十七話
アーロンはひたすらに部屋を駆け巡る。それに追従し、時には待ち受けるようにして幾重もの光線が降り注ぐがそれらは既にアーロンにとって脅威には映ってはいなかった。というのも流石に数え切れないほど打たれれば対処法などいくらでも思いつくうえ、敵の思考パターンを掴めてしまえばそれほど難しさを感じなかった。威力も魔力を纏っているアーロンならば仮に直撃しようとも多少ならば無視できてしまうだろう。それ故に無視できないのは精々が目から放たれる極太の光線位だった。
(チッ、突破口が見つからん)
しかし、アーロンの頭の中は苛立ちが大半を占めていた。というのも一度弾かれてから幾度も接近しては腹部や腕は勿論の事、頭部や目も狙ってみたが一切の手ごたえを感じられない。精々が腕は高い威力を当てればその勢いで押せる、という事位で傷の1つも負わせることは出来ない。当然、手加減などしてはいないし、アーロンの受ける直感から来る物でもダメージが通っていないのは明らかに不自然と訴えかける。
(揺れも酷くなって来た。時間がないか?)
足元からずっと感じる揺れは次第に大きくなってきており、どうなるのかは分からないが碌な事にはならないだろうという事だけがヒシヒシと伝わってくる。
(次は背面か)
番人の身体で既に攻撃していないのは背面しかない。そしてこれが駄目ならば一か八か加護による力押しを考えなければならないだろう。
アーロンは向かってくる攻撃を振り切りようにして一気に番人の背面へと迂回していく。当然、こちらを見ている番人も容易に背面へと入らせないために身体を旋回させて来る。そこでアーロンは急停止すると向かってきていた腕を掻い潜り、するりと背面へと体を躍らせる。敵は素早く動くアーロンに追いつくためにそれなりの速度を出していた事と勢いよく腕を振ったことで着いて来られず、アーロンを完全にフリーにした。
「ハァァァ!!」
その隙を見逃すことなく、アーロンはグレートソードを振りかぶり、下す。そしてもう少しで刃が敵と接触する、という時だった。番人が今まで一切見せなかったような異常な速度で旋回を加速させて裏拳をアーロンの側面へと飛ばしてくる。この加速はアーロンにとって少しばかり予想外の物だったが何とかグレートソードの進路を強引に変えることで迫る拳とぶつけ、直撃を避ける。
流石に機を逃したと感じたアーロンは番人と距離を取る。そして今の挙動と近くで見た背中の違和感に思考を回す。
(なんだ、あの加速・・・?そんな事が出来るならもっと早くに出しても可笑しくない。おまけにあいつの背中、遠目には分からなかったが歪だ)
今まで幾度もアーロンは番人に接近しては攻撃を重ねた。その際に先程見せた異常な加速は一度も無かった。あれほどの速度が出せるならばそれこそ最初、アーロンが驚きで固まった時にも使っても良かったし、それ以降の攻撃時にも使ってもいいはずだ。なにせ重量のあるものが速く動くと言うのはそれだけで凶器足りうる。だからこそ先程の急加速は違和感が残る。勿論、それだけでなく至近距離で番人の背を見た時に不自然な盛り上がりをアーロンは目撃した。遠目には全体が人間の筋肉のような見た目で隆起しているのだと思ったが近くで見てみれば不自然なでっぱりが無数にあった。それこそ内部のパーツが皮膚を押し上げていると思うほどに。
「試すか」
そうなれば当然仮説が生まれる。あの無敵の装甲がどのような理由かは分からないが背面には無く、番人にとってそこだけは絶対に守りたいと思う部分なのではないかという事だ。勿論、突破口が見えなかったアーロンが都合よく解釈している可能性はあるがどうせ他の部分には今一効果が無い中で唯一変化が有った場所なのだ、期待するなと言うのも無理な話だろう。それと同時にアーロンは見た時間が短かったとしても自身の経験と実力から感じられたことを試さないという選択は取れなかった。
「エンリータ!俺は背後を狙う、異常があればそこを狙え!」
此処の戦いでアーロンの攻撃も通じなかった以上、待機せざるを得なかった彼女に観察と追撃を頼む。そのまま返事を待つことも無くアーロンは再び足を回す。目標は番人の背後への攻撃だ。時間はあまりないが故に正面から挑まざるを得ない。目から放たれる極太の光線も慣れたとはいえ幾度も放たれたがゆえに部屋の損傷が激しい。最悪制限時間までに床が抜けるか壁が壊れて部屋が潰れても可笑しくない
敵もアーロンの狙いが分かっているのか明らかに抵抗が激しくなって来たように感じられる。が、ほぼ手の内が分かっている以上今更手間取ることはない。その上、さっきの加速のような奥の手も今の所感じられない。
アーロンは更に速度を部屋にダメージが出ないギリギリまであげて一気に懐へ飛び込む。そうすればアーロンを狙った光線の束と両手によるスタンプが構えられる。それに対してアーロンは逃げることはせずにまずは光線に対して同じように斬撃を飛ばす。斬撃は光線とぶつかると爆発したような音と衝撃を生む。そして威力を合わせたことで対消滅して視界が晴れる。その視線の先には岩石のような両こぶしが落ちて来る。当然こちらも避けはしない。アーロンは直ぐにグレートソードを引き戻して構える。
「ハァァ!」
そして下から上へ、アッパーを放つようにして振り上げる。アーロンの攻撃は今まで通用はしていなかったが腕は床と近い胴体と違って攻撃は通らなくても衝撃は通る。つまるところ攻撃を崩すことは出来る。そしてアーロンの膂力は敵と比べて明らかに勝っている。結果、両者がぶつかり合ったのち、番人の腕は傷1つも無いが轟音を立てながら上へ弾かれていく。そして番人は非常に無防備な形になった。目の光線もまだ溜まりきってはいない。これで基本的な攻撃手段をアーロンは奪い切った。
(これで決める)
そしてアーロンは覚悟を決めて部屋の耐久以上の力を出す。少なくとも敵と部屋に付き合っていては制限時間に間に合わないとアーロンは判断した。ならば短時間、耐久値を超えた力をアーロンは身体に宿す。そして一気に踏み込む。足元では既に傷だらけだった床に大きな罅が蜘蛛の巣のように広がる。しかしその代わりに番人の目が明らかに追いつかない程に加速する。
そのまま回り込もうとすれば敵も流石と言った所だろうか、腕は振り上げられたまま独楽のように回ろうとする。アーロンの狙いは分かるのだろう、多少は遅れようとも回れば背後に回る時間を稼げるうえ、遠心力による加速で攻撃の火力を上げることも出来る。が、そんな小細工をアーロンは許さない。更にアーロンは踏み込み、番人の小細工を強引に無視して背後に回りきる。そして番人の旋回に逆らうように袈裟切りにする。
ゴオォォオオオオン!金属、それも鐘を叩いたような音を奏でる。それは他の部位とは明らかに違う音がする。それに手に伝わってくる感触も硬いものに弾かれるのではなく、細々としたものが砕け、切られる感触が伝わってくる。何より視覚的に見てもあれ程硬かったはずの装甲に明らかな切れ目が入り、刀身の半分ほどが入り込んだ。
「ハァァ!!」
それを好機と意識するよりも速く、アーロンは一息に切り捨てる。そしてようやく回って来た敵の拳を避けるために少しばかり後方に下がる。
番人は切られたところから細かいパーツを溢し、明らかに異常な煙を血のように噴き出させながらアーロンの方へと顔を向ける。その眼には表情はないが挙動はふらつきがあり、明らかな異常が見られる。
ビュン、ビュン、ビュン。こちらに顔が向いたという事はエンリータ側に背中が向く。そんな隙を彼女が見逃すことはなかった。矢は真っすぐ番人の背の中、出来た傷の中に3本吸い込まれていく。そしてその度に細長い煙が噴き出し、傷口に塩、いや熱した鉄棒でも差しこまれたのではないかと思うほどに番人は暴れる。同時に反対にいるにも拘らず熱が頬を打つ。
(賭けに勝ったか。なら畳みかける!)
時間も無い、足から伝わる振動も限界が近そうだ。アーロンはグレートソードを肩に担ぐとトドメを指すために未だ暴れ回る番人の様子を窺う。そこへ再びエンリータの矢が付く刺さり、これは堪らないと思ったのか番人はアーロンがいるにも関らずその体を旋回させていく。それを見たアーロンは熱で体を焼かれないように薄く殻を張り、止めの為に腰を落とし、グレートソードを振り上げて待ち構える。
(・・・)「ハァ!」
そして番人の背がこちらに回って来た瞬間にアーロンは渾身の力を込めて振り落とす。そうすれば切った時と同じ手応え、いや少し柔らかくなった感触と同じ音が響く。そして切り落としきった瞬間遂に限界を迎えたのか番人は背中から煙だけでなく、火と閃光を放ちながら爆発を引き起こす。アーロンの視界は赤と白で一杯になった。
良ければ評価、ブクマ等していただければ幸いです。




