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アーロン  作者: ラー
六章

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三話

「行くぞ」

野営の準備を終えて持って行く荷物の整理と休憩まで済ませた2人は万全の状態で廃炭坑の前に立っていた。休憩中、何か大きな音が聴こえたり、人が出てきたりするかと思い、意識を向けていたがこれと言って目立った動きは無く、廃炭坑は沈黙を保ったままだった。そうなってくるとかなり奥に居るかただの冒険者と逸れ、という可能性も十分に浮上する。が、そこに予言の件が合わさるとやっぱり何かしら事が奥地で起こりそうだという予感がアーロンの脳内をよぎる。

「うん、道も大体覚えたかな」

アーロンが記憶から引張だし、地面に描いた地図を頭の中で反復させていたエンリータが目を開けて自信ありげに口角を上げる。とはいってももとは廃炭坑、ダンジョンではない為に罠がある訳でもなければ分かれ道はあれども入り組んではいない。それこそ一切の知識が無くても迷子になって出られない、という事はないだろう。

「そこまで気負うことはない。それよりも人の気配と魔物に気を付けろ」

「うん、そこは大丈夫!じゃぁ先行くね!」

エンリータはそう言うとアーロンの前に跳びだし、廃炭坑に一足早く飛び込んでいった。


カツン、カ、カッ、カツン。廃炭坑内部にアーロン達の足音が響く。一応足音立てないように歩いてはいるが地面は細かい石や砂利、更には土では無く岩なのだから靴との材質の問題でどうしても音は出てしまう。特にアーロンは体が大きく、武装も合わせて重さがある為、どうしてもエンリータと比べれば音が出てしまう。

廃炭坑内は崩落しないようにしっかりと木で補強してあり、幅と高さもそれなりにある為、変に暴れない限り生き埋めになる様なことはないだろう。

「ん、魔物かな・・・?」

先を歩いていたエンリータが足を止めて地面に耳を押し当てる。どうやら先から別の音がしたらしい。アーロンはそれを邪魔しないように足を止める。

それから暫く耳を押し当てていると何か掴んだのか左手でこちらに向かってサインを送ってくる。サインの内容は要警戒、どうやらこっちに向かってきているらしい。

アーロンは腰のファルシオンを引きぬくといつでも跳びだせるように腰を落として薄暗い廃炭坑の奥へと目をやる。横では弓を引きぬいたエンリータが矢を番えていた。


暫く待っているとアーロンにも足音が聞こえ始める。聞こえる音のテンポと何かが擦れるような音が混じっている辺り、4つ足な事と何か尻尾か腹を擦っているのではないかと想定できる。廃炭坑に湧く魔物の中で当たりを付けるのならトカゲのような形をしたドラムリザード当たりだろうとアーロンは予想する。

ドラムリザード、全身が硬い鱗で覆われた大型のトカゲで身の丈は人の子供位なら容易く呑み込んでしまうだろうと思うほどだ。基本的にアーロン達が今いるような炭坑や洞窟と言った場所に発生しやすい。体の中では特に頭部が硬く、生半可な攻撃を通すことはなく、意外に機敏な動きからの頭突きは岩壁や前衛の盾も容易く砕く。他にも前腕の爪は鋭く、その上ギザギザとしていることで傷の治りが非常に悪い。火を吐いたり、空を飛ぶようなことはないがシンプル故に下位の冒険者では対応に困る魔物と言える。


「どうする?回避は難しそうだけど」

小声でエンリータが聞かれてアーロンは考える。敵はまだ此方に気付いていないのだろう、歩く音には散歩するような気軽さを感じる。ならば正面からではあるが奇襲、先手を取りたいと思うのは当然と言える。

「見えたら矢で行けるか?恐らくドラムリザードだと思うが目ならお前の矢で抜けるはずだ。ついでに風の練度を上げておけ」

硬い鱗に覆われているのは事実だ、しかし目と口の中なら硬さはない。今のエンリータならばただ射るだけでも抜ける可能性は高く、風の加護が纏わりついているのなら更なる破壊が望める。

「うん、了解!」

二つ返事で返したエンリータは直ぐに矢を放つ準備をしながら道の先を見据える。矢には緑色の風が纏わりつき、弓に組み込まれた精霊結晶も緑の光を放つ。そして内包された力を証明する様に弓を握る手は暴れ馬を抑え込むように力が籠められ震えている。

それからさして時間を置かずに暗い向こうから音がよりハッキリと聞こえ、地を這うように動く影が見え始める。その瞬間、エンリータは息を吸い止める。目は見開かれ、震えていた弓は狙いを定めた様にその動きを止めた。

ビュン、ゴォォォ!!

重い物が放たれる音、それに付随する様に風が周りの空間を削るような音が空間に響く。矢は緑色の軌跡を残しながら影の頭部に吸い込まれるようにして狙った部分を穿った。

「ゴギャァゥッァァアァァア!!」

当たった矢はドラムリザードの右目に刺さると風の魔力で内部から壊しながら頭部を半壊させる。一撃で絶命とまでは成らなかったようだが敵は突然の大打撃に呻いている。当然、その隙を逃すような事を今更エンリータがするわけもない。

ビュン、ビュン、ゴォォォ!!

2射、追撃の矢、いや、小さな嵐がもがく敵を打ち貫き、遂にはその身を黒煙に変えて消えていった


「・・・なんだか拍子抜け?」

静かになった空間でエンリータが首を傾げながら呟く。ここに来るまでに当然魔物と戦いながら来た。その際にエンリータも矢で魔物を倒してきたが出会った魔物たちは基本的に外皮があまり硬くない部類の魔物が多かった。そして今出会ったドラムリザードは今までのエンリータが苦手としてきた防御力が高いタイプの敵だ。勿論初手がしっかりと柔らかい所に刺さったとはいってもその後傷を広げ、致命傷に持って行くことは難しかったはずだ。それがあっさりと解決したのだから思わず首を傾げてしまうのも仕方がないのかもしれない。

「まぁ、実力からすればこんなもんだろう。いままで苦労したのは相性だろうしな」

ドラムリザード自体はランクで見れば4前後、エンリータの実力はギルドで認められているわけでは無いが5にそろそろ届くはずと見ているだけにアーロンからすれば相性問題、ないしは単純な火力不足が解消されればこんなものだろうと思っていた。

「感謝しなくちゃね」

弓を持った自分の左手を見ながらエンリータは呟く。その声には間違いなく嬉しそうな感情が混じっていた。

「さて、問題なければさっさと行くぞ」

喜びを噛みしめているエンリータの頭を軽く叩いて先を促す。浸らせてやりたい気持ちはあるがまだやることが残っているうえ、時間はあまり無い。

「あ、そうだね」

直ぐに意識を戻したエンリータはそそくさと武器を背に戻すとアーロンの前に出て再び斥候作業に戻っていく。


廃炭坑内を進んでいくと通路のような場所から開けたような場所に出た。空間はホールのようになっており、それなりに規模がある。明るさも通路と比べればはるかに明るく、一瞬外の光を入れているのではないかと思ってしまうほどだ。そして中央には道を隔てるように大きな穴が空いている。一応橋らしきものが架けられているが若干心もとなく見えるのがここの重要度を示しているだろう。

「ここは・・・採掘場だったけ?」

周囲を見回しながらエンリータが呟く。

「そうだな、出口に一番近い採掘場であっちを見ろ」

アーロンが指を指した方角には琥珀色をした水晶のようなものが壁から突き出している。

「あれが土結晶だ。ま、名前通りに土精の力が微量だが含まれていて建築材とかに使う」

土結晶は砕いて土などに混ぜ込むと固めた時により強固になる。此処の物は左程質が良くない為にそこまで使われはしないが土で簡単なものを作る際には使用される。他にも煉瓦に混ぜ込んだりと用途は様々だ。

「せっかくだし帰りにでも取っていく?」

「余裕が有ったらな」

彼女の軽口に乗りながらアーロン達は大穴を渡っていく。幸い周囲に魔物の姿はない。

そうして2人が大穴を渡り切った時だった。街中であれば気にしない、気付けない程度の振動が足元、炭坑の奥から響いてくる。

「アーロン!」

「あぁ、急ぐぞ」

今の振動が明らかに不自然だった。何か意図をもって、それこそ戦いの余波とでも言わんばかりの揺れだ。常識で考えれば崩落の危険がある場所でやって良い事では無い。だとすればそんな事を気にしない何か、あるいわ必要にかられたかのどちらかだ。そうなればアーロン達の目的と合致する可能性がある。アーロン達は緩んだ空気を一気に締め、廃炭坑の奥へと駆けだしていった。

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