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アーロン  作者: ラー
三章

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八話

アーロン達は気が付くと山道の入り口付近、街の結界を越えたところに立っていた。魔力にでも酔ったのか少しばかり足元が浮いているような感覚がするがおおむね支障はない。

「飛ばされたのか・・・この魔力量はエーベルトにも引けを取らないぞ」

見えている近距離ならともかく離れた場所に2人も送るのは常識を十分に外れていると言える。なるほど天龍に守られ、遠見、予言の巫女とでも言うべきか、いずれにせよ人知を超えた事が出来る人物はやはりどこかずれている。

「おい、ずっと無言だったが無事か?」

あの祭壇に入ってから声どころか気配すらも感じさせなかったエンリータを心配して声をかける。

 「・・・・・」

彼女は未だ虚空を見つめ、半開きの口は間抜けとしか言えない。

「・・・フン」

ゴチンという音が彼女の頭から響く。

「イッタァァァァァ!?へ、な、何事!?」

頭を押さえ、ゴロゴロと地面を転がる。どうやら痛みで正気に返ることが出来たらしい。

「阿呆が、帰るぞ、このままだと街で野宿だ」

「へ?て、あの人は?龍は?てかワタシ生きてる?」

強く叩きすぎただろうか、記憶が混同しているらしい。そんな彼女に溜息を吐きながらアーロンは街の方に引き返す。


宿に向かいながら慌てているエンリータに恐らく彼女が記憶が飛んだであろう段階からの話をおおざっぱにして終わる頃には2人は宿に着いていた。思ったよりも過酷だった山登りに龍との遭遇と言う未知に触れたこともあり、流石に肉体も精神も疲れ切っていた2人はほどほどに食事を終えて床に着いた。


翌日、思ったよりも事が速く終わってしまい、次の船が出るまでそれなりに余暇が出来てしまいアーロンはどうした物かと宿のベッドで頭をひねる。勿論、彼らは冒険者、定住でもない為に日々の仕事など無く、金が無くなったら仕事を探し、稼げば派手に使うことも珍しくない。いわゆる根無し草の宵越し持たずである。その為、本来であれば時間の使い方はある意味でうまい。と言うより無為、無駄な時間の過ごし方が上手いだろうか。命さえかければ普通の仕事よりは金を稼ぎやすいのだから当然そのストレスの解消方法はいくつも持っているものだ。逆に働きたくなくて数日宿で寝続けるやつも珍しくない。しかし、アーロンは冒険者にしては珍しく、何の仕事もせず、ゴロゴロし続けるのが苦手な人種だった。幼少期はスラムで必死に生き、冒険者になっても強くなれるまで必死だったために休みは最低限しかとらなかった。遊びも娼館や賭場などを筆頭に色々試してみたがあまり肌に合わず、しいて言えば精々酒位である。そのためにこの男、残り5日程、どう過ごしたものかと頭を悩ましているのである。反面、エンリータは朝からこの街の観光に乗り出したらしく、既に宿に姿はない。遊びの1つもまともに出来ない28歳とは違い、風の子であるミクロス族は好奇心のままに何日でも簡単につぶすし暇などと言うのは彼らに存在しない。


「どうするか・・・」

遂に頭の中の言葉が口から洩れる。そんな事を考えてから行動しようと言うのだから何時までたっても自由な時間が過ごせないという事に気付けない。それからウンウンと頭を悩ませるも良案は浮かばず、アーロンは盗まれると困る物を宿に預けると腰にファルシオンだけを履いてギルドを目指す。やはり最終的に仕事場に向かうその姿は不思議と家にいるのがつらいと言う旦那たちの背中に似ていた。


「相変わらず狭いな」

街の中心部、噴水が鎮座し、周囲を島民が和やかに過ごす区域を抜け、少しばかり外れた所にこの島のギルド支部はある。もはやただの一軒家で扉にギルドの紋章が付いているからギルドであるのが辛うじて分かると言った所だろうか。

アーロンは狭さ以外特に気にすることなく扉を開いて中に入っていく。中は一応ギルドとしての体裁を保つためか掲示板やカウンターはしっかりと設置されており、一角には机と椅子もある。しかし、掲示板は一般的な家庭の机よりも小さいし、よく見れば街の便利屋ですとでも言いたげな依頼が張り付けてあるだけだ。猫の御守りに、家畜の世話、街の掃除と冒険者らしさはあまりない。辛うじて採取の依頼がいくつかあるくらいで討伐はあまりないようだ。そもそも結界で街が守られているからだろうかそれほど冒険者が求められてはいないようだ。その上、巫女がいる方の山は此処で活動していてはそのランクになるのは難しく、逆にそのランクならもっといい場所がある。一応、別の探索場所があるのは知っているが採取以外ではあまり用事がないのである意味、冒険者としては終わった場所だ。それでも出戻りの冒険者も居るのだろうし、そう言う人にとっては故郷の人間をいざという時には守れて一般人には危険な採取も出来るためにうまくやれているのかもしれない。ちょうど今は誰も居ないのか、そもそも人が少ないからかギルド内は閑散としており、カウンターに居る事務員も肘を付いてうたた寝をこいている。他には神官服を着た老人が椅子に座り、本を読んでいるくらいで他には誰も居ない様に見える。


アーロンは周囲の観察を止めると軽い足取りでカウンターに向かう。流石に誰でも出来そうな仕事を奪うようなことはしたくないが彼にとっては暇を潰せることが何よりも必要だった。

「すまない、少しいいか」

コンコン、カウンターを叩き、眠る男に声をかける。男は鬱陶しそうに呻きながらゆったりと、まるで布団の中であるかのような動きで起き上がり、未だ開かない眼でアーロンを見た。

「ん~見ない顔だね。あぁ他所の人かな?ようこそ何かご用事かな?」

寝起きなのもあるだろうが元来のんびり屋な性格なのだろうやや間延びした声だ。

「あぁ、次に戻る船まで時間があるからな、少しばかり暇を潰せるような依頼はないか探りに来た」

懐からカードを出しながらそう言えばギルドの男は手慣れた手つきで作業を始める。そうしてアーロンの情報を確認し始めたところで止まり、此方の顔を2度、情報をこれまた2度、眠たげな目を皿のようにして眺める。それからいくつかの資料を引っ張って来ては上から下まで眺め、投げ捨てる様に端に置く行為を繰り返した後、男は申し訳なさそうな顔を向けて来る。

「あの、アーロンさん。非常に申し訳ないのですが当ギルド支部にはあなたが単独で受けるような依頼はありません」

口調も変わり、頭まで下げられてしまう。これに困ったのはアーロンの方だ。そもそもアーロンは暇を潰せるものを探しに来たのであって困らせるつもりは微塵もなかった。その為、ないなら仕方ないとため息を吐き、礼の言葉を言おうと男を見直せば彼は額に若干汗を浮かばせている。アーロン本人は気付いていないがそもそも強面で長身なうえ実力と信頼がはっきりとした冒険者が目の前に居るのだ、大手ならいくらでも経験もあろうがこの島国ではあまりない事だった。さらにその男は依頼が無いと知り、不満げにため息を吐いたようにも見えたのだからギルドの男は不況を買ったかと恐怖したのである。それを見て、やや不思議に思いはしたが害をなそうという気配はしない為、アーロンはカードを返してもらいながら船が出発するまでだが適正の依頼があれば宿まで言伝を頼むとだけ伝え、少し重くなった足取りでギルドを出て行った。


「ハズレか・・・」

扉の前で空を見上げる。まだ陽は高く、顔に気持ちのいい日差しが降り注ぐ。目論見が外れ、気落ちした顔を隠さないままアーロンはボウっとした空気を纏い広場の方へと歩き出す。

(しかし、ここ最近落ち着く間もなかった。ならばこれも運命か)

この何一つやることが浮かばない現状から目を背け、いっそのこともともとそう言う定めだったのだと納得させる。そうして大人しく宿で寝て過ごそうかと思った時だった。噴水のある広場に差し掛かった時、その噴水の前に妙な人だかりがある事に気が付いた。というよりはもともとこの辺りに居た人全員が集まっているのかそれなりの規模の集団だ。その視線の先にはどうやら1人の男が立っているようで演説をしているようだ。男は真っ赤な薄手の衣を宣教師らしい服の上に掛けており、額にはシンプルな銀のサークレットを着け、腰よりも長い白髪じみた銀髪をしている。顔は優男な造りだが目つきは鋭く、目には仄暗い闇を携えているようにも見えた。言っている内容は良く有る文言ではある。どうやら天空神の神官だったのか彼らの聖典に沿って、しかしうまい具合にアレンジを加えているようで思わず聞き入りそうになるぐらいには語りが上手い。しかし、演説が進むにつれてやたら他の宗教を落とすような発言が増えたように思う。特に最も大きな宗教である龍神教を落とすような発言だ。そのなかで龍の頂点たる聖龍は神の代行者で確かに存在する大陸の統治者でもある。滅多に出て来るものではないが大陸の均衡が大きく崩れそうになった時は間違いなく降臨する。それは過去の歴史で分かっている事だ。だからそれを貶めるような事はいくら他の宗教でもすることはない。なぜなら龍は畏怖を筆頭に様々な信仰を集めるからだ。実際、天龍に先日あった時はアーロンも平伏してしまいそうだったのをよく覚えている。その龍達の王なのだから民からの反応など考えるまでもないだろう。しかしこの宣教師は更に己を神の子とまで言い始める。

(これは荒れるぞ・・・)

遠くから見ていたアーロンはひっそりとそう思う。当然聞いている民も気分を害した者もいるのか声を荒げる物も出始めているし、憲兵を呼ぶ声も聞こえた。それでも宣教師の態度も言動も変わらず、非常に落ち着いた物腰で淡々とまるですべてが事実であるかのように語り続けるのだ。そうして、中にはアーロンには聞き逃せない言葉がいくつかあった。

(なぜ、あの男は使徒はまだしも神器についても知っている!?いや、使徒にしてもまるで見てきたかのようだ)

そう、男は破壊神の神器の事までも語り、あまつさえエーベルトが関わっているとまで言い放ったのだ。そうしてこの大陸に多くの災厄が降り注ぐとまで言うのだから驚愕するほかなかった。

(不味いな・・・これは渡ったのちに報告しなければならないか。救いは彼を信じる者が今はいない事だ)

今や彼は大法螺吹きとして民に大いに叩かれている。それでも一切姿勢を変えず、声も荒げないのは大したものだろう。そうして、暫くすると幾人かの憲兵が声を張り上げながら民衆を割って彼の前に入る。そうして宣教師の男に詰め寄り連行しようとした瞬間だった。何をしたのかは分からない、しかし彼を連行しようとした憲兵は見えない何かに弾かれる様にして地面を転がる。静寂が周囲を包む。それは当然アーロンも同じだ。

(魔術の行使でもないが魔力も感じない。当然武力を行使したわけでもない・・・何が有った?)

先程まであった怒りの奔流は静まり、足元から迫る様な未知の恐怖が場を支配しているかのようで、唯一変わらないのは宣教師の男だけだ。そうして宣教師の男は何でもない様に集まっていた民を割り、悠々と歩く。それから最後に彼は「神も聖龍も英雄も信じてはいけない。ただ我を崇め、信じよ。このセウェルスを信じるのだ」と言い除けて歩き去ってしまった。しかし本当に最後の僅かな刹那、たまたま目についたのかそれとも必然かアーロンは自身と彼の目が合った様にも感じられた。

また暫く書き留めてから続きを投稿します

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