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アーロン  作者: ラー
二章

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33/255

十六話

深い闇の中を彷徨う。一欠けらの明かりすら見えない闇の中、アーロンは宙に浮くような感覚に身をゆだねていた。

(ここはドコだ?)

辛うじて目を開けていると認識こそ出来るが不思議な事に指の一本すら動かすことが出来ない。かといって身体が重い訳でもなければ負傷している訳でもない様に思える。

(そう言えば俺はどうなった・・・?死んだのか?)

思い出すのは自身の最後、朧に覚えているのは落下した際に起きた衝撃とここ最近連れて歩く様になった少女の声だった。

(まぁいい・・・それに瞼が重い・・・)

急激な眠りに誘われてアーロンは再び闇の中に微睡んでいく。


それから数瞬にも永劫にも思える時の後、再び目を覚ます。

(なんだ・・・?妙に明るい)

先程まで闇の中にいた影響か明かりが目に刺さる。

(あれは・・・)

どうやら自身は宙に浮いており、森の中に居るようだった。そして眼下にはエンリータと初めて会った時の光景が映し出されている。

(夢か・・・?)

地に伏しているエンリータ、そして周囲を取り囲む山賊を殺している自分を背後から見ると言う摩訶不思議な光景に目を奪われる。状況は自身の知っている通りに進み、自分が面倒くさそうにエンリータを起こすところで視点が切り替わる。


その後もエンリータと出会ってからの光景が順々に映し出されそれを只眺める。

(結局コレは何なんだ?)

死の間際に見る走馬燈にしては長く、只の夢にしては鮮明すぎる光景に疑問が浮かぶ。

(駄目だ・・・頭が回らん。それにまた瞼が)

頭は霧がかかった様にぼやけ、まともな思考が出来ない。

(一体なんだっていうんだ)

そんな愚痴にもならない事を考えた瞬間、意識が再び途絶え、アーロンは闇に落ちていくのだった。


ボスンッ、そんな音が背後に聴こえアーロンは不意に目を覚ます。

「??なんだ!?」

アーロンは突然落下したかのような衝撃を受けて跳び起きる。

「ハァハァ・・・此処は?」

全身にびっしょりと冷や汗をかき、呼吸が乱れる。心臓も耳に聴こえる程に脈打っており、胸が苦しい。

「生きているのか・・・?」

右手を額に当て、汗をぬぐう。どうやら宿屋、それもアウローラに滞在していた宿屋の一室の様でどこか見覚えのある光景だ。外から入ってくる日差しが部屋の中央にまで伸びておりちょうど昼過ぎと言った所だろうか。部屋の壁には自身のグレートソードが立て掛けられており、その足元にはボロボロになった靴やレギンス等が固められている。対角線にあるベッドには見覚えのある弓矢が有る事から恐らくエンリータも生きているという事だろう。長年愛用している頭陀袋などは見当たらないがなるほどどうやらあの後、ここに運び込まれたらしい。

「本当に生きて帰って来たらしい」

エンリータと自分だけでは帰ってこられるとは到底思えない為にエーベルトが役目を果たしたのちに自分たちをここに連れ帰ってくれたのだろう。そこまで考え、大きく息を吐くとアーロンの全身から力が抜け、ベッドに倒れ込む。

「ハハ、そうか生きているか」

気でも抜けてしまったのか不思議な笑いが腹の底から湧き上がり笑が口を歪ませる。

「そう言えば・・・」

笑いが収まった後、ふとアーロンは自身の身体に一切の痛みが無い事に気が付く。寝起き特有の身体のだるさこそあるが傷の様なものも見当たらず、痛みもない。

「格好も見たことが無いな・・・?」

よく見れば薄手の平民が好んで切る様な簡素な服を着ている。汚れもこれと言って見当たらない辺り新しく購入した物だろう。

「まさかエーベルトがしてくれたか?」

あの英雄に服の世話までさせたかと思うと思わず背筋が寒くなる。しかし、エンリータが全部出来るとは今一思い難い。

「せめてギルドか宿屋の人間がやってくれたと思いたいところだな」

そう考えたところでまだ寝足りないのか睡魔がジワリと這いよる。

(何にせよ、もう少し惰眠を貪っても怒られまい)

知りたい事は未だ多いがやはり緊張も解けたからかアーロンは本能に身を任せ、思考に蓋をして再び眠りにつくのだった。


それから暫く時間が経った後、ゴソゴソという生活音を耳にしたアーロンはまだぼんやりとする意識を覚醒させながら目を開ける。

(エンリータか?)

どれだけ寝ていたかは分からないが部屋に差し込む日差しからそれほど時間が経っていない事が分かる。ゆっくりと上体を起こし、部屋を見やる。するとアーロンの正面のベッドの脇でまだ真新しい旅袋を漁るエンリータの姿が有った。

「ん?あ、アーロン!!良かった~目が覚めたんだね!」

アーロンが起きた際にした音に反応した彼女が顔をこちらに向けて驚愕の後に喜色の顔を浮かべて駆け寄ってくる。

「あぁ、何とかな。どれだけ寝ていた?」

先程起きた際に確認はしていたものの改めて無事な姿を見て心なしか安堵しながら状況の把握に努める。

「えっとねぇ・・・大体3日位かな?それよりも体は大丈夫なの?エーベルトさんが治療はしたって言ってたけど」

やはりエーベルトが治療までしてくれたらしい。

「あぁ、まだ少し節々が固い感じはするがこれならば動けば治るだろう」

アーロンがそう言うとどこかホッとしたような表情でエンリータは息を吐く。

「そっか!なら良かったよ!あの時のアーロン生きてるとは思えなかったから」

「そうか・・・因みにどういう顛末だったのか話せるか?」

大よその推測こそ出来るが可能ならば正確に情報は掴んでおきたい。アーロンはそう考えて口に出す。

「うん、でもアーロンが起きたらギルドに来てほしいってメルクリオさんが言ってたよ」

「あぁ、当然だろうな」

もともとギルドを仲介した依頼でもある。それならばギルドにも当然いって話をしなければならない。

「それで、アーロンが気を失った後、で良いんだよね?」

エンリータの言葉に頷こうとした瞬間だった。グゥゥゥと獣の唸り声の様な音がアーロンの腹から音が響く。

「・・・先に飯でも食うか」

何ともタイミングが悪く、締まりのない胃袋にため息を吐きながらアーロンは提案する。

「アハハ!そうだね、もう3日は食べてないんだもんね!うん、ワタシもお腹空いたし食堂に行こうよ!」

エンリータも気が抜けてしまったのか大笑いしながらアーロンの提案にのる。


久しぶりに起き上がった体の気怠さに揺られながらアーロンとエンリータは武装の1つも身に着けることなく食堂がある階に下りていく。

(武器も鎧も持たないと言うのも久しぶりだな)

年中持ち歩いている物が無いのは不安になるが今の体調では持っているほうが不利だろう。傍目には分からないが見るものが見れば不安定な足取りのまま席に着く。

「そう言えば金はどうしている?」

戦闘になった際、いつもの頭陀袋も無くしてしまった為に現在アーロンは手持ちがない。

「あ、なんかメルクリオさんが暫くは払ってくれるって言ってたから大丈夫みたいだよ?アーロンが起きるまでの宿泊費も向こうが払ってくれてるみたい」

なるほど意外にもギルド、というよりはメルクリオ自身が保護してくれているらしい。実際、冒険者が怪我をしたとしてもギルドが金を出して援助するなどそうある事ではない。もとより危険な仕事である為、基本的にはすべて自己責任だ。それゆえにこの待遇はかなりの物だろう。もしかしたらエーベルトが手を回してくれたのかも知れない。

「ま、今日はアーロンが無事に起きた記念ってことで」

そんな事を考えているとエンリータはそそくさと店員を呼びつけ酒と飯を頼んでいる。

「・・・構わないが話せるだけの余裕は持てよ。それと俺は水で良い」

酒を呑みたい気持ちこそあるがまだ整理したい事もある為にエンリータに何度目かの釘を刺す。

「ふふん、大丈夫。これだけにしとくからさ」

何故か得意げな顔を浮かべながらエンリータは返事をする。


その後、運ばれてきた魚のスープとパンを食べながらアーロンはエンリータの話を聞く。どうやらアーロンが気絶した後、直ぐに闘いを終えたエーベルトが2人の近くに魔術で転移してきてアーロン達を回収、その後アウローラまで転移して宿で治療までしてくれたらしい。正直、アーロン達の場所まで転移したと言うのはまだしも何日もかかる距離を転移、それも3人同時に行うなど正気とは思えない。そもそも魔力が足りるわけがないとは思うがそれが可能故に英雄なのだろうとも思わされてしまう。

「まぁ、今回も無事に生き残れて良かったよ~」

一通りの説明をしたエンリータは顔を若干赤らめながらニコニコと酒を呑みほす。

「そうだな、エーベルトには感謝する以外ない」

自身の力不足など思う所は沢山有る物の生き残れたことは事実。ならば今はそれを喜ぼうとアーロンも思う。

「ひとまず明日はギルドに向かうとしよう」

アーロンのその言葉を最後に2人は生き残れたことを噛みしめながら食事を進めるのだった。


翌日、一通りの支度を終えた2人は宿を出る。

「余計かも知れないけど大丈夫なの?」

エンリータはゆっくりと歩くアーロンを気遣う様に声をかける。

「あぁ、問題はない。むしろ動いた方が良いだろう」

魔術で治されているとはいえ恐らくまだ身体が治ったと言う事実を認識できていないのだろう、アーロンの足取りはやや重い。それでもさほど違和感を出さずに歩けるのは鎧を抜きにしても流石と言えるだろう。まだ陽が真上に来る前の時間だからか道を行く人々はどこか足早で慌ただしくも見える。


そうしてアーロンの歩く速度に合わせながらギルドに着く。エンリータが先に扉を開けて潜っていき、それに続く。中は朝一の同業者たちはもう出発した後らしく、少しばかり閑散としている。そのままカウンターに近づくとメルクリオを呼び出す。


「やぁ、まずはお疲れさんってところかな?身体はもういいのかい?」

呼び出されたメルクリオは飄々とした態度でカウンターからこちら側に出てきて声をかけて来る。

「あぁ、お蔭様でな」

アーロンが寝ている間にお金や宿の面倒を見てもらっていたこともあり、いつもより柔らかい印象でアーロンも言葉を返す。

「そっか、なら個室に行こうか」

そう言うと3人は階段を登り、以前と同じ個室に入っていく。


「さて、まずは何から話した方が良いかな?」

メルクリオはお茶を出しながら尋ねて来る。

「そうだな、まずは俺が気を失った後、依頼がどうなったのか聞きたい」

アーロンからすれば調査と言う意味では成功とも言えるが肝心な所は依頼者でもあるエーベルトの世話になっていたと言っても過言ではない。それゆえに今回の依頼がどういう形で終結したのか気になった。

「そうだね、まず依頼だけどこれは純粋に成功になってるよ。ギルドからは実質調査の依頼という事になっているしね。それにエンリータさんとエーベルト様からも報告は受けているから。勿論報酬も満額だすよ」

どうやら依頼自体は問題ないらしくおまけに宿の請求などもされないらしい。

「そうか、因みに俺は知らないんだが神器等についてはどうなっているんだ?」

アーロン達は使徒に飛ばされてしまった為に神器や使徒の背後に有った赤い球体などの情報が全くない。

「あぁ、それはねぇ・・・神器はエーベルト様が回収したみたい。敵の使徒が持っていた槍がそうだったみたいだね。因みにこっちは報酬は流石に無いよ」

「それは構わん。世話になっているからな」

アーロンが回収したならともかく回収もその後の後始末もすべてしてもらって報酬までねだるのは相当な馬鹿だろう。

「それなら良かった。あと2人が居た空間なんだけどエーベルト様が言うには維持していた使徒が消えたことで空間も消えちゃったらしいよ。一応何人か偵察には出したけどもエーベルト様がそう言うんなら無駄足だろうけどもね」

「そうか・・・因みになんだがエーベルトはもう行ったのか?」

もう空間が消えてしまっているなら出来ることはない。若干置いてきてしまった荷物に未練はあるがまた歪な魔物や使徒に会う可能性もある為に強硬は出来ない。それならば今回の事と合わせていくつかエーベルトと直接話せないかと思い居場所を聞く。

「ん~アーロンさんの治療とかが終わったら直ぐに街を出て行っちゃった。なんか他にも怪しい場所があるみたいだね」

それを聞いて少し残念に思うが確かにあの英雄が起きるか分からない相手の為に待つ姿も想像できない。

「あ、そうだエーベルト様から伝言を預かってるけど聞くかい?」

次に何を聞くか思案しているとメルクリオは思い出したかの様に告げる。

「伝言?」

思考が中断され、怪訝な声で聴き返す。

「うん、なんか「強くなりたければ天の巫女を尋ねろ」だってさ」

彼の声を真似するメルクリオから聞かされた言葉の真意について考える。

(天の巫女・・・確か宿命が見えるだかって評判の巫女だったか?何故だ?)


天の巫女、この大陸に存在する4人の特殊な巫女の1人。天、海、地、火と役割が当てられており、重要な役目を背負っていると噂されている。内容こそ表に出てこないが何百年の歴史を持った役職でもあり、その地位は非常に高い。また、表に出たことがあるのは海と天だけで他の2人は神殿の場所すらも知られてはいない。最も気軽に会えるのは海の巫女だけで天の巫女も会うには魔物が跋扈する山を登る必要がある。

(試練を与えるなんて話は聞いたこともない。まさか強くなるための道筋でも聞け、という事だろうか?)

「それ以外には有るのか?」

頭で考えるも明確な答えは出ない為、他の情報が無いか聞くが

「ううん、それだけだよ」

と言う呆気ない返事しか出てこない。

「まぁ分かった。胸に留めておこう」

そう言うとアーロンは一旦息を宙に吐き、椅子に身体を沈める様にして座り直す。


その後も気絶していた間の話を事細かく聞きだし、話が終わる頃には夜も更け始めていた。

「まぁこんなものか」

座りっぱなしで固まった体を伸ばしながらアーロンはため息を吐いて天井を見上げる。

「結構時間が経っちゃったなぁ」

何か用事でもあったのかメルクリオもやや遠い目をしながら窓をみる。

「・・・・すぅ」

エンリータに至っては飽きたのだろう途中から船を漕ぎだし今や完全に夢の中である。

「悪かったな」

少しだけばつが悪くなり謝罪を口にするが「まぁ仕事だからね」と軽く返されアーロンも気にするのは止めた。

「それで君たちはこれからどうするんだい?もし、何かあれば報告をあげておくけど」

そう言われアーロンは少し考え込み、自身の状態を鑑みながら予定を口にする。

「そうだな・・・出来れば直ぐにでも発ちたいが生憎と鎧を最低でも作り直さなければならない。それにもう雪が降るだろう?」

まだしっかりと確認はしていないがアーロンの鎧は残った部分も役には立たないだろう。となればチェストアーマーにレギンス、手甲を新調しなければならず時間と金が掛かる。おまけに天の巫女が居るのは大陸の最南端から船に乗って行ける島であり、少なくとも帝国から王国までの距離よりも長い。山の様なものはないが冬は食料の確保も難しく、村での援助も期待がしにくい。おまけに寒さが厳しく下手すればそれだけで死にかねない。そういった理由を考えれば雪が解けるまではこの国で仕事をしながら待つのが良策だろう。

「そうか、なら暫くは一緒に仕事だね」

メルクリオがどこか嬉しそうに口にする。

「そうなるな、体が戻り次第世話になろう」

アーロンはそう言うと右手を前に出す。

「ふふ、じゃぁそれを楽しみにしよう。いやぁ雪の間だけとはいえアーロンさんが此処で仕事してくれるのはこちらとしてもありがたいからね。うん、よろしくね」

そう言って2人は握手を交わす。

「さて、それじゃぁ俺たちは帰る。おい、起きろ」

頭を軽く叩きエンリータを起こす。

「アイタッ!?って、え、話終わっちゃった?」

頭を振りながらエンリータが跳ね起きる。

「そうだ、今後の話も終わった。行くぞ」

そう言うとアーロンは先に部屋を出て行く。

「あ、待ってよ!メルもじゃあね!」

やや苦笑気味の返事を背に慌ててエンリータもアーロンを追いかける。その後ろ姿を見ていたメルクリオはもう一度椅子に深く座ると息を吐く。

「さて、これにて一件落着かな。ぼくも報告書でも書くかな」

窓の外から聴こえるミクロスの少女とベテラン冒険者の声、少しだけ冷たさを含んだ風を聞きながら彼は羊皮紙にスラスラと文字を書くのだった。

ここまで読んでいただきありがとうございます。

また三章を執筆中です。良ければまた、読んでいただければと思います。

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