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アーロン  作者: ラー
三章

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七話

「ふぅ・・・何とかなったな」

自らの後ろ、跳びこんだ入口の方を眺めながらアーロンはため息と共に呟く。死にかけたわけでは無いがどうしても面倒が勝る盤面、それも山登りと合わされば疲労感は充分と言える。

「ハァハァ・・・矢も殆ど無くなっちゃったし、足もパンパンだよ・・・もっと強くならなきゃなぁ」

転がり込みそのまま床に大の字で転がるエンリータは荒い息を吐きながらぼやく。

「魔物は此処には入り込めないのか。運がいい」

後ろでは突然こちらへの興味を無くしたかのように魔物たちは散り散りになっていく。当初の予定では一方からしか魔物が来られない様にして闘いを楽に運ぼうと言う思惑が有った為に聊か拍子抜けではある。

「なんか魔物除けの結界でもあるんじゃないの?山にこれだけ出るのに街に居ないのと同じでさ」

むくりと半身を起こしたエンリータがこちらを見上げる。

「まぁ、そうだろうな・・・この中はあまり傷も目立たない。・・・少しだけ休憩を取るぞ。次が無いとは限らん」

想定よりも魔物に絡まれてしまい時間も多く失ったがそれを気にして焦っては最悪命を落とす。いくら冒険者とは言え無策で挑むのは愚か者だ。幸い、外から魔物は来ないうえ、不思議と空間はほんのりと明るく、進行方向は開けて見晴らしが良い通路だ。もし敵襲が有ればすぐに分かる為に都合も良い。

「そう言えばもう神殿の中なのかなぁ」

休憩も終わり、歩き始めたエンリータが何気なく呟く。

「多分な。しかし、人の気配も全くしない。それなのに埃の1つも見当たらないと言うのは不思議だ」

周囲を見渡せば手入れをされているようには見えないのに手入れされていると言った感じなのである。それに神殿、それも巫女がいる場所なのだから警備の人間が入り口に居てもいいはずだ。

「あ、また階段だ」

少し先を歩くエンリータの声が聞こえる。

「この階段を登りきれば流石に山頂だろう」

そう言いながらアーロンは視線を上に向ける。


入り口からここまでは少しばかりなだらかな坂が続く一本道で今、2人の前には幅広で石造りの階段が天を突く様に築かれている。壁際には発光する鉱石を閉じ込めた燭台が等間隔に並べられており、まさに神殿と言った様相だ。また、どこか神聖さを感じさせる風がそよそよと流れ込み、身が引き締まる思いがする。


そうして、2人は黙々と階段を登り切ると目の前に大きな扉が現れる。扉は階段と同じ材質で翡翠色だ。表面には見事な絵が彫られ、特に天を舞う龍の彫刻は圧巻と言える。下の方で祈りを捧げる民たちの前に居るのは歴代の巫女だろうか?何らかの歴史を描いたものなのだろうがアーロンにその知識がない為に詳しい事は掴めない。

「また、凄い扉だね・・・」

首を真上に向けてエンリータが仰ぎ見る。

「・・・これはどうしたらいいんだ?」

扉は非常に見事の一言なのだがいわゆる取手のような物が見当たらない。しかし、扉の造りからすれば外開きだ。尤も、取手が有っても当然重い事もあって引けると断言はできない。運が悪ければアーロン一人の力では開かないかもしれない。

「ん~周りにも何もないよ」

エンリータもきょろきょろと周囲を見渡すがくぐり戸のような物もない。


ここまで来て手詰まりになるかとため息を吐きそうになった時、ゴゴゴゴと地が揺れ、石が引きずられる音がしたと思えば目の前の扉が独りでに開き始める。

それを見て、思わず警戒心を剥き出しに大剣を構え、目の前で弓を構えるエンリータの前に跳びだす。そして扉は完全に開かれたがそこには誰も居ない。ただ通路の先には広いホールのような物が見え、その更に奥には薄緑色の衣装を見た人がぼんやりと見える。

「・・・行くか」

暫く動かず様子を窺ったが特に変化はない。ただ、呼ばれているような感覚に身を包まれる。また、扉が開かれてから吹いていた空気が重く、苦しい物になったようにも思える。それでも行かないなどと言う選択は取れず、エンリータを庇い切れる位置で歩を進める。


カツンカツンと先程よりも高い音が空間を反響する。そしてホールの入り口に辿りつくと内部の様子がくっきりと見える様になった。

部屋の中央には人工的に作られた穴が広がっており、その周囲をコロッセオの様に石段が囲む。その真上、宙づりにされた大きな石だろうか、よくわからない何かが祀られる様に浮かぶ。周囲はドームの様に円形になっているようで天辺からは太陽光が降り注ぎ、尚且つ何かを通しているのか柔らかい緑色に変化している。そして部屋の最奥、横幅いっぱいに広がる階段の麓、そこに彼女はいた。


背丈は子供と大人の中間と言った頃のように思えるがどちらかと言えば幼い雰囲気が勝る。全身を薄い衣を何枚も重ねた様な、ゆったりとした服を着ていることから起伏は目立たないが大人とは思えなかった。薄い茶髪を首の中間程で切りそろえており柔らかい印象を与える。顔もあどけなさが残り、目元が下がっている為に柔和な顔立ちだ。額にはサークレットに付けられた宝石が佇んでいる。

だがアーロンは巫女よりも気になるものがあり過ぎて気を回す余裕はなかった。


巫女のさらに奥、階段を登った先に1匹の生物が王の様に座り、こちらを見下ろしていたからである。

それは白みがかった緑色の龍だった。蛇のような細長い胴体、背には馬のような鬣が風と本人の鼓動で揺れる。よく見れば4本の手足があり、そのうちの2本で立っている。顔はやや縦長だが100人が100人共に龍と答えるだろう威厳のある風貌をしており、真っ赤な竜眼がジッとこちらを見ている。


ここにきてアーロンは山の麓から感じていた神聖な風、そして平伏したくなるような雰囲気はこの龍のものだったのだと確信する。なるほど、こんな存在がいるのでは本能に生きる魔物が神殿に近寄るはずもない。

全身からぶわっと脂汗が流れる。目は開き、呼吸も荒いように思う。耳にまで心臓の鼓動が聴こえ足は半歩後ろに下がった。今やエンリータがどうしているかを確認することも頭になかった。

(この威圧感、それにあの風貌からすれば3聖龍の天龍か?もはや完全に人知を超えている。なぜ、こんなものが此処にいるんだ!?)

余りの威容に暫し、呑まれていると突然声がかかった。

「よく来たなアーロンにエンリータよ。恐れることはない、近くに来るがいい」

何か特殊な力でも使ったのだろうか、風に乗って声が直接届けられると同時に固まっていた体と精神がほぐれる。聞こえてきた声は見た目通り幼いが喋りはどこか老成した人間の雰囲気を感じた。

「・・・行くぞ」

かぶりを振って、若干震えた声で呟くとアーロンは真っすぐと巫女を見ながら足を動かす。

(恐れるな、龍とは言っても敵意は感じない。そもそも歯牙にもかけないはずだ。なら問題はない)

心の中で自身を励ましながらアーロンは巫女の前に立った。すると巫女は微笑とも無表情ともとれる不思議な面持ちのまま口を開く。


「我は今代の風の守護者にして遠見と宿命の導き手、エルムである。汝らが此処へ来るのは知っていた。アーロン、さらなる力を望むと言うならば汝の先を示そう」

両手を開き、背に龍を立たせ、感情の見えぬ眼でこちらをジッと見つめながら風の巫女、エルムは淡々と喋る。

(どうしたもんか・・・)

アーロンは彼女の顔を見ながら思案する。状況は良く分かってはいない。出来るならば問いただしたい事は数多ある。しかし、彼女が主導権を握っている上に「いや、ちょっと待てくれ」などと言える雰囲気ではない。その上、改めて龍の方へと視線を向ければ彼が巫女を守る様にしているのも気になる。そうして頭を必死に回そうとしていると再び声をかけられる。

「汝、恐れるなかれ。未開と混沌を進むならば臆してはならない。いつの時代も前に行く者のみがすべてを手にする」

(未開と混沌?・・・何かの啓示か?教えるならばはっきりと言えばいいものを・・・とはいえ遠見が臆するなと言うならば引くは悪手か・・・)

「分かった、なら俺が今より強くなるにはどうすればいいか教えてくれ」

頭をガシガシと掻きながらアーロンはエルムにそう告げた。


「告げる、汝、力求るならばソウルを昇華せよ。そして新たな信仰を得よ。加えて告げよう、汝の器は英雄にあらず。故に器を変えねばならぬ。アーロン、砂漠の遺骸、その最奥へ迎え。そこで偉大にして古き者の試練を越え、碑に触れよ」

(ソウルの昇華に器を変える?新たな信仰というのも意味が分からないな・・・)

昇華と言うのだから何か成長を表しているのだろうが当然、そんな話は聞いたことが無い。そして器と言うのもよく分からないがエーベルトを筆頭に英雄と呼ばれる存在は確かに次元が違う。なら、その差が器とソウルの昇華の有無だとでもいうのだろうか。そもそも後天的に器とやらを変えることなどそもそも可能なのだろうか。様々な疑問が膨らむが明解な答えは出ないだろう。

「エンリータ、汝は未だ満たされず。器を満たし、更に力を求るならば再び訪れよ」

アーロンが思考の渦に呑まれている間にエンリータも話しかけられていたがどうやら彼女はまだらしい。ならばやはり器は一定の水準以上の力を保持しているかの見極めなのだろう。

(これ以上考えても仕方あるまい。さて、かなり落ち着かないが泊まる場所がないか聞くか)

アーロンが思考を切り、再び沈黙を保っているエルムにどこか泊まっていいか聞こうとした瞬間、先んじて彼女が口を開く。

「道は示された、行くが良い。再び道が闇に閉ざされたならば訪れよ」

彼女が言い終わるとアーロン達の身体が発光し始め、宙に浮くような感覚に全身が包まれる。そうして一切の抵抗も敵わず2人の意識は途切れるのだった。

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