五話
宴会を終えた日から一日目を完全に休みに当てて気力と体力を回復させた次の日、3人はひとまずカリステオンのギルドを目指す。
「ギルドに着いたら俺は用事を済ませに行く。エンリータ、お前はマリアベルの冒険者登録を手伝ってやれ」
そう言って彼女に小さく合図を送る。今は一緒に行動しているがマリアベルはアーロン達が受けている神器の依頼を知らない。付け加えて意味もなく人員が増えるのは好ましくない為に一旦、離れて行動がしたかった。
「うん、わかった」
彼女も少しだけ顔を引き締めて返事をしてくれる。この辺りはそれなりに一緒にいた経験が上手く効く。
そうして3人は雑談をしながら人波を掻き分け、ギルドの正面に辿りつく。
「さっすが本部って言うだけはあるね!今までで一番大きい!」
テンションを上げたエンリータが飛び跳ねながら感嘆の声を漏らす。その横ではマリアベルが目を少し開き、エンリータと同じようにその大きさに驚いているようだった。
ギルドは小さな城程の規模をした建物で1つの広場の真ん中を陣取る様にして建っている。高さは周囲の建物の3倍から4倍はあり、横幅や奥行きは比べるのも億劫だ。正面には大きな門が開かれており、今も数多くの冒険者が出入りしている。周辺には冒険者をターゲットにした出店が立ち並び、かなり雑多としている。反面、あまり一般市民の姿は多くなく、カリステオンならではの景色と言えるも知れない。
「ほら、行くぞ。逸れるなよ」
そう言うとアーロンは入り口に2人を引き連れていった。
中に入ると天井はかなり高く、豪奢なシャンデリアがいくつも吊るされている。流石に汚れてしまうからかカーペットは敷かれてはいないが壁にも装飾や置物がされており、荒くれものの集い場としてはかなり雰囲気が良い。大きなガラスの窓もあり、解放されたそこからは換気も十分にされて冒険者特有の臭いはかなり緩和されているようにも思える。
正面には案内を兼ねた受付が設置され、それを囲むようにして階段があり上層に繋がっている。また、1階と2階の間、受付の奥には更に空間があるのが見え、その先には大きな空間が広がっているのが分かる。受付前の左右の道にもそれぞれ何らかの施設に繋がっており、立て看板がいくつか設置されて案内が書かれている。
「いいか、お前たちは2階に上がれ。そこで登録が出来る。看板と人波に着いて行けば問題ないはずだ。あぁ、もし面倒なのに絡まれても絶対に先に手を出すなよ、面倒だからな」
本部でやらかす様なのは少ないが見た目がただの少女で強そうには見えない2人だ、絡まれないとは言い難い。
「大丈夫だって、ちゃんとしてくるよ!終わったらどこに集まればいいかな?」
彼女は自信ありげに胸を軽く叩く。
「そうだな、終わったらあの受付奥の酒場で合流だ。多分、お前たちの方が先に終わるはずだ、適当に過ごしていてくれ」
「了解!じゃぁまたあとでね!マリア、早く行こう!」
そう言うとエンリータはまだ周囲を物珍し気に眺めていたマリアベルの手を引いて階段を登って行った。
それを見届けたアーロンはまず、正面の案内カウンターに向かう。アウローラと同じように依頼カウンターからでも出来なくはないがここは本部。当然人が多く、辿りつくのにも時間がかかる上にその人間が他のカウンターなどで業務中だった際に非常に面倒になる。それならば案内カウンターで繋いでもらった方がお互いに楽だ。
「すまない、良いだろうか」
幸い、案内カウンターは冒険者が立ち寄らないために人が少ない。そのお蔭で少しばかり暇そうにしていた受付嬢に声をかける。
「はい、どうかしましたか?」
実に訓練されたような愛想のいい顔が向けられる。
「すまないがライラと言うギルド員は居るか?もし居るなら早急に取り次いで欲しい」
そう言いながら自分の冒険者カードを渡す。
「確認しますね・・・え、」
渡されたカードを魔道具に入れて情報を見だした受付嬢は一瞬動揺するが直ぐに顔を引き締めて作業を続ける。
普通冒険者ならば初めて来た冒険者か初心者位しか使わないにも関わらず突然ランク7の冒険者が来れば思わず疑問を浮かべてしまうのも仕方ないかも知れない。
「少々お待ちください」
それでも動揺は一瞬だけで呼び出すためか受付嬢は裏手に消えていく。
暫く暇をつぶしていると先に受付嬢が戻って来てアーロンにもう少しだけ待つように告げる。それから更に待っていると上階から綺麗な橙色の髪の制服姿をした長身の女が下りてくる。
「やぁ、君がアーロンだね、私はライラ。会えて光栄だよ」
どこか歌劇めいた喋り方で近寄ってくる。アーロンは少しばかり変人なのではと思う心を押さえながら返事をする。
「あぁ、そうだ。で、どうするんだ」
この手の人間に好きに喋らせてはいけないと思い、話を進める。
「そうだね、着いて来てくれたまえよ!」
彼女はそう言うと身を翻し、階段へと向かって行った。
そうしてアーロンは個室に連れられ、席に着く。
「さて、まずは無事に辿りついてくれて感謝するよ。とはいっても君位強ければ余計だったかな?」
「いや、構わん。それよりもいくつか報告と聴きたい事がある」
「ふむ、幸い時間はあるからね、いくらでもどうぞ」
そう言われアーロンはまず、マリアベルと会った村の話、主にソウルコレクターと暗殺教団らしき存在の報告をつらつらと告げる。
「なるほど・・・結構面倒な話だね。わかった、こちらで村については依頼を出してみよう。それとソウルコレクターとやらの周知もね」
聞きながら報告書を作成していたライラは顔を上げて一応の許可を求める。
そうして一通りの報告を終えて聞きたい事について尋ねる。
「そうだ、すまないがイナニスへの便が次何時出るか分かるか?」
「イナニスかい?運がいいね、確か3日後には出るはずだ。詳しくは直接聞いた方が良いだろうけどね」
幸先がいい返事が聞ける。
舟は動かすのに当然多数の人間と金が掛かる。その上で海の魔物にも警戒しなければならない為にあまり頻繁には出ない。それこそ一旦行き帰りをしたら次の船が半年待ちという事もある。最も大きな商船や富豪の船に乗れればその限りではないがその場合何かしらの依頼を振られることや船を漕ぐ作業に巻き込まれることもあるので一般的な連絡船が一番気楽なうえ安く行ける。その上、一応魔物や海賊が現れた時に戦う事をアーロンの実力で表明しておけば割引もしてくれる。
「分かった、だとすればそれで渡って往復の船で帰ることになるな。それと何か依頼主は言っていたか?」
依頼を受けてからそれなりに時間が経ったならば新しい情報があるかもしれない。
「うむ、あるぞ。・・・ただ、あまり良くはない話だな」
そうして少しばかり気難しい顔で告げられたのは新たな使徒と神器の情報だった。
彼女の話をまとめると確実ではないがエマスティティと言われる女使徒がイリシィオ小国付近の村を焼き払ったらしい。現場に残った使徒の残滓と凄惨な状況だったことからそう判断されたようだ。そして彼女の目的は彼女自身の神器、『全能の仮面』で元々封印されていた別の場所から無くなっている為に誰かが持っているらしい。
エマスティティは魔に優れた魔法使いであり、また魔物使いでもあるらしく異次元から無限と思えるほどの自作の魔物を繰り出しながら自身は後方から魔法でもって攻め立てて来るらしい。
「・・・現状の俺ではあったら死ぬ以外無さそうなおっかなさだな。わかった、こんなものか。他にはないな?」
「そうだね、まぁ何かあればいつでも呼び出してくれて構わない。一応君たちが次の場所に行かない限りは専属のような扱いになるからね」
「そうなのか、流石は本部、人は多いらしい」
そう言いながら腰を上げる。
そうしてライラとはそこで分かれて集合場所へとアーロンは向かう。
(あとで改めて聞きに行くが旅立ちは3日後、ならそれまでにマリアベルの仲間を発見したいところだな。出来るだけまともな人格で旅をするグループの方が良いだろう)
彼女の最終目標からすれば旅は必須ともいえるだろう。勿論ここのダンジョンで力を蓄えるのも手だが何となくあの少女にダンジョンは向いていない様にも思えた。
「富も名声も気にしそうにはないからな・・・」
そう独り言をしながら階段を下り、待っているだろうギルドの食堂へと足を踏み入れる
中はかなり広いホールになっており、少しばかりこぎれいな酒場と言った様相だった。席は大よそ半分強が埋まっており、皆思い思いに過ごしているようだ。
(さて、どこにいるか・・・?)
アーロンが席の間を掻き分けながら探すと左端の方に探し人が2人話しているのが目に入る。
「待たせたな」
直ぐに近づき、席に座る。
「あ、お疲れアーロン。どうだった?」
机に肘を付いたエンリータが顔を向けて来る。
「問題ない、後で伝える。マリアベルはちゃんと登録出来たか?」
「はい!ちゃんと出来ました!これで私も冒険者です!」
彼女は出来立てのカードを見せて来る。
「なら後はお前の仲間探しだな」
アーロンがそう言うとポカンとした表情の後、ハッとしたような顔をマリアベルはする。
「そうでした・・・でもどうやって見つけたらいいんでしょうか?」
彼女は思案顔を浮かべる。
「あ、そっか、マリアはここでお別れかぁ・・・なんだか寂しいね」
エンリータは眉を下げる。
「流石に俺たちに着いて来るには厳しい上に俺たちは正直ソウルコレクターの討伐は目標足りえないからな・・・まぁ、同じ冒険者また会うこともある。名を上げれば噂で聞くこともあるだろう」
そう言えば少しは気が晴れたのか「そうだね!」と元気な声が反ってくる。
「さて、ならまずは船の日時だけでも聞きに行くか」
そう言いアーロンが腰を上げた時だった。
「・・・すまない、少し良いだろうか」
背後から声をかけられて中腰で振り向く。
そこには、マリアベルの村に行く前に出会ったあの暗殺者らしき青年が立っていた。
声をかけられた後、エンリータが大きな反応をしたり、マリアベルが「アリウス!?」と恐らく彼の名前を叫んだりと周囲の注目を一瞬集め、てんやわんやする。変な警戒の仕方をしたエンリータを宥め、オロオロするマリアベルとアリウスと呼ばれた青年を落ち着け、すわ揉め事かと見て来る野次馬に手を振り、場を落ち着けて4人で席に座る。
「さて、あの時の男だな。何の様だ?」
アリウスからは特に敵意のような物は感じなかったが流石に疑わしい為に一応の警戒を含ませて尋ねる。
「あぁ、先に名乗ろう。俺はアリウス。彼女、マリアベルとは幼馴染・・・のような物だ。それとあの時はすまない」
と謝罪をされる。それと同時に小声で「すまないが例の件については黙っていてくれと」ひっそりと頼まれる。
「えっと、あのアリウスはとってもいい人で私も良く助けられたんです!あ、そう言えばアリウスは無事だったんですね・・・よかった」
アーロン達が警戒しているのが分かるのかマリアベルも彼を援護する様にワタワタと喋る。
「ん~ん、まぁマリアがそう言うなら大丈夫なのかなぁ・・・?」
早速純粋なミクロスが1人警戒を薄れさせ飲み込まれる。
「はぁ、まぁ良いだろう。で、繰り返すが何の用だ?」
「あぁ、実はさっきマリアが冒険者登録しているのをたまたま見かけてな、だからもし可能ならパーティに入れてもらえないか聞きたいんだ」
アリウスは瞳の奥に少しばかり怯え、いや恐怖だろうか少なくとも負の感情を交えた真剣な顔つきで懇願してくる。
「え、アリウスがパーティになってくれるのですか!?」
彼の言葉を聞いたマリアは驚いた表情で彼に問いかける。
それから、アーロン達のこれからの目的をぼかしながら、マリアベルとはここで離れる事を説明する。
「そうか・・・ならマリア、良ければ俺と組んでもらえないだろうか?」
そう彼女に直接問いかける。
エンリータはまだ若干の不信感はあるがアーロン的にはそこまで悪くない様にも思える。2人はもともと知り合いの様だし、マリアを見るアリウスの目と声は親愛の感情が感じられる。それに、アーロン達が今から彼女に合う人間を見つけるのは難しいのも現実。それならば多少の不信感はあるがマリアベル自身が信頼を寄せている彼に任せるのも悪くはない。
「えっと、あ、あの私は別にいいんですけど・・・」
マリアベルは助けを求める様にちらちらとアーロンを見やる。
「ふぅ・・・お前の好きにしろ」
最終的には彼女の仲間になるのでアーロンは投げやりに返事をした。
結局、彼らはパーティを組むことになった。実力はあるが冒険者としての知識が足りないマリアベルと暗殺者という暗い過去は有るもののその分人の悪意などにも対応できるアリウスは相性がいい。何より彼はここまで1人で旅をしてアーロン達を見つけたのだから冒険者としても安定するだろう。
その後、一応新パーティが決まった祝いにギルドの食堂で軽く飯と祝杯を挙げてから4人は夕方の空を眺めながらギルドを出て行った。




