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アーロン  作者: ラー
三章

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34/255

一話

また少しずつ書いていこうと思います。

「世話になったな」

雪も解けて街に流れる風も暖かくなり、もうそろそろ大地に草花が顔を出し始めるだろうという季節にもなった頃、アーロンは足を運び慣れたギルドの一室でこれまた飽きる程見慣れた顔に礼を口にする。

 冬に入る前に受けた最後の依頼でボロボロになってしまった身体も十分に休ませたことで快癒した。最も大半は自身の魔力暴走によるものだったためにゆったりと時間と健康的な生活さえすれば回復するものであったのも要因だろう。

 鎧などは流石に元々のスペックの物を用意することは素材的にも金銭的にも難しく、また持っていた物資を一通り失ってしまった為に精々が中堅より少し上程度の装備しか整わなかったが旅をするだけなら問題はないと言える。外套なども真新しい物を購入したために以前のように浮浪者一歩手前からは脱しており、ある意味以前よりも上級冒険者らしい見た目になった。

 「いや、こちらも面倒な依頼をこなしてもらったしね、お互いさまと言う奴さ」

 どこか胡散臭さが混じった顔を浮かべながらメルクリオは楽しそうに言葉を返す。実際、アーロンの傷がある程度治ってからはこれ幸いとでも言いたげに面倒な依頼を散々振って来たのは事実であり、冬にも関らず頻繁に外に駆り出されたのは記憶に新しい。もっともそのお蔭で資金も稼げたうえに身体も衰えてしまう事は無かった。・・・振りまわされたエンリータは良く愚痴を溢していたが。

「それにしても君たちももう旅立ちかぁ、次はリーベタース連邦まで行くんだろ?」

「そうだな、そこから船で巫女の居る場所まで行く予定だ。その後はわからないがな」

 エーベルトからの伝言に従う形になるが現状他の神器の情報はなく、急ぎの用事はない。それと同時に前回の戦いで自身の力の限界を超える必要にかられたこともある為にそのヒントを与えてくれるのであればアーロン個人にとっても良い事だ。

 「あぁ、そうだこの手紙をカリステオンのギルドでライラって女に渡しておくれ。そうすればボクの様に協力してくれるさ」渡された蜜蝋で確りと封のされた手紙を受け取り懐に入れる。

 「さて、旅立つ冒険者をあまり引き留めるのも良くないかな。アーロン、気を付けていくんだよ。エンリータちゃんも元気でね」

メルクリオは立ち上がり簡潔に別れを済ませる。

「うん、メルクリオさんもお元気で」

ここで初めて声をかけられたエンリータも既に立ち上がっていたアーロンの横に並び、笑顔で別れを告げる。

 エンリータはアウローラに留まっていた期間に数多くの依頼をこなした。アーロンが不調の間は市街の依頼と王国周辺でソロの依頼をこなし続けて冒険者としての経験をグッと高めた。勿論無傷では無かったが失敗してもすぐさまに一流であるアーロンに質問が出来る状況は環境として最高であり、尚且つ現場では自分で考え、行動し続けたおかげで初心者という看板は完全に剝れた。アーロンの傷が治ってからは一緒にソロでは彼女にとって難易度の高い依頼もこなしきった。そしてソロとペアの功績がギルドに正式に認められ、この間、遂にランクが4にまで上がり、暗神の加護も3階位にまで伸ばしきった。このランクまで来れば一人前の冒険者として認められたといっても勘違いではない。今のエンリータであれば以前苦戦したハルピュイアやマグバクス級なら簡単ではないだろうが相性次第ではソロでも討伐が出来るだろう。装備も一通り格を上げており、風格も出て来るだろうか。・・・本人がミクロス族の中でもより童顔なためにもしかしたら難しいかもしれないが。

 別れが済んだ2人はその足でアウローラ王国の門を潜り外に出る。街道の雪はそれなりに溶けて馬車も通れるようにはなったが人通りが少ない所や山のうえにはまだ雪化粧が残る。

 「ん~!それにしても長旅は久しぶりだねぇ!」

王国を出て街道を歩き始めたエンリータがどこか愉し気に話しかけてくる。

 「そうだな、おまけに今回は山場もない。すこしは楽に行けるだろう」

 リーベタース連邦までは平原が広がるなだらかな道が多い。街道の近くには村も多く、行商人も多く行きかうためにアウローラに来た時と比べれば道のりは楽だろう。それでもここから30日は軽くかかる為に連邦の国境に入る頃には花が咲き始めているかもしれない。

 「でも結構トラブルも多いって聞くよ?」

 彼女が言う通り人が多ければその分人のトラブルが増える。特に行商人が増えるという事は野盗も増えるという事だ。勿論、雇われの冒険者が護衛もするが大規模な野盗なら為す術はないし、国の兵士も報告があれば出向くがその場合はたいてい中規模以下の野盗の速度には流石に敵わない。つまるところ見晴らしのいいこの街道は野盗にとっても都合が良い場所でもある。国も、街道沿いにある村のために対策はしているし、村ごとに守りを固めているがどうしてもこぼれてしまう事がある。

 「まぁな、しかしその事を気にしても仕方がない。それに俺たちは比較的狙われにくいだろう」

傍目には金目の物を持っていなさそうに見える2人である。野盗もわざわざリスクを冒して得の少ない獲物を狙う事は少ない。もし居るとすれば素人か相当切羽詰まった集まりだろう。もっとも数が恐ろしいだけで野盗に身を落とす人間に負けてやるほど弱くないと言うのも現実だが。

 「それもそっか。そういえば連邦にはギルドの本部があるんだっけ?」

 やはり久しぶりの旅だからかいつもより少しばかり気分が良いらしく、話は終わらない。

 「あぁ、正確にはカリステオンにあるな。お前もようやくいっぱしの冒険者だ、あそこで顔を売っておくのもいいだろう」

 カリステオンにある冒険者ギルド本部は他のどこよりも規模が大きく、当然ながら同業者が多く集まる。また国そのものが自由都市をうたっており、市民権が簡単に得られるわけでは無いが自由民という扱いは誰でも受けられるために本部のあるカリステオンに本拠地を置く冒険者は多く、国自体も冒険者の戦力を頼りに発展してきた背景がある。また、連邦国はダンジョンがもっとも多い地域である。ダンジョンは遺跡と違い、人が嘗て建てた建造物が何らかの形で変化、もしくは魔物が住みついたのでなく突然大地から現れる。内部はダンジョンごとに大きく異なり、難易度にも大きな差がある。そして一度でも攻略されると一定時間後に崩壊が始まり何も無かったかのように消え失せてしまう。ダンジョン内には当然魔物が生息しており、他にも数多くのトラップが仕掛けられて非常に危険だ。それでも挑む人がいなくならないのはひとえにダンジョン産の宝箱が有るからだ。細い道ではあるが当てれば一財産、死ぬまで金に困らない可能性もある為にその浪漫と未知に魅せられた人々が吸い寄せられるようにダンジョンに向かうのだ。

 「ふーん、因みにアーロンは有名だったりするの?」

話をきいて興味でも出たのかそんなことを聞いてくる。

「一応な。少なくともギルドが俺の名前を知らないってことはないだろう。とはいえダンジョンに潜る人間でもないからな、そこを本業にしているやつらほどではない」

 ダンジョンは少なくともソロで行うものではない。複数人、しいて言えば5,6人は最低条件であり、高い難易度ならば軍を作らなければ難しい。それゆえに名前と顔を売ることがカリステオンでは重要なのだ。つまるところ危険な所に行くのに良く分からない奴に命は預けられない。だから自分の力を誇示して信用と信頼を得ることが大事だ。外の冒険者とは又少しだけ違う独特なルールというものがカリステオンには有る。

 そんな事を彼女に説明すると完全に理解したわけでは無いが納得はしたようで適当な返事が返ってくる。そうして2人は適度に話をしながら目的へ歩を進めるのだった。


 それから10日ほど歩いた頃、2人は順調に街道を進んでおり、日程的にもそろそろ折り返し地点に当たる、そんな時だった。

「ん?あれなにかな・・・?」

 目を閉じて昼の休憩を取っているアーロンの耳にエンリータの疑問を孕んだ声が聞こえる。

「何が有った?」

片目だけを開けてそう聞いてみれば彼女は首を傾げたまま指で街道を外れた先を指さす。

 指された先を見れば何やら追われる男とそれを追いかける仮面の集団がいた。

「野盗か・・・?いや、それにしては奇妙だな」

 追いかけている仮面の集団は5人程で全員が同じ表情のない茶色の仮面をつけて揃いの黒を基調とした制服を着こんでいる。野盗も仲間であることを示すために同じようなアクセサリーを使う事はあるがそれほど統一感はない。また、逃げている男も追いかけている集団と似た様な制服の為に単なる物取りではなさそうだ。

「どうするの?一応避けられるとは思うけど・・・」

 彼らは街道からは外れている為にこのまま身を隠していれば見つかる事は少ないだろう。しかし、もし集団の方が見つければ間違いなく口封じのために追ってくることは難しくない。

「そうだな、すこし気になることがある。俺は接触してみるがお前はどうする?」

 出来れば関わりたくないがもし、あれが野盗では無く何かしらの目的を持った闇の手の物ならばアーロンには最上位の冒険者として関わる必要もあるだろう。

(最もほぼ確実に暗殺教団だろうが)暗殺教団は歴史の中に定期的に出て来る集団だ。アーロンは学がある訳ではないがそれでも読み書きは当然できるし本を読んだこともある。その中で歴史の闇として暗殺教団と言うものが度々出現する。理念や信仰などは不明だが確かに記録には残されており、それらしき存在は今でも時折話に上がる。そして今回アーロンの視線の先に居るのはそんな暗殺教団によく似ていた。

「アーロンが行くならワタシもいくよ」

 エンリータはそう言うと獲物の弓を引っ張り出し、いつでも打てるようにして走り出す準備を始める。

「良いだろう、なら俺の後からだ。合図したら撃て」

最後にそう声をかけるとアーロンはグレートソードを引き抜くと肩に担ぎ、一気に駆け出す。


 男と集団は男側が逃げるのを諦めたのか追いつかれたのかは分からないが囲まれ、武器を抜き合っている状態だった。雰囲気的には男の技量が高そうに見えるが疲労もあるのだろう圧倒的に不利に見える。

そのまま近づいて行くとまだ射程には入っていなかったが開けた地である為に奇襲は難しく、囲んでいた集団が走ってくるアーロン達の姿に気付き状況が急変する。

「来たら先に撃て。その間に俺が近づく。お前は周囲の警戒だ」

まだ後ろを走るエンリータにそう告げるとアーロンは更に加速していく。

 流石にこれを見逃すわけにはいかないと思ったのか集団は即座に5人の内3人をこちらに向けて来る。しかし、ビュンと言う矢の放たれる音が背から聴こえるとそのうちの1人の仮面を割りながら脳天に矢が刺さる。しかし敵に動揺は見られず、死にゆく仲間に目をくれることもなく残りの2人はアーロンに迫りくる。

「ハァァァァ!」

そして遂に射程に入ると裂帛の気合を持ってアーロンは敵の近くに更に踏み込み、真一文字に剣を振るう。敵は更に加速したアーロンの踏み込みに自分たちのタイミングを完全にずらされてしまい、攻撃に入ろうとした姿勢のまま上下に分かたれてしまう。アーロンはそのまま崩れ落ちていく2人の間を通りぬけ、更に前を睨む。

 前では囲まれていた男が崩れた均衡を利用して残っていた2人を始末していた。やはり実力自体に差が有ったのか追われてきた際に負ったのだろう小傷はあるがアーロンが手を出すまでもなかったかもしれない。

 「さて、一応聞くがお前はどっちだ?」

一見、悪党を殺し終えた状況だが実際の所追われていた男も怪しいと言えば怪しい存在だ。細かい所に衣装の違いを見つけることが出来るがそれでも基本とする場所は変わらずに似た制服だ。実力差を考えるのならば階級の違いとでも言うべきだろうか。

 「・・・・・・」

男は無言でこちらを見ているが敵意自体は感じられない。むしろ恐怖を感じているように思える。両手には短剣が握られてはいるが腕は下ろされて構えることもしていないが手には力が籠っている。顔つきもよく見れば幼い。目に光が無く、生気を感じられないことから大人びても見えたが目鼻立ちが幼くまだ15歳前後と言った所だろう。とはいえこの位なら珍しい物でもない。良い生まれでもなければ早く大人になる事を望まれるものだ。

「だんまりか・・・俺としてもお前とこの集団の素性位は聞きたいんだが」

そう言って息を吐いた瞬間、少年は身体を翻して逃げ去ろうとしてしまう。

「おい、待て!」

声をかけるが当然止まることはなく少年は走り、しまいには魔術で短い距離をテレポートしながら逃げて行ってしまう。

「ハァ・・・仕方ねぇか」

一瞬、追いかけようとは思うが相手の速度が速すぎる上に周囲の死体をそのままにするのも良くない。また、確実にエンリータを置いて行ってしまう。アーロンは消えていく背中を遠い目で見やるのだった。

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