十話
「ここは・・・通路か」
転移した先はいつも通りの小部屋に出た後に扉を潜ると全体が石造りの通路に出た。今までの場所と比べると無機質な印象を受ける。少しばかり周囲へ目をやれば足場以外は奈落のように闇が広がっており、落ちたらどうなるか分かったものではない。風も先程と比べると冷たく、強さも増したようにも思えた。
「まるで外みたいだな」
外が見られるわけではないが高い塔の外周部に取り付けられた階段のような印象をアーロンは受ける。実際、離れたところにある階段は上へと登る様に出来ている為にあながち間違いではないだろう。
「なんか凄い入り組み方してるね」
下から顔を出したエンリータが呆れたように呟く。下る道が無い以上、上がるのが正解だとは思うがその階段に行きつくまでの道が子供が適当に作ったのではないかと思うほどに入り組んでいるのである。それこそ行き止まりに見える場所もある為に迷路としての役割も果たしているのだろう。時間に追われているアーロン達にとっては厄介極まりない造りだ。
「ねぇねぇ、此処って飛んでいけないの?」
アーロンが少しばかり悩んでいるとエンリータが疑問を投げかける。確かに、入り組んではいるが飛んで、もしくは跳んでいけない程では無い。
「なるほどな、試してみるか」
その言葉に確かに名案だと思ったアーロンは足場の切れ目の方へと歩いて行くと突然ガン、と音を立てて硬いものにぶつかる。
「あ?・・・壁?」
突然ぶつかった見えない何かを確かめるように手の甲で叩く。そうすれば今度は少し軽い音で硬い感触が返ってくる。どうやら足場から外に出られない様に何かしらの機能があるらしく試しに強く叩いてみるがビクともしない。それこそ魔力を籠めて殴っても魔力がかき消されるようにして霧散してしまう。
(なるほど、ズルは出来ないって事か)
何度か試してみるがそう簡単には壊せそうにない。おまけに詳細不明ではあるが魔力が無理やり消えるような感覚がある以上本格的に未知の何かがある。無理やり突破を考えるにはリスクがあまりにも大きそうだ。
「う~ん、何なんだろう・・・いい案だと思ったんだけどなぁ」
そう言って同じように壁を叩いていたエンリータが落ち込んだように肩を下げる。
「まぁ、ここが拠点だとすれば敵に対する備え、ってのも考えられる。普段は通路として、非常時には迷路として機能する様に作られたのかもしれん」
正確な事は分からない。しかし、分かったのは兎に角前に進んでみるしかないという事だった。
「ん?なんか音しない、アーロン?」
最初に気が付いたのはエンリータだった。
「何があった」
瞬時にアーロンは柄に手を掛けて聞く。まだアーロンの視界に異常は見つからない。
「・・・あっちかな。うん、ちょっと揺れてるし石がぶつかり合うみたいな音、こっちに来てるみたい」
エンリータが指さすのは一本道の先、つまるところ進行方向だった。
「すぐ来るか?」
そうアーロンが聞けば少しだけ考えるような素振りをした後にエンリータは頷く。
アーロン達は音の正体を一旦、敵と仮定して初見である事を踏まえてここで待ち構える事にした。エンリータの言う意志がぶつかり合うような音はアーロンにもすぐに聴こえ、確かにその通りの音だった。また、その間隔と音の大きさなどから大型、恐らく家よりも大きく2足方向の何か、という方向で意見が固まる。
(ここが予測通り敵の襲撃に備える設備でもあるなら兵隊替わりもいるか)
どんな物かは未だに想像がつかない。魔物という事は此処まで見て来た感じでは無さそうではある。しかし、よくわからない道具やこの場所を作れるほどの技術集団である為に並みの魔物よりも遥かに厄介な物が出て来る可能性が極めて高い。そうなれば時間制限と合わせてより厳しい状況になったと言える。
そうして道の先から出てきたのは想像通り大きな人型の何かだ。大きさは通路の高さギリギリまであり、腕を広げれば横幅もほぼ通りぬけが出来ない程の幅があり、もし通路で出合ったのならば倒さなければ進めないだろう。全体が切れ目のない石らしき素材で出来ており、間接に当たる部分は球体になっているようだ。顔に当たる部分には一本の横線が在り、その中に赤い丸がクルクルと周囲を窺うように動き、その中心にはアーロン達が映っているだろう。手には何も持ってはいないがその巨体で振りまわされるのならば必要が無いという事なのかもしれない。
「魔物、では無いのかな?」
隣で既に矢を番えながらエンリータが首を傾げる。
「魔獣ではない、が魔物っぽくも無いな。どちらかと言えば人工魔物か」
自然に、もしくは神が生み出したのではなく人の手で造られた魔物、そう言う印象を受ける。勿論根拠はないが地上にいる魔物達とはだいぶ趣が違い、カロールで見たマグマゴーレムと方向性が似ている様にも思えた。
「あぁ、それっぽいかも」
納得行く所が有ったのかエンリータも軽く頷く。
(それにしてもだとすれば遥か昔から人口魔物は有ったのかもしれんな)
今でも確実な成功例を聞いたことはないが案外、昔に成功していたのかもしれないとアーロンはふと思う。が、今はそんな事に想いを寄せている場合ではないとグレートソードを引きぬいて前に出る。
敵は未だ道を出たところから動かず、ジッとこちらの動きを観察する様にしているだけで大きな動きを見せてはいない。だが、ひとたびこちらが大きく動けば反応して来そうな雰囲気ではあった。
「・・・エンリータ、一回奴の目を狙えるか?」
「ん、了解!」
アーロンは敵がどんな手段と硬度をしていそうか確かめるためにエンリータへ声を掛ける。ニィスと比べればはるかに戦闘能力は下だろう。しかし、隠し玉がないとは言い切れない。それに目的は巫女の救出である以上、余計な力を使って行くわけにはいかない。そのためにエンリータに先手を打たせた。
即座にエンリータが弓を引いて矢を放つ。矢は聞きなれた風切り音を響かせながら真っすぐと敵の目に向かって飛んでいく。そして放たれた矢が両者のちょうど間位に届いた瞬間、敵の目が光ったかと思えば矢を何回りか大きくした様な光線が放たれる。
「避けろ!」
目が光った段階で嫌な予感がしたアーロンはエンリータに声を掛け、その場から跳ぶ。その数瞬後、放たれた矢を焼き払った光線が先程までアーロン達が立っていた場所に突き刺さり、焦げを残して消える。それと同時に敵が完全に戦闘態勢に入ったのか硬直していた体を機敏に動かし始める。
(ただの矢じゃ相性が悪いか)「エンリータ、さっき拾った矢を試せ!だめなら魔術に切り替えろ!」
敵の方へと駆けながらそう声を掛ければ元気な声が返ってくる。それと同時にいつもとは少しばかり違う低い風切り音が響く。どうやら早速放ったらしい。
アーロンは敵に近づいて行くものの直ぐに仕掛けるような事はせずにまだ観察を続ける。それは敵も同じなのか本格的に動き出しはしたものの一番の脅威をアーロンと判断したのか光線を放った目はしっかりとアーロンの動きを追っている。そのため今回エンリータが放った矢は光線に撃たれる事なく再現するかのように目に吸い込まれていく。しかし、今度は手で無造作に払われてしまいカラン、と音を立てて床に転がる。
(今度も弾いたか・・・なら目は弱点か?)
矢の素材が変わったとはいっても同じ射手、効果が無いならば構いもしないだろうが敵は丁寧に攻撃を捌いた。という事は目の部分は硬そうな他の部分と比べて脆い可能性がある。
(手は特に欠けは無さそうか)
遠目にはなってしまうが矢を弾いた手にこれと言った傷は見受けられない。であれば後はアーロンの仕事だ。アーロンは速度を上げて敵に迫っていく。
迫るアーロンを明確に敵と認識したのか敵は身体を少し倒して四つ足の様な姿勢になると再びその眼を光らせ光線を今度は乱射し始める。その軌道はどうもアーロンを近寄らせたくないのか直接狙いのものもあれば無差別に放たれたものもある。光線の速度は高く、一瞬で矢を消し地面を焦がすあたり火力もそれなり、その上で乱射出来るとなれば並みの者では厄介極まりなく思っただろう。しかし、アーロンからすれば隙間だらけの脆弱な攻撃に感じられた。
「ハァ!」
手慣れた動きでグレートソードと体に魔力を回して飛んで来る光線に向けてお返しとばかりに斬撃を放つ。放たれた斬撃は易々と飛び交う光線を片っ端から砕き、あっという間に敵の前まで到達して敵の胴体にぶつかる。
「―――――」
受けた斬撃が思いのほかいい衝撃だったのか前のめりになっていた体は浮き、敵は下からかち上げられたかのようになってしまう。そこへ狙い済ましたかのように重い風切り音と水色の魔力を伴った矢が目の部分に今度こそ刺さる。
これには耐えられないとでも言いたげに敵はその大きな巨体を揺らし、矢の刺さった部分から煙のようなものを噴出させながら人間の様な挙動で目を覆い暴れる。その隙を当然アーロンは見逃さない。すぐさま近づくと暴れる敵の挙動を読みながら足元まで踏み込み、後ろに引き絞ったグレートソードに薄っすらと魔力を乗せたまま横薙ぎにする。
放たれた一撃はちょうどつまずいたかのように前のめりになった敵と噛み合い、手に重たい感触を伝えながらも真っ二つに切り裂く。
(感触は本当に石だな・・・)
手に伝わってくる感触は生物の肉とは当然ながら大きく違い、無理やり大岩に切りかかったかのような硬い感触がひたすらに伝わってくる。しかし、只の岩と違い中央部で何か細かい集合体にぶつかった様な感触がした。
ズシン、大きな音を立てて背後で敵が崩れ落ちる音がする。何かあっては問題になると直ぐに振り向けば自分が両断した敵がその巨体を完全に力を失って倒れている姿だ。切られた部分からは血の代わりに煙を吐きだしている。
「おっと」
倒れ、偶然だろうがこちらに顔が向いており、そこから最後っ屁とでも言いたげに光線が放たれたがアーロンはそれを易々と魔力を覆ったグレートソードで弾けばその無機質な瞳は力尽きたのか瞼を閉じるように光を無くす。表情など無いはずだがそこにはどこか忌々しさを感じさせた。
「お疲れ、アーロン」
倒した敵を眺めていると近寄って来たエンリータが並び、声を掛けて来る。
「あぁ、そうだ、エンリータ、お前も見てみろ」
並んだエンリータに対してアーロンは指を指す。その先は倒した敵の胴体だ。
「ん?あ、そうか魔物じゃないから残るもんね、ってどうなってるの、これ?」
そう言いながら彼女は不思議そうな顔を浮かべながら胴体に顔を近づけていく。
倒した敵の中は見たことも無い程に細かい部品が所狭しと犇めいている。人差し指と親指を広げた程の幅はあろうかという武骨な外装からは想像できない程に精密に作られた内部は知識のないアーロンでも素直に感嘆の息を漏らさずを得ない。
「さぁな、だがはっきりしているのは此処の技術は確かに今の物よりも高度だってことだ。この先どうなるかさっぱりだ。ニィスクラスはいないだろうが決して油断するな。特にお前は斥候役だ。いつも以上に罠に気を付けろ」
そうアーロンが警告を飛ばせば神妙な顔を浮かべたエンリータは顎に手をやりながら頷いた。
「よし、なら行くぞ。どうする、先行してみるか?」
少しばかり硬くなった空気を解すのも兼ねて少しばかりお道化て聞けばエンリータは目を少しパチクリと差せてから不敵に笑う。
「ううん、私が行く」
そうして彼女は意気揚々と通路へと足を踏み出した。
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