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アーロン  作者: ラー
六章

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二話

準備期間を挟んで出立の日、2人は夜が明けるとともに商人に紛れてアウローラの門を潜る。そのまま直ぐに他の国へと向かう集団と別れて単独で廃炭坑の方へと歩を進めていく。流石にこの時期に廃炭坑に足を運ぼうと言う人間はいないのか直ぐに無人になり、アーロン達だけがぽつんと周囲の景色から浮いて見えていた。

「ん~、にしてもアーロンは廃炭坑に入ったことあるの?」

エンリータが暇潰しとでも言いたげに聞いてくる。

「何度かな。俺だけじゃなくこの周辺で低ランクの冒険者が仕事をしようと思ったら高確率で立ち寄る。そうか、お前は行ったことが無いか」

嘗て廃城で負った傷に寄って寝こんでいた期間、エンリータは単独で仕事をこなしていた。その期間はエンリータのランク的には行っていても可笑しくないぐらいで特に採取系の中では報酬面でも悪くない。それ故に何となく行ったことが在りそうだとアーロンは勝手に思い込んでいた。

「うん、アーロンが寝込んで期間は本当にこの周辺、って感じだったからほぼ日帰りで出来る仕事だけだったなぁ。まぁ、あんまり自信も無かったしね」

そう言いながら頭の後ろで手を組み、懐かしむ様な表情を浮かべる。思いかえせばあれから1つ年を取り、戦争やら龍やらと随分修羅場をくぐって来ている。今の彼女と前年の彼女とでは天と地ほどに差があることだろう。

「まぁ、そうはいってもそこまで目立つような所はないがな。言ったとおり、低ランクの冒険者でも入れるだけあってそこまで強い魔物の類は報告されていない。採取できるものも一番厄介なのが確か・・・幻覚作用があるもの位で対処さえできれば問題ない。炭坑内部もかつては炭坑夫達が活動しやすいように作ったものだからな、移動に問題が出ることはない。通路は狭いが俺みたいに大剣を振う訳でもないならよっぽどの事をしなきゃ不便も無い」

「そうなんだ、明かりはどうしてるの?」

「光石が等間隔で備え付けてある。遠くが見渡せる程じゃないが戦闘で困るほどじゃないだろうな。特にお前は加護もあるから良く見えるはずだ」

光石は名前通りに光る石だ。光度はボンヤリとしか言いようがないが特にこれと言った手入れも要らずに周囲を照らしてくれるために炭坑のような場所で重宝される。ただ不思議な事に光石を発掘した場所から運び出すと途端に輝きが褪せ、ただの石になってしまうために万能とは言い難い。それでも発掘中に出てくればそれを集めて炭坑等の壁に着けてやればほぼ永続的に明かりが手に入るだけ十分だろう。

「なら、良かった。それにしても混沌の始まりって何だろうね?何か魔物とか使徒とかなのかなぁ」

「さぁな・・・だが使徒なら既に大陸に現れている以上混沌の始まり、と改めて言うには少し違和感がある。まぁ、何か企んでいる可能性はあるが、それにしてはアウローラで何の情報も出ていないのは気になる所だ」

準備期間中、当然アーロンは周囲の情報を集めるべく、馴染の情報屋やギルドのメルクリオを当たった。しかし、出て来る情報の大半は戦争に関するものばかりでこれと言った情報はない。一番怪しいもので貴族の令嬢が1人戦乱に紛れて消えた、と言うものぐらいでこれだと家出から誘拐まで様々過ぎるうえ、貴族令嬢1人の行方を探すのも困難だ。もっともこれだけ警戒網と戦乱が有った中で見つからないなら大半は誘拐だろう。そしてこれを出し抜ける相手ならなおの事アーロンには難しく時間も遅すぎる。依頼されたわけでもないなら関わらないのが一番だ。

「そうだね・・・なんなら直近での報告も異常なし、って話だったしね。う~ん、やっぱり行かなきゃわかんないよね」

2人して渋い顔をしてしまう。しかし、どうしようもない事だとアーロンは頭の片隅で思考を回しつつも切り替える。

「そうだな、しかもそこまで嫌な予感もしない。まぁ出来ることはやった。なら後は野となれ山となれ、だ」

「そうだね、そもそもワタシたち、なんだかんだ予定通りに上手く行ったことの方が少ない気がするけど最終的には上手く行ってきたしね」

褒められたことでは無い。無いが上手くやって来たのも事実、であればいつも通り想定してしっかりとした準備をしてきたのだから後は上手くいくように臨機応変にやろうというのも分からなくはないアーロンはどこか納得いってなさそうな顔のまま微妙な声色で返事をした。


2人は結局誰ともすれ違うことなく、アウローラの廃炭坑にまで辿りついた。どうやらこちら側は帝国からの侵攻も山越えと違って物理的に不可能なこともあり、警備の手は殆どなかった。しいて言うのならばいつもよりも治安を維持する組織の力が下がっていることで魔物や魔獣の襲撃が少し多いか、と言った程度だ。それもこのタイミングでは無かっただけでアウローラ所属の冒険者が定期的に出回っているようだ。

「ん、これ最近じゃない?」

廃炭坑の入り口近くの地面にあった窪みを見たエンリータが呟く。気になってアーロンも見てみれば数人、恐らく冒険者のパーティらしき足跡が廃炭坑の内部へと続く道に足跡を残していた。

「そのようだな・・・何人規模か分かるか?」

いきなり襲われるとまでは思わないが予言の事もある、慎重に行くのは悪くない。

「ちょっとだけ時間ちょうだい」

返事を待つことなく調べ始めたエンリータを見ながらアーロンは周囲を警戒しながら足跡以外の痕跡が無いか目を凝らす。

それから暫く待っていると調べ終えたエンリータが呼ぶ声がしてそちらに目をやればやりきったような顔を浮かべた彼女が手を振っている。

「どうだ、なにか分かったか?」

「うん、多分、4人と1人だと思う。1人はホントについさっき、って感じ」

「4人と1人、か」

どう見るか、判断に困ってしまう。

「因みに他に情報はあるか?」

「うーん、4人の方は鎧を着てる人と後は確実に女性が1人、後はどうだろ・・・1人の方はほぼ間違いなくフルアーマーで長身の男だと思うよ」

「なるほどな・・・」

異質、特にフルアーマーの男は何でそんな重装備の上、1人で此処に来たのか分からない。少なくともそんな装備で尚且つ1人は冒険者としてみればかなり異質だ。それこそ逸れの騎士がここに迷い込んだと考える方が正解な気さえする。4人パーティはこちらも鎧を着ているらしいがそれが前衛で後は後衛、ないしは中衛と考えればそこまで可笑しくはない。

「どうする?多分今すぐ行けば追いつけそうだけど・・・」

アーロンは顎に手をやりながら考え込む。これが予言の事であれば急いだ方が良い可能性がある。だが今、アーロン達はたどり着いたばかりで多少とは言え疲れもある。時間は昼を過ぎており、あまり時間を掛けてしまうと夕方になってしまうだろう。炭坑内は時間も分かりにくい為、出てきたら真っ暗、という事も考えうる。そうなれば野営は面倒な事になる。

「・・・先に休憩と野営の準備だけしよう。そこまで深くない炭坑だ、夕方は過ぎるだろうが最低限の準備さえしておけばどうにかなる」

焦ることはない、そう判断したアーロンはエンリータにそう伝える。勿論、一度休むという目的もあるがそれ以上に始まりが見られるか否かであって危険を冒してまで掴まなければならない訳でもない、というのも理由だった。少なくとも焦ったせいで大怪我や死亡は避けるべきだろう。

「了解!」

アーロンの言葉に素直に返事をしたエンリータはそのまま廃炭坑の入り口から離れ、入り口とここに来た道からは見えない場所を探しに行き、アーロンもそれに続くような形で向かった。

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