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アーロン  作者: ラー
四章

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四話

万が一の逃亡時に抱えて走れるようにエンリータの隠れ場所だけは把握してからアーロンは変わらず群れを成すキマイラの方へと一歩を踏み出す。

因みにエンリータは戦闘中であってもキマイラたちの視界から隠れられそうな大岩の近くで姿を一時的に隠す魔術を行使して息を潜めている。勿論、近寄られればキマイラの嗅覚や魔力の感知能力で気付かれてしまうだろうがそこはアーロンの腕の見せ所と言った所だろう。


そして、数歩も走れば3匹の内の1匹がアーロンを視界に留め、素早く立ち上がると威嚇する様に吠える。その咆哮は獅子の声と背の山羊の声が混じったもので人の恐怖心を駆り立てるような声だったがアーロンは眉の1つも変えることなく最短で駆け続ける。

当然、他の2匹も戦闘態勢は作るがそこまで大きな動きはなく、精々がアーロンを囲むように周囲に広がろうとしたくらいだ。

『風精よ、願うは炸裂、凄風なりて、荒れ果てろ』

駆けながら以前よりもずっと威力と安定性が増した魔術を唱える。そうして完成された魔術は牽制と言うよりは強撃と言わんばかりの威力で持って放たれた。

魔術は空気が炸裂するような音を豪快にたてながら周囲の空間そのものを爆発させる。そして魔術はアーロンが示すまま、津波の様にキマイラ達に襲い掛かる。周囲の岩は例外なく爆発にでもあったかのように弾け、大地は抉られる。

「ガァァァッァア!!」

しかし、敵もさるもの、一度、自らを鼓舞する様に咆哮した後、迫る破壊の風を驚異の身体能力で持って左右に大きく避け、正面の1匹は力強く跳んだかと思えば、そのまま腰の羽を羽ばたかせアーロンの上から攻め立てようとする。

(ま、所詮は俺の魔術。強くなってもキマイラでは牽制にしかならんか)

少しは期待していたとはいえ、主武器ではない為に練度も足らない為にアーロンは悲観することなく、敵の攻撃に備える。

そして、展開しきったキマイラたちは早速、獅子の口から示し合わせでもしたかのように炎を吐きだし、渦を巻きながら直線軌道で迫る。

それなりに離れていると言うのに吐きだされた直後から頬に熱を感じる程ではあるがアーロンは恐れることなく右斜め前へと進路を取り、易々と炎を避ける。確かに速度も威力も十分だが今のアーロンにとってはあまりにも遅い。

背後で衝突し合った炎は接触地点で火柱を立て、黒煙を吹き上げてその威力を証明するが当たらなければなんという事はないだろう。

(一旦、飛んでいるやつは無視だ。なら!)

アーロンは走る勢いのままに右へ展開したキマイラを仕留めるために更に加速する。

「メェェェェェ!!」

アーロンが避けたのを確認して直ぐにこちら側に向き直っていたキマイラはまだ距離があるのを見越して再び獅子の口からは炎を、そして背中の山羊からは呪いが拡散する様に天に向かって恨むような声色で放たれる。

「・・・」

アーロンは更に足を回し、睨むようにキマイラを見た後、自身の身体に魔力を流し、跳躍する。

ダンッ!!地面に罅が入るほどに踏み込まれ、アーロンは吐きだされる炎を飛越、その勢いのままにグレートソードを呪いを振り撒く山羊に向かって振り下ろす。

「ガァァアァァ!?」

肉と骨を切りとばすような確かな感覚が伝わり、そのまま振り抜けば獣の絶叫が木霊する。山羊の頭部は大口を開けたまま宙を舞い、変わらぬはずの表情は呆気にとられたようにも見えた。

直後、アーロンの背に氷柱を刺しこまれたような悪寒が走り、残心する間も無く飛び退く。瞬間、立っていた地面を震わせる程の爪の一撃が空から振り下ろされ、更には攻撃されたキマイラの尻尾の蛇が毒液を吐きだしていた。

当然、嫌な予感は終わらない、一番遠くに居たキマイラが今度は少しばかり拡散する様に炎を吐きだす。

「休む暇もないな・・・」

そう呟くと再び足に力と魔力を込めて元々いた地点に目がけて迂回する様に全力で駆けだす。しかし、それを追う様に仲間の炎を自らの身体で割りながら2匹のキマイラが迫ってくる。そして、アーロンが一度足を止めれば同時に、或いは交互に爪と太い前腕を振りまわし、懐に入れば牙でかみ殺そうとする。当然少しでも離れれば呪いと毒液が繰り出され、それらの隙間を縫うように固定砲台となった一匹が状況に合わせて炎で追撃をかける。

(思ったより厄介な連携だ。少なくとも前の俺なら既に死んでいる)

一見、防戦を強いられてはいるがアーロンはまだ余裕が残っている。そして状況が良いわけでは無いのだろうが悪くはない。何故ならば、未だに痛打は無く、今の相手の連携も返せなくはないと判断出来ているからだ。反撃に出ないのはこの地域のキマイラの強さともし隠し玉があるならば余裕があるうちに見たいと言う気持ちが有ったからだ。しかし、今の所、嘗て戦ったキマイラと実力は大差なく、攻撃の手札も変わらなさそうだと幾度かの攻防でアーロンは判断した。

ガギン、そう決めたなら後は早い。アーロンはこちらが守ってばかりで勢いづいたキマイラの攻撃を今度はグレートソードで確りと受け止める。

一瞬の硬直、しかし相手が動き出すよりも速く、アーロンは受け止めたキマイラの一撃を剛腕で翻し、上半身を浮かせる形で宙に浮かせると全身に魔力を回し、目にもとまらぬほどの速度でグレートソードを横薙ぎにする。

「――――」

キマイラの肉体が無理やりに引き裂かれる音が響き、その巨体に似つかわしくない甲高い絶叫が渓谷に木霊する。

しかし、引き裂かれた胴体の向こう側からは仲間の死など知った事かと言わんばかりに腕を振り上げながら跳びかかるキマイラと更にその後ろから全てを飲み込まんとする炎の壁が迫る。

「フッ!!」

グレートソードを振った勢いのままに身体を宙に投げ出し、爪も炎も飛び越えていく。頭を下にしている為に顔に熱が伝わるのを感じながら炎を未だ吐き続ける個体に向かって体を回転させることで威力を持たせたグレートソードを叩きつける様にして切りかかる。

グシャリ、頭部を上から2つに切り裂かれ、勢いのままに地面に叩きつけられたキマイラの獅子の頭がつぶされる。かなりの衝撃だったのか、つんのめったかの様に後ろ足が宙に浮く。同時に潰されたキマイラの尻尾、蛇の頭部が待ち構えていたと言わんばかりに大口を開けてアーロンの首元を目掛け、毒牙を向ける。

即座に気付いたアーロンは左手を柄から離すと向かってくる蛇の首元を掴むために口を避ける様に横から抉る様に手を伸ばす。

そして後だしにも拘らず、しっかりと自分に攻撃が届く前に首元を掴むことが出来たアーロンは左足でキマイラの背に足をかけると紐を引っ張る様にして思いっきり蛇を引きのばしたかと思えばブチリと言う音と共に蛇が本体から引きちぎれる。

そのまま、まだ死ぬまでのタイムラグを使ってアーロンに巻きつこうとする蛇にとどめを刺そうとするが最後の1匹が折り返してきたことで仕方なくそちらに投げ飛ばし、敵が回避に使った時間で体勢を完全に整える。

これで1対1、ほんの少し前までの状況が嘘かの様にキマイラたちにとって良くない方へと盤面は進んだ。

「ガァァァァア!!」

もう実力差などはっきりと分かるだろうにそれでも強者としての意地か、はたまた仇討ちか最後のキマイラはアーロンに対して身を低くしながら怒りの咆哮を上げる。

(大したものだ、まだ戦意はくじけないか)

3匹同時等戦ったことなど無いがここまで来ればキマイラが逃げ出しても可笑しくはない。実際、群れで行動する魔物はある程度恐怖や状況が悪くなれば逃げだす個体もいる。それに魔物とて他の生物に見境なく襲い掛かるとはいえ死にたいわけでは無い。それでも逃げず、ここでアーロンに対して吠えられるのであれば敵ながら、とアーロンはひっそりと思う。勿論だからと言ってそれで加減することも見逃すこともないし、そんな個体を逃がす方がよほど問題である。

咆哮の後、身を更に低くして唸り声の1つも上げないキマイラと肩と同じ位の高さに真っすぐとグレートソードを構えるアーロンの間に静寂が訪れる。

最初に動いたのは、やはりキマイラだった。

充分に四肢に込めた膂力をバネの様に弾かせながら真っすぐ、只正面から愚直に自慢の爪を伸ばす。当然、今までの突撃とは比べものにもならない速度は突風を思わせるがアーロンの目は迫りくるキマイラの姿をはっきりと捉えていた。

極限に引き伸ばされた集中の中、アーロンはキマイラの攻撃を同様に正面から迎え撃つためにギリギリまで攻撃を引き寄せる。

(此処だ!)

アーロンは先に振りかぶられた爪をゆっくりと見ながら自身のグレートソードをキマイラの左肩から袈裟切りに振る。

アーロンのグレートソードがキマイラよりも遥かに速く、その肉体に到達して胴体に向かって切り裂いていく。それでもキマイラは一矢報いようとでも言うのか右腕と爪をまだ伸ばす。しかし、アーロンが足に力を入れ、更に重心を前にすることでそれに押されてため込んだ勢いが消えていく。そして遂には胴体が斜めに分断されて、キマイラの身体は力なく地面に落ちていくのだった。


「こんなもんか」

最後のキマイラを倒したのち、暫く周囲を警戒していたが乱入も隠れている気配も無いのを確認した後、アーロンは一息吐き、グレートソードを杖の様にする。

既にキマイラたちは煙となって姿を消しており、彼らの爪や牙が残留物として残っているだけだ。

「おーい、もういいぞ!」

そしてアーロンは、隠れているエンリータに向けて声をかける。

「―――」

万が一見つかっても事である為にそれなりに離れていた隠れ場所から彼女の顔が見え、手を振るのが見える。

「よ、ほ、っと。お疲れアーロン」

駆け寄って来た彼女がそう声をかけて来る。

「あぁ、お前の方も問題なかったようだな」

「うん、後ろからは何も来てないよ」

隠れている間ずっとこちらを気にかけながら後方の警戒をしていたエンリータは自信ありげにそう答える。

「よし、ならこの勢いのまま先の偵察まで済まそう」

そう言うとアーロンは肩にグレートソードをかけるとエンリータに荷物を渡してもらって前に歩き出す。

「ん?休憩しなくて大丈夫なの?」

並んで歩くエンリータは首を傾げる。

「あぁ、体力は問題ないからな。休憩するにしても先の偵察を済ませておいた方が楽だ」

頭の中で渓谷の地図を浮かべながらアーロンは答えた。


この邪龍の渓谷は入り口こそまさに干上がった谷、と言った様相だが奥に進むたびにその姿を変える。今、2人が立っている場所を抜ければ地面が突然無くなったかのような谷と残った地面が道として使える場所に出る。そこから3方向に道が続いており、方向によってまた、別の姿を見せる。今回、アーロン達が向かうのはその中で森に続く道だ。因みに森の先には切り立った崖に開いた大穴があり、其処の最深部に邪龍の死体があるとヘンドリーナに教えられた。

そうして2人は渓谷の序盤を越えて、中盤に差し掛かる場所から身を隠しながら先を見た。

そこは事前に聞いていた通りに突然地面が抜けたかのように真っ暗な谷が大口を開いているようにも見え、残っている道は穴あきの網の様にも思えた。しかし、それだけならば問題はないのだが問題は別の所にあった。

そう、その狭い通路の上にざっと見えるだけで数十の魔物が闊歩している事である。

先程見たオーガやデュラハン、キマイラは当然ながら石化の鶏コカトリス、牛頭のミノタウロスなどを筆頭に悪名高い魔物集団が各所に犇めいている事である。

彼らはそれぞれで戦うようなことはせず、それぞれが自由に闊歩しているようで間違いなく、アーロン達が無策で踏み入ればへたをすると押し込まれてしまいかねないと感じさせる物量と質である。少なくともこの集団が主要都市近くで見つかったのならば国を挙げての討伐体が出されても可笑しくはない。それこそ、ここだから放置されているのだろう。尤も、安易に人を送り込めば被害がでかくなり過ぎると言うのもあるだろうが。

(・・・もしかして、これが分かっていて送り込まれたんじゃないだろうな?)

目を腐らせながらアーロンは心の中で悪態をつく。邪龍の渓谷の魔物が普段出て来ることはないが可能性としては0ではない。そこでちょうどよく強くなったアーロンに狩らせ、更に邪龍そのものの後始末もさせようとヘンドリーナが仕向けたのではいかと疑いたくなる。

「ねぇ、さっきも言った気がするけどこれどうするの?てか、ワタシ出来る事あるかなぁ・・・?」

唖然とした様な顔をしたエンリータに顔を向けながらアーロンは提案する。

「一旦、下がって作戦を練るぞ。たとえ、無理押しになったとしてもな」

2人の前途は多難だった。

良ければ評価、ブクマ等していただければ幸いです。

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