表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーロン  作者: ラー
二章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/255

十四話

2人は大地に降り立つとすぐに分かれ、行動を開始する。敵も降りたアーロンに目掛けて進行を始める。

「――――!!」

大地を割りながら自慢の爪を高々と掲げ、触手を振るう姿は悍ましく、暴力が死を纏っているようにも思えた。しかしアーロンは恐れることなく大剣を肩に担いだまま詠唱を始める。

『炎精よ、願うは祭壇、』

先程と同じ火の魔術を丁寧に練り上げながら完成させる。

『裁かれる咎』

完成された魔術が形を成す。こちらに向かってくる敵の周囲から同様の火の柱が突き刺すように出現する。しかし良く見ればそれらは先程の形とは違い、人ほどの大きさをした棘が生えており、茨のようにして敵に絡み付く。

「――――」

敵は炎の茨に絡まれ、進行が止まる。身体に刺さる炎の棘は敵の身体をいたぶる様に焼焦がし、そして焼け落ちていく先には無防備な赤い腹が露出し始めていた。

アーロンは無言で大剣を上段に構えると右足を後ろに引き、体を前傾にして放たれる寸前の矢のようになる。そして遂に痛みからか敵の身体が仰け反り、無防備な腹を守る手段が無くなった瞬間、身体に張らせていた力を解き放ち、流星の如く駆け出した。

エンリータの魔術によって底上げされた速度が足を覆い、1歩踏み出すごとに地に罅が入り、土煙をあげる。そして僅か数歩で攻撃の圏内に踏み入り、ここ一番の力強い1歩を出すと速度を殺さぬままに全身をバネのように弾けさせ、大剣を斜めに振り下ろす。刃は一切の抵抗も許さぬまま敵の腹部に刀身の中程まで食い込み、切り払われる。

「――――ッ!!」

敵は弱点を切られ、ここ一番の音を空間に響かせる。間違いなく致命傷、実際に切られた腹からはどす黒い血の様なものを撒き散らし敵は更に身体を仰け反る。

(なんだ・・・この感覚は?)

アーロンは突然、背中から首に刃でも差し込まれたかのような冷たさを感じる。

(間違いなくここ一番の手ごたえ、状況から言っても押しているのは俺、なのに何故?)

極限まで集中し、周囲がスローモーションのようにさえ感じられる感覚の中でアーロンは原因を探る。その時だった。自身の足元に亀裂が入る。けして相手が仰け反ったからでもなく、自身の踏み込みによるものではない。

(まさか!!)

アーロンは振り切った体を強引に引き戻し、グレートソードを身体を守る盾にする為に全力で引き直す。しかし、僅かながらに下から来るものの方が速い。足元から出てきたのは家の柱程もある尾だった。先端は尖り、大きなドリルのような形をしている。先端は間違いなくアーロンの胴体を狙っており、避けることは難しい。

「クソがッ!!」

罵声を吐きだし、自身の左手を尾の先端に添わせるように突き出すと同時に左手を犠牲にしながら自身の身体を危険域から押し出す。

「ガァァァッ!!」

腕に巻かれたガントレットが自身の肉ごと削られ、その激痛に獣の様な叫び声を上げる。しかし左手を犠牲にした甲斐はあり、胴体を貫かれることだけは避けることに成功する。

地面からそそり立つ尾は塔の様にして眼前に立ちふさがる。それを憎悪するような目で睨みながらも体勢を整えるために足で地を叩き、後退する。

「アーロン!!」

背後から焦った様なエンリータの声が聞こえる。しかし、返事をしてやる余裕はまだない。何故ならば切られ、致命傷を負った筈の敵がもぞもぞと動き出し、仰け反った体を前に倒し始めていたからだ。その動きには淀みが無く、まるでここまでが既定路線だったとでも言うかのようだ。切られた腹も既に凝固しており、一筋の傷跡があるだけだ。そのまま敵は身体を再び地に下すと今度は腹を完全に大地に向け、寝そべった様な構えを取る。今度は尾も完全に地上に出し、敵の全貌が見えていた。

「チッ、面倒な事になった」

なるほど、この形こそが本来の戦闘形態なのだろう、先程までの地上に半分だけ出ていた時よりもしっくりくる。全身を守る為にある丸みを帯びた甲羅で全身を守り、異常に発達し、硬くも繊細な動きも可能な4本の爪を左右に掲げ、移動にも守りにも使える触手が隙間を埋め、奇襲にも範囲攻撃にも使える尾がいつでも振るえるように背後で揺れている。移動する要塞、隙が一向に見当たらない。甲羅から攻撃は通しにくく、爪も避けられはしてもそれ以上がない。触手も火に弱くともこの形態では焼く意味もなく、また、ブラフのように使われる辺り本当に火に弱いかも怪しい。尾は言わずもがなその長さと硬さに振り回されるだけで厄介、おまけに後ろに回るメリットが無くなった。移動速度も地中であれだけ速く動けるのならば地上が遅いと言う事も無いだろう。それに比べてこちらはアーロンが左腕の負傷、エンリータは抵抗も怪しい。絶望、只その一言が2人の前には有った。


敵が完全な戦闘体形を取ってからアーロンとエンリータは劣勢を強いられていた。掠りでもすれば木の葉のように吹き飛ばされるだろう突進、少しでも止まれば振るわれる堅個な爪の乱打、足元をすくわんと視界の外からも伸ばされる触手、旋回時などに振り回される尾と攻守ともに隙が無く、その火力からアーロンでも軽くて重症、エンリータでは即死するだろう。

「ハァハァ・・・何とかならないの!?」

時折アーロンに抱えられ、投げ飛ばされては駆け回り、全身に細かい傷を作りながら息を切らしたエンリータが悲鳴にも似た叫びをあげる。

「知るか!流石に分が悪い!兎に角走れ!」

アーロンも怪我をした左手の止血だけは済まし、彼女をサポートしながら右へ左へと逃げるので精いっぱいだった。空に逃げることも出来るが逃げたところで解決策はなく、魔力が切れれば死が待ち構えているだけである。

(せめてエンリータが飛べれば!)

そうすれば飛んでもらっている間に前回の戦闘の際にも使った強化魔術で多少なりとも打開の手立てにもなるだろう。しかし、魔術は行使されている間に重ねて行使することは出来ない。また、長文詠唱は時間と精神の集中が肝になる。つまるところ限界であった。

(チッ!こんな事ならもっと魔術を磨いておくべきだった!)

ここまで長い間ソロとして活動してきたことが裏目になった部分もある。それも新人の面倒となれば勝手も違う。

(どうする?どうすれば2人生きて帰れる?)

敵の突進と乱打を必死に避けながら頭を回す。しかしそれに気を取られたのか体力の消耗に寄って足が鈍ったのかエンリータを引っ張った瞬間、敵が爪の攻撃を急に止めて回転する素振りを見せる。当然、回避しきることは出来ないと経験が告げる。

「クソがぁぁぁぁ!!」

悪態を付き、引っ張ったエンリータを胸に引き寄せてグレートソードを尻尾の通り道に立てかけ、地に突き刺す。

ガンッ!!とあまりにも重たい音が接触した場所から響く。アーロンは全身に力を込めて抵抗をするが質量の差、筋量の差に当然押し込まれ、吹き飛ばされてしまう。尾は大剣を挟んでアーロンの身体に接触しており、抵抗したとはいえ軽くない衝撃が身を襲う。

「グゥゥゥゥッ!!」

奥歯が砕けてしまうほどに噛みしめ、次の衝撃に備える。

ドンッという激しい音をたてて背が地面にぶつかり、肺の中の酸素が一気に押し出される。

「キャァァ!!」

運が悪いのか衝撃で手が緩んだ際にエンリータが腕から弾かれる様に飛ばされる。アーロンは幸いにも大剣を離す事だけは逃れるが幾度も地面を跳ねて地面に横たわる。

(グッ!!流石に不味いか?)

転がる勢いを使って跳ねる様にして起き上がるが打ち付けられた胴体部分のダメージは軽くない。

(最悪、あばらの1本か2本は逝ったか)

急激に熱くなるわき腹の痛みに耐えながら元凶である敵を睨む。

「――――」

それなりに飛ばされた様で両者の間には距離がある。その先でこちらが完全に追い込まれたのを察してか感情の感じられない叫び声に喜色か侮りかは定かではないが気分がよさそうに声をあげる。チラリと横目にエンリータの様子を確認するがアーロンよりも遠くに転がっており、死んではいないが地に身体を打ったダメージをこらえているように見える。

「腹くくるか・・・」

誰に言う訳でもなくボソっと呟く。満身創痍、未熟な相棒、見たことも聞いたこともない強敵、言い訳をするわけでは無いがそもそも不利な状況から開始した。アーロンは一流と言っていい冒険者だ。当然、困難な状況はいくらでもあった。今より酷い状況だってあったのだ。しかし、今の強さを得てからここまで追い込まれることはなく、知らぬうちに傲慢な部分が出ていたのだろう。

『どうせ何とかなるだろう』

そんな気持ちもあった。前回の時にも苦戦はした。自身の力をもっと付けるべきだとも判断した。それでも何とかなると言う気持ちが無かったわけでは無い。そのしっぺ返しが今の状況。冒険者にも関らず冒険せず、挑戦を忘れ、流される様に生きてきた代償。

「全部、俺の未熟が元凶」

震える足を叩き、大地を踏みしめる。

「なら、やはり俺自身が越えなければなるまい」

あれほどの一撃を受けても刃こぼれは勿論、歪みもない相棒を肩に担ぐ。

「フゥゥゥゥゥッ」

大きく息を吐き、目を一瞬閉じる。

「行くか」

目を開き、体に力を込める。

「――――」後は嬲り、殺すだけ。そう考えていただろう敵が聊か警戒交じりの声を出す。何か強力な魔術を行使したわけでもない、重症を受けた人間1人。ただ空気が変わったのを感じ取ったのだろう、先程までの侮る様な動きを止め突進する様に敵は構えを取った。

『闇精よ、願うは獣の王、』

唱える魔術は前回と変わらない。結局成長しなかった自分にとって取れる最強の手段。

『悟性を対価に血塗られた牙と爪、』

傷つき、魔力も少なくなった今、通常よりも更に激しい痛みが全身に走り、脳が蒸発してしまいそうな程に熱くなるのを感じる。

「――――!!」

明らかに異常な魔力のうねりを感知した敵が発動前にこちらを潰そうと大地を割りながら迫りくる。

『矮小なる身に撃滅の力を与えん、』

慌てることはない、敵が作り出してくれた距離ならば必ず間に合う。それよりも自身の魔術にのみ集中する。

『我こそは破滅を歩む者なり、』

全身に魔力が纏わりつき、肉体の変化がハッキリと浮き出る。

『我が名はベルセルク!』

完成された魔術が爆発を生み、周囲の風を吹きとばす。

「ガァァァァァァァッ!!」

中心には傷だらけの怪物が立っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ