六話
もう既に目の前まで迫る魔物たちを眺めながらアーロンは魔力を全身に回したままグレートソードにも魔力を纏わせる。すぐさま刃全体が黒い魔力に覆われ、不気味な雰囲気と筆舌に尽くしがたい威圧を周囲に放つ。
「ハァァァァ!!」
アーロンはグレートソードを振りあげ、正面から迫るキマイラとオーガに向けて跳び出すとともに横薙ぎにする。
いつもよりはるかに速く、重い一撃は迫る魔物たちへ一切の抵抗を許すことなく、その身を切りとばした。それでも後続の魔物は怯む様子は少しもないのは流石上位の魔物と言えるだろう。
(剣まで魔力を通すのは消費が激しい・・・)
加護は強力だが代償は軽くない。今はまだアーロンの許容範囲だが長期戦にはやはり向かない。向かってくる魔物たちも全力ならば簡単に屠ることも出来るだろうがそうなれば次の日に不測の事態が起きれば後れを取ってしまうかもしれない。そう思えばとても全力は出せそうにない。
(もう少し絞るか)
グレートソードと体の魔力濃度を先の半分ほどにまで下げる。
スパン、スパン、スパン、アーロンがそうして調整をしている間に聞きなれた援護射撃が3回鳴る。そして魔力を纏った魔矢は的確に敵の足を止めさせる。
「フッ!」
すかさず空いた空間を埋め、アーロンは再び切りかかる。先よりはいくらか遅く、切った手ごたえも重いが十分な威力を持って振るわれた攻撃は存分にその効果を発揮する。
そうして再び下がろうとした瞬間、視界の端に遠くから飛んでくる魔物を捉える。
「右だ!撃ち落とせ!」
下がるのを止めて、後方のエンリータに指示を出す。そして、それを分かっていたかのような反応速度で矢が次々と放たれる。
飛んできたキマイラは流石にやられることはなかったものの、きちんと威力の籠った矢は鬱陶しい様で一旦、立て直すために地面に降りていく。
それを眺めていると前からはそれを隙と判断したのかキマイラとコカトリスが炎と石化の呪いを飛ばし、それに追従する様にデュラハンが突撃槍を構えて突進を仕掛けてくる。
流石に避けるには狭く、また避けてしまうとエンリータに致命傷が入りかねない為にアーロンは正面から迎撃する構えを取る。
(まずは火か)
一番速いキマイラの火炎放射に向かって一瞬魔力を強めたグレートソードを縦に力強く振り下ろす。そして、そのまま魔力を斬撃として打ち出した。
斬撃は炎を割り、無人の野を行くがごとく進むとそのままキマイラの獅子の顔を切りつける。流石に距離が有った為か両断とまではいかないがそれでも攻撃を止めるのは充分と言えた。
次いで石化の呪いが降りかかるがこれはアーロンが身体に魔力を纏っている為に掛かりが悪い。続けられれば問題にはなるだろうが先に殺せると判断してアーロンは無視を決め込む。
そうなれば次の脅威は当然デュラハンのチャージランスである。デュラハンはアーロンを目掛けて一直線に突き進んでくる。流石騎士の切り札と呼称されるだけあってそのあり方は味方であれば勇気を敵であれば絶望を覚えるだろうという威容を持っている。
(この速度は流石に受け止められんな)
そう判断したアーロンはその場に一度立ち止まると回避とカウンターに備える。後ろに逃がせば面倒な事になるのは確実、うまく捌ききらなければならない。
そして遂に迫ったデュラハンから馬上槍が明確な殺意と威力で持って突きだされ、先端はその速さから歪み、風を穿ちながらアーロンの心臓に迫る。
ガギン、アーロンはスピアヘッドと自らの身体に割り込ませるようにしてグレートソードの腹を押し当てるとそこを支点に身体をずらし、先端からシャフトへと刃を滑らす。そうして自身の真横までデュラハンが来た所で上にグレートソードを滑らせば火花を散らしながらランスが浮き上がる。
「ハァ!!」
乾坤一擲、摩擦により加速したグレートソードを通り過ぎようとしたその身体に振り下ろせばデュラハンは馬ごと両断される。
死んだことで黒煙に変わる姿を見ながらアーロンが目を凝らせば先程飛んできたキマイラが炎を吐く姿とコカトリスがこちらに駆けながら毒霧を放とうとする姿が見えた。
(チッ、面倒だな)
中々止まらないラッシュに苛立ちを感じ、導かれる様に力を解放しようとしたアーロンだがヒュンと軽くも鋭い矢がコカトリスを撃ち抜き、足を止めたのを見て、思いとどまる。
(・・・まだ制御し切れてはないか)
本来、ここで魔力を開放し過ぎるのは愚策、それが分かっていながら苛立ち、解放しようとした。本来のアーロンであればしない思考が当然の様にしようとしてしまった。これは間違いなく加護のせいで戦闘中に破壊衝動のようなものが起きるようになった事が理由だった。
(そうだ、落ち着け。冷静に事を運べ!)
子どもに言い聞かすように頭の中で自らを戒めながら後方に下がる。下がった瞬間、目の前をキマイラの炎が流れて魔物との間に再び空白が生まれる。
「アーロン、大丈夫!?」
下がって来たアーロンに対して心配するようなエンリータの声が聞こえる。どうやら傍目に見ても思考に引っ張られて少しばかり変な行動をしていたとアーロンは苦笑を浮かべる。
「あぁ、問題ない!お前はそのまま上から来る奴を一番に警戒し続けろ!」
そう言ってアーロンは一度深呼吸を挟み、前を向く。まだ、闘いは始まったばかりだ。
頭は冷静に、心も冷たく、さりとて火は絶やさず。アーロンはグレートソードを振り続ける。
あれから一切の休憩を挟むことなく武器を振る事で想定よりも多かった魔物たちにもようやく終わりが見えてきた。多い原因は単純に戦闘音がそれなりに長く続いたことで周囲の魔物を引きつけてしまったようで当初より1,5倍程度増えてしまった。途中、殺しても増える魔物に流石のアーロンも手が間に合わなくなりかけたものの魔力の刃を極限まで伸ばし、切り払う事で何とか事なきを得、更には数の減少にも一躍買った。しかし、魔力の消費は押さえてもそれなりに出てしまい、このままでは元の半分以下になってしまうところまで来ていた。
(残りは5体・・・キマイラ1、オーガ2、デュラハン1にミノタウロス1か)
面倒なコカトリスはたった今、全て狩りきった。ならば次にキマイラとデュラハンをさっさと殺せば残りは物理しか攻撃手段を持たない為にほぼ確勝まで持って行ったと言っていいはずだ。
(ま、そんな上手くいくとは思えんが)
アーロンは心の中で独り言つ。
額からは汗が流れだし、頬を伝って地面に落ちる。魔力だけでは無く肉体的にも疲労が回って来た。それでも集中を切らすことなく、柄を更に握りこんで前を睨む。
そうして僅かな睨みあいの末、知性が低く、我慢の効かないオーガが揃って駆け出し、続く様にミノタウロスが気炎を上げながら突っ込んでくる。キマイラとデュラハンは少し様子見のつもりなのかゆったりと隙を伺う様に動くだけだ。
ドゴンッ!!近づいてきたオーガたちがアーロンを挟み込むようにして拳を振り下ろす。それを冷静に後ろへ下がりながら拳を突き出しているオーガたちの頭を飛越ながら戦斧を振り下ろすミノタウロスを先に相手取る。
流石にここまで勢いづいた一撃は受けたらすぐに切り返し難い。そう判断したアーロンは更に横へと飛び跳ねる。しかし、それを予見していたようにミノタウロスは叩きつけた戦斧を強引に、虫でも払うかのように横薙ぎにしてくる。
ミノタウロスらしい強引な乱舞に今度は腰を落として屈むと同時に戦斧の勢いを利用してグレートソードで上に撥ね退けてやる。そうすれば無理やりに放たれた一撃は容易く軌道を変えてミノタウロス本人は脇ががら空きの状態で硬直してしまう。それと同時にヒュン、ヒュン、ミノタウロスと対峙するアーロンを邪魔する様に近づいて来たオーガに対してエンリータの矢を放って牽制する。
この完全な援護アーロンはしっかりと使い、力強く踏み込むと同時にミノタウロスの分厚い体を袈裟切りに両断した。
アーロンはその後を見届けることなく、すぐさまミノタウロスの肉片を足場に飛び上がるとその足元をオーガの腕とキマイラの炎が通過するのが見える。
そのまま空中で身体を旋回させ、遠心力と重力とグレートソードそのものの重さを利用した一撃でアーロンはオーガの腕を切りとばす。
絶叫、オーガの体液が宙に花弁の様に舞う中、着地したアーロンは仰け反るオーガの足元を駆け抜け、右足を置き土産に切り払う。死んではいないだろうが戦力としては死んだ。
駆け抜けた先、アーロンの眼前にはいつの間にか駆け出していたデュラハンの大剣が風を割きながら頭部に振り下ろされている。そして協力など知った事かと言いたげな、もう一匹のオーガが横からアーロンの胴体を穿つために拳を振るう。
(右はデュラハンそのものが邪魔、正面は大剣、左からは拳、後ろには下がれない・・・なら!)
アーロンは両手を頭の上に掲げ、グレートソードの剣先を背に流すようにすると更に加速する。
轟音とずっしりとかかる重みを後ろへ滑らしながらアーロンは挟撃を抜け、体を半回転させ、魔物たちを視界に収める。
(オーガが残って、デュラハンは抜けたか・・・)
「エンリータ、何とか生き延びろ!」
抜けてしまったものは仕方ない。アーロンはエンリータの運と実力に賭けるとともに遂に駆けてきたキマイラと足を踏み鳴らしながら迫るオーガを相手取る。
(この速度ならキマイラからか)
アーロンはそう判断すると自らキマイラの方へと駆ける。
「グォオッォォオ!!」
キマイラは渾身の咆哮と共に跳び上がり、右爪を振るとともに山羊は呪いを口にし、蛇は毒を吐く。このまま受けてしまえば毒を筆頭に面倒な事になるのは目に見えている。
それを見たアーロンは、前に出た左足を軸に身体を回して爪を避けるとともにキマイラの側面へと踊る様にして流れる。そして目の前にちょうど流れる、尻尾を切断して毒雨を避けるために完全に抜ける。
尻尾を切られ、少しバランスを崩したキマイラは小さく悲鳴をあげるが直ぐに立て直すとしっかりと着地して、此方に振り向こうとする。
そしてそれよりも速く、腕を振りかぶったオーガが加速しきった足のまま右腕をふりおろしてきた。が、ここにきて既に何度もみた攻撃、学習の欠片もない重く速いだけの拳をアーロンはオーガの懐に入ることで避け切る。そして、腕を伸ばしたことで前かがみになっているオーガの胸元でアーロンは首を目掛けてグレートソードを振り抜く。
咄嗟にオーガの左腕が間に割り込みこそするが魔力を纏ったグレートソードはなんの抵抗も感じさせることなく左手と首を切りとばした。
(これで後はキマイラだけか。エンリータは生きてるか?)
視線をエンリータがいるはずの場所へと向ければ矢を撃つことを完全に捨ててデュラハンの攻撃を避け続ける彼女の姿が有った。勿論、長引けばやられてしまうだろうが集中さえ切らさなければ自身が間に合いそうだと視線を切る。
「グギャォォオォオ!!」
尾を切られ、完全に怒り狂ったキマイラが炎を吐きだし、絨毯の様に広げる。しかし、今更そんな攻撃に引くことなく、アーロンはキマイラの背の上まで跳び上がると剣先を下に向けて落ちる。
背の山羊が大口を開け、この世の辛み恨みを凝縮した声で叫ぶがあまりに遅い。アーロンは力強くグレートソードを槍の様に押し込み、山羊の口から胴体、更には地面にまで到達する程に刃をねじ込む。
「グギャオォォォ!!」
地面に標本の様に縫い付けられたキマイラが苦悶の声をあげ、暴れるが自身の傷口を広げるだけで解決には至らない。
アーロンはそんなキマイラを酷く冷めた目で見ながらグレートソードを引きぬき、獅子の首を処刑人の様に両断した。
「アーロン!!」
少し息を吐いた瞬間にエンリータの大声が聴こえて慌てて振り向く。振り向いた先にはデュラハンに追われながら全力でこちらに向かってくる彼女の姿が有った。
(流石にまだ荷が重いか)
緊迫した状況ではあるものどこかコミカルな風景に笑いが出てしまう。
「笑ってないで早く!ひゃあ!」
流石に馬と人では速さが違う。容易く追いついたデュラハンが大剣を振るい、それをエンリータが大げさに動いて避ける。
「そのまま頭下げてろ!」
アーロンはそう叫ぶとエンリータを通り過ぎ、此方に向いているデュラハンまで一足飛びに近づき、馬ごと切りとばすように大きくグレートソードを引ききるとデュラハンの駆ける勢いも利用して力強く振り抜く。
大振りな攻撃の直後だったデュラハンは大剣を間に挟むことも敵わず、馬の身体と自身の腰のあたりを両断される。そして下半身はそのまま崩れ落ち、上半身は勢いのままに谷底へ、顔はエンリータの居る方へと転がった。
「顔を潰せ!」
まだ伏しているエンリータに向かってそう叫べば彼女は直ぐに顔を上げて水の魔力の籠った矢を番えて悪あがきを続けようとするデュラハンの顔に向けて放った。
放たれた矢は開いた口に綺麗に突き刺さり、鈍い音と共に黒煙となって消えるのだった。
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