表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーロン  作者: ラー
四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

61/255

十三話

ガキン!!何度目かも分からない接触音が響く。攻撃を繰り返すことによってマルヴァースの魔力の殻が薄くなっているという仮説を試すためにアーロンは幾度も懐に潜っては武器を振る。戦っている周囲はマルヴァースの攻撃の余波や空振りによってあっという間に荒れ果て、気を付けていなければ足を取られてしまいそうに思える程だった。

マルヴァースの攻撃はそれほどバリエーションが無いのか、はたまたそんなものを考える必要もない、もしくは出来ないのか定かではないが基本的には腕を振りまわすかその巨体を生かした体当たり、もしくは一度喰らってしまった絶叫程度しかこの近距離では使用してこない。動きも単調であり、いわゆる武の様なものは感じられない為にアーロンはダメージを与えることは出来ていないが押し込まれるようなこともない、と言った所であった。唯一、翼だけは完全に死んでしまっているのか飛ぶことはなく、地に立ったままであることも、バリエーションの少ない原因の一つにかもしれない。とはいえこれで飛ばれれば対処が非常に難しくなるために助かったと言った所だろう。エンリータもこまめにアーロンのどうしても生まれてしまう隙を潰すように矢や魔術を飛ばしてくれており、これが無ければもっと手古摺っていただろう。


(さて、だいぶ慣れてきたな。おまけに魔力も薄くなってきた)


距離を取り、マルヴァースを見れば確かに当初よりも魔力の濃度が下がっている。特に弱体化しているような印象は受けないがこのままなら後数合で剥がせそうだとアーロンは思う。ちょうどエンリータの援護魔術も刺さり、魔力の殻は一層薄くなる。


「ハァァァアァァ!!」


それを好機と見たアーロンは踏み込み、荒れた大地をさらに耕して、迫りくる剛腕を軽いステップで潜り抜け、その先で足を広げて踏み込むとバットの様に力任せにグレートソードを振り抜く。


今まで一番の轟音とガラスが砕けるような音が中心から響く。そして纏わりついていた紫色の魔力は接触地点から無数の罅を走らせ、宙に霧散する。


「グギャアアアアアア!!」


その大きな体をのけぞらせ、マルヴァースは初めて痛みに悶えるかのように苦悶の声をあげる。アーロン達の予測は合っており、あの厄介な魔力の殻は一定以上の攻撃で割れるようだ。


この戦闘では初めての大きな好機、当然アーロンが逃がすはずもなく、振り抜いたグレートソードを左の肩上で確りと止め、全身のバネを弾ませながら切りかえす。勢いをつけて放った一撃より威力は遥かに劣るだろうが培った技術をしっかりと乗せた斬撃はマルヴァースの足の上、人間で言えば下腹部の辺りを切りつけた。


先程までの魔力の殻とは明確に違う音と手応えが伝わる。しかし魔力の殻が無くとも龍の鱗は硬く、薄皮程度しか切れはしなかったがアーロンの攻撃が通った事は事実。また、ほんの少しだがマルヴァースが足を引いたことで体勢が崩れ、追撃の機会が更に零れて来る。


アーロンの長年の勘は此処が攻め時と判断し、それが脳裏にはっきりと浮かぶのと同じかもっと早いぐらいに身体は次の行動を始めていた。


振り抜いたグレートソードに振りまわされるように自身の身体も一緒に旋回する。流石に距離を取って足で力を生むのは難しい状況、それ故に出来るのはその場で武器を振った勢いに自身の旋回で速度を作り、振り下ろすことで威力を生む、という手段だった。更にグレートソードへ魔力を更に纏わせ、自身の内部の魔力も暴走させる。これが今、出せる最大火力。アーロンは奮起の声と共に力いっぱいグレートソードを振り下ろした。




「グギャアオオオアオアオアオア!!」


アーロンの振り下ろした一撃は今度こそ確かな傷をマルヴァースに作る。どす黒い血が噴き出し、アーロンは全身にその血を浴びる。血はかなり熱く、触れた直後から次ぐに揮発していくほどだ。そしてアーロンは更に押し込むために踏み出そうとしたが突然、悪寒が駆け上り、舌打ちと共に後方へ大きく下がる。その直後、今までよりひときわ大きな咆哮と魔力の奔流が吹きあがり、突風を生む。思わず目に手を当ててしまうほどの風と巻き上げられた砂埃が一時的に敵の姿すらも隠す。視界が塞がれ、悪態を付きそうになったがその瞬間に再び風が吹き、不自然なほどに砂埃が一気に掃けていく。そこには凄まじい速度で傷が塞がり、更には一層濃くなった魔力の殻を纏ったマルヴァースの姿が有った。紫色の明かりが灯った目は燃料を与えられたかのように煌々と輝いている。それだけでなく、空間に漂う気配もいっそう重苦しさを持ち、両肩に圧し掛かる重みは龍特有のプレッシャーをひしひしと伝えてくる。だがそれよりもアーロンの頭にはやり直し、という言葉が圧し掛かる。いや、確かに一度殻を破ればそれで終わり、などと言う甘いものではないだろうとは思っていたが強化されるのは想定された中で最悪に近い。おまけに一度強化されたのだから再び殻を破った際に更に強くなる可能性も生まれたことを意味する。


「ふぅ・・・上手くはいかねぇ、過酷な戦いだな」


しかし、それで諦めるのならここまで強くも生きても来られなかった。何時だって強いものにぶつかり、未知に飛び込んできた経験が、意志が、誇りが心を奮い立たせる。何よりまだ序盤も序盤、諦めるには早すぎる。視界の端に移るエンリータとて心が折れているようには微塵も見えず、むしろアーロンが次に何をするのか観察している。


「仕切り直しだ。行くぞぉ!」


肩にグレートソードを担ぎ直していつもの様に駆けだす。何時だってそうだった。自身の最も得意な戦い方は常に最前線、最も危険な場所で武器を振るう。暴神の加護で遠距離でも戦えるようになったとはいえこれを変えることは結局出来ないのだ。


「グガァァァァァ!!」


駆けてくるアーロンに対し、一段と強い殺意を向けながらマルヴァースが手を顔の前で掌と甲を✖の字に組む。すると殻と同色の珠が発生する。そして腕を広げれば魔力の珠はマルヴァースの頭上まで飛ぶや否や弾け、まるで落雷の様に地面に落ちると柱の様になり、縦横無尽に周囲を駆けずりまわる。幸い数は周囲を埋め尽くすほどではないが一柱一柱がトルネードの様な大きさをしている為にそれなりの圧迫感がある。軌道が読めないことも相まって注意が分散してしまう。


アーロンは魔力の嵐の中をジグザグと駆け回りながら少しずつ距離を詰める。しかし、それは分かっていたとばかりにマルヴァースは更にドラゴンブレスを細かく、連射する。威力と範囲は明確に狭まっているが速度は上がり、こうも組み合わされるとかなり厄介でまるで動く檻にでも放り込まれたのではないかと思うほどだった。こうなってはエンリータの援護も難しく、彼女の魔術では届く前に相殺されてしまうか届いても威力が魔力の波で軽減され、殻の削りとしての効果は期待できないだろう。むしろこのマルヴァースの魔法がエンリータの方に向かわないとは言えない。そうなれば互いの援護は一時的にでも完全に切れてしまうだろう。


(兎に角、この魔法だけでも止めなければジリ貧、リスクは承知で飛び込む!)


アーロンは覚悟を決めると更に足を回し、加速する。


そして見えた一筋の通り道、正面に龍を置き、魔法が重ならないタイミングが出来る。流石にブレスが飛んでくることは仕方がない、だが正面からの攻撃に注視すればいいのであれば勝機は十分。アーロンは一気に龍へ向かって駆け始めた。


それを見逃すわけもなく、マルヴァースはここぞとばかりに通常のドラゴンブレスの準備をはじめる。しかし、それを見ても止まることはなく、アーロンは只無心で前へ行く。少なくとも退いた先に良い未来はない、そんな予感に背を押される感覚すらあった。


そしてマルヴァースの牙の隙間から光が漏れ始め、振り上げられた顔がこちらを向く。同時に開かれた口からは中央に金色の芯、それを紫色の魔力が覆う様になって、外周は紫色の電光が走っているような見た目のブレスだった。


凄まじい魔力を纏ったブレスは対角線上のアーロンにただ真っ直ぐに、小細工など必要ないとでも言いたげな威容を持ったまま迫る。このままならアーロンも流石に跡形も残らないだろう。


当然、当たってやる気も受け止める気もないアーロンは方向を斜めに変え、迫るブレスをギリギリで避けられる位置まで全速力で駆け抜ける。アーロンの耳、ギリギリの所を抜けていく即死のドラゴンブレスを気にも留めずにアーロンは無心で前だけを見つめる。そしてもともとの信仰ルートが変わったことで正面に魔力の柱が邪魔する様に割り込んでくるのが見えた瞬間、グレートソードを振り、斬撃を飛ばす。そして柱と接触すれば音は立たないが柱を砕き、間もなく消える。龍本体には魔力のコストと冒すリスクを効果と天秤にかけると今一だが露払いにはこれ以上ない効果を発揮した。


残り半分、強化された体なら十歩もいらない。そこまで来た時、まだブレスを放っていたマルヴァースがこちらへ顔を向ける。そうなれば当然としてブレス自体も軌道が変わり、ギリギリを走っていたアーロンに再び脅威が迫る。


しかし、そんなことは流石に読めている。そもそもずっと前を向いていた故に顔の動きには敏感に反応することが出来た。そのうえ、龍がブレスを放った後に向きを変えられない等、思うはずもない。アーロンはブレスを中心に左側の魔力の柱の現在位置を確認しながら見えない右側の動きがどうだったかを瞬時に思い浮かべる。柱は壊せても攻撃する時間はなくせない、となれば無暗に振る事は死につながりかねない。


そしてアーロンはちょうど反対側に何もない場所を狙う様に迫るブレスを飛び越える。自身の真下をブレスが薙ぎ払う様に通り過ぎていく。そしてそのままフィールドの半面を通り過ぎていく。ここまでが想定内。エンリータが居る方向とは逆の方に攻撃を向かわせ、更にもう一度ブレスを放つには時間が足りない。これでもう邪魔するものはない、アーロンは更に足に力を込めて一気に距離を詰め切った。ブレスを止め、腕を振りまわすマルヴァースを後目に跳び上がる。そして今尚、地を駆け巡る魔法を止めるために弾けた後に再び元の形になり、それぞれの柱と魔力で繋がっていた珠に向けてグレートソードを振り下ろす。接触と同時に光が弾け、珠の魔力とグレートソードの纏う魔力が反発しあう。しかし、直ぐにグレートソードが珠に切れ込みを作り、あっさりと両断する。すると直ぐに柱たちは解け、霞の様に消えていく。これで最初の課題が終わったが早急に次の危機が下から迫る。


今、アーロンが居るのはマルヴァースの頭上、つまるところ空中だ。当然自由には動けない。そしてそれを掬うようにマルヴァースのアッパーが迫りくる。流石にこれを避けるには2歩は足りない。アーロンは歯を食いしばると振り下ろしたグレートソードを引きよせて盾にすると同時に魔力で強化を出来る限り施す。その直後、今まで感じた事のない程の衝撃が刃越しに全身に響く。これは空中に居たことはむしろ幸いだったのではないかと思うほどの威力でその力を分散する様に回転しながらアーロンは打ち上げられ、落ちていく。落ちながらアーロンはマルヴァースの動きに注視しているとどうやらブレスでは無く、再び何かしらの魔法を放とうとしているのが見える。


(流石に繰り返すのは面倒だ!一か八か)


折角の行動が無に帰すのは受け入れがたい、そう思ったアーロンは重ねられた手の中央、魔力が集まっている場所に向けて空中で回転しながらいくつもの斬撃を飛ばす。斬撃達は龍の身体を傷つけこそしなかったが魔力の珠はしっかりと壊し、魔法の発動を止めることに成功した。


それを見届ける頃にはアーロンも無事に地面へ着地し終え、体勢を整える余裕が有った。


(これだけのリスクを背負って出来たことが魔法を止めただけ、思わず笑いたくなるな)


苦笑いを浮かべながらこちらを多少警戒するような目で見る龍を睨む。


(分かった事は魔力の殻を割って、そこから怯んだ隙に火力を叩きこみ続ける必要がある事とおおまかな膂力、相も変わらず絶望的な状況、だが不思議で恐れはない。むしろ力が湧き上がってくるようだ)


己の胸の内、心臓の辺りが激しく鼓動するのが感じられ、それと同時に身体に熱が籠っていく。恐らく暴神の加護が強敵との戦いで勝手に活性しているのだろうと当たりがつく。力を制御出来てきたと思っていたがまだ底は遠く、強い敵であれば更に活性化するらしい。力が制御できないのは未熟者の証だが今、アーロンは絶望と偉業に挑むのだ、若者らしい勢い任せも悪くないと笑う。


「ならば、乗り切ってみるのも一興か」


そう呟くとアーロンは加護のギアを1つ上げた。その瞬間凄まじい突風がアーロンを中心に発生してその身を隠す。そして左程時間を置かずに砂塵を割いて極大の黒い半月が跳び出し、そのまま空を割きながら龍を切りつける。その威力たるや今までと比べものにもならず、一撃で魔力の殻に変化をもたらすほどだ。


そして斬撃を放ったアーロンは全身に更に赤黒さを増した魔力を迸らせ、足を踏み出すのだった。



良ければ評価、ブクマ等していただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ