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アーロン  作者: ラー
四章

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一話

お待たせしました

「そうか、やはり古神の加護を得たか・・・では、汝も龍殺しにならねばな?」

「そうはならねぇだろ」

突然、ヘンドリーナに投げかけられた言葉に反射的にアーロンは返事をする。

「ふむ、だが今の汝にとってはちょうどいいと思うぞ?今なら動いたとしても全盛期の半分、いや、もっと弱っているだろうからな」

「それで「じゃぁ、倒しに行くか」とはならんだろうが」

現在、アーロンはヘンドリーナと以前から使用しているエテルニタス帝国の帝都、その墓所近くの教会で無茶振りをされそうになっていた。


アーロン達は本来ならば、まだ帝国に居る予定は当然ながら無かった。アーロンが立てた予定ではアウローラ王国にしばらく滞在して身体を休めながら船の上で話しかけてきたニィスと名乗った少年の話を胡散臭いとは思いながら聞きに行こうと思っていた。何より無視したらより面倒な事に巻き込まれてしまいそうな予感もあった為に取りあえず話だけでも聞いてみるかという気にはなっていた。しかし、それらの予定はアウローラに入国してから2日目、ギルドに居るメルクリオに挨拶がてら報告をしようと思って立ち寄った時の事だった。


「やぁ、久しぶりだね2人とも。元気そうで何より」

相も変わらず少しばかり胡散臭い表情を浮かべながらメルクリオは2人を歓迎してくれた。

「さて、2人にせっかく会えたし、色々話もしたいんだけどね、実は2人に手紙が来ていてね」

そう言いながら席に座ったアーロンにメルクリオは手紙を差し出す。

「俺たちに手紙?」

怪訝な表情を浮かべながらアーロンは手紙を受け取り、手紙をひっくりかえす。普通、国に所属していない冒険者等、住所不特定の浮浪者と変わらない。そんな奴に手紙を出しても届くのがいつになるか分からないのだから出す物好きはそうはいない。

「おまけに封筒まで付いているのはそうはねぇ。誰からだ?」

アーロンの記憶には封筒付きの手紙を送る知り合いは身に覚えがない。


手紙は貴族の様な金に余裕のある人間や商人の様な人々が主に使う。庶民は生まれた土地から簡単には離れないし旅をするような冒険者は手紙を出す必要性がほぼない。そもそも庶民以下は文字の読み書きが出来る人が極端に少ないと言う事も関係しているだろう。アーロンは上位の冒険者故に読み書きは出来るが下位の冒険者は任務で使うような簡単な読み書き以外は出来ない人も多いだろう。ましてや手紙と言えば封筒は使わずに3枚折りで最後に上下に折ったものに封蝋をするのが一般的だ。封筒を使うのは相当高位の人間か物好きくらいだろう。


「あぁ、それならヘンドリーナ様からだよ」

メルクリオはアーロンの疑問に簡素に答える。

「ヘンドリーナから?・・・何か聞いているか?」

ギルドを通してだがヘンドリーナにはきちんと報告を欠かすことなくしている為に特に要件が思い当たらない。

「そこまでは僕も知らないけど重要なものらしいからさ、確認してくれるかな?」

そういって机の端に置かれていたペーパーナイフをメルクリオは手渡してくる。


開いた封筒の中味をアーロンはじっくりと読み、1つため息を吐く。

「ねぇねぇ、なんて書いてあったの?」

アーロンが手紙を読んでいる間、メルクリオと会話をしていたエンリータが読み終わったのを察してか話しかけてくる。

「そうだな、簡単に言えば「一回、帝国まで帰ってこい」だな。それも急いでだ」

「え、今すぐに?」

「あぁ、今直ぐに、だ」

うへぇ~、ガックシ来たのだろうエンリータが机の上に溶ける。尤もアーロンもその気持ちは分からないでもない為に咎めるような事はしない。


手紙の内容は簡潔に言えば先の通りだが正確な事を言えば「強くなったのだろう、ならば頼みたい事があるので至急エテルニタス帝国に来い」といった所だろうか。恐らくリーベタース連邦のギルドからの航路による船便でアーロンが何をしているかを察したのだろうこの依頼人はアーロン達が生きて帰るのを見越してこの手紙を届けたに違いない。


「・・・因みに猶予はあるのか?」

何となく嫌な予感と共にメルクリオにそう問いかける。

「うーん、僕としては休んでくれてもいいけど2人がアウローラに入った事は昨日の時点で報告済みだからあまり空かない方が良いんじゃないかな」

「だろうな、はぁ・・・」

思わず背もたれに体重をかけて天を仰ぐ。


そうして、激戦からの休暇はアウローラに着いた日を含め、僅か2日で終わった。せめてもの反抗として、出発の日はやや遅い時間からの帰還になった。そして先の会話に戻るのである。


「そうか?ここで弱体済みとはいえ、龍を殺しておけば汝の魂は研かれ、より高みも目指せる。おまけに神器も確保できると良いことだらけではないか」

「グ、それはそうだがなぁ・・・」

「はぁ、男が龍の形をしたゾンビ程度に恐れるでない。あぁ、そうだこれも依頼という事にしよう」

「・・・分かった、だが少し時間をくれ」

「良かろう、では吉報を待つ」


結局、ヘンドリーナに押し負けたアーロンは渋々龍討伐を受ける。勿論、アーロンとてこの依頼は今の自分にとっても悪くない話であることは分かっている。


アーロンが新たに得た古神の加護は確かに強力ではあるが強力であるが故に使いどころを見極める必要がある。少なくとも雑魚に対して加護の能力をフルに使うような真似をすればアーロン自体の過剰な消耗を筆頭に、周囲の破壊、巻き添えなども考えられる。そもそも魔力を手足の様に使えるようになったことによる身体能力の強化で大抵のものは事足りてしまう。となれば能力をフルに扱えるとなれば確かに龍と言うのは選択に入るだろう。その上、邪龍で弱体化されていると言うのであれば今のアーロンにとってはぴったりの相手であると言えよう。おまけに竜殺しは明確に箔が付く。面倒ごとを含めても様々な部分で融通が利く様になるだろう。そう言ったことも考えて、それでも巫女の時に出会った龍が頭をちらつき渋々、と言った感じで依頼を受けることにしたのである。


「はぁ、今度は龍退治か・・・この依頼、受けてから碌な目に遭わんな」

教会の外、燦々と降り注ぐ日光を浴びながらアーロンは諦めを目に宿す。

「アハハ、なんか英雄譚じみてきたね!次は姫様の奪還とかになるんじゃない?」

龍退治が決定して自身が一番、死に近いだろうにエンリータは呑気に笑いながらアーロンの背を叩く。

「いや、お前もよく笑えるな?下手しなくても今度こそ死ぬかも知れんぞ」

呆れた顔を向けるもエンリータは意に介した雰囲気もなく、むしろ可笑しいとでも言いたげに笑う。

「アッハッハッハッハ!!いや、もうアーロンと会ってから大変なことだらけで慣れちゃった!だから気にせず冒険しようってワタシはもう決めてる!アーロンは違うの?」

そう言われてしまえば『冒険者』を名乗るアーロンとしては反論しがたい。安寧を捨てて、未知へと飛び込む、それが怖いなら冒険者とはとても言えない。

「はぁ、お前に諭されるとは俺も耄碌したか・・・そうだな、気軽に、とは言えんが臆さず、命をかけて、好きなように生き、誰に看取られる事なく骸を晒す。それが俺たちの生き方か」

吹っ切れた、そう言うにはあまりにも前のめりに過ぎるがアーロンは心の中でこの依頼に対するケリを付ける。

「それはそれとしてあの女、一回ぐらいは頭、はたいてやる」


そして、アウローラで取ることが出来なかった休暇をエテルニタスで取ることにした。尤もアーロン自体はそこまで疲労は溜まっていない為に問題ないがエンリータはこれでも移動続けで疲れはさぞ溜まっているだろう。次いで、アーロンの武具が鍛冶屋に預けなければならないほどに摩耗していることも理由だった。こまめにメンテナンスこそしているがそれでも前回の戦いで傷が増え、場所によっては刃こぼれが出来てしまっている。これでは全力を出した際に折れる可能性が僅かとはいえある為に必要な事だ。幸いにもヘンドリーナにこのことを相談した結果、金と素材を恵んでもらえたために後は時間だけだ。因みに防具はもはや素の身体能力と回復で賄えるために機動性を重視してあえて着けないことにした。しいて言うならば状態異常への対処のために新たにアミュレットやアクセサリーのような物で新しくカバーする必要があるくらいだろう。


(武器はまだ耐えてくれているがそのうち考える必要があるな)

長年、アーロンを支えてくれた武器である為に別れる選択はしたくはないが場合によっては必要にかられることもあるやも知れない。ただ、邪龍程度までならアーロンのグレートソードと同じ等級であっても討伐記録がある為に問題はそうそうないだろうが。むしろ今回の刃こぼれが異常なのである。


そんな事を考えながらアーロンは今、エテルニタスの墓所に向かっていた。ヘンドリーナの居る教会近くでは無く、その反対、スラムの方にある墓所だ。

現在、アーロンは1人で修理に出したグレートソードはなく、腰にファルシオンを佩き、左手には柄にもなく花束を持っていた。

「ここに来るのも久しぶりだな」

そう言いながらアーロンは墓所へと踏み入る。尤も、この墓所はスラムにあるだけあって特に個人個人の墓石がある様なものではない。また、スラムでも特に端にあり、適当な柵で囲い、取って付けた様な入り口があるだけだ。一応、帝国が管理している為に、墓守は居るがどう見ても閑職であることは事実なためにやる気は薄そうだ。


アーロンは墓守に適当に挨拶をして、返事を待つこともなく奥にズカズカと踏み入る。奥には1つの大きな石碑があり、龍神教の文句が書かれているのみでどこか物悲しく感じるかもしれない。近くには花束が無作為に置かれており、アーロン以外にもわざわざ花を持ってくる人がいるらしい。尤も、そこら辺に生えている花が大抵だが。

アーロンは周囲を軽く見渡した後に静かに花を石碑前に置くとその風貌に似合わず静かに指を組み祈る。


この墓所は大抵がスラムで死んだ人間や引き取り手の居ない、或いは身元不明の死体が処理される。とはいっても大抵は別の場所でまとめて燃やされ、骨もそのまま捨てられるために墓所と言うよりは生きていいる人の心の拠り所のような意味合いしかない場所だった。


アーロンがここに来たのは気まぐれもあるが自身が冒険者として1つ上に登る兆しが見えたことを子供の頃に世話になった人たちに何となく報告に来たのである。

そして僅かな祈りの後、アーロンはここに来た時の様に何1つ、気負った様子もなく軽い足取りで墓所を出て行った。


「あ、お帰り、アーロン」

夕方、自身と同じように休暇を過ごしていたエンリータが宿の部屋でボウッとしていた。近くに彼女の弓や防具が見当たらない辺り、鍛冶屋にはしっかりと行っていたようでアーロンは彼女の成長を感じると共に少し安堵する。

「あぁ、帰った。飯はもう食ったのか?」

「ううん、アーロンが帰ってきたら一緒に行こうかなって!」

「そうか、ならもう行くか。せっかくの打ち上げも出来ていないからな」

そう言うと武器も放って、身軽な格好で廊下に背を翻す。

「賛成!」

足音まで楽し気なエンリータの音を聞きながらアーロンは沈みゆく帝都へと繰り出していくのだった。

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