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アーロン  作者: ラー
三章

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九話

結局あの後、民衆は解散されてアーロンも興が削がれた事とセウェルスという男の調査をギルドに頼むことを頭に留めた。それから宿に戻り、惰眠を貪る事でなんとか1日は消化出来たものの残りの日数はギルドから連絡もなく、退屈に殺されかけたところをエンリータにため息交じりに外に連れ出され、用事を作ってもらうことで過ごした。

・・・自分よりも一回り若い女に世話される男の姿は情けなさに満ちては居たが。


そうしていざ出港の日にはいそいそと船に乗り、これで帰れると言う表情をしていたのにも関わらず結局もう一度暇な時間を船内で数日過ごすことに気付き、絶望の顔を浮かべたのは哀れともいえた。


「ふう・・・暫くは行きたくないものだな」

カリステオンの港に着いてアーロンはそう溢す。

「なんでやることが無くなっただけであんな情けなくなるかなぁ・・・」

その横ではエンリータが半目でそう愚痴をはく。

「性分だ。仕方ない、さて幸いまだ陽はある。早めに宿だけとってギルドに行く」

そう言うとアーロンはいつもの悠々とした余裕のある足取りで街へ向かった。


「なるほどね・・・分かったよ、此方でも調査員を出そう」

ギルドで報告を受けたライラは話を聞きながら制作した資料を確認しながら神妙な顔を浮かべる。

「ともかく俺からの報告は以上だ。問題が無ければもう行くが?」

報告した内容、特にセウェルスを筆頭に面倒そうな人物にも出会ったが現状手が出しにくく行方も知れない。ともすればアーロンが出来ることはほぼないのだ。

「いや、問題ないさ。そう言えば君たちはこれからどうするんだい?カリステオンですることがある訳でもなさそうだし、予言の場所にでも行くのかい?砂漠の遺骸だっけ?ならヴァーニタス砂漠かな?あそこには大きな遺骸から出来たダンジョンが有ったはずだしね」

ヴァーニタス砂漠、アウローラ王国とリーベタース連邦の間に広がる大砂漠である。アーロン達が来るときに通った街道と反対にある山岳ルートがそこを円の様に囲んでおり、普段は行く意味がない場所でもある。理由は単純で砂漠に住む人は当然おらず補給を受けづらい、行っても資源が無い為に採取任務もない、出会えるのは砂と魔物だけ、と旨味が極端にないのだ。一説では嘗て大国が存在し、滅んだ際に周囲が砂漠になっただとか実しやかに吹かれていたが真相はおそらく誰も知らないだろう。そこにある遺骸とて過酷な環境なためにあまり研究も進んでいないのが現状だ。

「そうなるな。まぁ、聊か胡散臭いがそれしか道はない」

そう言うとアーロンは少しばかり気だるそうに腕を組んで背を倒す。

「ふふ、まぁ危険に飛びこむのが君たちの仕事だろう?未知への冒険へと胸を躍らせてこその冒険者、楽しんで来たまえよ!あぁ、因みにそこで用事が終わったらこっちに戻るかい?それともアウローラでこのニィスとか言うのに会いに行くかい?」

「そうだな・・・此処に用事はないからな。だが事次第では帝国まで戻る」

すこし思案してみるがリーベタース連邦には今の所用事はない。むしろ一度帝国まで帰ってヘンドリーナと直接話す機会を設けるべきかもしれない。

「そうか、あまり話す機会は無かったのは残念だ。良かったらまた来たまえよ!我々は強い冒険者はいつでも歓迎だからね」

ライラはそう言うとやはりどこか気取った口調とポーズでアーロン達を見送るのだった。


報告を終えて3日間を次の旅の為の準備に当てる。次は補給が受けられない砂漠、そのど真ん中に向かうのだ、準備は万全に万全を重ねておくべきだ。とはいえ、ここカリステオンからおおよそ10日、砂漠に入るのは5日か6日目だ。ならそれまでにもう一度なら補給も受けられなくもない為に全く余裕がない訳ではない。

「ねぇ、そう言えば砂漠に行くのは良いんだけどこの量運ぶのは大変じゃない?」

大よその荷物を買い込み、纏めているとエンリータが荷物を眺めながらそう聞いてくる。今回は確かにいつもより物が多く、水袋も通常の3倍は用意をしている。背負えない訳ではないがエンリータは間違いなく行動を阻害されてしまうだろう。

「あぁ、それなら問題ない。今回は一頭だがアルカを借りる予定だからな」

「あ、そうだったんだ。なら問題ないね!」

納得がいったのかエンリータは荷造りを進める。

アルカは雰囲気で言えば魔物に酷似しているが人間と共生することが可能なただの獣だ。大きな四足で馬と牛と山羊を混ぜて割ったような見た目をしており、それぞれの能力を満遍なく持っており、アルカも特有の優れた能力を保持している。まず頭部に螺子くれた角を持っているのが特徴で、暑い所や寒い所でも問題なく活動し、雑食で食べられれば不満を持たない。また、適度に賢く、性格は温厚で怪我や病気にもかなり強いのも人間にとってありがたかった。ただ難点を上げるならば、馬ほどの機動性はなく、牛程家畜向きでない所だろうか。しかし、旅の荷物を運搬したり、長距離の移動に関しては他の獣よりも遥かに優れており、冒険者や長距離を行く商人にはうってつけである。特に今回のような過酷な場所に行くならば非常にありがたい存在だった。


そうして何事もなく出立の日をを迎え、2人はヴァーニタス砂漠へと歩を進める。いつもと違うのはアーロンがアルカの手綱を引き、乗ってみたいと駄々を捏ねたエンリータがご機嫌そうにアルカの背に居ることぐらいだろう。尤もアルカは非常に力持ちで人間を十数人乗せたソリを引っ張らせても問題なく動くために問題はない。

「いや~一回乗って見たかったんだよね!」

「そりゃ良かったな」

ご機嫌に喋るエンリータを適当に流しながら、そして、はしゃぐその姿を周囲に微笑ましそうに見られながら行く2人は気楽な足取りだった。


それから旅は順調に進む。一度と通った道を引き返し、そこから逸れるだけで済むために日数も計算通りに収まり、5日目の昼間にはヴァーニタス砂漠の入り口に2人は立っていた。まだ踏み入れてはいないが空気が一変し、乾いた風が頬を撫でる。草木は既に遠く、足元は砂で満ちて正しい道を隠す。陽はカンカンに照っており、遠くは景色が揺らぎ、幻覚でも見ているような気にさせられる。そして目の前には警告文のついたボロボロの立て看板があるのみだ。


ヴァーニタス砂漠、大陸でも有数の環境が敵と言わざるをえない場所だ。踏み入れて帰る為には確かな知識と準備が求められる。

「あっつい・・・なんか同じ大陸なのか疑いたくなる光景だね・・・」

アルカの上でエンリータが項垂れる。

「そうだな、自然の力だけでなく何かしらの要因もあると言われているからな・・・さっさと目的地に向かうぞ」

そう言うとアーロンは手綱を引っ張る。


砂漠は一般的に人にとって不利を招く。砂という体力を奪う足場、見渡す限り同じ光景の為に方向感覚を失わせ、昼の暑さは身体のバランスを崩し、夜には一気に冷え込み、体力をさらに奪う。それらに付け加えて魔物、特にヴァーニタス砂漠は毒を多用する魔物が多い事でも有名だ。これだけでも過酷なのに目立って得られるものが無いとなれば冒険者は寄り付かない。彼らだって金にならない事を追っかけはしないのだ。そしてそのせいで魔物が増え続け、彼ら同士で生存競争を繰り広げてより強者が出来ると言う悪循環が完成している場所でもある。アーロンも巫女に言われなければ訪れることはなかっただろう。


そうしていくらか歩いていると早速魔物たちが小競り合いをしている音が聴こえてくる。

「おい、武器を構えろ。巻き込まれるぞ」

慣れない環境にまだ適応できていないエンリータに声をかけ、自身もグレートソードを構える。

警戒を続けたまま歩いていると砂煙を上げた一行がアーロン達に近づいてくる。

「矢と魔術で牽制する。その後は各個撃破だ」

そう言うや否やアーロンは使い慣れた風の魔術を唱え始め、万が一のことを考えエンリータの前に出て行く。


迫ってくるのはボロボロで逃げる数体のスコルピオ種の魔物とそれを追いかけるヴァイパー種の集団だった。どちらもこの砂漠を代表する魔物の一角でギフトスコルピオとヴェノミナーガだ。ギフトスコルピオは2対の大きな鋏にいくつもの節からなる身体をして、そこから5対の足が地を這うように蠢く。尾の部分は自分の身体の真上へと巻く様にして伸びており、先端には万年筆の軸のような形で人の上半身程のサイズの毒針が揺れている。もはや人相手では刺さっただけで身体は真っ二つなために毒が必要なのかと思うほどだがこの環境では必須だったのだろう。


それを追うヴェノミナーガはヴァイパー種らしくベースが蛇だ。全長は一軒家位なら巻きつけるほどに長く、顔がある部分には大きな毒々しい花が咲き誇り、その中央には人型の本体が生えている。見た目は青い肌をしており、妖艶な体つきの女性なのだが腕が6本生え、どこかで拾ったのだろう剣や尖った骨のような物を握りこむ。胸も6つ着いている為にその歪さは生理的嫌悪を催させる。そして異常に長い真っ赤な舌が飾りのリボンの様にはためいている。目は血走り、顔も醜悪なためにどんな飢えた男でもこれに情欲は湧かないだろう。

「どっち狙えばいいかな?」

流石にこれを前にしてだらけるような真似はしないエンリータがそう尋ねる。

「お前はヴェノミナーガ、ヴァイパー種の方だ。胴体で構わん。俺がスコルピオを止める」

そして唱えていた魔術が大剣の一振りに寄って放たれ、それに追従する様に魔力を纏った矢が2本追従する。


着弾と共に既にボロボロだった数体のスコルピオの身体が真っ二つに裂けて飛び散る。追っていたヴェノミナーガは多少余裕が有った為か急ブレーキをかけて魔術の範囲外で止まる。しかし、そこへ魔術と砂煙に紛れた2本の矢が跳びだして胴体へと刺さる。とはいえこの程度では足止めにもならない。ヴェノミナーガは鬱陶しそうに手で矢を引きぬく。

アーロンはいつもの様に足を回して敵との距離を詰めに掛かる。それを見たヴェノミナーガは口を膨らませ、自慢の毒液で出来た人の頭大の水弾を乱射した。

『風精よ、願うは螺旋、寄せ付けぬ大盾』

アーロンの前に渦を巻く円錐状の風の盾が現れ、直弾コースの攻撃を受け流す。毒が付着した砂は特にこれと言った変化がない為に溶けるものではなさそうだが肌は勿論、粘膜に触れればどうなるか分からない。特にヴェノミナーガは個体によって使う毒種が違うらしく正しい血清の使用ないしは魔術の行使が難しい。アーロンもいくつか血清は持ち合わせているが一見で見抜けない様子では気休めにしかならないだろう。


そうして風の魔術で無理やりに敵に攻撃を突破し、肉薄したアーロンは大剣を振りかぶり、敵の身体を両断せんと振り抜く。しかし、そこは鍛えられた魔物、素早く身体をひねり回避すると自身の上半身をこちらに向けてカウンター攻撃を行ってくる。

アーロンは素早く武器を引き戻し、3対の腕からなされる波状攻撃を丁寧に捌いて行く。その際に、敵が持っている武器は品質が良くないのが手から伝わる感触で分かる。所詮は拾い物、ヴェノミナーガにやられる人物の武器しか持てない為に本体のスペックに追いついていない。ならば破壊も容易く、脅威は範囲だけだ。また、種族の特徴としてどちらかと言えば上半身のみで戦いたがる傾向がある為に警戒は少し下がる。


アーロンが攻撃を捌ききり、少し後方に跳べば慣れた風切り音が後方から放たれ、今度はヴェノミナーガの人間体の腹部に矢が刺さる。

そして一瞬怯んだ隙を縫って再びアーロンが踏み込み、今度はしっかりと敵の身体を切り裂いていく。シンプルながらアーロンと言う堅実な前衛がいることで敵のヘイトを集めながらアーロンの重い一撃とエンリータの削りによってしっかりとダメージを稼ぐ完成されたコンボであり、アウローラで散々磨いた技術であった。


そして危なげなく最後はアーロンがヴェノミナーガの花から上を切り離し、エンリータが頭部を撃ち抜いたことで戦闘は終わった。しかし、問題は戦闘が終わった後だった。

「ん?ねぇアーロン、遠くでまた砂塵上がってない?」

アルカの上で周囲を見渡したエンリータが少しばかり上ずった声を出す。

「・・・まぁ、実質平原だからな、良く見えたんだろう」

出来るだけ落ち着いてアーロンも返事をするが嫌な予感が頭を巡る。今、2人が立っている場所を目掛けて挟み込むようにして砂塵の波が遠目にだが押し寄せて来るのが見える。

ヴァーニタス砂漠は魔物同士が頻繁に生存権を掛けて争う場所でもある。長い歴史の中で砂塵が上がる、戦闘が行われている、それを見た好戦的な魔物が駆けつける、そして更にそれを見た魔物がまた集まると言うサイクルが此処では多発しているのだ。そして今回はそもそも魔物同士の戦闘が有ってからの戦闘である。よその魔物が集まる理由としては充分だった。

「走るぞ、お前はアルカのケツを叩け。お前が走るよりは速い」

そう言うとアーロンはアルカに預けてある荷物をいくらか自分で背負うと自身に魔術を掛けて駆け出す。魔物が倒せない訳ではないが様々な毒が雨の様に降り注ぐ乱戦などわざわざ巻き込まれてやる理由はない。当然、逃走一択である。そうして2人と1匹は夜逃げでもするかのように砂塵の向こうへと姿を消すのだった。

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