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アーロン  作者: ラー
三章

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十二話

「ここが最奥か」

周囲を見渡しながらアーロンはそう口にする。


現在、2人は滝が流れる飛び石エリアを抜けた先にある小さな横穴の中にいた。横穴は左程大きくなく、アーロンの背丈でギリギリ頭を擦らないほどの高さとファルシオンでも振りまわしたら壁に当たってしまうだろうと言う横幅しかない。奥行きも数歩圏内であり、特に目立つようなものは見当たらなかった。

「こんな所になにかあるの?特に見当たらないけど・・・?」

エンリータが壁を触りながらそう問いかけて来る。

「さぁな・・・俺にも検討はつかん」

そうぶっきらぼうに返す。実際の所、アーロンもここを目指すように言われただけで何が正解なのか分かっていないのが現状だった。

「兎に角、場所はあっているはずだ、少しばかり探るぞ・・・」

アーロンがそう言って横穴の奥に足を伸ばした時だった。突然足元から青味がかった光が身を包むように発光する。

(なんだ!?罠の気配はしなかったはず!?)「エンリータ!!」

そう叫ぶもアーロンは光に飲まれ、意識を失うのだった。


ドサリ、足が地面に着く音と感触がすると同時にアーロンは急速に意識を戻す。すぐさまグレートソードを引きぬき、目を周囲にやりながら状況を確認するがアーロンの他には誰もおらず、周囲の景色から同じダンジョンの別の場所に転移されたのではないかとアーロンは当たりを付ける。

「エンリータ!居ないのか!」

目では確認したが念の為に声で呼びかけても見るが彼女の返事は聴こえない。どうやら分断されてしまったようだ。

(巻き込まれたのは俺一人か?それともエンリータもなのか、判断がつかんな。それともこれが予言の導きなのか?)

気を全力で張り詰めさせながらアーロンは1歩1歩一本道を奥に向かって歩き出す。


それから少しばかり歩いた所でアーロンは開けた空間に足を踏み入れた。そこは人工的にくり抜かれたような見た目をしており、ドームの様だった。障害物となりそうなものは1つとしてなく、足場も慣らされたかのように平たい。

「何もないか・・・?」

周囲を注意深く見やりながらそう呟く。ここはアーロンが来た道以外に横穴のような物もなく環境音の1つさえしない。只、アーロンが出す音だけが木霊する。

そうして暫し固まっているとドームの奥、視線の先から黒い風が巻き起こる。

「ッ!?」

咄嗟に身構えながら風の出所を見れば一か所に向けて集まる様にして吹いており、集まった風は小さな繭のような物を形成し始める。

「まさかこれが試練なのか?」

爆発的に膨れ上がる危機感に身を震わせながらアーロンはグレートソードを握りしめる。


黒い風はついにはアーロンの数倍もの塊となってドームの中で吹き荒れる。そしてこのまま爆発でもするのではないかとアーロンが思った瞬間、こぶし大の大きさに縮小して爆ぜる。

爆発は雷鳴を響かせ、これまた黒い霧を吹きださせながらその姿を露わにさせていく。それは地獄の入り口から何かが溢れる、そんなことをアーロンに思わせるものだった。

そうして吹き荒れた風が収まった後、その中心地に居るのは何とも形容が難しいナニカだった。


全身は黒く、青く、発光しているような、いや、ただの靄の様にも見えるし蛇形の様にも見える何か、だった。うねうねと動いていると言うべきか蠢いていると言うべきか兎に角全身の姿がハッキリと掴めない異質な存在。大きさはかなりの広さがあるドームの天辺にも届くほどで靄のすべてを体とするのならばドームの三分の一は身体と言ってもいいだろう。どこか底冷えするような冷たい風が流れ込み、歯が寒さか恐怖か判断が付かないがカチカチと震える。また、何よりも恐ろしいのは今までにないほどの死の気配が全身を撫でていると思える事だろうか。いや、アーロンは直感してしまう。あれは死そのものなのだ、詳しい事を考えることなど無い。只、死が目に見える形で自身の前に現れた事だけがハッキリと分かるのだった。


(なんだ・・・?あれは生きているのか!?それとも死んでいるのか!?)

余りの衝撃的な雰囲気と不自然なほどに自身の精神を揺らされ、一時的に思考が空回りを始めて身体が硬直してしまう。同行は開ききり、緊張を越えて脂汗すらも出ていない。

敵はこちらを認識しているのかは定かではないが相も変わらず不規則な動きを繰り返している。

そうしてアーロンが硬直していると洞窟の上部、空中に青白い火が点々と輪をなして現れる。それはまるでアーロンと敵を囲むようにして出現し、ゆらゆらと自然なものとは思えないほど規則的に揺れる。

(一体何が起きている!?)

頭の中では未だにいくつもの考えや感情が渦巻き、思考が乱れに乱れる。しかし、そんなアーロンを笑う様にして嘲笑にも、呻き声にも聴こえるような鳴き声が空間に木霊する。

アーロンは不思議とその声?を開始の合図だと認識した。理論的なものは何一つとしてなく、只、直感がそう告げる。そしてアーロンは動けなかった自身の体が何かを避ける様に無意識に右へと跳躍するのを感じる。


ドガガガガガッ!!

直後、立っていた場所に岩を削り、砕くような音が木霊して破片が周囲に飛び散る。それを今度も無意識のうちにアーロンは外套で身を守ると勢いに押される様にして後方に少し流されながら着地する。

「・・・・」

アーロンは今の不思議な感覚に再び困惑する。アーロンの認識では相手の動きは分からなかったし、当然跳ぶつもりもなかった。しかし、体はまるで分かっていたかのように跳び、己の身を守った。

「どういう事だ・・・」

曲がりなりにも戦っているのにもかかわらず疑問に思考を埋められ、口にすら出てしまう。しかし、そんなアーロンを待ってくれるわけもなく、敵の追撃が走る。それらをやはり、意識するよりも早く、正確にアーロンは避け、時には自身のグレートソードを振るう。


アーロンは知る由もないが彼の身に起きたのは簡潔に言えば火事場の馬鹿力である。今までに出会ってきた中で最も理解が出来ず、あまりにも剥き出しな死をぶつけられた事で彼の脳が全力で危機反応を出したことで普段よりも高い力が出せているという事だ。それに加えて今まで無数に重ねた戦闘経験と生存本能が彼の身体を無意識でも動かし、魔術を行使した時とは違って残っている理性がより高度な戦いを可能としている。追いついていないのは彼の理解だけである。


(意味が分からねぇ・・・だが確かによく動けている、それこそ理想の様に。おまけに思考の余裕まである、なら!!)

幾度かの回避と迎撃を繰り返し、ようやく追いついてきた思考が身体に馴染んでいく。そうなればより力強く、正確な動きに磨きがかかり明確な余裕が生まれてアーロンは周囲を見渡す。

(今は対応できているがこれが続くとは思えん、何か解決策はないか・・・)

敵は相も変わらず触手のような、本体のような、兎に角頭から蛇が突っ込んでくるような形でアーロンに向かってしつこく攻撃を仕掛け続ける。攻撃の密度は非常に高く、おまけに火力も高いのか、一度穿たれた地面は明かりが有っても見えないほどの穴が空いている。少なくとも一撃でも貰えば死は免れないとアーロンの直感は告げる。

(ん・・・数が減っているか?)

まだそこまで光量は変わらないがアーロン達を囲んでいたはずの明かりの数が1つ、いや今もう1つ消えた。

(ありゃ、何だ?死へのカウントダウンか?それとも相手のタイムリミットか?嫌な確率だ)

解決方が見つからない以上あれが相手のタイムリミットに賭けたいが明かりが消えていくのならば自身のタイムリミットと言う可能性もある。仮に純粋な明かりの代わりだったとしても消えきればアーロンの勝ち目はホントに無くなってしまう。

(分が悪いな・・・だがあの巫女も超えられない試練や嘘っぱちを言うようには見えなかった。なら必ず攻略できるはずだ)

心の中でそう、自身を励ますように勇気づける。

「ハァァァ!!」

そして攻略の為にまずは敵に通る攻撃を探る。アーロンはしつこく飛んでくる敵の攻撃に対してこの戦闘で一番の踏み込みで持ってグレートソードを振る。すると確かに当たったような感触が手に流れるがその反面、すり抜けてしまったような感覚が手を伝ってくる。

「フン!」

疑問には思うがこれで止めるわけにはいかない、再度敵の攻撃を避けながら今度は威力を変えたりして攻略の糸口を探す。時には本体がありそうな場所にも向かい、切り付け、魔術もぶつけてみるが目立った効果はない。いや、正確に言えば通る攻撃にムラがあるのだ。同じところを同じように攻撃してもその度に得られる手ごたえが変わってしまう。それに加えて特に防御するような素振りもしない為にもしかしたら特殊な装甲を持っているのかもしれないとアーロンは思う。それこそ確率でしかダメージが加算されない、そんな印象をアーロンは感じ取る。普段ならば馬鹿馬鹿しいと一蹴してしまったかもしれない推論、しかし、今のアーロンはそれが正しいと直感していた。

(だとすればどうする・・・?必殺の一撃も確率で守られれば意味もなさない。しかし、手数で押し切れるようにも見えん)

敵は未だ様子を変えておらず、今までのダメージも無いようにすら思える。それこそ砂漠に水を垂らして池を作る様な途方も無さを突きつけられているようだ。

「■■■■、■■■■■、■■■!!」

未だ明確な攻撃を与えられず、自身の回りをハエの様に跳び回るアーロンを鬱陶しく思ったのか敵は悍ましい咆哮を上げ、全身をくねらせ始める。

ソレを見たアーロンは警戒の度合いを上げる。周囲の火は既に4分の1が消えた。


極限の集中の中、敵は震わせた身を暴風の様に振り乱す。身を屈め、力をため込み、解き放つと同時に身体を遊ばせ、不規則な軌道で持って空間一杯に踊り狂う。周囲の壁も、地面も抉り、砕きながらアーロンに迫る。

構えていたアーロンは只、必死に僅かな空間を見つけては逃げ惑う。徐々に悪くなる足場の上を駆けてはグレートソードで受け流し、地面を転がり、培ったあらゆる技術で持って避ける。それは一種の芸術とでも言えるほどに完成されたものでもあったが元のスペックに差があるせいか徐々にアーロンの身体に傷が増える。致命傷はないがこのままならばジリ貧である事は明白だ。


そうして嵐が一旦止む。周囲は満遍なく削られ、見るも無残な光景だ。アーロンも此処にきて息を荒げる。しかし、これで終わるはずがない。既に敵は再び身を固め始めており、再び暴風に成ろうとしている。

(考えろ・・・!何か手立てはないか?)

深く息を吸い込んでは吐き、何とかして突破口を探ろうと目をこらすが敵は相も変わらず輪郭のぼやけた姿で発光してその全貌を掴むことは出来ない。火を見ればどうやら1回の暴走で1つ火が消えた。

(やはり、耐えるしかないのか?いや、耐えてどうなる?耐えたとしてそれが制限時間ではない保証がない)

心が少し負の方に、楽な方に偏りかけるのを宥めて、柄を強く握りこむ。

それと同時に敵も準備が出来たのか蠢いていたのが一瞬止まるとバネの様に弾けて再び荒れ狂う。


避ける、避ける、避ける。先程より、少しばかり慣れた目で持って嵐を掻き分け、生を掴む。何重にもなった死の線、一度でも直撃すれば生き延びようとも追撃が自身の身を砕くと確信できる。それはグレートソードで受けてしまったとしても同じだ。耐えられても弾かれた身体を完璧にコントロールすることは出来ない。それゆえに受け流す事が精いっぱいだ。


そうして再び攻撃が止むかと思った時だった。受け流す為に振るったグレートソードがカツン、と明確に違う手ごたえを伝えた。

(なんだ?砕けた石でも引っ掛けたか?)

不可思議な感触にアーロンは思考を割く。そして答えは直ぐに見つかった。

(体の一部が赤くなったか?)

触れた部分であるかは敵が不定形である為に定かではないが確かに敵の身体の一部が赤く変色している。

(分からんな、だがこの光明に賭けるしかない)

あれが急所、そう呼ぶには反応が薄いが何かしらの手がかりであることは間違いない。あれだけの巨体だ、他の部分にも同様の物があるかもしれない。もしくはあれが本物の急所で攻撃を加えるといったギミックかもしれない。

「兎にも角にも避けるだけじゃダメってわけだ」

思わず嗤う様な口調で声が出る。それは見えた光明が嵐の中、低確率でしか攻撃を通さない装甲を持った敵の見えない急所を更に探すか、今、光っている部分を突き続けることが確定した、その難易度の高さ故だったからかも知れない。


それから、アーロンは敵が作り出す暴風の中を踊り続ける。既に何度目かも分からぬほど死を掻い潜っては祈る様に大剣を振るう。しかしあまりに巨体で不定形なその体は易々と成功を掴ませるような事はしない。


そして無限にも思える戦いの中でアーロンは遂に3つ、最初のものを含めれば4つの核を叩くことに成功した。正確な時間は分からないが上部であれほど光っていた明かりたちがほぼ半分になったのを見るにあたりそれなりに時間を消耗したようだがアーロンからすればまだそれしか時間が経っていないのかという思いで一杯だった。

アーロンはグレートソードを地に刺して息を荒げており、砕かれた破片などで切れた肌からの出血が目立つようになってきた。新調されたアーマーもへこみが見られ、もういつ砕けてもおかしくはないだろう。

「ハァ、ハァ・・・流石に厳しいな」

興奮か、それとも死がより明確に見える様になった恐怖からかアーロンの口角はやや上を向き、思わず笑いだしてしまいそうだった。

「だが死ぬわけにもいかん。何より死ぬなら晴れた空の下で死にたいもんだ」

そう言うと膝を叩き、一息の下に立ち上がる。

(さて、もう半分だが何か起こるか?)

敵を視界に入れたまま、盗み見る様に上部の火を見つめる。敵は今、攻撃が終わり、身をまとめている最中だ。そしてそれに合わせて火は一つ消える。そしてこのモードに入る前は4分の1で行動パターンが変わった。それならば半分で何か変化が起こるのではないかとアーロンは思っていた。

「最も、俺の行動が正しければだが・・・」

アーロンがこの時間した事はよくわからない敵の核もどきを4個見つけた事である。これですべてとは思えないし、直感も未だ良い反応を告げない。

そして今、上部の明かりが消えて半分になる。

「■■■■■、■■■、■■■■■■」

それと同時に敵も例の悍ましい声をあげる。するとあの巨体が震え、一か所に圧縮される様にして集まり始める。それをアーロンは一層注意深く観察する。


青白く光る黒い靄の敵はスープを煮詰める様にその姿をより濃く、深い色へと姿を変えていく。そうして敵は1つの真円へと変貌した。明かりがあるとはいえそれなりに暗い洞窟にあって尚黒い、いや暗いとでも言えばいいのだろうか、光すらも呑み込んでしまいそうな闇の塊がそこにはあった

(さしずめ卵か・・・それとも・・・何にせよ俺にとって都合のいい存在、なわけが無い)

そう、アーロンが瞬きの1つもせず、ジッと見つめているとパキリ、という音が微かに聴こえ、それに続く様にパキリ、パキリと殻を破る様な音が響く。同時に中から血でも流すかのようにドクドクと黒い粘り気のある液体のような物が溢れ落ちる。そして一層大きなパキリと言う音と共に何かが産み落とされた。


「■■■■■■■■■■■■―――ッ!!」


高音とも低音とも言えない、金切音にも子守唄の様にも、絶望にも歓喜にも聴こえる絶叫が空間に響く。産み落とされたのは黒だった。実態はつかめない。しかし先程までの蛇のような円柱形では無く二足歩行で大まかな形は人の様だ。しかし、兎にも角にも黒く、頭部と思われる部分には地に着くほどの鰭か鬣のような物が付いている。手は爪、いやその大きさから鉤爪と呼ぶのが最適と思えるパーツが緩やかな曲線を帯びながら鋭利に伸びている。足も同様の鉤爪が付いているがこちらはそこまで丸みはない。胸には円を描く様に4つの赤玉が灯っており、恐らく先程見つけた分なのだろう、どのような意味があるかは分からないが半分も灯っては居ない様に思える。そして頭部と思える部分で爛々と、夕焼けよりも血よりも赤く光る目がジッとこちらを見つめていた。



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