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アーロン  作者: ラー
三章

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十三話

(形が変わった?だが弱体、という事はないだろう・・・どうするべきか?)

一切の視線をずらすこともせずにアーロンは思考をまわす。敵も同様に直立したまま観察でもするかのようにこちらを見つめてきているが真意は掴めそうにもない。


それほど長くはない睨みあい、先に均衡を破ったのはやはり相手からだった。少しばかり身を屈め、前傾姿勢からの突進、しかしその速度は今までと段違いだ。風よりも速く、砲弾を思わせるような黒い流星が一直線に迫る。

(速い!避けられるか!?)

油断していたわけでは無い。しかし、予想をはるかに上回る速さにアーロンは半歩遅れてしまう。それはこの状況では致命的ともいえた。

突っ込んできた敵はアーロンよりも遥かに手前、長槍を目一杯伸ばしても届かないような位置で右手を振りかぶり、体を半回転する様にして爪を振るう。

(・・・なんだ?いや、これは!?)

相手が不自然な動きをしたおかげでギリギリ回避が間に合ったと思ったアーロンはその後、敵の真意を目にする。


体を半回転しながら振るわれた右腕からは爪が異常なほどに肥大化し、射程距離を伸ばす。それは日差しによって伸びる影の様で凄まじい速度で持ってアーロンに迫る。


「う、ウォォォォォ!!」

思わず雄たけびを上げながらグレートソードをぶつけ、その勢いで持って攻撃から更に身を離す。手に伝わる感触はかなり大物の武器を力いっぱいぶつけられた様な痺れを伝える。見た目に反してかなりの威力があるようでひとたび受けてしまえばアーロンの身体も容易く切断されてしまうだろう。実際、ほぼ傷つくことのないグレートソードの表面に僅かながら削れたような跡が残っている。

それに驚愕している間にも敵は追尾してきており、先程と同じようにその爪を振るう。

(くっ、これでは近づけもしない!!おまけに残るのか!)

敵の伸ばされた爪の攻撃は一定時間その場に残留する様でまだ触れてはいないが触れれば碌な事にはならないだろう。


敵は変わらず、こちらを両断せんと爪を振るう。時にはアーロンを中心に円を描く様にして回り込み、宙に残る爪痕へ追い込むように攻撃を重ねる。

(また、ジリ貧か!)

内心、悪態をつく。しかし自身よりも圧倒的に速く、力が強く、中距離から圧倒的な手数で攻撃されてはどうしようもないのも事実だった。

敵は相も変わらず猟でもするかのように罠に引っ掛かったアーロンをじわりじわりと確実に追い込むべく爪を伸ばす。そうして遂にアーロンは爪の壁に押し込められてしまう。

(不味い!)

周囲の爪痕たちを確認するも抜け穴が無い。唯一の抜け道は今まさに爪を振るおうとする敵が直接塞いでいる。アーロンの脳裏に死が過る、しかし同時に生への渇望が身を焦がすほどに湧き出て、それは怒りにも似た熱を持って噴き出す。

「ウォォォォォォォ!!」

全身をバネの様に弾ませ、迫りくる爪の上を跳ぶ。鍛えられた肉体はアーロンの激情に応えるかのようにその性能を遺憾なく発揮した。そして爪を飛び越えて、更に伸びた爪の側面、刀で言えば身幅の部分を蹴りだし、攻撃直後の敵を目掛けて駆け出す。

「ハァァァァ!!」

漸く掴んだ攻撃の機会、アーロンは待望の思いでグレートソードを力いっぱい振り下ろす。


バキンという鋼鉄を叩いたような音が両者の間に発生し、ギギギと鉄を引っ掻くような音と共に敵はアーロンの一撃を受けて後退する。傍目には特に傷のような物は見られないがアーロンの手には確かな手ごたえがあり、そして敵の胸の赤玉が1つ灯る。


「フッー!フッー!」

アーロンは普段の切り札である強化の魔術を使っていないにも関わらず、全身から蒸気を上げ、歯を剥き出しに威嚇じみた声を漏らす。血が全身を駆け巡り、心臓が胸を叩く。燃える程に熱い体は今にも噴火しそうな山を連想させる。その反面、アーロンの脳はいつもよりも冷静に、そして鮮明に回っている。

(理由は分からないが、殻が破けるような感覚がある・・・これが巫女の言っていた事か?)


現在のアーロンは特殊な環境で戦う事でその身、更に言うのであれば魂に負荷をかけることで自身の性能を上げている状態だ。本来は人それぞれに限界があり、それを越すことはない。しかしこの特殊な環境で特殊な相手と戦う事で魂の器を、自身の内なる意志の発露、いわば渇望や希望、絶望などの強い感情で持って壊し、再構築していくことで本来の限界を大きく超えることが可能となる。勿論、魂に変化を起こすものだ、本人の気質やあり方を大きく変える可能性は高く、大概は死を持って終わる為に危険極まりない。当然、今のアーロンも完全に覚醒したのではなく器を壊し始めただけであり、それで内なる物が溢れているだけに過ぎない。


「理由は分からんがこれで勝機も見えた、行くぞ」

肩に背負いなおしたグレートソードを両手で確りと掴むとアーロンは再び特攻を仕掛ける。傍目には恐れ知らずの大馬鹿者そのものだが今のアーロンにおいては確かな手段である。それを見た敵は変わらず身体を半回転させながら交互に爪を伸ばす。しかし、ただ伸ばされる爪はいくら速くともアーロンに届くことはない。


正面から伸びる爪をアーロンは直感に従い、右斜め、ギリギリの角度で躱す。そして速度を上げてさらに前へ踏み込めば今さっきまで体が有った場所へと残像の爪を破って新たな爪が伸びて来る。そうしてあと一歩の所で斜め下から掬い上げる様に3撃目がアーロンの身体を狙う。


「ウォォォォォォォ!!」

それに対してアーロンは避けるのではなく、グレートソードを振り下ろし、正面からぶつければ甲高い衝突音が響く。しかし敵も流石と言うべきだろう、その爪は正面からぶつかろうとも一切傷つくことなく、威力を減算しただけで変わらずグレートソードごと押し込みアーロンの身を削ろうと迫る。

「ハァァァ!」

内心、折れれば儲けものとは思ってはいたが、自身が変化していてもまだ力負けしてしまうのは予想出来ていた。それゆえに今度は持ち上げられる力の流れに乗ってアーロンは敵と自身の間を分けている最初の爪の幻影を飛び越す。

下を見ればしっかりとこちらを視認したままの敵が空中のアーロンを追撃するために既に攻撃のモーションに入っている。そして重力に従って落ちていくアーロンに向けて爪が放たれるがそれに沿う様にアーロンはグレートソードをなぞらせて滑り落ちる。

ギャリギャリと不快な金属音を奏でながらアーロンは攻撃後の硬直で固まる敵に目掛けて吸い込まれる様に一撃を加えた。

「これで半分か・・・?さて、何が出て来るか・・・」

振り抜き、猛ダッシュで一度距離を置き、敵を見据える。敵は胸に6つの赤玉を光らせ、切られた姿勢のまま天に吠える様にして固まっている。上空の明かりはそろそろ4分の3が消えてしまいそうだった。

(このままなら明かりが消えるまでに間に合うだろうが・・・そう、上手くはいかんだろうな)

一切の油断なく、武器を構えたまま冷静に思考を回していく。少なくとも後6回は攻撃を加えなければ敵が止まることはないだろう。そして、あれだけ分かりやすいい表示があるのならば上空の明かりはタイムリミットだとアーロンは考えている。


そうして思考が落ち着いた時だった。先程まで固まっていた敵が糸の切れた人形の様にだらんと身体を前に倒す。鬣もどこか萎びれたようにも見える。力尽きた、そう見えなくもないがアーロンは背に氷でも入れられたかのように背筋が寒くなり、全身から冷や汗が流れ、目を見開く。何故ならば敵の気配が比べものにならないほどに膨れ上がったからだ。能力が上がっている今だからこそ更に分かってしまう濃い気配はアーロンの胆を冷やすにはあまりにも十分だった。そして敵は遂に垂らした身体を仰向けにそり、吠える。


「■■■■■■■■■!!!!」


姿は変わらないのに明確に違う生物に生まれ直した闇の姿がそこにはあった。




「■■■■■■!!」

初動は敵からだった。まるで氷の上を滑る様にして前傾姿勢のまま影すらも置き去りにこちらに迫ってくる。

「クッ!?」

今までとは桁の違う速度にアーロンは面食らうが地面を蹴りだし、兎に角横に跳ぶ。しかし、それがまるで分かっていたかの様に敵は急停止するとすぐに向きを変え、今までの敵の攻撃範囲では無くアーロンの領域に飛び込んでくる。そして敵は再び腕を広げると天に向かって吠える。

「■■■■■■■!!」

その瞬間、敵の身体から円形の膜のような物が身体を包んだかと思うと空間の半分ほどだろうか上部から青い雷が雨の様に降り注ぐ。

「ガッ!?」

逃げる幅もなく、そもそも雷よりも速く動くことなど不可能である時点でアーロンに為す術はなかった。遂に直撃と言っていいほどの一撃をその身に受けてしまう。幸いにも普通の雷とは違い、魔力に寄って作られたものである為かそれともばら撒く形の攻撃だったお蔭か一瞬で感電死や焼死することはなかった。しかし全身を雷が貫いたことは事実であり、少なくないダメージと激痛がアーロンを襲う。


「■■■」

しかし、動きが鈍ったアーロンを敵が待ってくれるはずもなく、遂には手が届く場所にまで踏み込んだ敵は手を広げたままにアーロンを間に入れる様にして腕を伸ばす。すると腕の間から赤い三日月がせり出してくる。

「チッ!!」

まだ痺れる全身を無理やりに動かしながらアーロンはグレートソードを何とか盾にする様に自身の前に翳す。そうして接触すると同時に凄まじい金切音をあげながらアーロンはグレートソードごと弾かれるようにして後ろへと飛ばされてしまう。

そして宙に浮き、自由に動けなくなったアーロンはその眼で見てしまう。敵が身体を半回転させながら自身に向かってその爪を伸ばす姿を。

爪は今までとは比べものにならないほどの速度で幾重にも振られ、傍目に見たならば大輪の花が咲く様にアーロンに向かって伸ばされる。

(クッ!どうする?どうすれば生き延びられる!?)

走馬燈か、それとも先程から続く集中の為かゆっくりと自身に迫ってくる死の爪が良く見える。隙間など到底なく、グレートソードを振りまわしても捌ききれるようには思えない。間違いなくアーロンの身体が解体される方が速いだろう。

(いや、諦めるわけにはいかない・・・まだ、俺は死ねん!!)

絶望に膝をつきそうになるがアーロンは全身に力を入れて身を震わす。

(思い出せ、さっきはどうやった?)

爪の幻影に囲まれてそこから抜け出した時の事を思い出す。ここに来てからいつもよりも体は動いているがあの時が一番自由に動いた。

(胸の奥、体の中心から力を汲み上げる・・・いや、爆発させるように、溢れさせるように)

死を目前にしながら極限に引き伸ばされた意識の中でアーロンは自身の力を引き出そうともがく。

(そう、あの時も同じ、絶望に、死に抗う力が!)

目を閉じる。自身の内に潜る様に意識を深く、深く、沈める。

そうして、遂に敵の爪が鼻の先まで届いた時、アーロンの身体の奥から力が爆発した。


轟音、たとえ敵の爪が硬かろうと人体から鳴っていいはずがない音が連続して空間に木霊する。そして、当然の如く攻撃されたアーロンはその勢いのまま遠くに投げ出される。

地面を擦る音を最後に空間には一時の静寂が訪れ、傍から見たのならば終わったと誰もが思う光景の中、漆黒の敵は未だ警戒の色を見せていた。


「――――」

静かな空間であっても聞き逃してしまいそうな音がした瞬間だった。倒れていたアーロンの身体から膨大な魔力がうねりを上げて吹き荒れる。

「チッ・・・存外難しいな、だが悪くない気分だ」

倒れた状態から重力を感じさせない挙動でアーロンの身体が持ち上がり、地面に足で立つ。

アーロンの姿は敵の直撃を受けたのにも関わらず傷のようなものは見当たらず、流血の1つもない。そして吹き荒れた魔力の奔流はアーロンに付き従う様にして身体に纏われ、何よりも彼の左目は顕著に色が変わっていた。まるで太陽が反転したかのような漆黒の瞳孔に血よりも濃い深紅の虹彩、そして左目を覆う様にして魔力の炎が揺らいでいる。さらに全身は先程よりも更に蒸気をあげ、その熱によって奥の空間が揺らいでいる。

「まぁいい・・・反撃開始だ」

肩にグレートソードを背負い直し、アーロンは自身をジッと見つめる敵を見据える。


ダンッという地面を叩く音が響く。同時に突風でも吹いたかと思うほどの砂埃を巻き上げながらアーロンは異常な速度で敵に真っすぐ駆けていく。大量の魔力の波を撒き散らしながら進む姿は流星と言うよりは隕石の様で凄まじい破壊力を伴って接近していく。

しかし敵も強敵、この突進に恐れることなく、自慢の爪を構え、振り抜く。

先程よりもはっきりと数が多く、より濃くなった爪は再び放射状に死を告げる花の様に狂い咲く。


「そいつはもう見飽きたぞ!」

アーロンは迫りくる爪に対して肩にかけていたグレートソードを力のままに振り下ろす。すると大物にも関らず、その軌跡すら追えぬほどの速度で振られた一撃は空間を割ったような音と共に爪をガラスの様に砕き、勢いのままに地面すらもへこませた。


「もらうぞ」

ぼそりと聞かせるわけでもなく呟くと砕け散る爪の奥にいる敵に向かってアーロンは一瞬で近寄り、力の限りグレートソードを横薙ぎにする。

振られたグレートソードは主人の意を汲んだかのように風のうねりをあげて敵に直撃し、切り裂きながら遠くの壁まで吹き飛ばす。


敵の胸の赤玉は2つ灯り、8つ光る。盤面は最終局面を迎えた。

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