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アーロン  作者: ラー
四章

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二話

充分な休暇という意味では3日も取れればエンリータも含めて完全な状態にまで持ち込めていた。しかし、武器の方はそうはいかず最大まで強化を重ねていたが故に時間が掛かり、結局の所、旅支度が終わるのには7日間を要した。とはいってもこれでもかなり早い方で本来の手順でアーロンのグレートソードを完全に修理しようとするならば帝都では倍の時間でも足りなかったかもしれない。そう言う意味ではヘンドリーナの名は帝都では特に良く効く、とアーロンは思う。


「ん~、これから龍退治かぁ!」

2人が帝都の門を潜り、邪龍の眠る渓谷へと足を踏み始めた時、エンリータは腕を上に伸ばしながら呑気にそんな感想を溢す。

「今だけはお前達、ミクロスの楽天家がうらやましいもんだ」

一応、覚悟こそ決めているもののぼやかずには居られないアーロンが半目でエンリータに呆れた様な口調と共にため息を吐きだす。

「まぁまぁ、せっかくだし、せめて渓谷に着くまでは楽しく行こうよ!勝ちに行くんでしょ!」

そう言ってエンリータは笑う。

(強くなった、そう言えばいいのか判断に困るな・・・)

鼻歌を唄いながら先を行く彼女の背を見ながら再びため息を溢す。


実際、アーロンがエンリータに出会ってからそれなりの時間が経った。そして、一緒に冒険をしていく中でエンリータは他の冒険者と比べものにならない速度で成長しているのは事実だ。

普通であれば冒険者のランクを上げるのはそれなりに時間が掛かる。それは勿論、ギルドからの信頼、というのも大事だが同じくらい戦闘を筆頭に探索や交渉と言った様々なスキル全てを含めた実力というものを鍛えなければいけない。

努力で誰でも行けるランク6、そう表現こそされるが冒険者として未知への挑戦に加えて常に危険と隣り合わせの生活、時には雑事としか言えない地味な仕事を文句の1つも溢さず、丁寧にこなし続け、頭を使って自分を磨き続ける、これを長く、安定して続けられる者は当然少ないのだ。特に3、4位のランクになるのも数年はかかるものだ。そうしている内に己の限界に見切りをつけ、冒険者にも拘らず安定を求めてしまう。つまるところエンリータは凄まじい速度で中堅に手を掛けて、今尚、足は止まっていない優秀な冒険者候補という事である。


「あ、そう言えば邪龍の渓谷ってどうゆう所なの?」

アーロンが思案に耽っていると先を進むエンリータが身体を翻しながらそう尋ねて来る。

「そうだな、以前にも言ったことがあるとは思うがもともとは只の山や平野だった場所だ。そこで嘗て俺たちの依頼主でもあるヘンドリーナが邪龍を倒した際に出来たのが邪龍の渓谷と言う訳だ」

「・・・改めて聞いても意味が分からないね。どうやったら地形がそんなになるんだろう・・・?あ、そう言えば渓谷って言うぐらいなら川が流れてるんじゃないの?」

エンリータは首を傾げる。

「そうだな。だがこの渓谷が川になるのは時期と合わさって天気が相当荒れない限りは川にならず、普段は干上がっている。あそこが渓谷と呼ばれたのは討伐から暫くの間、倒された邪龍の瘴気や魔力が削られた山の間を川の様に流れていた事が渓谷と呼ばれるようになった理由だ。今ではほぼ見えないが当時は黒紫色の流が有ったらしいな」

「へぇ、そうなんだ。・・・・ん?てことはその魔力はどこに行ったの?」

「ほう、いい着眼点だな。死んでも龍は龍、川と形容されるほどに溢れた魔力は大半が土地に時間を掛けて染み込んで強力な魔物に姿を変えたのさ。魔力はすべての源、魔の眷属たる魔物にとっては最高の環境ってわけだ。で、渓谷生まれの魔物は外の薄い魔力は気に入らないのか出て来ることはほぼないが渓谷内では外よりも強力な魔物たちが常に生存競争を繰り広げる地獄になっている、てわけだ」

「そっかぁ、でもやることは変わらないね!何時も通り、全力で飛び込んでボロボロになって帰ってお酒を呑む!うん、分かり易くていいよ!」

何とも頼もしいもんだ、アーロンはそう言って笑うエンリータの背を見て少し口角を上げるのだった。


それから2人は渓谷のある場所まで三日ほど街道を進み、そこから道を外れて森や山を4日かけて越え、ようやく渓谷に入り口に辿りつく。

道中、街道近辺はいつもの如く雑魚に分類される魔物しか出なかったが渓谷に近づくにつれて徐々に強い魔物が現れるようになった。また、よその個体と比べると少しばかり強い個体が目立つ。道も整備などはされては居ない為に単なる移動としてみれば過酷な道で会ったのは違いない。一応、帝国内であるにもかかわらず、未開の地と同じような雰囲気を持っている為か当然、村も存在せず、獣の類も此処では魔物に完全に押されているのかほぼ姿を見ることはない。

「ここに来るまでにも思ったけどなんか寂しい場所だね・・・」

渓谷入り口付近の少しばかり拓けた場所で荷を下ろしたエンリータがそう呟く。


現在、2人は山と山の間、戦闘で削られて出来た谷底に立っていた。水は流れていない為に歩行には問題なさそうではあるが砂利の上に大小さまざまな岩が点在しており、気を付けなければ戦闘時に思わぬ事故が起こりうるだろう。山の方は通常の山の様に木々が生い茂ってこそいるが奇形なものが多く、花や果実などと言ったものは傍目には確認することが出来ない。反対に目には見えなくなったが確かに濃い魔力の残滓が感じられ、人によっては息苦しさを感じてしまうかもしれない。


「そうだな、それだけ龍と言うのは生きていても死んでいても強い影響力を持つってことだ。邪龍もそうだが神の代弁者、ないしは大陸の管理者と言われるのも納得だな」

周囲を警戒する様に見渡しながらアーロンはエンリータの言葉に反応する。

「そうだね、流石、大陸1の宗教の信仰先だね。・・・そう言えば邪龍って言っても龍は龍なら私たちが倒しても文句とか言われないの?」

ふと思い当たったのかエンリータはそんな事をいう。

「あぁ、問題ない。龍神教の信仰対象はあくまで3聖龍だ」


3聖龍とは大陸で確認されている中で現在、最も力を持っている龍である。1頭はイナニスの巫女の後ろに居た天龍で文字通り天の守護者であり、支配者だ。後の2頭は海王龍と聖龍である。海王龍は文字通り海、ひいては水の支配者だ。所在地は不明だが西方にある荒れ果てた海域にある無人島に住んでいると言う逸話がある。他にも天の巫女と同じ様に海の巫女が繋がりを持っていると言う話だが真実は不明だ。聖龍は大陸中央に位置する、海ともつながる大きな汽水湖の中央にある龍島で眠っている。聖龍はすべての龍の頂点で正当なる神の代行者と言うのが一般常識だ。とはいっても普段人間側に接触することはなく、伝承によれば均衡を崩すものが現れた際に眠りから目覚めるとされる。


「へぇ、じゃぁ3聖龍に何もしなければって感じなのかな?」

「だろうな。最も龍をどうこう出来る奴に何が出来るのかは知らんがな」

少なくともエーベルトクラスの英雄が出張らなければ、いくら数を用意しようが意味がない。嵐や地震に人が抵抗できないのと同じである。


それから十分な休息を取った2人はアーロンが先頭でポイントマンをしながら進む。

邪龍の渓谷は人の手も入っていなければダンジョンのような場所でもない為に罠のような物は無く、何か居ればすなわち魔物である為に直ぐに対応できるアーロンが先頭に立つ。そこから多少離れた立ち位置で弓を持ったエンリータがより広く、目をこらす。

勿論、アーロンの古神の加護を全開にして進めば簡単だろうがそうすれば本命の前に体力も魔力もそこをついてしまう。そこから更に限界を超えてもいいが人の身では寿命を易々と削る行為に他ならない為に負担にならない程度の出力で進めることが肝要なのだ。

暫く先を進んでいたアーロンが早速後ろ手に右手を振って、後方のエンリータに合図を出す。

大岩に身を隠すアーロンの視線の先にはオーガやデュラハン、キマイラと言った名だたる魔物を筆頭に厄介な姿が点在して見えていた。彼ら同士で争ったような痕跡も多いが基本的には上位であるほどに他の魔物への関心は薄そうで以外にも殺伐とはしていない。只、それは魔物同士ならの話でアーロンンたちが不用意に飛び込めば徒党をなして襲い掛かってくるのは想像するに難しくない。

「・・・ねぇ、これどうするの?」

近くに寄って来たエンリータが小声でアーロンにそう尋ねる。

「・・・上手く分断できればいいが叫び声の1つでも上げられれば乱戦は避けられんな。おまけに顔ぶれもかなり手ごわい」

そう言ってアーロンは面倒くさそうな顔を浮かべてしまう。


先にあげたオーガ、デュラハン、キマイラなどはそれぞれが強力な魔物であり、滅多に人が多い所には現れない種でもある。理由は単純に強い魔物程、濃い魔力だまりに生まれる、というだけである。彼らはリーベタース連邦のダンジョンでも一定の深さになると突然数を増やし始め、侵入者である冒険者を拒むように襲い掛かってくる。ランクはそれぞれ5,5、6であり、それだけでも脅威度は分かるだろう。加えるならば砂漠で出合ったタイニーダイモンとの大きな違いはこの3種共に単独での強さでこのランク、という事だ。


オーガはマグバクスを更に大きしたような存在でその環境が特殊でなければ灰色の肉体を持って生まれる。全身には刺青のようなシンプルな文様が入っており、彼が激昂した際には赤く発光する。全身は筋骨隆々と言うべき見た目で、背も人間とは比べものにならないほどに高い。また、当然ながらその見た目に見合った怪力の持ち主だ。顔は人間と似通ってはいるが下顎がやや前に出ており、鋭い乱杭歯が見えている。反面、知能は高くなく、かなり本能寄りに行動するために多少は動きが分かりやすい。尤も只、腕を振れば家程の岩も砕き、蹴れば山も揺らすと言われるほどの怪力があるのならば知能など些末な事だろう。


デュラハンは首なしの馬に乗った首なし騎士で魔物ではあるが妖精に近い種である。ランク5の中ではかなり高水準な能力を持っており、かなり嫌がられる魔物でもある。持っている武器は様々だが基本的には長剣を持っている個体が大半だろうか、また、左手に持つ頭部は髑髏であり、馬の首や鎧の中から吹き上げる青い炎と同じ色の炎が揺らめいている。攻撃は騎士らしく、と言うべきか人間らしくと言うべきか分からないがはっきりと武術と呼べるレベルでの攻撃が特徴でそれに馬術が加わる。一騎当千という言葉がある様にこれだけでもかなり手ごわい。他にも魔術に対する耐性が非常に高く、その機動力と合わさって魔術師殺しの異名で呼ばれることも多々ある。左手にある髑髏は単なる弱点では無く、彼が放つ呪いの触媒であり、石化、即死、弱体等の状態異常を引き起こす。それぞれ直ぐに効果が出るわけではないが一定時間の経過とともにその効果がハッキリと現れてしまう。解除はデュラハンの討伐か高位の聖職者の解呪が必要だ。これだけならもう一つ上のランクでもおかしくないが明確な弱点があり、魔術への耐性は高いが水属性はかなりの割合でダメージを通すことが可能だ。他にも悪霊の類である為に聖職者の祈りによる消滅、高位の聖水による弱体化等、対策さえ取れればきちんと倒せることからこのランクだ。


そして1つランクの違うのがキマイラだ。幻獣である獅子の顔に螺子くれた角を持ち、背からは天使のような白い大羽根、両翼の間には褐色の肌と白い毛を持った山羊の首から上が生えている。尻尾には龍の様な鱗を持った蛇がぎょろぎょろと周囲を見渡す。これもまた巨体で、馬よりも体高や体長が遥かに大きい。そしてどんな場所でも身軽に、風の様に駆け、時には羽で空すらも飛ぶ。強靭な爪牙はその剛力と相まっていかな鋼も紙と変わらぬと評され、生半可な戦士では前に立つことすら許されない。知能も非常に高く、狡猾な性格をしており、獅子の口からは火を、山羊の口からは呪いを、蛇の口からは毒を吐き、数多くの対応を求められる。機動力の高さから外皮は柔らかいのではと思われがちだがそんなことは当然なく、魔力を大量に纏う外皮は強者であっても容易く通しはしない。特に弱点のような物もなく、高火力、高耐久、高速の3つに加え、幅広い手札が売りの魔物と言える。因みにギルドではパーティーであってもキマイラが倒せればかなり重宝され、名も他国に響かせることも出来るだろう。


そんな3匹がアーロンの強化された目で見える範囲に居るのだから普通の冒険者からすれば絶望としか言いようがない。それこそ全力で尻尾をまいて逃げても良く生きて帰ったと褒められるだろう。

だが今、ここにいるのはランク7で古神の加護を持つアーロンとそれに着いて来たランク4のホープであるエンリータだ。策を練りはすれども怯えることはしない。むしろ今のアーロンからすれば纏めて戦うと流石に面倒だから別々に闘いたいぐらいの気概である。実際、古神の加護が無く、乱戦ではないもののアーロンは既にソロでそれぞれの討伐経験があるのだから然もありなんと言った所だろうか。そうゆう意味ではエンリータが死に瀕しない事を第一に考えると言った具合だ。


「兎に角、手前のからおびき出してやるしかないだろう。仲間意識はないから戦闘音に寄ってくるまでに倒せばいい」

幸い左右は崖で、乱入されればすぐに分かる。後ろからも見晴らしが良いゆえに仕掛けられても直ぐに見える。ならば後は戦って進む以外ない。アーロンは少しばかり、加護の力に意識は引っ張られては居るものの己の意志で大岩から跳び出し、手前に居たオーガからつり上げに掛かった。

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