四話
一回目の遭遇から幾度の戦闘があったが焼き直しの様に同じ連携をこなしながら2人はついに目的地である3階層に辿りつく。道中アーロン達と同じように採掘に来ていたドワーフ達ともすれ違い、その際に内部に異変が無いか聞いたが今の所そのような事態は起こっていないようで2人はひとまず安全と見ていた。
「ようやく3階層だねぇ~、でもホントにここは景色が変わらないんだね・・・」
多少の気疲れは有る物のまだまだ余裕のあるエンリータが周囲を見ながらそう溢す。
「変に入り組んでいるよりはましだ。さて、少し休んだら採掘するぞ」
そう言うとアーロンは空間の中央で腰を落とす。
「そう言えば採掘ってどこ掘ればいいの?」
正面に座ったエンリータが疑問を口にする。
「あぁ、ここは外の炭坑と違って単純でな、この階層の壁に浮き出ている鉱石を取れば良い」
顎で先を示しながら答えを口にする。
この採掘場は神の加護を受けている為、定期的に鉱石が岩壁に先の魔物の様に生えてくる。それを適当な道具かもしくは手で取ることが出来てしまう。
「え、そんな感じなんだ。てっきり掘らなきゃダメなのかと思ってたよ・・・」
エンリータは驚いたような顔を浮かべる。
「流石にそこまで面倒なら購入している」
その言葉にそれもそっかとエンリータは返事をして地面に寝転がる。
そうして適当な会話をしながらの休憩を終えると2人は早速岩壁に寄って行き採掘を始める。
「いいか、採るのはアグミ鉱石だ」
そう言ってアーロンは1つの鉱石を壁から毟り取り、エンリータに見せる。エンリータは鉱石を見てみるが一見道端にでも落ちていそうな石に見えた。しかしよく見れば光を反射して角度によっては鈍い光を発しているようにも見える。
「あれ、なんか暖かい?」
渡された鉱石を持ったエンリータが掲げながら疑問を口にする。
「あぁ、それもアグミ鉱石の特徴だ。だから光を反射していて触った際に僅かな暖かさを感じるなら十中八九合っていると思って良い。分かったなら探して来い。今後も装備を強化する際に必要になる」
そう言うと2人は分かれて鉱石の回収に励む。
アグミ鉱石はどれだけ武器を強化しても使う基礎素材であり、これをベースに強化段階と行先によって付け加える素材が変わる。勿論アグミ鉱石自体も質に差があり、上級は集めるのが至難だ。当然他の冒険者も狙うため必然的に品薄でアーロンもかつては大陸を駆け巡ってアグミ鉱石を集めた。
そんな記憶を思い出しながら時間が経ち、ある程度集まった為、エンリータに声をかけて一旦、空間の中央に戻る。そして2人分合わせて十分なだけのアグミ鉱石が集まったのを確認して再び休憩を取っている時だった。4階層に繋がる道から男の悲鳴のようなものが2人の耳に届く。
「アーロン今のって!」
「あぁ、何かあったな見に行くぞ」
そう言うや否や荷物を担ぎ、アーロンが先行する形で4階層への道へ駆けていく。道に入るとまだ姿は見えないが奥の方から何人かの走る音と何か大きなものが這いずり回る様な音が聴こえてくる。
「不味いな、恐らくヴァイパーを引っ掛けた馬鹿が来るぞ」
そう言うと背中のグレートソードを抜き、余計な荷物を端に投げ飛ばす。
「ワタシはどうしたらいい?」
若干焦り交じりの声でクロスボウガンを手にしたエンリータが聞いてくる。
「やることはスケルトンと同じだ。俺が前衛、お前は隙を見て矢を撃て。出来れば顔だな」
そうこうしている間にこちらに向かってくる集団の先頭が見えてくる。
「た、助けてくれー!」
こちらで待ち構える姿が見えたのかドワーフらしい野太くも力強い声が聞こえる。走ってくる数は3人。いずれも必死の形相で腕と足を動かしながら走ってくる。そしてその3人の後ろに一匹の魔物の姿があった。大きさはアーロンの7から8倍は有ろうかという長さがあり、胴回りもアーロンよりも太く、這いずり回る度に周囲を削る辺り重さもかなりのものだろう。顔は蛇そのものだが顔回りが扇のように円形に開いており、また外周は大きな棘の様なものが4つ生えている。そして全身が緑色で身を守る様に生えた鱗がぬらぬらと鈍い光沢を放っている。蛇の表情などと言うものは分からないが口を開きながら追いかけ回す姿からはその巨体と相まって凄まじい威圧感を放っている。フェロオチェヴァイパー、この東採掘場の中層から頻繁に姿を現す凶悪な魔物で間違いなくここの死亡原因のトップに位置する魔物だった。
「おい!急いで後ろに回れ!正面は受け持ってやる!」
グレートソードをやや後方下に流しながら走ってくるドワーフに声をかけ、アーロンは敵を見据えて駆け出す。敵は油断か遊んでいるのかは定かではないが幸いにもまだドワーフ達とは距離がある為、急いで両者の間に割り込む。
「キシャァァァァァ!!」
突然間に割って入って来たアーロンに対して威嚇の声をあげながらフェロオチェヴァイパーは口を大きく開き、致死毒が多量に含まれた牙を剥き出しにして突進を仕掛けてくる。その瞬間、アーロンの後ろから風を切りながら1本の矢が飛んでいく。矢は顔回りの開いた部分に当たるが貫通するには至らず無情にも弾かれる。しかし、その攻撃を予想していなかった敵は僅かながらに気を取られ、突進の威力を弱める。
「ハァァァ!」
それを見たアーロンは短く、裂帛の声をあげながら敵に目掛けて踏み込み、下からグレートソードを切り上げる。
衝突、そして両手に敵の突進の威力を感じこそはするものの自身の剛腕で捻じ伏せるように振り抜いて行く。流石にアーロンの一撃を無理やり弾くことは出来ないのか敵の突進は緩やかに止まり、刃は周囲に広がる棘を切りとばしながら首を両断せんと切り進む。状態が良くない事なフェロオチェヴァイパーも即座に悟り、胴体を後ろにくねらせ、致命的な部分は切らせることなく首部分は薄皮を切らせるにとどまる。
「ギシャァァァ!!」
突然現れた敵に自身を傷つけられたことに憤慨しているのか顔回りをより大きく開きながらフェロオチェヴァイパーは威嚇の声をあげる。敵の目にはアーロンしか映っていないようで先程追い回していたドワーフ達もエンリータも頭には無さそうだ。振り切ったグレートソードをもう一度体の右側に流しながらアーロンはじっと敵の動きを見つめる。すると敵は身体をくねらせたかと思うと旋回してその長い巨体を振り回し、加速した自身の尾を鞭のようにしてアーロンにぶつける。それを見たアーロンは直ぐに自身と尻尾の間にグレートソードを割り込ませ、更に少し後ろに跳びながら攻撃をいなす。
ガギンと音を立てて尻尾とグレートソードがぶつかり両者の間に距離が開く。そして敵の旋回後に再びエンリータが矢を飛ばすが借り物のクロスボウではあまり効果はないのか敵の鱗に多少の傷をつけるだけで弾かれてしまう。
敵は先程のアーロンの攻撃から近寄られたくないのかアーロンが踏む込むたびに尻尾を振り回して牽制している。
「チッ、面倒な」
思わず悪態をつく。
アーロンからすれば格下の存在ではあるがだからと言って油断していい相手でもない。特に相手の牙に含まれる毒だけは絶対に受けてはいけないのも相まって今一踏み込み難く、最初の一撃で仕留めきれなかったことが相手に要らない警戒心を与えてしまった。
「エンリータ!俺が魔術を行使したらお前はひたすらに矢を放て!」
心の中で仕方ないとため息を吐きながら戦いに決着を付けるべくエンリータに指示を飛ばす。
『風精よ、願うは疾風、一陣の風』
敵の尻尾を避けながら魔術を行使する。
瞬間、足に多量の風が纏わりつき渦を巻く。
「ハァァ!」
身体を前傾にしてグレートソードを担ぐように構えた後、力強く踏み込む。すると足元の風が爆発したかの様にして広がり、アーロンの身体を前に飛ばす。同時に後ろからエンリータがクロスボウを放つ音がするがアーロンに追いつくことはない。
「キシャァァァ!」
即座に反応したフェロオチェヴァイパーは再び尻尾を振り回して攻撃をするが地を這うようにして駆けるアーロンは加速された速度で力任せに掻い潜る。頭の上を通り過ぎる際に凄まじい風切り音と打ち付けられた大地が砕けていくのを後目に一足飛びに相手の胴体の前に立つ。懐に入られた敵も決死の行動に出て頭を振り乱しながら大口を開けてアーロンを噛み千切らんと迫るがその瞬間、ようやくアーロンに追いついた矢が敵の顔に飛来する。飛んできた3つの矢は2本が弾かれたが1本が運の良いことに目に突き刺さる。流石に眼球は鱗では守れない為に苦悶の声をあげながら攻撃が中断される。
「ウオォォォ!!」
その隙を見逃すほど甘くはないアーロンが仰け反った敵の首を目掛けてグレートソードを振り落とす。刃はゴリゴリと敵の筋肉質な肉は勿論の事、強固な鱗も柔軟性に優れた骨もまとめて切りとばした。首を落とされても尚、敵の胴体は暴れていたがそれも次第に収まり最後には黒い煙に成ってその巨体を消した。
「ふぅ・・・」
戦闘が終わり、沈黙が下りた採掘場にアーロンのため息が響く。グレートソードを背負いなおしてエンリータがいる方に振り返る。
「おーい、怪我はない~?」
エンリータが手を振りながらこちらに駆けよってくる。
「問題ない。お前もよくやった」
労いの言葉をかけ、額を手の甲で軽く小突く。 「えへへ、弾かれた時はどうしようかと思ったけどね」
やや気恥ずかしそうにエンリータは笑う。そうして話していると「いやぁ、助かった、助かった。ありがとうよ!」と逃げてきたドワーフの男が近づいてきて礼を口にした。
「構わん、だが何故フェロオチェヴァイパーに追われていた?」
通常なら中層以下にしか出ない為、そこから連れてきてしまったならともかく、もし上層で出現したのだとすればその件をギルドに報告しなければならない。
「いや、情けねぇ話だが欲かいて奥に行っちまったんだ・・・」
しょぼくれた顔でドワーフの男は言う。
「はぁ・・・それで死んだら意味がないだろうが。第一今回は俺たちがいたから良いもののもっと被害が出たかもしれん。良く反省しろ」
深いため息を吐いてドワーフ達に叱責する。
「あぁ、そうだな・・・本当に運が良いだけだった。反省するよ。本当にありがとうな」
頭を下げ、再三の礼をドワーフ達はする。
その後、アーロン達は一旦休憩の為にもともと居た場所に戻り腰を下ろす。逃げてきたドワーフ達は自分たちの師匠に当たる人に怒られてくると苦笑いを浮かべながら先に地上に戻っていった。
「それにしてもフェロオチェヴァイパーだっけ?すごい大きんだねぇ・・・ランク的にはどのくらいなの?」
初めて見たからだろうかそんな質問をエンリータは投げて来る。
「そうだな、しっかりとパーティを組んでいるなら精々が4だろう。ソロでも5には届かん」
「そうなんだ・・・思ったよりも高くはないんだね」
先程の姿を思い返すように目を上に向かせながらそんな感想を溢す。
「確かに身体が大きく速度もあるが理不尽ではないからな。お前もしっかりとした装備さえできれば攻撃も通る。結局のところ魔物のランクは理不尽な能力を持っているかが分かれ目になる」
とはいえ面倒な魔物であることには違いないがな、と付け加えながら軽く水を口にする。休憩も終わり、来た道をのんびりと歩いて地上に戻る。道中、再び数回スカルに絡まれこそしたが軽く蹴散らして無事に再びギルドに入る。
「んー戻って来たぞ!」
腕を上に伸ばすエンリータ。
「ひとまずこのまま鍛冶屋に行くぞ。材質は決めたか?」
「うん、鉄にする」
そんな話をしながら2人はギルドを出て鍛冶屋に向かう。
相も変わらず鉄を打つ音が響く通りを行き、目的地に入る。
「おい、いるか」
奥に声をかけるとのっそりとドンガが出て来る。
「お前達か、鉱石は集め終わったのか」
そう言われ、集めた鉱石が入った袋を渡す。
「ふむ、しっかり集まっておるな。で、娘よ決まったか?」
「うん、鉄製でお願い!」
「ふむ、ではこっちに来い」
ドンガはエンリータを手招きして奥に引っ込む。
「俺は適当に待っているから行って来い」
そう声をかけてアーロンは壁に寄りかかる。
それから幾何の時間がたっただろうか、奥からやや疲労を滲ませるエンリータがのろのろと出て来る。
「ふう、疲れたぁ・・・」
手を下に、猫背になってエンリータが息を吐く。
「その分、ここは良い物を作る。必要経費だ」
壁から背を離し、そう声をかける。
「これで明日までには何とかしてやる」
そう言って出てきたドンガはアーロンに1枚の紙を渡す。
「請求じゃ。お前が払うんじゃろ」
請求書を受け取り、内容に目を通す。ミクロス族用の弓とエンリータの力に合わせた特殊な弦、強化分等が合わさってそれなりの値段にはなってはいたが特に問題なく払える額が書かれている。
「明日の引き取りに合わせて持って来よう。2の鐘前後に来る」
「分かった。じゃぁ早く出ていけ」
相変わらず客商売する気の無い言葉を駆けてドンガは奥の鍛冶場に戻っていった。
鍛冶屋を出ると同時にゴーンゴーンゴーンと鐘が鳴る。
「ねぇねぇ、これからどうする?ご飯?」
「そうだな、希望はあるか?」
「ん~辛いのが食べたいなぁ」
そんな他愛もない会話をしながら2人は繁華街の方面に歩いて行くのだった。




