表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アーロン  作者: ラー
一章

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

11/255

十一話

宿に戻った後、いくらか気分が良かったのかエンリータがやや呑みすぎると言う事があったものの許容範囲で夕飯を終わらせて床に着いた。そして翌朝、まだ帝都に喧騒が戻るよりも少し前の時間帯にアーロンは目を覚ます。いつもの様に装備を身に着け、エンリータを起こす。

互いに準備が終わり、荷物を持ちながら食堂に入ると、ちょうど他の客たちも食事の時間だったのかチラホラ椅子に座っており、食事をするものや恐らく同業者だろう集団が話し合いをしている姿が見える。アーロン達も席に座り、店員に注文を付け予定を話す。

「食事が終わり次第出来るだけ早くイリシィオに向かう。基本は街道をただ真っすぐ東に行くだけだ。恐らく順調に進んで7日から10日程だな、とはいえ間違いなく遅れは出るだろうが。それに合わせて食事と水の準備を昼までに済ませるぞ」

「うん、途中で水の補給とかって出来る?」

「あぁ、村が途中途中にある。だからそうだな・・・余裕を持って4日分あれば問題はないだろう」

「りょーかい!」

エンリータが元気に返事を返したところで注文していた料理が机に運ばれてくる。

「とりあえず食い終わったら市場に向かうぞ。他に気になる事はあるか?」

「うーん・・・そう言えば例の部下の人に会った後はどうするの?」

食事をしながら少しだけ声を落としてエンリータはそう尋ねて来る。

「流石にまだ決められん。その部下の強さもどういった経路で目的を果たすつもりなのかも知らないからな。まぁ覚悟だけは決めておけ」

「まぁ、そうだよねぇ・・・ちょっとドキドキしてくるよ」

エンリータはそう言いながら緊張と期待を混ぜた様な笑みを浮かべる。

「今からそれでは持たんぞ」

すこし呆れ気味にアーロンがそう返すと「えへへ」と頭の後ろを掻きながらエンリータは笑う。

そうして食事を終えた2人は宿を出て市場に向かう。市場にはその日分の食料や他国の珍しい品などが売られるのが主力だが冒険者や旅人向けの商品も売られている。目利きが出来なければぼったくりや質の悪いものを掴まされてしまうが今更アーロンはそんな阿呆な真似はしないし、ある程度良い商人をきちんと覚えている。

エンリータを引き連れながら雑踏を進み、顔の知れた商人たちを渡り歩きながら2人分の食料と水などを買い込みながら荷造りを済ませていく。ついでにエンリータに商人たちの顔と良い品と相場を教え込むことも忘れずに頭に叩きこませ、準備が整った所で門を目指す。そして人の流れに乗りながら門を出て、イリシィオ小国に繋がる街道を只ひたすらに歩き始めた。


エンリータに順調に行けば7日から10日とは言ったが実際には遅れるだろうと言うのがアーロンの予想だった。そもそも順調とは天気は晴れが続き、魔物や野盗の類に襲われず、体力に自信のあるアーロンが休憩こそ取るが1日歩き通しでたどり着くという計算だったからだ。流石にアーロンとエンリータでは体力に当然大きな差がある。そしてアクシデントは旅につきものである。2人の旅はまだ始まったばかりだ。


それから2人は延々と街道を東に進み続ける。帝都とイリシィオ小国の間は基本的に丘陵帯で見晴らしが良く、その屋根に沿って街道が作られている。拓けて平らな部分も多くある為、農耕や畜産も盛んで、近くの森林と合わせて帝都が栄えた理由でもある。街道は帝都に近ければ多くの人間が周囲の森や村への交易で使うが都市から離れるほどに人気は無くなり、旅の2日目の中頃には人の気配は大分無くなっていた。それに合わせて街道も徐々に荒さが見え始め、車輪の轍以外は雑草も目立つようになり始める。都市に住む人間は特別な用事が無ければ遠出などしないうえ、途中にある村も帝都に行くことはあっても国境方面へは行くことが無い。商人や冒険者等でなければ街道を行くことなどほとんど無いのだから当然ともいえるが街道が荒れるほど歩く速度は落ちる上に疲労はたまる。

4日目にもなると目に見えてエンリータの速度が落ち始めた。

「おい、大丈夫か?足取りが大分重いようだが」

そう尋ねると荒くなった息でエンリータは答える。

「はぁはぁ・・・ご、ごめんね。思ったより着いて行くのが大変で・・・ハハハ、カッシさんは私に合わせて大分加減してくれてたんだなぁ・・・」

額の汗を手で拭いながらエンリータは苦笑いを浮かべた。

「悪いとは思うが急ぐ理由がある、何より選んだのはお前自身だ、もう少し頑張ってくれ。最低でも今日中には国境付近の村にはたどり着きたい」

「うん、大丈夫だよ。ワタシだって冒険者だもん!そのくらいは頑張ってみせるよ!」

その言葉を最後に2人は再び歩き始める。


そろそろ目的の村に着くかという頃だった。街道から外れた草原の中、風に靡く草むらに不自然な動きがアーロンの目に入る。

「止まれ」手をエンリータの眼前に伸ばし合図を出す。少し下を向いて歩いていた彼女は突然の合図と手に驚いたようだが直ぐに顔つきを変え、背負っていた短弓を手に持ち、矢を右手に構える。それを見たアーロンは左手の指を動きのあった草むらに向ける。未だにガサゴソ動いており、明らかに何かしらの生物がいることを示していた。

「まだ攻撃はするな。人ではないと思うが万が一もある。このまま静かに行くぞ」

その言葉にエンリータは小さく頷き、2人は視線を向けたまま村の方へと足を進める。草の揺れ具合や、姿が見えないことから左程大きい存在ではなく、精々アーロンの胸位の大きさであることは分かるがいざ戦闘となれば当然リスクがある。そうしてようやく警戒域から離れられると言った所で草むらからその正体が顔を上げた。


それは白い体をしていて体毛は無く、一見人間の様にも見えた。しかしあまりにも楕円な頭頂部をしており、首の様なものは見当たらず、胴体と頭が一つになっている様な、卵型とでも言える見た目をしていた。異常に長く細い手がちょうど体の中央の高さから地面に向かって真っすぐと伸びている。目は丸く、真っ黒で光が見られず虚空を思わせ、刃物で削いだかのような鼻に開ききった歯の無い口が見える。胴体は膨れているようにも見えるのに、あばら骨の様なものが浮き出ており気味の悪さがにじみ出ている。それはキョロキョロと言うよりはグルンと言った感じに顔を動かし、アーロン達と目が合うと動きをビタリと止め、観察でもするかのようにこちらを見ている。

「なにアレ・・・」

思わずといった感じでエンリータが声を漏らす。

「俺も見たことがない・・・少なくともまともな生き物ではないだろう」

緊張感を滲ませながらアーロンが背のグレートソードを抜き、構えを取る。お互いに動けないまま時が流れる。重苦しい雰囲気が互いの間に流れ続け、風が吹き抜けて草が擦れる音だけが世界を包む。白いソレは未だに微動だにせず、ただこちらを眺め続けている。

(どうする、こちらから仕掛けるか?)

アーロンがそう逡巡した時だった。突然白いソレが上下に激しく振動したかと思えば狂人のような空恐ろしい笑い声を出しながら長い手を振り回し、千鳥足のような動きにも関らずこちらに向かって疾走と言える程の速度で動き始めた。

「撃て!」

咄嗟にエンリータに合図を送り、自身は大剣を後ろに流しながら敵に向かって駆ける。アーロンにやや遅れ、慌てた様に射られた矢は運が良い事に敵に向かって真っすぐに飛んだ。しかし威力が低かったせいか敵の手に易々と弾きとばされてしまう。

(あれでいて知性があるのか!おまけに速度が異常に速い!)

どう見ても酔っぱらった狂人にしか見えない動きと奇声をあげながらアーロンよりもやや遅いくらいの速度でこちらに迫ってくるのだ。生理的な嫌悪が顔を歪ませる。

いつもの様に力強く大地を踏みしめ、握りしめたグレートソードを横薙ぎに振るえば風を切りながら敵の腹を目掛けて進む。そして刃が敵の腹に到達しようかという時、突然、敵の白い体が振れ、消えた。アーロンは思わず目を見開いてしまう。間違いなく切り裂けるタイミングだったにも関らず、敵はその軌跡の上に跳び上がる事で避けたのだ。頭上に敵の笑い声が聴こえる。咄嗟に振り抜いたまま前に転がり、グレートソードを盾にするように身構える。しかし跳び上がった敵は着地するとアーロンの方を一切見向きすることなくエンリータの方へと駆けていく。

(不味い!)「逃げろ!」

大声でエンリータに声をかけ、自身も立ち上がり全速力で背を追う。

(このままだとギリギリ届かん!)

自身の失策を恨みながら追いかけるが敵はもうエンリータの危険域に入っている。彼女も短弓で構えてはいるが先程の矢への対応力と俊敏性では効果に期待できない。そして先程より強い矢が放たれるが敵は長い腕で強引に弾いてしまい、そのまま一気に肉薄して右腕を横に引き絞ると鞭の様にしならせながら彼女に向かって振り抜いた。木が弾ける音と肉がぶつかる鈍い音が響き、エンリータの小さな体が宙を舞う。それを見ながら歯噛みしつつ、追いついたアーロンは笑い続ける敵に切りかかるが後ろに目でも付いているかのように避けられてしまう。

そして、再びエンリータを背にするようにして敵と向かい合う。先の敵の一撃は間違いなく大打撃だろう。最悪死んでしまったか、そうでなくとも直ぐに動くことは不可能だ。敵は一旦動くのを止め、少し離れた所で再びこちらを光の無い目でジッと観察してくる。

(どうする、時間はかけられん。しかし攻撃も容易くは当たってはくれなさそうだ)

アーロンは僅かに額に汗を浮かべながら思考する。安直に踏み込んでは最悪先程と同じように躱され、エンリータに追撃を仕掛けられる可能性もあるこの現状、負けるとは思っていないが間違いなく面倒な相手に歯噛みする。

「仕方ない」

そう呟くとグレートソードを後ろに流したまま魔術を唱える。

『炎精よ、願うは円陣、』

詠唱の途中で敵も何か感じることがあったのか動き出し、アーロンに迫ってくる。しかしアーロンは慌てることなく、詠唱を続ける。

『束縛の檻』

目前に立った敵に大剣を振り上げながら唱えられた呪文はアーロンと敵の周囲を囲むように発動した。

一軒家よりも高い炎の壁が2人を中心に円形にそそり立ち、さながら即席のコロッセオのようになる。当然、内部は凄まじい熱量で一気に汗が噴き出る。

(なんとか閉じこめられたか)

そう内心で独り言つとまたもアーロンの一撃を宙返りで避けた敵を睨み付ける。自身を囲む炎の壁を見て敵も流石に状況が良くないことが分かったのか周囲を少し見渡すような挙動をしている。

(さて、さっさと倒すか・・・自分の魔術で自滅は笑えん)

アーロンはグレートソードを構え直すと敵に向かって踏み込み、炎の壁に追い込むように大振りでは無く小刻みにグレートソードを振り、時に刺していく。先程より鋭く振るわれる剣戟を踊る様に敵は避けていくが徐々に火の壁とアーロンに挟み込められて身体に僅かながら傷を付けられていく。敵も長い腕を振り回し、こちらの攻めを崩そうとするがアーロンは器用に大剣の腹で受け流し、抵抗を許さない。

そしてついに壁際まで追い込まれ、敵はその背を僅かながらに焼かれ始めた。それにも関わらず未だに狂気が込められた笑い声をあげ続ける姿は見た目と相まって醜悪さを感じさせる。心が弱ければ思わず怯んでしまいそうな光景だがアーロンは一切気にすることなくグレートソードを振るい、炎の壁に押し込み続ける。

敵が跳び上がれば少し距離を取り、横に逃げても常に自分の正面からは逃がさず、ただ冷静に、狩人の様に獲物を追い詰めた。

そうして遂に敵の背に火が完全に燃え移り、笑い声と挙動が一気に激しくなる。それはさながら悪あがきで、今までの俊敏で鋭利な動きでは無く、知性のない獣の動きだった。がむしゃらに腕を振りながらアーロンに向かって体当たりを仕掛ける。それを見ながらアーロンは柄を握り直しながら足を大きく開き、半身になりながらグレートソードを後ろに引き、カウンターの構えを取る。そしてあと一歩で敵の剛腕が届くかという所で前に一気に踏み込み、通り抜け様に大剣を横に薙ぐ。完全に身体を前にして腕を振っていた敵は避けることも出来ず、吸い込まれる様に大剣にその身を倒していく。肉と刃がぶつかり、思ったよりも軽い手ごたえでその身を両断していき、硬い骨の様な手ごたえを最後に白い体は2つに分かたれ、ドサリと言う音と共に笑い声が消えていく。

アーロンは切った後、直ぐに振り返り、念を押すように頭部に刃先を差し込む。その姿勢のまま暫く固まっていたが流石に動き出すようなことは無く、ため息を1つ吐くとグレートソードを抜き取り、周囲の炎を消す。大地には円を描く様に燃えた後が広がり、内側の草は影も残っておらず、酷いありさまだった。

(流石に無理をしたか。いや、要らん慢心の代償と思えば安い物か)

そう思いながらエンリータが無事か確認するために飛ばされた方に向かって駆けだす。

(あの攻撃の音と速度からすると、死んでいるかもしれん・・・)

内心そう考えながら探すと、ぐったりとした姿でエンリータが草むらに倒れているのが見えた。短弓は折れており、唯一露出している顔にも多少の傷が見えている。口からは血が漏れており、やはり駄目かと苦い思いがこみ上げる。しかし近くによって見ると内臓がやられたにしては出血が少なく、胸が規則的に上下しているのが見えた。思わず目を見開き、しゃがみこんで肩を軽く叩き声をかける。

「おい、大丈夫か」

そうすると僅かに苦しそうな呻き声が聴こえる。

(無事ではないが生きている。呼吸もしっかりしている。吹き飛ばされた後に気絶したみたいだな・・・よかった、死なれては流石に寝覚めが悪い)

思わず安堵する。

(しかし、このままここで夜になるのは不味い)

そう思い、急いで周囲の荷物を背負うとエンリータの下に戻り、静かに抱き上げる。未だに意識は戻らず、安心は出来ない。

アーロンは一度倒した魔物の方を見やる、そこには未だに煙に成らずに横たわったままの姿があった。

(消えない、ならあれは獣神の眷属という事か?いや、あの姿でそれは考えにくい)

魔物は魔物の神由来の存在であり、姿は様々で獣に近い物から完全な異形まで多くの形が存在し、何よりの特徴として死ぬと煙に成って時折一部分を残して消える。しかし、もともと大地にいた獣は獣神から生み出されたものでこの場合は死んでも消えない。そしてアーロンはここまで不気味な獣は見たことも聞いたことも無い。

(おかしい、しかし今は時間が無い)

本来なら調べる必要があるが今は人命が第一である。アーロンは謎の死骸に背を向けると村に向かって駆けて行った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ