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アーロン  作者: ラー
五章 下

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二十話

翌日、アーロンはあまり聞きなれない、しかし不快では無い音に釣られて目を覚ました。

「あ、アーロン!起きたんだね!」

身じろぎした音が聴こえたのだろう、エンリータがこちらに振り向きながら声を掛けて来る。

「あぁ、・・・寝すぎたか」

日陰を作っていたお蔭で顔に日光が当たる様なことはないが空気の温度と屋根との境目に差しこむ光の明るさでしっかりと陽が登っていることが分かる。予定ではもう少し早く起きるつもりであったが思ったよりも疲れが有ったらしい。

(ま、1日弱動き詰めてれば仕方がない)

いくら体のスペックが上がり、強い加護を宿そうとも生物的な事からは逃れられない。アーロンは頭を直ぐに切り替えて身体ごと頭を起す。

「全員起きたのか」

焚火のある方に目を向ければ先日助けた巫女たちとエンリータが卓を囲んでいる。恐らく談笑していて、その声がきっかけで眠りの浅いタイミングに起きたらしい。

「ふむ、問題ない様じゃな」

少しだけ固まった体をほぐしてから焚火の方に足を向ければエルムが座ったままこちらを見上げ、それと同じように全員の視線がこちらに向く。全員が美少女、或いは美女と形容される見た目をしている為に場所のミスマッチ感が凄い。更に半分が初対面であることもあって不思議な居心地の悪さがある。

「あぁ、頑丈なのは取柄でね。で、そっちが海と大地か。聞いているかもしれないが俺がアーロンだ」

そう言いながら海と大地の巫女の方へと視線を動かす。彼女たちの瞳には警戒心は殆ど感じられない。状況は理解しているだろうし、アーロンが助けたことくらいは分かっている、と言った所だろう。とはいえ信用されているかと言えばそうでもない、正しく初対面、と言った雰囲気だ。しかし、そんなことを気にするようなことはない。むしろ信頼が高い方が不気味だっただろう。

「ご丁寧にありがとうございます。私は海の巫女、ラナ、と申します。このたびは窮地を救っていただき誠に感謝しております」

波のような癖のある深い青色の長髪を棚引かせた美しい女性、海の巫女が頭を下げて来る。見た目で言えば巫女の中では一番年上だろう。また、海の巫女はどの巫女よりも人前に出て来る機会が多い為か喋りも丁寧ではあるが非常に柔らかく聞きやすい。超然としたエルムや幻想的な雰囲気のある焔と比べると随分と人寄り、という印象を受ける。

「そしてボクが大地の巫女、エルデだよ。本当にありがとう、アーロン」

ラナに続いたのが大地の巫女、エルデと名乗る少女だ。こちらはラナとは対照的にどこか少年のような親しみやすさを感じさせる。喋り方もどちらかと言えば平民のような雰囲気で気配もそっちにかなり寄っている。もし、服と髪型を変えてしまえば平民に混ざることも出来そうだ。

「ラナに、エルデだな。わかった。さて、エルム、魔力の方はどうだ?2日欲しい、とは聞いているが」

エンリータが開けてくれた隙間に身体を収め、座りながらエルムに問いかける。

「ふむ、流石に全員を元の場所に帰してやれるほどでは無い。なに着実に回復はしておるよ」

何という事はないとでも言いたげにエルムが静かに返す。であればアーロンとしても早くなるとは思っていない為いう事はない。

「そうか、ならばいい。さて、早速話を、と言いたいがまずは生活の基盤を整えたい。何れにしてもエルムの力で転移するならここから無理に移動することはない。勿論事情があれば移動はするがな。でだ、エンリータ、水はどの位だ」

アーロンが問いかければエンリータは水の入った皮袋を引っ張ってくる。

「う~ん、壊滅的かなぁ」

チャポチャポ、何とも便りのない音がする。流石に全員が目覚めてから飲んだのだろう、既にそこをつきかけている。とはいえ、これは想定内だ。

「そうか、で、飯も・・・似た様なもんだな」

水と違って最悪多少抜いた所で支障はない。が、それはアーロンやエンリータのような冒険者の話しで見るからに外で活動する人間ではない巫女たちには環境込みでしんどいものがあるだろう。それに拘束されていたことを思えば既に我慢していて可笑しくはない。

「見ての通り、水も食料も無い。だからまずはそっちを整えてから話をしたい。流石に暗くなって慌てたくもないからな」

そう言えば巫女たちも素直に頷き返してくれる。

「フム、では昨夜言った通り我らも手を貸すとしよう」

エルムがそう言うと巫女たちもアーロンが寝ている間に話が付いていたのか否定のような声は上がらない。

「だが実際どうするんだ?お前の指示に従えばいいか?」

聞く限りではそれぞれの司る属性にまつわる力を振って支援してくれるのだろうが具体的な事までは分からない。

「ウム、我と大地で食料を、海が水を、焔が火じゃな。あとはそちらで分けてくれて構わん」

「だとすれば先に水だな、それから食料を探す。エンリータ、お前はこの場で護衛だ。何かあればそうだな、魔術か何かで合図を送れ」

「いいよ!」

流石に巫女だけを残してどこかには行けない。勿論ニィスのような存在が来たならばどうしようもないがそこは事故のような物と割り切るほかない。それにもし巫女に用事があればアーロン達が助ける前に連れ出しているだろうと言う思いもある。

「では私からですね。少しばかりお待ちください」

話を聞いていたラナが目を閉じ、胸の前で祈る様にして指を組む。それと同時に彼女の魔力が湧き上がる。

「・・・あちらでしょうか、水の気配が濃い場所があります。只、どうも土の中みたいですね。それほど深くは無さそうですが・・・」

可視化できる程の青い魔力を纏いながらラナは感知した方向を指さす。

「凄まじいな・・・」

「すごい・・・これが出来れば水に困らないよ」

実際どうなのかまでは行ってみないと分からないが不思議な説得力を感じてしまうほど今のラナは神秘的だった。

「フム、ではアーロン、我が風で道を示そう」

そうエルムが言うや否や風が背中を押すように吹き始める。

「分かった。ここは任せたぞ」

そう言うとアーロンは水を汲めそうなものを抱え、風と同化したような速度で駆けて行った。


それからアーロンは風に導かれるままに大地を駆けた。巫女たちの力は本物で海の巫女が示した場所を魔術で掘れば多少なりとも濁ってはいたが十分なほどに水が湧き、再び風に言われるままに走れば食べられる植物や木の実が見つかった。流石に獣は近場に居なかったようで肉は難しかったがそこはなけなしの塩漬け肉があるので問題ないだろう。

「あ、帰って来た。お疲れアーロン」

元の場所に戻って来たアーロンにエンリータがいち早く労ってくれる。

「あぁ、兎に角これで持つはずだ。にしても巫女の力は凄まじいな」

こんなクソのような環境であっても何の問題も無く生活の基盤を整えられたと言うのは冒険者からすれば顎が外れそうな程に驚くことだ。おまけに焔の巫女のフラム(作業をする前に改めて名乗られた)が管理するたき火は通常よりも安定するだけでなく、薪も10分の1程度まで抑えられている。聞けば強くも弱くも出来るらしい。

「フム、では昼餉としようではないか。その間に我らがいた場所について話そう」

エルムがようやくと言った空気で告げる。アーロンとしても一応終わった事とは言ってもそれはそれで好奇心と言うものが湧いてくる。


「まず、我らが攫われ捕まっていた場所は既に名前すらも残らぬ程昔の古代都市国家の移動型の兵器の中である。これを作った国はこの大陸全土を支配下におさめる程の力を持っておった。が、とある事情によってその事実は消されることとなった。それこそ覚えているのは既に龍か使徒ぐらいであろうな」

(やはり遺物か・・・しかし、とある事情?)

この大陸に点在する遺跡のような物で今の技術では再現できず、理由も分からないものという扱いを良く受けている。これも遺跡と同じで研究をしたがる人はそれなりにいて解明されると新しい技術として大陸に広められることもある。とはいってもアーロンからすれば遠い世界の話しだ。それよりも英雄エーベルトがいるエテルニタス帝国でも未だなしていない大陸の統一を成した国がその全てを隠すようにして消えた事実の方が気になった。

「嘗てこの大陸を制した古代都市の上層部は思った、なぜ、我ら人が龍に神に支配されねばならぬのか、と。我らは人の支配者にして大陸の支配者、であれば我らが真実に頂点に立たねばならぬと」

余りにも傲慢な思考に信心深くはないアーロンであっても目を丸くする。もしかしたら神を下す、という考えが全く思いつかない発想だったからかもしれない。今の大陸は神の加護なしには成り立たない。それはアーロンが普段使っている力の源としての加護も切っても次の日には芽がでる森の木々、山や海の絶えることのない恵みも神の加護ゆえだ。生活の基盤を握られている、と言えなくもないだろうがそもそも神がそれで一般人に何かを要求することはなく、エーベルトが英雄になった破壊神殺しも他の神に助けてもらったのだ。故に日々祈ったり感謝することはなくても神に逆らうだとか邪魔、なんていう発想をしたことはない。

「いわば人の良くない部分が出た、と言ってもいいのかもしれん。所詮人は知恵ある獣、争う事は本能で向上心は留まる事を知らなかった、という事だろう。そして神への反逆と人の時代を手に入れると言う名目で造られたのが我らのいた場所だ。」

なるほどとアーロンは頷く、あれほど大掛かりな場所だったのだ、確かにそれだけ大きな事を考えたのならば、あれ程の技術の粋が込められていても可笑しくない。しかしそうであればやはり疑問が浮かぶ。

「だが、どうやって神に反抗するつもりだったんだ?そもそも会おうと思っても会えるものでは無い。おまけに全貌を俺は知らないが俺が倒せるような存在しかいなかったぞ?」

内部は確かに人がいないと言う致命的な欠陥はあったものの出て来た敵たちは番人こそ厄介だったが倒せないとまでは思えなかった。

「内部で汝らが倒してきたのは普段はあの施設を維持し、動かすための存在である。戦いはおまけと言う訳だ。そして本命は施設そのもので全力を出せれば大陸も割れる程の力が有ったとされるらしい。まぁ、我には嘘か真か判断には付かぬがあれが聖龍の怒りに触れ、直々に滅ぼされたのは事実だ。それにあの施設自体は手始めに龍と戦う事を想定しておったらしい」

聖龍、神の代行者にして実質大陸の支配者と言っても良い存在だ。滅多に表に出て来ることなど無く、世界の均衡が壊れる出来事が起きた時のみ、大陸の中央にある龍島より現れるとされている。もし聖龍が伝承通りであれば古代都市はかなりのレベルに有ったと言ってもいいだろう。

「その後、それだけの力を入れた兵器が無くなり、国家も聖龍の息吹で大半が荒野と化してしまったと聞く。それから再び大陸は群雄割拠の時代に逆戻りし、怒りを受けた都市は聖龍を信奉する者によって技術ごと歴史から葬られた。大まかにはこの流れよ」

簡単に纏められているがスケールだけはかなりデカい。今回、きちんと止められたことは思いのほか大きな功績だったと言えるだろう。

「あれ、でもワタシたちがいた兵器は聖龍に壊されたんだよね?なのになんでそこに居たの?」

黙って話を聞いていたエンリータが心底不思議そうな顔をする。しかし、確かにそれは疑問だ。

「単純なことよ。あのニィスとか言う願望器が掻き集めた思念を使って砂漠の地下深くにかつての姿で再現させたのだ。この砂漠は兵器と都市が沈んだ場所、そして人の思いは忘れ去られて尚、消えることはない。既に遥か昔のこととはいえアレにとっては時間など関係ない故、その長年積もった様々な想いを纏め上げたのだろうな」

「はぁ、想像もつかんな」

思わずため息が出る。それと同時にニィスに対する警戒がより高まる。と言ってもこちらから出来ることはないに等しいが。

「アレも聖龍と同じようなもの、故に聖龍も簡単に処理は出来ぬ。まぁ此度は事故と割り切るほかあるまいな」

そう言ってエルムは水を口に含み、乾いた喉を潤わせた。



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