直に立ち向かう。目測では2手足りない、その状況であってもアーロンは冷静に状況を把握していた。確かに真っ直ぐ龍に挑むのは愚策なのかもしれないがこの状況では回り道をしていては永遠に勝利に手が届かないと判断したが故の特攻であった。


1歩踏み出し、階位を再び上げる。足りない2手を埋めるにはもうこれしかない、そう思えるほどの差がある事を認めざるを得ない。通常では絶対に忌むべき手段。しかし、ここで死ぬくらいならば寿命が10年程度欠けるくらいで勝機を掴める可能性があるのならばやる以外に選択肢はない。階位5、魔術の様な学術的な学問であっても精通した人間でなければ大なり小なり代償を求められるライン帯、今そこにアーロンは明確な意思を持って踏み込んだ。


(■■■■■■■!!!)


頭の中が何かが入り込んできた、などという言葉では足らず、むしろ決壊した濁流を思わせる程の何かが頭の中を駆け巡り、意識を押し流そうとして来る。


「■■■■アァァァアァァ!!」


それに逆らうように左目の炎を燃え上がらせたアーロンは瞬きの間に魔力の殻の前に辿りつくと後ろ引絞っていたグレートソードを走りながら振り抜き、自身もマルヴァースの後ろへと駆け抜けていく。接触の直後、もはや当たったとしか表現できないほどのギリギリにドラゴンブレスが通り過ぎる。同時に振られたグレートソードは元の大きさの3倍ほどの魔力の厚みを持ったマルヴァースの殻と接触して、ここ一番の轟音を掻き鳴らし、なんと一撃であの強固だった殻を食い破る。当然、これを想定し、これに賭けていたアーロンは予定通りに無防備に顔を前に出しているマルヴァースに向かって行く。振り抜いたグレートソードの赴くまま、体を回し、大胆にも敵に背を向け、下から上へと処刑人の様に振り上げる。眼下には心なしか目が無いにもかかわらず驚愕に目を広げた様にも見えたマルヴァースの顔、これで一発、返してやれるとほくそ笑み、アーロンは力一杯グレートソードを振り下ろした。



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