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アーロン  作者: ラー
三章

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十話

あの逃走劇から順調にアーロン達は旅を続けていた。先に遭遇した2種を筆頭に道中は、他所では見られない珍しい魔物たち、砂漠を泳ぐ魚ボロウスや全身の毒棘を乱射するプラント種のフェーリープラント等、厄介な存在は多数あれども堅実に討伐しては逃走を繰り返した。


そうして砂漠に入ってから4日目、遂に2人は砂漠の遺骸の前に辿りついた。目的の遺骸は2日目には既に見えては居たのだが近くまでよると何もない砂漠であることを加味しても、その大きさが群を抜いているのが分かる。城どころか小山程度は間違いなくあり、骨だけでは元の姿は分からないが生きて居た頃は大陸の覇者だったと言われても信じてしまいそうだった。あばら部分の形状的には海の魚類系の魔物に似ており、顔はトカゲのような骨格をしている。体の半分ほどは砂の中に埋まっており、開かれた口は地獄の入り口の様にも思える。

「え、この中に入るの?ていうか入るとしてどうなってるの?」

エンリータはこれを今一理解できていないのか不思議そうな顔を浮かべる。

「分かっているのはこの遺骸がダンジョンに成っている、ってことだ。中は天然の洞窟みたいになってる。ただ不思議な事に宝箱の一切が発生せず、罠の類も確認できない。それでもって何か採取できるわけでもないから一部の研究者を除けばほぼ放置された場所だ」

事前にカリステオンのギルドで読ませてもらった資料には特に目ぼしいものはない不思議なダンジョンとして登録されていたこの場所はそれを証明する様に閑散としている。

「そうなんだ、でも巫女さんは此処に行けって言ってたんだよね?やっぱり一番奥かなぁ」

「まぁ、そうだろうな。とはいえまずは休憩だ」

そう言ってアーロンは日陰に腰をおろした。


充分な休憩と突入準備を終えて2人は遺骸の口から中へと侵入する。中に入っていくと徐々に風景がダンジョンらしく姿を変えていく。砂が残る遺骸から岩でできた天然の洞窟へと変貌するのは正しくここが異質な場所であるとはっきりと感じられる。温度もかなりひんやりとしており、半袖では鳥肌が立ってしまうだろう。奥からもそよそよと湿っぽい風が頬を撫でる。

「ホントにこんなに変わるんだ・・・遺跡もだけどダンジョンもかなり不思議だなぁ」

周囲を見渡しながらエンリータが感慨深そうにする。

「ダンジョンは魔力の吹き溜まりに良く出来るらしいからな、この遺骸の主も大した魔力の持ち主だったんだろうよ」

「そうなんだ、でも何でそんな魔物?が死んだんだろうね?これだけ大きいから何か残ってそうなのに」

「そうだな、だが俺も特に聞いたことが無いな・・・今度詳しそうな奴に聞いてみるか」

そうして歩いていると先の方から何やら生き物の気配が感じられる。

「何か来るな、構えておけ」

まだ狭い道の為に腰のファルシオンを抜きながらアーロンは警戒を飛ばす。

慎重に歩を進め、先を窺うとそこにいたのはタイニーダイモンの群れだった。


タイニーダイモンは死霊系とも悪魔系ともいわれる魔物だ。小柄なエンリータよりも一回り程小さく、墓所や薄暗い洞窟の類を好んで発生する。頭は丸いカボチャのような形をしており、赤く丸い目が闇に爛々と光る。体は大きな黒いコートを羽織っているような見た目で背中には蝙蝠の羽が付いているが飛ぶことはまずない。下半身はタイツでも履いているかのようでつんつるてんのようにも見える。そして必ず小ぶりなナイフを右手に持ち、ステップでも踏むかのように飛び跳ねているのが特徴だ。その見た目から侮られがちではあるがギルドが公布する適正ランクは5である。つまるところ村を簡単に滅ぼせるマグバクスやハルピュイア等よりもワンランクは上である。とはいっても彼らの生態から地上で猛威を振るう事はかなり少ない。ではなぜ彼らのランクが高いのかと言われれば集団で行動することと機敏性、そして魔法を使う事である。


魔法、高位の魔物が魔力で持って世界へ直接働きかけて現象を起こすものである。魔物はそもそも魔力の塊のような存在であるが故に出来ることで人間種には出来ない。当然高位であれば大きな現象を引き起こすうえ何より彼らには詠唱などと言うものはいらないのだ。故に隠密性も高く、気付いたら目の前に攻撃が迫っている、なんてことになりかねない。中には罠の様に設置されることもある為に非常に厄介なのである。


今回遭遇したタイニーダイモンであれば攻撃的なものは少ないが状態異常を引き起こす魔法が豊富だ。いずれも一時的ではあるものの睡眠、痺れ、混乱、失明など戦闘中に受けてしまえば死に直結してしまう。勿論ある程度魔力が強ければ抵抗は出来るが何重にもかけられればアーロンでも耐えられない。それに加えて小柄で俊敏、おまけに集団行動と陰湿さが極まったような性質から彼らはランク5の評価を受けているのである。


「どうするの、アーロン?」

此方に身を寄せながらエンリータが小声で尋ねて来る。

「・・・近距離で仕掛けるには数が多すぎる。一旦、魔術で相手を削る。お前は風を吹かせろ、それに合わせて俺が火を投げる」

数匹ならともかく群れでは流石に分が悪い、その為に相性のいい魔術を合わせることで効率的に殲滅しようとアーロンは提案する。


魔術は属性に寄って相性というものが存在し、魔物にも属性が宿っている。風は土に、土は水に、水は火に、火は風に、闇は4属性に、聖は全属性に有利が取れる。そして同属性は互いに無効化してしまう。そのために魔術は複数で合わせる時はしっかりと相性を考えなければならないのだ。今回で言えばタイニーダイモンは闇で4属性は多少相性が悪い。しかし風の力を受けた火で火力を増すことで相性差を多少でも埋めることと魔術で火力がもともと出しにくいアーロン達の底上げが今回の目的だ。

「了解!じゃぁ先にいくね。『風精よ、願うは時津風、導きの吐息』」

エンリータが魔術を唱えれば彼女の正面から強い風がタイニーダイモンの群れへと向かって吹きすさぶ。殺傷能力こそ低いものの風に飛ばされれば狭い洞窟だ、壁等に当たれば多少は行動を縛れる。そうで無くとも立つのもやっとの風量だ、此方に向かう事は重さの無い彼らには不可能だろう。

『炎精よ、願うは紅焔、颶風なりて、灰燼に帰せ』

少し遅れてアーロンの唱えた魔術が追従する様に洞窟を走り、目標地点で爆発を起こして視界を真っ赤に染め上げる。こちらはとにかく熱量が高い火球を放ち、火炎をばら撒くというシンプルなものだが先の風に吹かれて更なる熱量と拡散性を持ってタイニーダイモンたちを焼き上げていく。

「あっつい!顔が焼ける!」

洞窟故に外よりも迫る熱量が高い。エンリータは驚いたのか顔の前に手をやり慌てる。

「おい、どうせ全滅はしない、弓を構えておけ」

既に抜いておいたファルシオンを握りながらアーロンは火に目をこらす。理想はこの魔術での全滅だが彼らは魔法が使える程に魔力に慣れている。つまるところ魔に対する耐性が有るのだ。勿論個体差もある為に死ぬものや瀕死になる個体も多いだろうが一部は戦意が残る程度のダメージにしかならないだろう。


そうして十数秒火が暴れた後には大半が死滅していたが予想通りに数匹は動ける状態でこちらに殺意を向けている。

「俺が突っ込む、お前は状態異常の備えと矢で援護だ」

相手に有利な状況を少しでも作らせない為に返事も待たずにアーロンは敵に向かって駆けていく。

「ギヤァギヤァ!」

嘲笑うような声で彼らもこちらに向かってきており、奇襲を掛けられたにも関らず、即座に連携を組み立てながら殺しにかかってくる姿は確かに難敵そのものだ。

(後ろで魔法を組み立てているのが2匹、中間で遊撃に構えるのが5匹、先陣を切るのが4匹、時間はかけられん)

兎に角速く前衛を突破して遊撃部隊を混乱させなければ集団の暴力に晒されてしまう。更に数回なら耐えられるが魔法による状態異常も受けたくはない。そう考えながらアーロンは跳びかかってくるタイニーダイモンたちへ刃を振るう。大振りではなく的確に差しこむようにファルシオンを躍らせながら自身は常に敵の中心地へと踏み込んでいく。まるで後ろにも目が付いているかのようにクルクルと回り、時には跳ね、受け流し、彼らの連携能力を勘定に入れた同士討ちすらも計算にいれながらその数を減らしていく。アーロンは普段、身の丈程のグレートソードを振りまわしているが故にパワーファイターに見られがちだが長く1人で様々な討伐を熟してきただけあってテクニカルな戦いも得意である。そしてアーロンが死の舞踏を繰り広げている途中、いくつか風切り音が通り過ぎ、魔法を構築していたタイニーダイモン達を狩るのが見える。そうして暫くすればアーロンを中心に台風の目の様に敵の死骸が円形に散らばり、洞窟は静寂を戻す。

「ふう、怪我はないな?問題なければ行くぞ」

戦闘の音に引き寄せられた魔物がいないかだけ確認しつつエンリータに声をかける。

「うん、大丈夫だよ。落ちてた素材はどうする?」

タイニーダイモンが煙に成った後、羽や持っていた武器がドロップ品として洞窟に転がっているのを見たエンリータはそう問いかけてくる。

「少しばかり勿体ないが持って行く余裕はない。置いておけ」

まだ先は長く、尚且つボスがいて倒した後に戻ってこなければならない。それからも再び砂漠を抜けてアウローラに向かう事を考えればそんなものは持って行けない。これもここが人気の無い原因だろう。


2人はその後もダンジョンを奥へと進んでいく。道中は長年冒険者が入っていない為か魔物が多く、また勢力争いをしている為か強い個体が多い。加えて水場がある為に死霊系の魔物と水棲系の魔物までいるようだ。最初に出会ったタイニーダイモンは至る所に群れをつくり、人型の死霊エクスピラー(ザンバラ頭の幽体で薄汚れた衣服に生気の無い顔をしている)による呪いと魔法のばら撒き、水中からのヒェロナハスタ(ミヌスの森でも遭遇した二足歩行で武器を使う亀)の奇襲がアーロン達を次々と襲う。幸いなのは一方通行の洞窟の為に挟まれることだけはない事だろうか、それでも連戦と言っても差し支えの無い頻度で奥から魔物が押し寄せる。恐らく戦闘音に釣られているのだろう。こうなっては魔力、体力共に消耗を上手く抑えなければならない。

(チッ、数が多すぎる、まだ中盤に差し掛かるか位か・・・)「エンリータ!一旦、下がって体勢を整える!」

そう言うや否や手前に居たヒェロナハスタを数体、弾き飛ばして壁にする。

『土精よ、願うは鉄壁、隔絶の盾』

そして魔術を唱えれば両者を隔てる様に土の壁が洞窟と隙間なく出現する。

「大して持たん、さっさと行くぞ」

エンリータが居るところまで駆け寄り、声をかけてから来た道を戻っていく。


「ここまで来れば問題ないだろう。矢はまだあるか?」

アーロンは地面に耳を押し当てて足音が無いのを確認してから同じように周囲を探っていたエンリータに声をかける

「うん、魔術も使ってたからまだそれなりに余ってるかな。でも凄い数だね、どうするのアーロン?」

まだ余裕そうな顔を浮かべる彼女は困ったように首を傾げる。

「俺もダンジョンは経験が浅いからな・・・その結果がこれなわけだが。とにかくこの細道さえ突破できればグレートソードが使える広さになる。だからそこまで行けば多少は数に対応できるが・・・これならもう一人は人員が必要だったな」

グレートソードが使えれば強引に突破できる相手ではあるのでどうしても歯噛みしてしまう。ファルシオンは優れた武器だが数が相手ならどうしても長物の方が有利だ。

「あぁ、そうだね~前衛でも後衛でももう一人いたら楽だったかも。ワタシじゃ、弓と魔術の使い分けがまだ上手くないし・・・」

アーロンのつぶやきに理解を示した様にエンリータは頷く。

実際、前衛を一人で受け持ち続けるのはアーロンとて負担だ。慣れているとはいっても常に死地に身を置くのは想像よりも心身にストレスを与える。それがもう一人いれば余裕をもって周囲を見られるし、何より自身の背後を守ってもらえる。反対に後衛、特に魔術師であれば弓使いのエンリータではなかなか出来ない広範囲への攻撃や前衛のアーロンのカバーで壁を出したり、敵の魔術を相殺したりと戦略がグッと上がる。呪文を唱えたりするタイムラグはそれこそエンリータが弓を放てば解決する事だ。

「とにかく休憩だ。ちょうどいい水場だしな」

そう言ってアーロンは顔を洗おうと小さな水場に向かう。水場は壁に開いた穴から水が滝の様に流れており、それを受け止める様に岩が削れて出来た天然の瓶がある。そこで手に水を汲み、顔を洗う。ひんやりとした洞窟で更に冷水となった水が戦いで火照った顔には丁度良く、気分をリフレッシュさせてくれる。

「ふぅ・・・どうしたものか」

顔を手で拭いながらダンジョンの攻略に頭を悩ませる。ギルドで買ったこのダンジョンの地図には逃げてきたところからいくらか前進すると道幅が一気に広がると書かれている。

(いっそのこと強引に超えてしまうか?いや、それで先にもいたら挟まれることになる。エンリータとも離れてしまえば困難だ)

ここにきて一本道と言うのがネックになっていた。勿論、アーロンとエンリータの実力からすれば強引にでも越えられなくはないのだ。ただ、最奥で強敵が待っていることを考えると消耗を極限まで下げたいと言う意図が攻略を難しくさせる。狭い一本道に数の暴力とシンプルであるがゆえにこちらも正面からしか踏破が出来そうにない。


その後、2人でいくらか作戦を考えてみるも結局出来ることはほぼなく、今回の様に敵をいくらか押し込んだら撤退して、落ち着いたら再び押し込んでいくと言う作戦に落ち着く。

「この件が済んだらもう一人増やせないか聞くか。このままだと面倒が増える一方だな」

そう言いながらアーロンは立ち上がり、再び奥に向かって歩き始めるのだった。

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