表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーロン  作者: ラー
四章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

60/255

十二話

「ウォォォォォォォ!!」

地が割れ、飛び散るほどの力で持って駆けたアーロンは待ち構えるように立つマルヴァースに渾身の力を込めて上から下へ、全身のバネと加速を最大限に込めてグレートソードを振る。一連の動作はもはや目で追うのも難しい速さで振り下ろされ、刃に沿って纏わりつく魔力の残滓が軌跡に沿って火の粉のように噴き出しているのを追うので精一杯だろう。その一撃は吸い込まれる様にマルヴァースの腹に向かって行く。しかし、マルヴァースに届くことはなく、グレートソードは何か固いものに当たった様な音を響かせ、アーロンの手にも痺れるような感触を伝える。

「グッ!オラァァァ!!」

奥歯を噛みしめ、更に押し込むようにしてみるが僅かにも押されず、只拮抗する。いや、むしろ手ごたえからすれば力負けしているとすら感じられる。そしてアーロンが一旦離れるか迷った瞬間、頭上に影がかかり、そちらに視線が吸い寄せられる。影の正体は振り上げられた左腕、図体からすれば太いとは言えないかもしれないがそれでもアーロンの胴程の太さはゆうにある。更に手の部分は鳥の足の様に3つに別れており、それぞれの先に龍爪としか呼べない極大の爪が付いている。それこそ掠っただけでもアーロンは胴体を引きちぎられてしまいそうな程だと思う。

「チッ!!」

舌打ちと共に地を蹴って大きく後退する。そして入れ替わる様に左腕が振り下ろされ、地面にぶつかると凄まじい轟音と砂煙が上がり、地が揺れる。速度は大したものでは無かった、何なら鬱陶しい虫を潰すかのように振られたその一撃はそれであっても己を龍だと証明する様であった。砂埃で龍の姿は消えてしまったものの地面に走った無数の亀裂が動かぬ証左である。

(なんて威力だ・・・今の俺でも数発も受けたら死は免れん)

下手を踏めば一撃でも死に至らしめるだろうと思わせる攻撃に苦虫を噛み潰したような顔を浮かべてしまう。

ビュン、ビュン!!立っていた煙を貫く様にして2本の矢が放たれたが音は固く、刺さった様な雰囲気はない。それでもアーロンは矢が通った道の先に龍の動きを見る事ができた。

(来るか!)

龍は振り下ろした手を地面に付けたままこちらを間違いなく見ており、揺れる紫色の炎の様な眼光がこちらを捉えて離さない。何より、アーロンの長年の戦闘による勘が脳に目一杯の警鐘を鳴らしている。

全力で地を蹴り、横に跳ぶ。その瞬間、凄まじい咆哮とマルヴァースの巨体がアーロンの立っていた場所を通り過ぎ、それに遅れて付いて来た風が津波の様に吹きすさぶ。マルヴァースが元々居た場所はクレーターの様にへこみ、通った場所は一直線に削り取られてしまった。マルヴァース自身は壁に激突し、再び空間を揺らしていたがダメージのようなものはないのか直ぐに壁から身体を引きはがしている。そして更に視線をずらせばマルヴァースから離れるように走るエンリータの姿が見える。その引き際に矢を更に1射放ってはいるが結果は同じ、よくわからない何かが龍に到達する前に弾いてしまう。

(一体何が原因だ?考えられるとすれば魔力ぐらいなものだが。・・・壁も円形にくり抜かれているか)

マルヴァースが激突した壁は何か固い円形のものに押しつぶされたように凹んでおり、龍が直接に当たったわけではなさそうだと推測がつく。だとすれば自身の初撃とエンリータの矢を弾いたのも同様だろう。

「魔力の殻、ってところだな。まぁ、簡単に攻撃が通る訳もない」

どういう仕組みかまでは分からないが兎に角この殻を壊さなければどうしようもないと言いう事が判明しただけマシだろうとアーロンは思い、グレートソードを肩に担ぐ。

「ま、全身から出ているあの紫の魔力、これを止めるのが先決、次点で龍鱗か」

誰に聞かせるでもなくそうぼやくと顔を引き締め、再びこちらから仕掛ける様に駆けだす。いくら危険でもアーロンのやるべきことは危険域に踏み込み突破口を作る事、これは変わらない。

マルヴァースは少しばかり距離があることも相まってか再びその体を前に倒し、姿勢を下げて駆けて来るアーロンに向かって再び両手を翼の様にして突進を仕掛けてくる。今度はしっかりと最初から全身を捉えきっており、更に距離もある為に少しばかり余裕があるアーロンはグレートソードの魔力を変化させ、自身は攻撃範囲から外れる様に動きながらも斬撃を飛ばす。嘗て戦った信者の成れの果てから学んだものを応用した斬撃達は流星の様に敵を刻みにかかるがマルヴァースは気にしたような素振りもないままに正面からぶつかる。斬撃はマルヴァースにぶつかると暫く拮抗するが左程の時間を置かずにガラスの様に砕け、精々時間稼ぎ程度にしかならない。アーロンとしては様子見ではあるがそれなりに魔力を込めて放ったものが意にも介されないのは少しばかり響くものがある。

そして今度の突進は壁まで行くことはなく、アーロンから少し過ぎたところで止まり、マルヴァースは腕を振りまわして体勢を変えるとこちらへ直ぐに向き直る。今度は先と違い暴走した印象はなく、しっかりと力をコントロール仕切ったようにも見え、アーロンは脳裏に嫌な予想が過る。

(まさかあれで知性がしっかりと残っているのか?どう見ても最初は暴走していたが今度は意識的に動いた!)

もしかしたらあのニィスが投げた指輪、あれが何か作用した可能性は高い。そもそもここまで戦闘能力が高いのは想定外でもあるのだからこの予想は間違いないだろう。ニィスは只マルヴァースを蘇生したわけでは無い。全盛期ではないのだろうが間違いなく強化が入っている。

「ふぅ、落ち着け。必ず突破口はある。今は耐えて探るべきだ。ならまずは」

そう言いながら突進を止めてジッと観察する様にこちらを睨むマルヴァースに向かって魔術を唱える。

『闇精よ、願うは破砕、吐息となって、討ち果たせ』

突き出された左手、そこから黒い魔力の珠が生み出され、膨張し、収束するとともに爆ぜ、黒い一条の光線が打ち出される。光線は正面からマルヴァースを撃ち抜くがやはり壁に当たり、散らされてしまう。しかし、その散ざまをアーロンはしっかりと観察する。

(やはりあの全身に纏わりつく魔力か)

龍の身体全体から噴き出す紫色の魔力の奔流がアーロンの攻撃を防いでいるのが今度ははっきりと分かる。また、接触地点を中心にする様に纏わりつく魔力が集まる様にして動いているのが分かった。

ズパンッ!一際強い音を鳴らして矢が別方向から当たればそこにも魔力が一瞬寄り、攻撃を明確に防いでいるようだ。

(さて、防御の種は割れた。なら次はどうやったら剝れるか、だが・・・!?)

そう思考を回した瞬間だった。背に氷を入れられたような気配が全身を襲う。そしてアーロンは何が、と考えるよりも先に立っている場所から動き出す。そうして制御を離れたことで完全に魔術が消えていく先に見えたのは牙の隙間から凄まじい魔力を迸らせるマルヴァースの姿だった。


轟音、そう表現するのも生ぬるいのではないかと思うほどの音と魔力波、そして遅れて突風が吹き抜け、飛び跳ねたアーロンの身体を押し流す。

放たれたのは龍の代名詞たるドラゴンブレスだ。勿論、龍が龍足る証は数あれども龍の攻撃の代表格としてこれ以上に相応しいものなど無い。マルヴァースのどす黒いドラゴンブレスが通った場所は突進の時よりも地を抉り、更には融解させ、当たった壁面は華が咲く様に砕け散る。あんなものが当たれば今のアーロンであっても即死は免れないだろう。暴神の加護で限界を超えて耐えられても結局寿命を大幅に削る、そんな予感が脳裏にはっきりと浮かぶほどだ。

(強力なブレスに巨体に龍生来の怪力による突進、おまけに強固な殻、俺の手札では遠距離は勝ち目がどころか利点すら見当たらない。しかし近距離もハイリスク、これが龍か)

息を大きく吐き、ブレスの熱を口から吐きだすマルヴァースを睨む。けして油断があったとは言わないがそれでも新たな力を手に入れて気が大きくなっていたのではないかと自問する。

(悔やんでも意味はない。今は全力を出し切る、それこそが最善!)

アーロンは肩にグレートソードを担いだまま再び姿勢を低くして突進の構えを見せるマルヴァースに先んじて走り出す。両者の間はグングンと近づく。そしてアーロンよりも遥かにリーチがあるマルヴァースの腕が薙ぎ払う様にしてアーロンに迫る。目前に迫る死、アーロンは恐れることなくさらに踏み込み、跳び上がる。跳躍し、横に回転するアーロンの眼下をマルヴァースの右腕が通り過ぎる。そしてアーロンは着地と共に足元へ駆け寄ると力の限りグレートソードを振る。しかし、先の一撃と同じように硬いものに当たった音がするだけで鱗にすら到達しない。とはいえこれは分かっていた事、すぐさまアーロンは身を屈め、迫ってくる左腕に備える。左腕は上から斜めに振り下ろされ、ちょうど龍爪がアーロンの身体付近に来る。だがそれは見えていた事、アーロンは立ち位置を少し変えて爪の先を避けると根元の辺りに刃を当てて滑らせる。接触した爪とグレートソードの間から悲鳴のような接触音が聴こえ、アーロンの手には今まで感じたことが無いような重い手ごたえが伝わるが決して押し込まれる事なく自身の背後へと受け流す。そして龍爪が地面にぶつかり、クレーターを作る音が聴こえた瞬間、アーロンは力の限り前へと踏み込み、押さえつけられていたグレートソードを滑らせ、本来ではあり得ないほどの加速を纏った状態の武器をマルヴァースの胴体へ再度切り付ける。

刃はマルヴァースの魔力の殻にぶつかると一際大きな音を立てるがそれでも刃が届くことはなく防がれ切ってしまう。アーロンは内心歯噛みするがそれでもそれに気を取られるわけにはいかない。何より現在の立ち位置はほぼ密着と言っていいほどに近いのだ。余計な意識は回せない。そう思ったアーロンが離れようとした瞬間、マルヴァースは腕を広げて顔を上に向ける。

(なんだ?)

そう思うと同時にマルヴァースの絶叫が空間に木霊する。思わず、耳を塞いでしまいそうな程の絶叫はアーロンの耳を壊し、平衡感覚すらも揺らがす。そしてそれほどの音は空間を揺らし、アーロンの身体をのけぞらせた。

(不味い!間に合うか!?)

仰け反り、行動を強制的に停止させられたアーロンは耳から血を垂れ流しながらなんとか体を動かそうと全力で魔力を回す。しかし、これを間違いなく狙っていたマルヴァースは既に腕を振り上げ、アーロンを押しつぶそうとしている。このままでは良くて致命傷、そうアーロンが思った瞬間、マルヴァースの顔を覆う様に爆炎が破裂した。

(エンリータか!)

横目に遠くを見れば視界の端にエンリータが腕を伸ばして魔術を放ったのが見える。どうやら絶叫は近くにしか効果は無く、遠くにいたエンリータには効果が薄かったのだ。そして、絶叫で固まったアーロンを見て咄嗟に相手の視界を封じる様に魔術を放ったのだ。もしこれがもっと余裕がある時ならばアーロンは手を叩いて褒めたに違いない。アーロンはこの生み出された時間を使い、やみくもに振り下ろされたマルヴァースの攻撃を避け、何とか体調を復帰させる。マルヴァースは攻撃が外れた事には関心がないのか特に気にすることなく、アーロンを睨む。

(しかし、この咆哮も厄介だな。通常のものと比べてはるかに高音で物理的な衝撃すらあるのは戦士殺しだな。唯一いい点は僅かに溜が必要そうなことだな)

ただ咆哮する時と比べればほんの少しではあるが空気を吸い込むような時間が明確にある。また、これほどの音量と衝撃であれば範囲は間違いなく狭いはずだ。油断は出来ないが絶対に避けられないという事は無さそうだとアーロンは判断する。

「アーロン!!魔力が薄くなってるかも!!」

遠くからエンリータがそう叫んでくる。そしてアーロンは彼女が言った内容が真実かどうか見定めるために記憶と今の姿を見比べる。

(言われてみれば確かに少しばかり薄くなったか?)

些細ではあるだろう。しかし言われてみれば確かに纏う魔力の殻が薄くなったようにも見える。

(確かめてみるか)

これが正解かどうかはまだ分からない。だが自身よりも優れた目と加護による強化で観察力に優れるエンリータのいう事である、試す価値はある。アーロンは鋭く息を吐くと再び振り下ろされる龍の腕を潜り抜けるために前へと踏み込むのだった。

良ければ評価、ブクマ等していただければ幸いです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ