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アーロン  作者: ラー
三章

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十四話

(ハァハァ・・・あまり長くは持たなさそうだな)

アーロンは再度グレートソードを構えながら立ち上がる敵を見つめる。

現状、アーロンが優勢に見えはするがその実、差はあまりない。

(チッ・・・頭に声が響く、おまけに今にも意識が持ってかれそうだ)


殻が破れ新たな器を構築した後、そこには今まで溜まっていたものと新たに注がれたものが当然ある。そして今、それらが混ざり合い、体の優先権を奪い合っているのだ。今まで溜まっていた分はこれまでのアーロンの魂に沁みついた経験や感情、加護と言ったものでアーロンをアーロンとして定めるものである。そこに注がれたのは単純に言えば新しい神の加護である。そう、今、アーロンが立っている場所は祭壇であり、そこに祀られた神の試練をその身に受けているのだ。


この地に眠るのは荒神の1柱、アーロン本人は知る由もないが暴を司る古神、既に名を知られなくなって久しい神でもある。そしてこの神は暴を司るだけあって戦いも好きだ。つまるところ現在のアーロンは祭壇で戦闘と言う神事を行っている、ということである。因みに戦っている敵は嘗ての信者の成れの果てであり、この試練に負けた者や暴の神威に精神を乗っ取られた者の集合体である。


「■■■■■■■■!!」


立ち上がった敵が歓喜と嫉妬が混じったような叫びをあげる。すると上部の明かりが一瞬で全て消え、直後に見事な月夜が天井に現れる。先程まで鬱屈な雰囲気など無く、柔らかな月明りが空間に降り注ぐ。

(なんだ・・・?これは、全身が軽く?)

降り注がれる月明りは傷ついたアーロンの身体を少しずつ癒し、体力を戻す。しかしそれはアーロンだけではない。

(!やはり、あいつもこの恩恵は受けるか!)

それを見るやアーロンは全身に力を漲らせ、頭に呼びかける荒神の声を振り切る様に敵へ駆けていく。


そこからはまるで嵐が顕現したかのようだった。敵が吠えれば空間に無数の雷が降り注ぎ、アーロンがグレートソードを振り抜けば風が吹き荒れ、地が割れる。そしてそれらを縫うように死の爪が振り乱され、互いに空間ごとすべてを喰らおうとするかのようだった。当然、全身に無数の傷を付けながらも両者の身体は絶え間なく降り注ぐ月明りに寄って癒され、明らかな致命傷も無視して互いを喰らいあう。しかし、この終わりの見えない戦闘にアーロンは少しずつ焦りが混じり始める。


(このままだと流石に俺の精神が先に壊れる・・・そうでなくとも体力勝負は分が悪い)


傷は治っているが疲労は蓄積している。それに追従する様に自身の精神力がゴリゴリと削られているのを感じる。このままでは間違いなく倒しきるよりもアーロンが彼らの仲間になる方が速いだろう。


(後、3つか・・・あまりにも遠い)


敵の胸は現在9つの赤玉が光っている。今までに当たった数ならば当然削りきれているのだが月明りによって残り3つを残して急速に回復してしまう。それに付け加えて残り3つからは一撃与えればいいのではなく一定以上のダメージで消える仕様になっているようで異常なほどの硬さを感じさせる。少なくとも現状のアーロンの出力では削り切る前に敵のカウンターと合わせて回復が間に合ってしまう。


負けはしないが勝ち筋がない、事実上の敗北に近しい現状にアーロンは歯噛みせざるを得ない。勿論、魔術の行使も考えたが詠唱の時間をとるのは難しく、また、攻撃系統はアーロンの素質的にも効果が薄くグレートソードの一撃にそもそも勝る点が現状何もない。では、今までの切り札である強化魔術も考えたがこの状態で更に理性を無くすのはアーロンの直感が絶対にやめておけと危険信号を出していた。


(残った手札で出来ることは・・・結局これか)


アーロンに残された手札、それは今、与えられているこの謎の力、本人は知らないが神の加護を更に引きだす、という事だった。


一旦、強く当たる事であえて互いに距離を取る。地面の上を滑りながら十分に距離が空いたうえでアーロンは一息入れ、目を瞑る。


(よこせ、俺が使ってやる。だから力をよこせ)


戦闘中、ずっと頭に響く声に初めて声を返す。アーロンはこの戦いの中で一つ仮説を立てた。


本来ならばアーロンは既にミンチにでもなっていなければおかしいのだ。それにも関わらずどこからか都合よく力が湧き、体を慣らすような初戦から限界を超えることを要求させるような変化、そして今尚、精神を蝕まんとするこの声こそが本命なのではないのかと。討ち果たすのはおまけで力を使いこなす事こそ肝要、そう考えたのだ。


故に、アーロンは危険を冒してでも声と精神の安定、いや一体化、もしくは融合とでも言えばいいか、その作業に意識を向けた。

瞬間、ドクンと心臓の音が耳まで届く。同時にまるで歓喜するような、嘲笑うような感情と共にアーロンの中の力が膨れ上がるのを感じる。しかし、それは侵食されていると形容するのがふさわしい。


「グ、グガ、グォォ、オオオオオオ!!」


自身の精神を冒され、アーロンは苦悶の声をあげる。当然その隙を見逃すはずもなく敵はグングンと迫り、攻撃を仕掛けてくる。


「ウォォォォ!!」


反射的に、溢れる力に導かれる様にアーロンはグレートソードを力任せに振るう。そこにはいつもの技術は見えず、単なる暴力へと墜ちるが何倍、何十倍の力を溢れさせる加護が暴力を嵐に変貌させる。そのお蔭か今まで以上に苛烈な攻撃がアーロンを襲うが一切力負けすることなくすべてを弾き、そのまま追撃を仕掛ける程である。


一見すれば有利ではあるがかなりの速度でアーロンは意識を失いかけていた。目は既に白く、理性を写しておらず、口端からは唾液が溢れている。あと少しでアーロンは暴戦士へと墜ちてしまうだろう。


(ク、意識が保てない・・・このままだと)


僅かに残った意識で必死に自身の身体を繋ぎ止める。異物に自身のすべてを蝕まれる感触に必死に抗う。


(■■■■■)


頭の中に濁流の様な声の流れ、勝手に動かされる体、消えていく自意識、アーロンは侵食する加護、その勢いに遂に流されてしまう。



どれほど時間が流れただろう。真っ暗闇の中、水中で漂うような感覚の中、アーロンは静かに目を開ける。


(・・・俺は一体・・・此処はどこだ・・・)


微睡の中、声が聞こえる。


「・・・、・・・・・。・・・・・」


(なんだ・・・?良く聞こえない・・・)


何かが自身を呼んでいるような気がするが意識を向けられない。

さらに深く微睡んでいく。そしてその中、思い出すのは自身の過去だった。


(あぁ、そんなこともあった・・・)


良いことだらけではないが自身の力で切り開いた道と栄光、その数々が脳裏をよぎっていく。

そして、最後には最近の記憶が流れる。一人が多かったアーロンの冒険者生活の中でもっとも喧しく、想像だにしなかった苦難が多くも、まだ幼い仲間と見知らぬ冒険へ身を躍らせた日々。


(そうだ、寝ている場合ではない!俺にはまだやるべきことがある!)


意識を覚醒させ、泥中に沈む感覚を撥ね退け、アーロンは闇の中を必死にもがく。


(こんなところで俺の人生が、冒険が知らない何かに奪われていいはずがない!返せ、俺の身体を!)


胸の底から湧き上がるのは自身を冒すものへの怒りだった。アーロンは憤怒の表情を浮かばせ、上に向かって行く。そして自身を取り込もうとする闇が蒸発する程の怒りの熱は遂にアーロンの意識を完全に現実世界へと引き戻した。


「ウォォォォォォォ!!」


覚醒と共に自身の前に迫った敵の爪を確かな技術を持って弾き、その勢いのまま敵を遠くへと切りとばす。


「フゥ、さて、最終戦後半と行こうじゃねぇか」


完全に力を支配下に置いたアーロンは左目を赤黒く輝かせ、敵を見ながら獰猛に笑った。




「ハァァァァ!!」


振るう、振るう、振るう。ここまでの戦いが何だったのかと思うほどにアーロンは敵の攻撃をものともせず、接近しては無数の剣閃を相手に叩き込み続ける。一切の隙間すらないほどの剣戟の嵐、ひとたび触れれば一切の反撃すらも許さないとばかりに敵を切り刻む。加えて、剣先がぶれる程の速度にも拘らず、身の丈程の大剣ゆえの重さが合わさり、更にアーロンの長年の剣技で振るわれるのならばそれはあまりに無慈悲な蹂躙劇だった。


敵は爪を伸ばしても砕かれ、雷を出そうとも流水の様に避けられ、まだ隠し玉が有ったのか光線をいくつも打ち出すがいずれも効果はなく、悪あがきを続けるだけだった。


そうして遂に残り1つ、それすらもうっすらと灯り始め、もう一息で殺せる、アーロンがそう判断し、とどめを刺すために最後の一撃を打ち込んだ時だった。力尽きたのか後ろに後ずさり、よろけた敵は最後に天に吠えた。


(なんだ・・・?これで終わりのはずだが、この悪寒は一体?)


胸に円形の光をすべて灯し、うなだれる姿はとてもここから何かある様には見えない。しかし、アーロンの直感と研ぎ澄まされた感覚は悪あがきではない何かがまだあると告げていた。


直後、敵の身体がぶれて消える。消滅では無く、まぎれもなく動いた。先程まで立っていた場所で土煙が遅れて上がるのがその証明だ。

アーロンは瞠目するとともに湧きだす力を全身に漲らせ、極限まで鋭敏化された感覚のまま身構えようとする。しかし、それよりも速く、消えた敵が地を滑る様な姿勢のままに目と鼻の先に突然現れ、腕を振り抜く。


それは今までの爪を利用した攻撃と酷似してはいるが全くの別物だった。闇を煮詰めた様な黒さをしている敵よりもはっきりと黒い斬撃、それがアーロンを切断する様に下から月まで届くような軌跡を作る。あまりに濃密な死の気配、それこそ今のアーロンであっても直撃すれば一切の抵抗も許さず魂ごと死んでしまいそうだと感じた。


「!」


悲鳴も悪態もつく暇など無く、アーロンは直感のままに捌くでも弾くでもなく後ろに飛び退く。何時いかなる時でも頼りにしてきた自慢の一品だが手に握るグレートソードではこの攻撃は受けられない、そう思わされた。


当然、敵の攻撃は止まない、一撃を放つとともに直ぐにその姿を消し、アーロンの後ろから今度は横薙ぎに攻撃を振る。正面にはまだ敵の攻撃が残っている為に後ろに流れている身体を無理やりに前に倒し、ステップダッシュで斜めに逃げる。しかし、それも読んでいた、というよりは圧倒的な速度に物を言わせてアーロンの正面に先に回った敵が再び腕を振り、再び急激な方向転換を強いられる。


そうして、敵は空間すらも塗りつぶすかのように斬撃を振り乱し、遂にはアーロンの動きを止め、とどめの一撃を空間一杯に吹き荒れる風の様に何重もの不規則な複数の斬撃を咆哮と共に繰り出し、空間は黒に塗りつぶされた。



永遠に思えた一瞬の静寂と闇の中、自身の攻撃の外側で胸に12の明かりを点滅させながら獣は勝利の雄叫びを上げた。今の一連の攻撃はいわゆる彼の奥の手であり、即死の概念が宿った攻撃だった。自身よりも高位の存在ならばいざ知らず、ここに挑む者にとっては抵抗できるはずもない攻撃。勝利を確信した彼は狂気に染まった思考であってもその味に酔いしれる。いや、暴の化身ともいえるのだから暴れつくしたのならば満足げにするのも当然とも言えたかもしれない。


そんな時だった。自身の背後、空間ごと塗りつぶした確殺の檻の中からピシリ、と罅が入る様な音がなった。それは徐々に大きくなり、遂には大きな亀裂を生み、割れる。

そして、そこから1つの黒が跳び出す。全身を赤黒い魔力の渦に繭の様に包まれ、真っ黒で亀の甲羅のような赤いラインの入ったグレートソードを持ったアーロンだった。


「ウォォォォォォォ!!」


死の檻から跳び出したアーロンは直ぐに敵を見つけると魔力を放出して宙を飛び、流星の如く迫る。よく見れば全身は傷だらけで着込んでいた防具は再び無残にも壊れきってしまったようだ。当然衣服ももはや本来の役目を果たせてはいない。

そして、流星となったアーロンは硬直する敵に向かって変化したグレートソードを力の限り振り抜いた。


「-------」


敵はもはや悲鳴の1つも上げることなく今度はしっかりとその胴体を2つに切りとばされ、宙に溶ける様にして消えていく。そうして立場が変わり再び、空間には静寂が訪れたのだった。

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