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アーロン  作者: ラー
四章

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九話

連続投稿は終わりです

「なんとかなったな」

夜の帳が完全に落ちた空の下、アーロンは息を吐き、呟く。空を見上げれば見事な月が輝き、冷たい光で地を照らす。それに呼応する様に周囲の星々も競い合って輝く。空気は冷え、肌を撫でる風はどこか心細さを掻き立てる。抜けて来た森からは無視の声が不規則に、しかしそう言う曲であるかのようにさざめいている。

「もうすっかり暗くなっちゃたね・・・ん、足も疲れたかも」

息を整えていたエンリータが足を軽く動かしながら並びかける。

「兎に角、さっさと食事にして寝るぞ。尤も明日は偵察が主だがな」

そう言いながらアーロンは目の前の洞窟を見やり、荷を下ろす。


洞窟内も此処までの道のりと同じように地図がある上にそこまで難しい道ではない。そもそも洞窟とは言うものの所々上部に穴が空いている所もある為にそこまで閉鎖的ではない。更に龍の遺骸がある場所も広い闘技場のようになっており、どちらかと言えば通り穴と言った所だろう。勿論、分かれ道も存在するが一番太く、真っすぐの道が龍への道である為に迷う事はないだろう。ただ、偵察の意味は間引きと龍の状態確認のためだ。当然の事だが死んでいても龍は龍、アンデッドであっても十分に脅威だ。ならばそこに到達するまでに多数の戦闘を重ねてから挑むのは愚策だ。おまけにもし、駄目だった場合逃走することになるがそれを邪魔されればただでさえ厳しい状況が更に傾きかねない。それ故にまず、洞窟内を間引いて簡単に通れるようにしてから本命に挑むべきだ。また、龍自身も極端に近くに寄らなければ起き上がることもないらしく、遠目から確認する分には問題ない。それならば龍自身も直感便りになるが簡単に戦力を推し量れるかもしれない。後はおまけに近しいが神器の雰囲気が有ればそれも考慮に入れられるだろう。


「そうだね。でもまだそこまで気配は感じないけどアーロンは何か感じる?」

同じように荷を下ろして野営の準備を進めるエンリータが疑問を口にする。

「いや、まだ距離があるからなそこまでは感じない。龍が起きているなら感じられるかもしれないがな」

実際天龍の時の様な空気はまだ感じられない。そう言った意味ではヘンドリーナの言う通り弱体化しているのだろう。

「そっか、まぁ明日になれば分かるか!」

考えても分からないことは気にしない。そう言った良くも悪くも能天気な強さがあるのはこういう場面では彼女の良い所だとアーロンは思う。警戒をしない訳でもないのもあるが。

そうして隠れも出来ないのに火を使う訳にもいかず簡易な食事を終えて早々に寝支度まで済ませる。流石に2人揃って寝るわけにはいかない為に交代で見張りをたてて朝日を待つ。


月が逆側に傾く頃にエンリータと変わり、しっかりと睡眠を取ったアーロンは朝支度を始めた彼女の音で起き、揃って準備と計画の打ち合わせを始める。

「いいか、まずは手前の分かれ道から順々に行き止まりまで潰して回る。明かりは俺が出す。だからお前は挟み撃ちに合わない様に後方の確認を第一にしてくれ。前は俺が片づける。矢もしっかり残す方向で構わない」

アーロンはそう言いながら地図の分かれ道を順々に指差しながら作戦を説明する。勿論、エンリータに色々させてもいいのだが本命の戦いの際に全力でサポートに徹してもらうためには此処で無理はさせられない。また、洞窟内は不思議な事にそこまで強い魔物が発生しないと言う報告もある。もしかしたら魔力で出来た魔物は龍の気配に怯えて出て行き、逆に弱い魔物が庇護に入る為に残っているのかもしれない。もしくは森でのシルヴァルムホーンやバルバロースの様に強い魔獣に殺され、生き残って洞窟に住みついた可能性もある。その場合、渓谷の入り口が魔物だらけの理由はよくわからないが。尤も研究者でもないアーロンにとってそんな事は重要ではない。大事なのは倒せるか倒せないか、そしてその対処法は何かだけだ。

「うん、わかった。でも斥候位はするよ?」

話を聞いたエンリータはそう聞いて来るがアーロンはそこまでの必要性を感じなかった。

「だが特に罠がある訳ではないからな・・・ダンジョンでもなく、只の横道でしかない。だから気にするのは正面からの奇襲と挟み撃ちだけだ。だからお前は後ろ、特に光が届かなくなった部分からの音や気配に集中してくれ。危険度はどっちもあまり変わらないからな」

「そっか。良し、なら後ろは任せて!」

そう言って自信満々と言った雰囲気で腕を曲げる。

「でだ、4つの分かれ道を処理したら最後に龍がいる場所を外から様子を確認する。その後は前情報と同じなら撤退して次の日に仕掛ける。いいな?」

最後にそう聞けばエンリータはしっかりと頷き返す。それを見てアーロンは話を切り、立ち上がる。

「なら、荷物を分けておけ、残す分は適当に隠しておく。準備が出来たら行くぞ」

今日はどうせ戻ってくるのだ、必要のないものは置いておいた方がいい。勿論、魔物や魔獣などに荒らされる可能性はあるが持って歩くには邪魔なものも多い。ならば置いて行った方が身軽で生存率も結局高まる。アーロンは最低限必要な水や携帯食料に武器と薬品だけを腰のポーチに詰め込み、端の隠し易そうな場所に頭陀袋を置く。そして同じように準備を終えたエンリータの荷物と合わせて葉っぱも使い隠すと意気揚々と洞窟に入っていくのだった。


洞窟の中は思ったよりも暖かく、湿り気が無い。遠くには別の光源もうっすらと感じられるためにそのお蔭だろう。また、風も吹き抜けて溜まることが無い事もあるかもしれない。それでも視界良好とはいかない。アーロンは直ぐに魔術で光源を確保する。照らされた足元はあまり出入りが無いのかそこまで削れている印象はない。どちらかと言えば山に無理やりあけられた横穴、と言った雰囲気だ。今の所魔物の類は見受けられないが居ないという事はないだろう。アーロンは足音を消し、無言で後ろにいるエンリータに合図を出すとファルシオンを構えながら最初の分かれ道を目指す。

暫く歩くが何事もなくアーロン達は最初の横道につく。やや下に下る様に出来た横道は少しばかり狭く、アーロンにとっては少しばかり不利な様にも思えるがそんな所に居るのは大抵弱い。勿論、最も龍に近い場所なのだから異常個体がいても可笑しくはない為に油断などする気もないが。

エンリータに見張りをしてもらっている間、入り口を軽く見聞すれば毛の様な物が壁際に付着している。おまけに少しばかり腐ったような臭いが奥から漂い、ゴミに群がる様な虫の死骸が落ちている。

(バット種だな。脅威は薄いが騒ぎで出てきても面倒か)

生活感のある雰囲気から間違いなく魔獣、おまけに腐臭とそれをあてにする虫の死骸からこの奥にはバット種、洞窟を好んで生息するのがいるのが分かる。魔獣のバット種は集団で生活して陽があるうちは洞窟で過ごし、深夜帯には揃って外で小動物や果実を探しに外へ出る。とはいっても毎日出るわけでは無く3~4日に一度程度で事足りるらしくその間はずっと洞窟でぶら下がりながら過ごす。戦闘力は高くはないが飛んでいるのに当たれば当然痛みはある。また、数は少ないが吸血が主な種もいるためにそう言った種は時折冒険者や森番が被害に遭う事もある。また、一番厄介なのは病気を媒介することで噛まれた傷口が膿んだりすれば死に至る可能性はあるし、他にも巣の中は死骸や食べ残し、糞が散乱するために伝染病を持ってくることもあって魔獣のバット種は嫌われやすい。それこそ人里近い洞窟であれば定期的に冒険者が依頼を受けて掃除するのを見かけるくらいだ。今回はバット種の何かまでは分からないが死骸を持ち込む事と毛の色から2種までは絞れている。尤もどちらも名前が違うだけで脅威としては同じだ。

(兎に角、行くか。昨日出てこなかったからと言って今日出てこないとは言えない)

まさか寝ているときに見つかって数だけ入る敵と戦いたくはない。また、外よりは中でひとまとめになっているほうが始末は楽だ。

エンリータに奥へ行くと告げ、少しだけ互いに距離を取りながら進む。悪臭は少しずつ強くなり、這いずり回るゴミ虫(ゴミに群がる虫たちの総称)が増え始めたことで何となくの距離感が分かる。そうして奥から羽ばたくような音が反響し、近づいてくる。

(数は多くない。これなら捌けるか)

今の時間なら普通寝ているはずだが人間と同じ用に夜更かしするような奴は居る。こちらに来ている個体もそう言った逸れのようなものだろう。音はどんどん近づいてきており、アーロンが出す魔術の明かりに向かっているように思える。そして光源のギリギリにその姿が映る。

現れたのはセラーレバットと呼ばれる魔獣だった。胴体は丸く、手で握りこむには少しばかり大きい位で金交じりの茶色の体毛に覆われている。楕円で先がとがった大きな耳をピンと立て周囲を探っているようにも見える。目は非常に小さくここからでは見えないが代わりに豚の様な鼻が前に付いている。手足は非常に細く、小枝の様でそれに沿う様に薄い皮膜が羽として付いている。手の方は先端に大きくはないが鉤爪があり、手入れのようなものはしていないのか薄汚れ、欠けてしまっている部分も見受けられ、非常に不衛生な印象を持たせる。

セラーレバットは最初、明かりに寄って来たようだったがアーロン達の気配を突然掴んだのかこちらに向かって空中で腹を見せるような姿勢をとった後、鳴くような動きを取った。

(不味い、思ったよりも警戒心が強いな)

余り人の出入りがない為に警戒心は弱いと思っていたが思ったよりも反応が良い。アーロンはもう手遅れかもしれないと思いながらも駆け寄り、跳び上がるとファルシオンを振り抜く。刃は特に抵抗もなくその体を切り、細い骨ごと容易く両断した。そのままアーロンは静かに着地して耳をすませる。ついでとばかりにエンリータにも合図をして耳を傾けさせる。先程の動きは間違いなく仲間に警告を飛ばす動作だった。尤もその声はアーロン達には聞こえない彼らだけの会話だ。それ故に声を出したか否かが分からないのだ。

(チッ、間に合わなかったか)

奥からは明確に羽ばたくような音が聴こえる。それこそエンリータでなくとも聴こえるのだからそれなりに数は多いだろう。

「どうするの?」

伺うような視線でこちらをエンリータが見上げて来る。

「・・・面倒だが合わせるぞ。砂漠のダンジョンでやったことと同じだ」

そう言うとアーロンは光を消して魔術の準備を始める。

「いいか、お前の方が暗闇では見えるはずだ。だからお前に俺が合わせる」

そう言って肩を軽く叩く。

「・・・分かった、任せて!」

そう言うとエンリータは少しだけ前に出て暗闇を睨む。

徐々に大きくなる羽音、アーロンの目に敵は映らず、音でしか判断できない。アーロンは只エンリータの力を信じて待つ。それからあまり時間を置くことなく、羽音が津波の様に押し寄せて来る。その瞬間、エンリータが魔術を唱え始める。

『風精よ、願うは時津風、導きの吐息』

エンリータが淡々と、平時と変わらない声で魔術を唱え、風が奥に向かって吹き付ける。風の威力は低いが体重の軽い蝙蝠にはしっかりと影響があるのかこちらに向かって飛んでくる速度が一気に緩む。

『炎精よ、願うは紅焔、颶風となって、灰燼に帰せ』

そして後続が前で風に流された集団と合流して塊となったところへアーロンの火の魔術が飛び、爆発する。そうなればヴァーニタス砂漠のダンジョンと同じように細い道の中で火が吹き荒れ、セラーレバットたちを焼く。違いがあるとすればセラーレバットは耐久力が無く、薄い皮膜から一瞬で焼かれ、抵抗することもなく焼け落ちた事だろうか。

魔術の効果が消え、静かになった段階でアーロンはすぐさま光の魔術を再び唱えて奥を見る。奥では身を焼かれた多数の死体が散乱して残った部分が炭の様に燻っていた。

「奥から音は聴こえるか?」

エンリータにそう尋ねる。

「ん~特にはしないかな・・・もしかしたらもっと奥にいるかもしれないけど」

耳に手を翳しながら目を閉じたエンリータは暫く聞いてからそう答える。

「そうか、ならここは良い。今ので来ないならかなり少数のはずだ。そこまでは必要はない」

そう、目的は彼らの討伐ではない。緊急時に邪魔になることが無ければそれでいいのだ。それに今の音で別の場所から来てしまう可能性もある。それならもう引き返してもいいだろう。

「よし、引き返すぞ」

そう言ってアーロンは再び先頭に立って歩き出した。

良ければ評価、ブクマ等していただければ幸いです。

今まである程度貯めてから出してたんですけど今度から一話ごと書けたら出します

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