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アーロン  作者: ラー
五章 下

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九話

「ガァ!?」

アーロンは渾身の一撃を放ち、放たれた斬撃が敵の攻撃とぶつかった時の衝撃で後ろに吹き飛んでしまった。どうやらあまりにも高密度の魔力同士が勢いよくぶつかり合ったせいで爆発が起こってしまったようだった。

アーロンはそのまま部屋の中に有ったものをしっかりと背中で壊しながら反対側の壁にまでぶつかり、ようやく体の制御が戻ってくる。

(怪我は・・・何とかなるか。それより追撃は?)

地面に向かって自由落下しながらニィスと極大剣たちが居る方向を睨む。しかし、吹き飛んだ時に部屋にあった大きな何かしらの装置を壊しながら来てしまったせいか辺りは煙幕でも張ったかのように視界が悪い。

(音は・・・)

耳を澄ませてみるが風切り音の様な物はしない。魔力の大きなうねりも感じられない。それでもアーロンは一切の緊張を解けない。少なくともこの程度で何かニィス自身に問題が出たとはとても思えないからだ。むしろ次の瞬間に一気にこちらを窮地に陥れる攻撃が来たとしても何ら可笑しいとは思えなかった。

ゆっくりと視界が晴れる。まず視界に映ったのは部屋に鎮座していた3つの球。そのうちの1つ、真ん中に有った赤い球の中央やや上の辺りが完全に貫通して向こう側が見えてしまっている。両サイドにある青と黄も余波を受けたのか表面に、いや内部の何かが漏れ出すくらいの傷が多数付いてしまったようだ。

(なんだ?さっきも見たような物が中に沢山詰まっているのか?)

貫通した赤球の中から漏れ出している無数の管や良く分からない魔道具らしき物達の破片だろうか、兎に角沢山のパーツが煙を上げながら下にどんどん落ちてきてしまっていた。

「あ~あ、そんなに勢いよく暴れるから」

いつもと違い少しばかりがっかりしたような感情を含ませた声が聞こえてくる。そちらに目をやればニィスが地面に立ち、此方をいつもの表情で見ていた。

「ここはこの場所の制御室でこの球は制御装置だったんだけど君があんまりにも大暴れするから制御が利かなくなっちゃった。残念だな」

そう言って壊れてしまった球を見上げる。

「ま、それでも無理やり動かせなくはないかな・・・うん、願いが完全な形で叶えられそうには無いけど」

そう言うとニィスは手を振る。そうすると彼の手から凄まじい光が溢れ始めてアーロンは一瞬目を閉じてしまう。

それからすぐに目を開くとニィスは目を閉じる前と変わらず立っていて光も既に消えている。傍目には球にも変化はない。

「うん、今回は君たちの勝ちでいいよ。これ以上僕が出来ることは無さそうだからね」

そう言うとニィスは背を翻す。しかし、そのままどこかに行かせるわけには行かない。ここに来た目的は彼の事もあるが同時に巫女を追って、いや追わされてきたのだ。目的を果たさねば天龍に何をされるか分かったものではない。少なくともニィスにこれ以上何も出来なさそうなのだから最低でも巫女の方をどうにかしなければならない。同時に、ここからの出口も知らないのだ、何かしらの情報を引っ張り出す必要がある。

「おい、待て!」

アーロンは急く様に背を向けるニィスに声を掛ける。

「ん?・・・あぁ、なるほど」

早々にいつもの黒い靄と紫電を既に生み出していたニィスはアーロンの呼びかけに反応して一瞬考えるような表情をしたのちに得心が行ったとでも言いたげな顔を浮かべる。

「フフ、そう言えば君は巫女の為にここに飛ばされたんだったね。うん、そうだね、巫女なら此処の動力部にいるよ。ここに来るときに使った転移室の右から2番目のを使うと良い。尤も辿りつけるかは君次第だけどね。あぁあと半日以内に出ないと死んじゃうかもね」

そう言うとニィスは話し終えたとでも言いたげに早々に靄に体を包まれて消えて行ってしまった。


「おい、クソッ!」

此方を見透かして一歩的に情報と意味深な事だけを言い残したニィスに悪態を付く。とはいえ、もういなくなってしまった人物に何を言っても無駄、アーロンは一度頭を振って意識を変える。

(兎に角、巫女の所へ急ぐ必要があるか・・・それにしてもあと半日、ってのはどうゆう事だ?いや、まて、それよりも)

「エンリータ!生きてるか!?」

周囲を見渡しながら大きな声をだして彼女を探す。最初、別れた際に一度通り道の方に逃げ、所々有った援護もそちらから来ていたことから難を逃れてはいるはずだ。しかし、ニィスも見逃すとは言ったがアーロンの視界から完全に消えていた時間がある以上、安心は出来ない。そもそも敵の約束など守る必要もないのだから。

「おーい、こっちだよ!!」

遠くから返事が返ってくる。そちらに目を向ければ想像通り通り道からひょっこりと顔を出したエンリータがこちらに手を振っている姿が見える。


「良かった、大きな怪我無さそうで。もうすっごい音と衝撃だったんだから」

そう言って近くでエンリータは飛び跳ねる。どうやら例の極大剣が出て来た辺りで願い通りしっかりと隠れていたらしく、彼女に怪我は1つも無い。

「あれ程強いとは思っていなかったからな・・・思ったよりも消耗があるがどうやら急がなきゃならん」

「どうゆう事?」

「さぁな、只奴のいう事を信じるならここは後、半日程度で俺たちが死ぬほどの何かが起こるらしい」

そうアーロンが言えばエンリータも難しそうな顔を浮かべる。

「え、じゃぁどうする?って言っても私たちに選択肢なんかないか・・・」

「あぁ、どうなるかは分からんが兎に角巫女の救出だ。そうすれば活路が見えるかもしれん」

特にここにいるはずの天の巫女であれば何かしらの手段を提示してくれるかもしれない。そうで無くとも他の巫女も少なからず特殊な力を持っているはずだ。

「うん、じゃぁ早く助けに行こうよ、アーロン!」

そう言って強気に笑う彼女にアーロンは頷き返した。


それから2人は一度転移室に足早に戻る。最後に転移する瞬間にエンリータが爆発音を聞いた、と言っていた辺り、思っていたよりも損壊が酷かったらしい。やはりあの部屋はもう使えなくなってしまったのかもしれないと思うと同時に早く出て良かったと胸を撫で下ろす。

転移室は相変わらず静謐を保っているがニィスが守るほどの場所が壊れたのだ、いつまでここも持ってくれるか分からない。おまけにタイムリミットがある様な事を言っていたこともあって急がなければならない。

(急がなきゃならんが一度準備を整えるか)

先程の戦闘での消耗を正確に把握しておかなければ何かあった時にそれがきっかけで死に至る可能性は十分にある。ニィスが戻ってこないとも限らないのだ、しておいて損はしないはずだ。

「エンリータ、一度装備を確認しろ。リミットがある以上最悪ここを出るまで休めないかもしれん。やり残したことが無い様にしろよ」

そう言うとアーロンも自身の装備と持ち物を調べる。戦闘が突発だったこともあって戦闘の余波で持ち物が壊れてしまっている可能性も考えられる。特に薬品類は慎重に確認しなければならない。

(ふむ、特に壊れ物は・・・いや幾つか罅があるか・・・)

加護を新しくしてからはめっきりと世話にはなっていなかった薬剤の内いくつかの瓶に罅が入ってしまっている。また、鍋に今までなかったへこみが有った。これは間違いなくさっき付いたものだろう。

(まぁ、これなら何とかなるか)

罅が入った薬剤は近いうちに捨てなくてはならないだろうが今日中ぐらいなら持つだろう。鍋もこれならば叩き直すか買い直せばいい。アーロンにとってはそこまで痛手ではない。

(武器も問題はない。体も・・・万全に近いな)

魔力で覆っていたこともあってグレートソードに大きな傷はない。体も強い再生力で完治しきっている。

「エンリータ、出来たか?」

現状問題ないとはいえ、多少は減った分の体力と魔力の足しになればと思ったアーロンは携帯食料と水を流し込みながら同じ作業をしているはずのエンリータに声を掛ける。

「うん、ワタシは特に被害が無かったからね、大丈夫だよ。ただ矢は大分無くなって来たから気を付けないと」

そう言いながら彼女が見せて来た矢筒は確かに半分以上隙がある。

「・・・一旦、倉庫を見てみるか。もしかしたら生き残った物があるかもしれん」

かなり長い時間が経っている故にあまり期待は出来ないがもしあれば足しにはなるだろう。

「うーん・・・まぁそうだね。まだ猶予が在りそうなら見ようかな?焦るのも良くないし」

少しばかり悩んだようだがエンリータもアーロンの言葉に了承する。


それから2人は一通り倉庫を漁れば大半の物はやはり風化していたが幸いにもよく分からない素材で出来た矢が見つかった。見つかった矢をエンリータに渡して試させてみればいつもの物よりもいくらか重いせいか扱いにくそうにはしていたものの背に腹は代えられないという理由で強度的に問題なさそうなものを兎に角持ちだした。

「うん、ちょっと重いからアレかな、と思ったけどこれなら何とかなるかな?」

エンリータは少しでも慣れるために手で何度も握ったり、番えて軽く何度も放つ。傍目にはそこまで変わらなさそうにも思えたがどうやら精密に、又は距離が遠くなる程一気に精度が下がってしまうらしい。その反面重く、少しばかり太いのもあって近距離の威力は高くなりそうなため、その使い分けが必要な距離がどこら辺までかを確かめるために足を止め、あえて時間を掛けて作業を進める。

「うん、これで大丈夫かな!お待たせ、アーロン」

アーロンが壁に寄りかかりながら彼女の調整を待っていると納得いった顔を浮かべたままこちらに駆けよってくる。

「良し、なら行くぞ」

そう言うと壁から身体を離して転移室へと足を向ける。


そして着いた転移室、ひとまずニィスの言葉通りに右から2番目の装置の前に立つ。

「いつも通りだ、いいな?」

そう聞けば無言で返事が返ってくる。それを見たアーロンは一旦緩んだ空気を締めるようにして息を吐き、それから1歩を踏み出した。

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