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アーロン  作者: ラー
三章

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十一話

「ウォォォ!!」

魔物たちの絶叫に混じってアーロンの雄叫びが洞窟を反響していく。侵攻と撤退を3度繰り返して2人はようやく魔物達を広い道まで押し込む寸前までやって来た。やはり長年放置された影響か魔物の数は並では無く、そして生存競争に打ち勝った個体は手ごわい。それでも確実に歩を進めた結果、魔物の波も落ち着きを見せ始めていた。

「もうひと押しだ!このまま突っ切って中継地点をもぎ取るぞ!」

後ろで援護しているエンリータに声をかけ、自身はもう何回目かもわからない連撃を繰り出す。振り下ろし、掴み、蹴とばし、殴り、突き刺し、弓を打たせ、魔術を唱えさせる。取れる手段のすべてを使い2人は遂に開けた場所に飛びだす。

「掃討する。お前は入り口で援護しろ!」

ここまで使ってきたファルシオンをもしもの時にエンリータが使える様に入り口に放置してから背中のグレートソードを引きぬく。

グレートソードは待っていたと言わんばかりにアーロンの剛腕に導かれるままに襲ってくる魔物を横薙ぎに一閃、慈悲もなく引きちぎる。アーロンはそのままどんどん踏み込みながら返す手でもはや残党とかした魔物をまとめて切り落とす。自由に動ける場所で一番の相棒であるグレートソードが振るえるのならば負ける要素はない。

そうして今までの何倍もの速さですべての敵を切り捨てたアーロンは地面に剣を刺して息を吐く。

「フゥ・・・思ったよりも時間がかかったな。『土精よ、願うは鉄壁、隔絶の盾』」

道を魔術で封じて予定通りここを中継地点としたアーロンは荷物と腰を下ろす。

「お疲れ、アーロン。はい、ファルシオン」

細道から出てきたエンリータがアーロンの放置した剣を渡し、彼女も同様に腰を下ろす。

「これでようやく中間だ。今日は此処で泊まりにする」

そう言ってアーロンはテキパキと食事の用意を始める。


ダンジョンは外とは違って勝手に魔物が湧くわけでは無い。ある地点に魔物の発生源があり、必ずそこから魔物が生み出される。そして生まれた魔物はそれぞれが居心地のいい場所へ移動したり、群れをつくり彷徨う、と言った決まりがある。そして基本的に発生源は最奥であり、多数に枝分かれしているダンジョンでなく今回のような一本道であれば後方から襲われることはほぼない。加えて魔物がいないときに壁を前方に作れば彼らはその壁をダンジョンのものと勘違いしてそうそう壊しに来ることはなく、セーフポイントを作る事が出来るのだ。勿論上級のダンジョンであればこのような形ではセーフポイントは作れない。

「念のために交代で休む。先と後、どっちが良い?」

携帯食を口の中でワインと解しながら寝る順番を聞く。

「ん~今日は先に寝る!ちょっと疲れちゃったしね」

アーロンと同じものを食べながらエンリータは頭を掻く。実際、弓兵と魔術師の役割を指示に合わせてするのは彼女にとってかなりの負担だっただろう。

「分かった、なら装備の確認だけはしてから寝ろよ」

そう言ってアーロンは再び食事に集中するのだった。


「起きて、アーロン。時間だよ!」

聞きなれたエンリータの声が耳朶を打つ。ゆっくりと体を起こして、目を瞬かせる。

「おはよう、アーロン!て言っても時間なんて分からないけど」

そう言いながらエンリータは笑う。時間を示す太陽が無い為に正確な時間は分からないがアーロンの体内時計は昼前位を示していた。

「あぁ、問題は無かったな?」

立ち上がり、体を伸ばしながら寝ていた間の事を尋ねる。

「うん、壁を一応張り直したくらいで特に無かったかなぁ・・・」

そう言われてみてみれば前日アーロンが作った壁が分厚くなっているのが見える。

「そうか、なら飯を食ったら攻略再開だ」


そうして準備を整えた後、アーロンはグレートソードを既に抜いた状態で壁の前に立つ。

「良し、魔術を解け」

そうエンリータに言うと自身も魔力を流して、土壁を壊す。壁はボロボロと土塊へと変わっていき、直ぐに何も無くなる。運悪く正面にちょうど魔物がいて鉢合わせ、などという事はなかったが2人は慎重に先を調べながら進んでいく。


中継地点からは洞窟の雰囲気も変わり、どんどん空間が開けていく、また、遠くから水が流れる音と、ひんやりとした風が流れ込んでおり、鼻を抜けるような冷たさがある。また、あらかじめ聞いていた情報では出て来る魔物にも多少の変化が見られ、粘液種や怪鳥種が出現し始める。


粘液種は全身がドロドロとした液体と固体の中間のような身体を持ち、住む環境に適応した性質を持つ。また、冒険者からはかなりの嫌われ者で、そのしぶとさと奇襲性能は折り紙付きだ。彼らは一見すると一個の生命体だが実際は極小な同一体の集合体で例えば剣で切った所で分裂するだけだ。それにいくら細かくしても時間が経てば彼らは集まり、再び元に戻ってしまう。加えてその軟体性が至る所に隠れる事を可能として、不意打ちをうってくる。そして跳びつかれれば極小な個体がそれぞれ噛みつき、その場所はおろし金で擦られたかのような見た目になり、人によっては発狂ものだろう。勿論、顔に跳びつかれればそのまま体内に侵入され、呼吸も出来ず、体内から生きたまま削られることになる。そうなれば治療も難しい。しかし、ランクの高い個体でさえなければ魔術は良く通る、特に火ないしは雷は個体を問わず幅広く効果的だ。つまるところ丸ごと逃げ場なく殺せるかが肝になる。


怪鳥種は洞窟か密林のような場所に多く生息する個体だ。鳥のような羽では無く皮のような羽をしており、種類によって様々な口を持つ。滑空する様に飛び、暗い所でも問題なく活動するために場所によっては困難を強いられるだろう。基本的には怪音波を撒き散らし、聴覚や平衡感覚にダメージを与えながら集団での噛みつきや羽についている獰猛な爪による斬撃とシンプルな手段を使う。耐久性は高くなく、適当に武器をぶつけられれば戦闘不能に持って行けるのが弱点と言った所だろうか。


「前はとにかく俺が見てやる。お前は粘液種の奇襲に注意を払え。体内に入られでもしたら俺ではどうしようもないからな」

そう言ってアーロンは周囲を見やりながら奥に進んでいく。足元は湿り気があり、凹凸のある地面は足場としては良くない。そうして歩いているとバサバサと飛ぶ音とそれに混じって地面を歩く音が前方から響く。

「まだ湧くか・・・エンリータ、風だ」

そう言い放つとここに来るまでも多用した火と風の合わせ技の準備をする。


そうして敵が遠くの暗闇から飛びだしてくるのに合わせて狙いを絞る。洞窟の上空は小型の怪鳥種、ブラドストーカーが夕闇が広がる様にして飛び交い、大地はヒェロナハスタが壁の様に群れを成して迫ってくる。互いに争った形跡が見えないことからどうやら彼らはダンジョンの侵入者に対して共闘をしているらしい。

「まだだ、もう少し引きつけろ・・・放て!」

自分の魔術が間に合う限界まで敵を引きつけてからエンリータに合図を出して自身も魔術を唱える。風が敵を僅かに押しとどめ、吹き荒れている間に放たなければ意味がなくなってしまう。

『炎精よ、願うは紅焔、颶風となって、灰燼に帰せ』

休憩で確りと回復させた魔力をふんだんに練り上げて火球を放つ。勿論、そうで無ければダメージが低いと言うのもあるがここで怪我だけはしたくないと思ったゆえの行動だった。

風に煽られて爆発する火球は魔物たちを容赦なく焼き付ける。特に空を飛んでいたブラドストーカーはその耐久性の低さが仇となり、ぼたぼたと焼け落ちていく様が見られる。反面ヒェロナハスタは本人の気質が水の為に少しばかり効果が低そうだ。とはいえ空からの奇襲を減らせるのならばこれ以上は望めない。

「行く。援護は頼むぞ」

そう言い放ち、未だ燻る敵集団を目掛けてアーロンは肩に背負ったグレートソードを握りしめながら接近する。敵はダメージが低いとは言っても全身を焼かれ混乱の最中だ。その集団に真正面からアーロンは跳びこみ、グレートソードを振る。ヒェロナハスタ達は直ぐにアーロンに気付き、持っていた武器で反撃を仕掛けようとするがアーロンは剛腕と遠心力に任せて武器ごと切砕く。縦に振れば脳天から2つに分かれ、横薙ぎにすれば数体の胴体が泣き別れていく。囲もうとすれば遠くから風切り音と共に矢が脳天を射抜き、アーロンが引けば再び風と火が吹き荒れる。そうして現れた当初は津波のようだった魔物たちは片っ端から切り崩された。僅かに残っていたブラドストーカー達も決死の覚悟を持ってアーロンの後方に回り仕掛けるもその羽音から位置を割り出され、叩き落とされる。そして、左程時間を掛けることなく2人は無傷で敵を殲滅することに成功したのだった。

「ふう、エンリータ、問題はなっ!?」

敵を殲滅したアーロンは後ろを振り返り。エンリータの方を確認しようとした時、天井に翡翠色をしたアシドスライムが彼女の頭を目掛けて落ちようとしている姿だった。

「ん?」

突然慌てた様な雰囲気で動き始めるアーロンを見てエンリータが首を傾げる。

「上だ!走れ!」

大声で伝えるべきことを叫ぶ。

「え!?っと!!」

一瞬、驚きこそすれども出された指示に直ぐに反応して駆け出す。そうして2歩、駆けた瞬間ベチャリと粘液が叩きつけられるような音が彼女の後ろで鳴る。

「ヒィ!」

当然、エンリータの耳にも入ったのだろう、彼女は振り返ることもせずアーロンの下に走り寄る。

「チッ!良く隠れていたもんだ!」

悪態を付きながら走ってくるエンリータと入れ替わる様にしてアシドスライム駆け寄り、直ぐに魔術を唱えて消滅させる。

「はぁ、何とかなったか」

そう言いながらも天井をより注意深く見渡す。しかし、流石に次はないようでようやく本物の静寂が手に入った。


「怪我はないか?」

自身の後ろに居るエンリータに向けて問いかける。

「うん、怪我は・・・ないよ!あ、ありがとうね、アーロン。それにしてもびっくりしたぁ・・・」

彼女は胸に手を当てて重いため息を吐く。

「粘液種はどうしても感知しにくいからな・・・慣れるしかない」

実際、あらゆる隙間に隠れ、ほぼ無音で縦横無尽に動くのだ、気付けないのも無理はない。

「まぁいい、先を急ぐぞ。留まる意味はないからな」


2人は更に奥深くへと洞窟を潜っていく。洞窟は更に鍾乳洞の様に姿を変え、冷気を増していく。また湿り気が強くなり、足元が岩場な事もあって気を付けなければ足を取られてしまいそうだ。敵の種類もブラドストーカーとヒェロナハスタの数が一気に増え、アシドスライムを初めとする粘液種が意識の外からこちらへ狙いを定め続ける。

「ハァハァ・・・まだ着かないのかなぁ・・・」

この閉塞空間に悪環境、そして定期的に押し寄せる魔物の集団に気力をかなり削がれつつあるのかエンリータの息は切れ始め、不満が零れ落ち始める。

「・・・もう少しだ、一旦休憩を挟むか」

ここで無理をしてもなんとかなる可能性は高いがイレギュラーはいつだって起こる。そうなれば今の状態のエンリータにとっては厳しく、それをカバーするアーロンも当然不利に追い込まれてしまう。それに慣れない環境は気持ちが逸って気付かないうちに体力も削がれてしまうものだ。それだけに今、ある程度視界が確保できて奇襲されにくいここで休憩を取ることにした。

「はぁ・・・寒いなぁ」

エンリータは外套を身体に巻き付けて、膝を抱えたまま座りこむ。直ぐに動けない体制は褒められたものではないが今はアーロンが近くに居るために問題は少ないだろう。

「そうだな、序に何か口に入れておけ。それと暫く俺が周囲を見ておくから火を熾せ」

そう言いながらアーロンは荷から簡易のたき火セットを取り出す。中には着火用の纏められた小枝と小型に切りそろえられた薪に油だ。普段は使うことはないがこういった環境なのは知っていたために持ってきた一品だった。


アーロンはエンリータが火を熾す間に進行方向の道を魔術で埋め、周囲を念入りに調査する。アーロンとて疲れて休憩をしている時に隠れていた敵の奇襲は受けたくない。

そうして戻ってくると既に熾された火で身体を温めているエンリータの姿が有った。

「はぁ・・・心が安らぐよ。あ、お帰りアーロン」

緊張もほぐれたのか目尻を緩めながら口調も和らげにエンリータはアーロンを迎える。

「あぁ、ひとまず飯だ。急がないとこの火はあまり長くは持たない」

そう言いながら自身の荷から鍋とワイン、携帯食料を取り出す。


たき火の上でフツフツと沸き始めるワインをボンヤリと眺める。口の中にはパサパサの携帯食料が僅かな水分を奪いながらほぐれていく。

「アーロン、後どの位あるのかな?」

同じ様にもそもそと食事をしていたエンリータが尋ねて来る。

「そうだな、地図通りならこの先に滝があってそこを抜ければ最奥だ」

そういってアーロンは奥を静かに睨んだ。

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