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アーロン  作者: ラー
五章 下

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十三話

衝突と共に放たれた斬撃に見合った爆発音が空間に響く。直接手に響くものはないがアーロンはハッキリとした手ごたえを感じていた。

(さぁ、どうなる?)

それでも警戒を解けないのは未知の敵であることと攻撃を放つ寸前、球の挙動が可笑しかったことが引っかかっていた。横目ではあるが見ていた感じでは少なくともアーロンに対して攻撃することが出来ただろうし、そうで無くとも回避に専念したり斬撃を打ち消すように動いても良かったはずだ。それらを一切せずに硬直というのは違和感が残る。

(まさか味方がやられてショック、なんて馬鹿な話も有るまい)

これと言った見解が出てこないアーロンの脳裏にはありえない妄想しか思いつかない。


そして、斬撃を受けた敵はそれなりのダメージを負ったのか煙の様なものを噴き上げている。外周で回っていた円環は見るも無残に砕け、床へと散らばり落ちてしまった。しかし、本体だろう顔のついた円盤の部分は未だ煙を噴き上げさせながらも宙に浮き、震えていた。

「あ?」

思わず声を漏らしてしまう。そう、球が異様な震え方をしているのである。それこそ何かを我慢しているかのようにも思える震え方だ。それと同時に吹き上げる煙の量も増えている。まるで爆発、或いは何かが生まれるかのような振動を続けている。

(なんだかよく分からないが待つのは愚策か)

すこし観察に時間を掛けたが分かる事は大したことが無い。おまけに敵が何かしてくるのなら潰すように先手を取る事の重要さをアーロンは良く知っている。直ぐにもう一度グレートソードを引くと魔力を乗せ、先程と同規模の斬撃を放つ。斬撃はやはり震えるだけで動かない敵と正面から衝突して同じように爆破音を出す。しかし、違ったのはその直後だ。アーロンの攻撃による音だけでは無く、明らかに敵が自ら爆発したような音と衝撃が耳と頬を打つ。そして爆発した敵は力尽きた様に床へ真っ直ぐ落下すると最後まで残っていた円盤部分が卵のように割れる。

割れた円盤から大量の煙が噴き出し、全容を隠されてしまう。だがアーロンの耳には何やらガチャガチャと何かが這い出して来るような音が聴こえて来た。

「何か来るか・・・警戒しろ!来るぞ!」

遠くにいるエンリータに指示を飛ばす。飛びぬけた強者の気配はしない。しかし、警戒しない理由はない。それに此処の敵は通常の敵よりも気配で力が読みにくいのも事実だ。もしかしたら命が無く、魔物の様な魔力体でもない事が影響している可能性がある。である以上アーロンは気が抜けない。ましてや今はエンリータとも離れてしまっている。彼女が即死することはないだろうがもしも大怪我をしてしまったら今後に問題が出てしまう。

そしてアーロンが警戒した煙の中から突然に空間を広げるようにして風が吹き荒れた。吹いた風は当然煙を晴らし、その正体をアーロン達の前に表す。

パッと見は人型の飛蝗でかなり細身、人間の女性を模しているのかシルエットがかなり女性的で飛蝗なのに人の要素が入っているだけに不気味に見える。全身はさっきまでの石造りという印象は無く、なめらかで継ぎ目のような物は見えず非常にメタリックな光沢を放っている。背はあの円盤に入っていたのかと伺うほどに高く、一軒家と同等程度には高い。しかしそれ以上に頭部から伸びる髪らしき部分が長く、直立しているにも拘らず3分の1程度が地面に波紋のように広がっている。顔らしき部分はどこか虫を思わせ、バッタの様な無機質で光沢のある瞳はどこを見ているのか分からない。また、髪とは明確に違う2本の細長い触覚がまるで角のように額から伸びている。そして人型、とは言った物のその手足は人とはかけ離れている。足は真っすぐに見えるがよく見れば逆関節になっており、跳ぶことに特化したようなフォルムをしている。腕は細長いだけで人と同等に見えるがやはり手にはトゲトゲとした鉤爪が付いており、腕の外周にも鋸のように棘が生えそろっている。

総じて異質、先程まで戦っていた敵たちとは全くと言っていいほどに似ていない。それこそ作った人間と年代が違うと思ってしまうほどだ。

(不気味だな、特にあの目が気持ち悪い)

敵は立ち上がると同時にその飛蝗の様な顔と目をアーロンに向けていた。もっとも目がこちらを向いているかは顔の向きでしか判断が付かない。

(兎に角、まずは牽制でもッ!?)

アーロンが遠距離から牽制しようと思った瞬間だった。先程まで不気味に直立していた敵が足に力を込めるように姿勢を下げ、前傾姿勢の様なものを取る。そうすれば足は張り詰めた弓のようにしなり、床には力が相当込められたのか鉤爪の当たりが自然と削れる。そしてアーロンが斬撃を飛ばすのよりも早く、敵が真正面からとてつもない速度で突進してくる。虚を突かれたアーロンは一瞬思考が止まりそうになるが体は思考が戻るよりも早くに動き出し、一度後ろへと下げたグレートソードを盾にする為に前へと掲げられ、足は半歩後ろへと下げられる。

敵はその長髪を棚引かせながらもはや低空飛行と言ってもいい程に床のやや上を滑空しており、アーロンの攻撃が届かず、自身の攻撃は直接届く程度の所で杭のように左足を打ち付けるとそこを軸に右足でアーロンを正面から蹴り飛ばす。蹴りだされた足は此処までの加速とそれを生み出した膂力に巨体からなる重量を乗せて破城槌を思わせる威力を持っていた。

「グッ!」

少しばかり意表を突かれた、とはいえ生半可な攻撃であったのならばなんの問題も無かったが敵の蹴りは間違いなく上位層に踏み入った力を持っていた。その証拠にアーロンの身体は後ろに流れ、グレートソードから伝わる衝撃は手を震わす。

敵の一撃によって再び両者に距離が空く。しかし、あれほどの加速が出来るのならば離れる方が間違いなく厄介だ。おまけにリーチの差で負けているのだからアーロンとしては相手の懐に潜りこみたい。そう考えていると敵は今の一撃に手ごたえを感じているのか今度は待つような事はせず、むしろ先手を打とうと再び腰を下ろすようにしてバネの様な足を曲げて力を溜めている。

(願ったり叶ったりだな、今度は負けん)

無意識下でしていた油断や慢心を磨り潰し、アーロンも敵を受け止めるべく腰を落として正面に武器を構える。そしてほぼその直後と言っても良いタイミングで敵の跳躍が始まり、やはりこちらの攻撃が届かなそうな部分で左足が杭のように床に刺さるとその反動を乗せた右足が今度は踵落としとなって振り下ろされる。速度は極めて速く、空間はおろかアーロンごと床のシミに変えてしまえそうな程の威力を持っている。が、ここでひいては相手を調子づかせる、感情や頭脳がどの程度あるかは分からないが再び単調な攻撃を仕掛けてきたのだ、少なくとも有効と思った攻撃を繰り返すくらいはするだろう。だからこそアーロンは此処で流れを一気に自分へ傾けさせると同時に敵の大技を隙に変えてやろうと言う意図があった。勿論それ以上に敵に正面から力負けするなどアーロンの歴史と戦士としての誇りが許さなかったこともある。


アーロンは降って来る踵落としをしっかりと見据え、引きつける。傍から見れば諦めたか自殺のようにも思える程の硬直、しかしアーロンにそんな感情は1つも無い。そして遂に衝突の際に最も自分が力を入れやすい位置に足が到達する寸前、アーロンは後ろに流していたグレートソードを掴む手に力を込め、全身を連動させて振り上げる。振り上げられたグレートソードは振り下ろされる踵落としよりも速い速度で滝を登る魚のごとき威容を持って踵を正面からぶつかる。

拮抗は生まれない。アーロンが振り上げたグレートソードはその勢いのままに敵の踵だけに留まることなく膝のある部分にまで一気に亀裂を作り、火薬でも仕込んでいたのかと思うほどの炸裂音を奏でながら破裂させる。アーロンの一撃は切り裂くだけにはとどまらず、敵の内部で受け止めきれなかった衝撃が行き場を求めた結果、触れていない部分にまで傷が出来た。そして切った足からは今までとは違い、血ではないが茶色の液体と幾重もの管、そして骨の様な物が露出する。

(あ?根本が違うのか・・・?いや、考えても俺には分からないか)

造りが今までのものと違う事は何となく分かるが詳しい事は絶対に分からないとしてアーロンは思考を切り捨てる。

敵は切られた瞬間に一瞬姿勢が崩れたが即座に立て直してバック転のように身を翻しながら後退していく。その際に異常に長い髪の部分が視界を隠しながら鞭のようにうねりを上げながら向かってくる。アーロンは足を即座に後ろに下げ、一回転することで敵と同じように後退して鞭のような髪をやり過ごす。

両者の間に再び距離が出来て空間には沈黙が戻る。一見片足を砕かれた敵が一気に不利に傾いたようにも思えるが敵は砕かれた片足を腰位まで上げてこちらを見つめる。そこには痛みを感じているようにも思えないし、その戦意も一切崩れたようには見えない。先の髪のような攻撃手段も残っている以上は主武器ではあった片足が捥がれただけ、という認識である可能性もある。

(まだ安心は出来ないか)

天秤はアーロンより、しかしどちらも手札を隠したまま戦いは中盤戦に流れ込むのだった。



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