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アーロン  作者: ラー
二章

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23/255

六話

「わぁー!ねぇ、アーロン!王都が見えてきたよ!」

エンリータがはしゃぐようにして先を行きながら目的地であるアウローラ王国の城壁を指さす。

ドワーフ王国から旅を始めて32日。ようやく2人は王都の城壁を目にする。

「あぁ、ようやくだな」

何度も来たことがあるとはいえ、やはり長期間の旅はアーロンにとっても疲労が溜まり、万感の思いが胸に湧き上がる。2人の格好も途中で嵐に巻き込まれたことも合わさって、かなり汚れている。アーロン自体はもともと茶色や灰色が主でそこに年季が合わさっていた為、そこまでではないがエンリータはもともと少し明るい緑色の服だったこともあり、かなりみすぼらしいだろう。おまけに疲労が顔ににじみ出ている為、スラムの子供と言われても違和感が無い。

目的地が目と鼻の先に来てテンションが上がり、速足に先を行くエンリータの背を追いながら2人はどんどん王都に近づく。そうして城門の前にある並びに2人は並ぶ。

「よかった~それほど混んでないよ!」

喜色の顔を浮かべながらエンリータは自分たちの順番が早く来ないか列の先を見ながらはしゃぐ。

王都は帝都に比べれば人の出入りは多くなく、穏やかな気風が流れている。列も冒険者などの列は短く、スルスルと前へと進み、入国の審査も帝都と同じで冒険者カードがあれば簡単に入国する事が可能で2人は列に流されるまま大きな鉄の城門を潜る。

「わぁ~これが王都かぁ!」

飛び跳ねながらエンリータは街並みをキョロキョロと視線を彷徨わせる。王都は帝都と比べると牧歌的な街並みだ。1つの大きな丘を中心にして町が出来ており、丘の上には白亜の城が鎮座している。そして城の中心から流れ出る湧水がいくつもの支流を作り、蜘蛛の巣の様に街を巡って、それらは王都に住む人々の生活の要として活用されている。特に川沿いの家には水車が付けられ、主に製粉などに使われている。家の造りは木が基本だが時折石造りの物もあり多様な印象を受ける。道も土がむき出しで整えられたと言うよりは踏み固められたが近いだろう。

「ねぇねぇ、アーロン!早く宿屋に行こうよ!」

そう言ってエンリータは先を急かす。

「あぁ、そうだな。着いて来い」

そう言うとアーロンは少しだけ足を速めて宿に向かう。

中央に向かうにつれて少しずつ喧騒が強くなり、酒場も増え始め呼び込みの声が混じる。陽はまだ傾いていないが場所によっては中がいっぱいなのか外の机で呑んでいる姿もある。

「賑やかな繁華街だねぇ、帝都よりも開放的な感じ」

楽しそうに呑む姿を眺めながらエンリータは呟く。

「あぁ、帝都も屋台がある通りならまだしも王都の様に外でも飲み食い出来る店は少ないからな」

そうして会話を続けながら繁華街を抜けて橋を渡り、別の通りに入る。入った通りは先程とは打って変わり閑散とした雰囲気が漂う。人波も疎らでカラカラと回る水車の音と隅で喋る人の声がうっすらと聴こえるだけだ。そうして他よりも大きい建物の前に立つ。

「ここが今日の宿?」

「あぁ、少しばかり値は張るが良い宿だ」

そう言いながら扉を開く。

扉の先は宿屋らしく広い空間があり、幾人かの宿泊客が席に着いて食事や談笑を楽しむ姿が見える。奥には大きなカウンターがあり、品書きが書かれた札が吊るされている。

「やぁ、いらっしゃい。2人かな?」

入ってすぐの所にもあるカウンターから若い男の声が聞こえ、そちらを向く。

「あぁ、部屋は空いているか?」

「もちろんだとも。いつまで泊まるんだ?」

宿屋の男は柔和な人好きのする笑みを浮かべたまま帳簿を引っ張り出してアーロンの言葉を待つ。

「そうだな・・・ひとまず3日程」

旅の疲れやギルドで協力者との打ち合わせに武器の手入れなどしなければならないことは沢山ある。暫し考えて取りあえずの日程伝えて金を払う。

「あぁ、それと風呂に入りたい。見ての通り着いたばかりでな」

手をやや広げ自身の格好を見せる。

「かしこまりましたっと、少々お待ちを」

そう言うと男は一旦後ろにある戸棚から何枚かの布と館内着を取り、手渡してくる。

「うちの宿は使ったことは?」

「あぁ、何回かある。説明はいらん」

布を受け取りながら質問に答えていく。

「これは失礼、それではどうぞごゆっくり」

そう言いながら頭を下げた男に背を向けてエンリータにも布を渡す。

「さて、まずは風呂だ」

「へーここはお風呂があるんだねぇ」

アーロンの言葉にエンリータは驚いたように返事をする。

帝国もそうだが基本、宿屋に風呂という概念はない。そもそも大半の人間が濡らした布で身体を拭くか井戸の水を被る程度の事しかしない。なぜならば身体が浸かれるほどのお湯を用意するのも、捨てるのも大変だからだ。加えて毎回誰かが入る度に変えるなど労力がかかり過ぎてしまう。それゆえに風呂と言う形では用意せずに井戸の回りに衝立をたてておくか、宿屋の一階、主に食事処の付近で水を捨てやすい場所に大きな桶と衝立で形を作るのが基本だ。それでも使うものは多くないが。しかしこのアウローラ王国は街中に川が流れているために確保と捨てることが容易だ。おまけにそれなりに敷居の高い宿に泊まれば決まった時間内ではあるがお湯を沸かしてくれる。この造りはほぼアウローラ王国限定でこれの為にここに永住する者も少なくない。また、他国と比べて女性の冒険者の所属も多い。

アーロンも普段は冒険者らしく身体の汚れを気にすることは少ないがアウローラの風呂は好きで長期間滞在していたこともある。2人は疲れた体を引きずりながら借りた部屋に辿りつくと着こんでいた武具を外し、借りた館内着と借りた布を持って風呂場に向かう。


風呂場は1階の庭にあり、そこには小さな小屋が乱立している。

「いいか、扉に赤い札が掛けてあれば使用中だ。入る時には横に掛けられた赤札を扉に掛けて出る時に外せ」

アーロンが風呂の使用方法をあれこれとエンリータに教える。

「因みに洗濯は後で全部宿屋がしてくれる。だから間違っても風呂で洗うなよ」

「うん、わかった!じゃぁ後でね!」

一通りの説明を受けたエンリータが意気揚々と1つの小屋に入っていく。それを見送ったアーロンも空いている小屋に入っていく。

小屋の中は1つの穴の開いた蓋つきの大きな木製の風呂釜が鎮座しており、壁から風呂釜の上に突き出たパイプからは湯気だったお湯が少しずつだが空いている穴に流れ落ちる。アーロンはすぐさま服を脱ぎ、壁に設置された荷物置き場に物を置く。それから設置された椅子に座ると風呂から汲んだお湯で布を濡らし身体を洗う。ここまでの旅で身体を洗わなかったわけではないが最後に川の冷たい水できちんと拭ったのが今から七日程前だ。温かい湯で洗えば当然かなりの汚れが落ちていく。その気持ち良さに思わず息を吐きながら全身を磨いて綺麗にした後、蓋を開けて身体をお湯に沈める。

「あぁ、やはりアウローラと言えばこれだな」

零れていくお湯と沸き立つ湯気を見ながらアーロンは風呂の心地よさに浸らずにはいられなかった。

風呂を心行くまで堪能したアーロンは着替え等を終わらせて宿屋で受付をした男に汚れた服や布を渡してから食堂に座りエンリータを待つ。暫くするとまだしっとりと濡れた髪を垂らしたままの彼女が食堂に戻ってくる。

「あ、ごめん。待たせちゃったかな?」

アーロンの姿を見つけ、小走りに寄ってきた彼女はやや申し訳なさそうな顔をして謝罪を口にする。

「いや、そこまででもない。それと服と布は受付の男に渡しておけ」

アーロン自身、久しぶりの風呂という事もあってそれなりに長湯をしていた為、待っていた時間はそれほどでもない。

「うん、わかった!」

そういいながらエンリータは服を渡しに行き、戻ってくるとアーロンの対面に座る。

「いやぁ!お風呂ってすっごく気持ちいいんだね!初めて入ったけど思わずここに住もうかと思っちゃった!」

頬を上気させながら楽しそうにエンリータは感想を口にする。

「あぁ、アウローラの名物だからな。俺もこれで長居した事がある」

アーロンも普段よりも上機嫌なのか軽い口で彼女と言葉を交わしていく。

「そう言えば飯はどうする?外に出てもいいがこの宿も良い物を出すぞ」

一通り風呂の事に着いて語り合った所で落ちついたのか腹が空腹を訴える。

「ん~もう疲れたし外には出たくないからここで!」

その返事を聞き、アーロンは近くにいた店員を呼び寄せる。

「は~い、何か御用ですか?」

やや間延びした声の女性が2人の座る席までやってくる。

「エール2つと、今日は何がおススメだ?」

そう聞くと女性は顎に手をやりながら「そうですねぇ~魚のフライなんてどうですか?」と答える。

「じゃぁそいつと適当に芋をくれ」

そして注文を終えて椅子に深く座り直す。

「そう言えば明日からはどうするの?」

机に両肘を付き、顎を乗せたエンリータが明日の予定を聞いてくる。

「明日は完全に休暇に当てる。なにかしたければ好きにしろ」

やることは沢山あるが流石に明日位は完全な休暇に当ててもいいだろうとアーロンは判断してそう告げる。

「そっか~じゃぁ何しようかなぁ・・・」

足をパタパタと楽しそうに揺らす。

「はーい、先にエールで~す。料理はもうちょっと待っててね」

そう言って店員は再び離れていく。

「因みにアーロンは何するの?」

届いたエールを取りながらエンリータが尋ねて来る。

「特に予定はないが・・・そうだな、昔なじみにでも会いに行くか」

そう言ってジョッキをぶつけ合ってから口にする。

「んー!やっぱり疲れた体にはエールだね!」

そう言いながら大きく息を吐くエンリータ。

「でもそれならワタシは初めて来たし色々見て回ろっかな。何か面白そうな場所ってある?」

そう聞かれ少し考え込む。

「そうだな・・・繁華街や露天広場も面白いだろうがやはりアウローラと言えば風呂とカジノだな。東の区画は大きなカジノがある。まぁやりすぎなければいいんじゃないか。大きな風呂屋もそこにある」

アーロンがそう言うとエンリータは目を輝かせる。

「そうなんだ、じゃぁ行ってみようかな!んー楽しみになってきたなぁ!」

そうしてエールを呑み終える頃「はーい、お待たせ~」そう言いながら店員が大皿に盛った料理をテーブルに置く。

「わぁ~!おいしそう!あ、店員さんエールお代わり!アーロンは?」

そう聞いてくるエンリータに苦笑いしつつ自身もお代わりを頼む。

届いた料理は魚を開いた状態で揚げられたもので香ばしい香りが鼻孔をくすぐる。また、その上に茶色のソースが掛けられており、旅の途中での食事とは比べるまでもなく美味しそうである。

「う~ん!おいしい!」

届いた追加のエールを片手にエンリータは喜色の声をあげる。アーロンもつられるようにフライを手に取り、口に運ぶ。ザクリとした衣の食感と共に油に溶け込んだ魚の旨味と中に一緒に入っていたのだろう玉葱の甘さが口に溢れる。上に掛かっていたのは野菜を煮込んで作ったのだろう濃厚ソースが複雑な味で舌を楽しませる。また、強めの塩味が疲れた体とエールの苦みに良く合う。エンリータの様に感情を爆発させるような事はしないがアーロンもいつもより手と口を早く動かして食事を楽しむ。

そうして一通り堪能した後、やや気だるげに席に座りながら腹をさする。大皿にあったフライも芋も既に無くなっており、後は幾度かお代わりしたエールをなめるように呑んでいた。

「ふう~ワタシはいま天国にいる・・・」

頬を赤らめ明らかに酔っぱらった様相でエンリータは満足げに呟く。

「そうか、なら部屋に戻るぞ」

残ったエールを胃に流し込み、店員に金を渡して部屋に引き上げようとする。

「んー・・・眠い」

だらだらと階段を登りながらエンリータは目を擦り、欠伸をする。

「はぁ、お前のその酒癖はどうにかならないのか」

若干呆れながらそんな彼女を見やる。

「ふふん、楽しい事は全力でやらなきゃ損だからね」

何故か誇らしげに胸を張る。そんなエンリータを呆れ交じりの視線で見ながら部屋に入る。入った途端エンリータはフラフラとベッドに近寄り倒れ込んだと思えばすぐに寝息を立ててしまう。そんな彼女を見て一つため息を吐き、自身もベッドに腰かける。

(ひとまず、ここまでは無事に来られた。あとはメルクリオとか言うギルド職員に会って廃城の調査だったな・・・何事も無くとはいかないだろう)

ベッドの上で先の事を考え少し気が重くなる。実際、調査場所が場所だけに噂が事実であれば前回の崩壊の王冠よりも危険が跳びだしてくる可能性が高い。

(ひとまず明日聞いてみるか)

エンリータに言った昔なじみはこのアウローラ周辺の事に詳しい。故にもしかしたら廃城の黒い霧についての情報も手に入るかもしれない。そんな期待と昔なじみに久しぶりに会う懐かしさに思いを寄せながらアーロンも眠るのだった。

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