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アーロン  作者: ラー
五章 下

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十五話

「フッ、フッ、フッ」

アーロンの横を走るエンリータの息使いが少し荒くなる。施設全体が揺れてからひたすらに登り道を駆け上がっているのだからそれも仕方がないだろう。おまけに彼女の背では平均よりも遥かに歩数が増える。まだ大丈夫そうではあるが目的地で突然戦闘などになってしまうと苦しいかもしれない。

振動はあれからも幾度かあり、規模はそこまででもないが施設が動き出しそうな揺れが頻発している。これほどの規模の施設が動く、というのはアーロンの常識からすれば俄かに信じがたいものがある。しかし、実際にニィスの証言や見たことも無い道具の数々に一切人の手を借りることなく動く農園や動力を思い浮かべればあながち嘘とは言えないだろう。

「見えて来たな」

アーロンが呟けばエンリータも上に視線を向ける。天井に届いたわけでは無いが道の切れ目、1つの扉が見えてくる。これまで途中途中にあった扉と同種で特に飾り気があるものではない。アーロン達は少しだけ速度を上げて扉を目指す。今までと同じ扉である為に目的の場所に近づいているのか不安になってしまうが元より勘便りだったために仕方がない。少なくとも全てを確認するような時間は無い。

扉を開けた先は今までと違ってより洗練された造りの廊下になっている。無機質とも言えなくはないだろうがとても硬い材質で継ぎ目すらない。幅はそれほどなく、本当に通る為の廊下、と言った雰囲気だ。ここもしっかりと明かりがあり、火のような物では無く魔術とも違う、それこそ人工的な、と言う表現が似合いそうな黄色を帯びた光だ。しかし非常に見やすく、この無機質な廊下を暖か味のある空間へと変えている。

「見ている時間はない、行くぞ」

不思議そうに見ていたエンリータの肩を叩いて小走りに駆けだす。施設が揺れる間隔が短くなってきている。恐らく自分たちにとって良い事ではないだろうとアーロンは直感する。何なら既にかなりの死地に飛び込んでいるような空気感すらあった。 


2人はそのまま道なりに、時には看板に従って進む。道は入り組んではいるが今までに登って来た道にある看板に一番大きく記されていた文字と合致する方へと進行方向を取っている。

(これで外れたら最悪だな)

もう他へと当たりを付けて進む時間はないだろう。だが少なくとも今進んでいる道は先程までと違って施設の中央へと向かっているように感じられる。大抵大事な場所と言うのは中央付近にあるものだ、という感覚で決めてしまってはいるがここまで案内があるならばあながちハズレではなさそうだとは思える。

そうしてたどり着いた先は最初の転移室によく似た広場だった。中央には何やら透明な筒状の物が天井と地面を繋ぐようにして鎮座しており、その中を水のような物が流れている。また、それ自体だろうか薄く発光しており、今は青色が空間を染めている。周囲にはまた良く分からない魔道具らしき物体が所狭しと配置されていて、その全てが光を漏らしている。少しばかり近寄って見てみれば良く分からない言語が無数に並んでおり、横書きにされたそれらが下から上へと流れて行っている。また、定期的にピ、ピ、ピと音が鳴っているようでその度に画面が切り替わっているようだ。

(流石に意味が理解できないな)

暫く眺めてみるがやはり現在使われている文字と違い過ぎるせいで全く理解することが出来ない。高名な学者であれば何か分かったかもしれないがただの冒険者であるアーロンには荷が重たい。

魔道具から離れて中央で光っている透明な筒にも寄って見てみるがこれもなんの意味があるのかは分からない。強いて言えば上から下へと中の水らしきものが流れている事が分かったことぐらいだろう。

「アーロン、あっちから何か音がする」

同じようにしていたエンリータの声がした方を向く。そちらには此処でよく見るようなトンネル型の通路がある。

「どんな音だ?」

アーロンも近寄ってみるがエンリータがいう音は聞こえない。強いて言えば環境音、風と魔道具が出している音ぐらいだ。

「んん・・・なんかおっきなものかなぁ?あぁ、迷路であったあの敵の音と似てるかな?兎に角そんな感じの物が動いている音がする」

エンリータの言う事を信じるならば巨大な人口魔物がいることに他ならない。そうで無くとも巨大な動くものがいると言うのはアーロン達の目的からすれば好ましくない。

(いや、そこに監禁されてる可能性もあるか)

その存在が護衛、監視のような立ち位置に居るならばそこがアーロン達の目的地、という可能性が浮上する。

「どっちにしても行くしかないか」

ここの部屋で出来ることなど無く、文字も読めないのだから下手な事をするわけにはいかない。そうなれば後は進むだけだ。そうアーロンが考えているとここ最近では一番の揺れが始まり、部屋が再びあの警報音と赤い照明に照らされる。

「――――、――、―――――」

何を言っているのかは分からない。しかし、どこかアナウンスのような物だと直感出来るような雰囲気だ。アーロン達が屈んでいると部屋の上部、中央に突然文字、いや数字だろうか兎に角、何かが掛かれた透明の盤が映り、動き出す。

「読めないが・・・制限時間か?」

アーロンはそれを事が起こる前の予告、アーロン達からすればタイムリミットだと判断する。

「あまりないか・・・」

詳しい事は分からない、しかし動きから考えればここから脱出するにはとても時間が足りない。もし、この先に巫女たちがいないのならば到底足りそうにもない。振動は弱くなってきたが今度は止む気配が無い。

「どうするの?」

立ち上がり、既に弓を抜いたエンリータが問いかけて来る。とはいっても弓を抜いているのだから確認の意味合いでしかないだろう。

「行くぞ、無い道は通れない」

そう言うとアーロンもグレートソードを引きぬいてトンネルの中を駆け足で進む。


通路はやはりしっかりと視界が確保されており、進むのに支障はない。そしてある程度進むとアーロンにもエンリータがいう音が微かに聴こえてくる。何か重たい物が擦れるような音と何かが動き回るような音だ。間違いなく何かしらの意志を持ったものがこの先に居ることが分かる。

「俺が先に飛び込む。お前は安全を確保してから来い!」

出口が見えた直後、アーロンは足に力を込めて速度を上げる。そして飛び込んだ部屋はニィスと戦った部屋と同じくらい広い。当然ながら窓のような物はなく、密室感が強い。壁はこの施設にしては珍しく平らでは無く、中に虫でも這っているのではないかと思わせるほどにボコボコとした部分が目立つ。また壁の色が黄土色であるせいか上部から降り注ぐ光が少しばかり眩しい。

(なんだ、あれは?)

ここに来て一番不思議な物体がアーロンの目の前、部屋の中央よりやや奥に鎮座している。傍目には筋骨隆々、それも尋常ではない程にガタイの良い人型の上半身の背中が見える。下半身は床の下にあるのか、それとも元々無く、床とくっついているのかは分からない。全体的に黒く、所々飾りのように金の線や宝石のような細工が施されており、着飾った戦士の後ろ姿に見える。大きさは見上げる程に大きく、上半身しかないにもかかわらずアーロンの身長では腹の中心にも届かないだろう。そんな不思議な存在がこちらに背を向けたまま、何やらここまで見てきた魔道具を大きくした様なものを一心不乱に弄っている。

(なんだか分からんが、あれを止めればいいのか?)

兎に角、接触してみようとアーロンが1歩踏み出した瞬間、脳に直接喋りかけられたとしか思えないような現象が起こる。

(これは、天の巫女か?)

似た様な魔力の感覚を神殿で感じたことのあるアーロンは直ぐに当たりを付ける。しかし、喋りかけられているような感覚こそするが何を言っているのかが分からない。何か邪魔されている、それこそ多くの人間が喋っているのを1人ずつ聞き分けようとした時のように同じ言語を喋っているのは分かるのに聞き取れない、と言った感覚だ。

(・・・ン、・・・・・・・?た・・、・こ・・て)

アーロンは少しばかり思案する。目の前にいるのは恐らく敵だろう。であれば早急に倒す必要があるのは間違いない。しかし聞こえてくるこの念話も無視していいかは判断が付かない。かといって今はこちらに気付いていなさそうではあるが念話中にこちらに気付かれてしまうのは避けたい。

(仕方ないか・・・)

アーロンは考え事を直ぐに止めてまずはこの念話を聞き取る方へと舵を切った。両者を天秤にかけ、どちらの方が最悪の事態を引き起こしかねないかで考えた結果、万が一目の前の敵を下手な壊し方のせいで立っている部屋ごと爆発に巻き込まれる、なんてことが有ったらどう足掻いても一巻の終わりだ。ならば一度念話を聞くのは悪くないとアーロンは考えた。それにまだ巫女の姿が見えない。ならばこの念話が想像通り巫女ならば目的を果たしやすくなる。何より戦闘で向こうが奇襲気味に来ても耐えられるだろうと言う自信もある。

(魔力を回して、無理にでも繋げられれば・・・)

アーロンは繋がっているか細い魔力の線を補強するように自身の魔力流す。すると先まで微かにしか感じられなかった魔力の波動が部屋の上の方へとどんどん伸びるのを感じ、同時に念話がはっきりと聞こえるようになる。

(・ーロン、聞こえているのならば応えてほしい)

(あぁ、今聴こえた。お前はエルムで合ってるか?)

アーロンがそう問いかければ肯定するような感覚が返ってくる。

(アーロン、時間が無い。汝に頼みたいのは我ら巫女の解放と番人、汝の前に居る存在を討滅してほしい)

当初あった時のような余裕、というべきかどこか現世離れした雰囲気が感じられず、焦りを多分に含んだ印象を受ける。どうやらかなり切羽詰まっているのは事実のようだ。

(我ら巫女は今、この部屋の上部で繭のような物で拘束されている。これは番人が今弄っている道具で開放できる。故に汝には盤を傷つけることなく番人を倒してほしい)

アーロンが上に視線を飛ばせば確かに左右に2つずつ繭のような物が壁に着いており、そこから太い管のような物が伸びている。よく見ればいくつかの球が発光している。

(グ、済まぬ、これ以上は・・・た・の・・)

突然苦しむ様な声がしたかと思えば念話が切れ始め、刃物で切られたかのようにぶつりと切れてしまう。何があったのかとアーロンが喋りかけようとした瞬間違和感を覚える。先程まで聞こえていた何かを叩く音と大きな物が動く音がしない。

アーロンは嫌な予感と共に上にむいていた視線を前に向ければさっきまで一心不乱に動いていた敵、エルムに寄れば番人がその動きを止め、顔だけをこちらに向けている。

(チッ、気付かれたか)

音を出していたつもりはなかったがいつの間にかこちらに気が付いたらしく、ジッと巨大な1つ目でこちらを見て来る。

暫く硬直していた敵だが次第にその黒い巨体を震わせたかと思うと巨腕を赤子のように振りまわし始め、体全体を旋回させてこちらに向くと口など無いと言うのにどこか吼えるような挙動する。まるでこの部屋に入って来た異物に怒っている様だった。

「・・・やるか」

またもや一切の情報のない敵。おまけにエルムのいう事に寄れば後ろの盤を壊すことが駄目と制限まである。アーロンは軽くため息を吐くと全身に力を入れて踏み出すのだった。



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