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第4話・《南の魔女》から見た主人公


その日は休みだった。

いや、正確に言えば今週は休みの予定だった。


私の名前はエリザベート・ダーナ、辺境伯という立場にいる。女性の貴族当主は珍しいがいない訳じゃない。王都はともかく地方貴族は実力社会だ、女でも能力があれば当主になることもある。


私自身二児の母で、活発で剣を振り回すのが好きな13歳の長女と、勉強がよく出来て計算が得意な11歳の長男がいる。


夫は《騎士狩り》と呼ばれる程強い元王国騎士団長のザスト。今はすっかり外交や内政にかかりきりで戦地に行くことは無いけれど、鍛えられた肉体は交渉の際に威圧感を与えるのに役立っている。


私は両親を早くに亡くして、学園卒業後すぐ領地の経営を始め、それを機に南に位置する公国に侵略戦争されたり、周辺貴族の嫌がらせ…とにかく苦労は多かった。


だけどビギナーズラックというべきか?幸運に幸運が重なって、領地を守ることに成功し、内政や外交も上手くいった。気がつけば《南の魔女》という二つ名が付き、公国が戦争を仕掛けてくることも無くなった。



領地も安定している。南の食糧庫と呼ばれるダーナ街とその周辺の村や町を収めるのは簡単なことではないが、維持するだけならなんとか出来る。


しかし、発展させるとなると話は別。単純に土地を開拓しようにもモンスターや災害に対応できる範囲は決まってる。開拓しても維持できなければ意味がない。



また、人材も問題だ。


計算ができて文字が書ける平民は商会達が血眼になって集めているし、そう言った知識やセンスを持つ人間も探さなければ滅多にいない。


しかしそれは他も同じだ。

女として生まれて、実際に仕事をして限界が見えたと言えばいいのか?やはり女というだけで舐められる事が多いが…女である事を差し引いても実力ではそこらへんの平凡貴族より数段上と自負しているが…現実は甘くない。そもそも画期的なアイディアもない訳だし、仕方ない。



コレから自分の子供のどちらが家を継ぐのか…そんな事を思っていた時、「ドラゴンが現れた!」との情報が入った。


それと同時に「私が行く」と同世代で親友のアリアが全身に鎧を纏って私に言ってきた。



《ドラゴンスレイヤー》というドラゴンを討伐した事があるものに贈られる勲章を最年少で得た経歴を持つ彼女は、私と同い年の女性の中で最強というべき存在で生まれは平民ながらもその力だけで騎士爵という爵位を得ている。



「お願いするわ」


というと、窓から飛び出して、屋根に着地し、さらにその屋根を跳ねて別の屋根に移動し、あっという間にその姿が見えなくなった。相変わらず常識外の身体能力だ。


すぐに次の行動に移る。

近衛にメイドや執事を呼び出させ、指示を出す。


ハゲ(ヤルトマ)を起こしに行って、忙しくなるわよ」「城の警戒体制を強化、ゼストに城兵の指揮権を委任するわ」「市民を一時避難、城の大広間と庭を使いなさい」「研究者達に連絡をとって、集まり次第対策会議よ」



しかしその結果は杞憂に終わった。


[ドラゴン出現による報告書]

本日昼ごろ街道にてレッサードラゴンが出現した。

体長は6メートルほど。

ヘンクソン商会を中心とした4つの商会25人と8人の傭兵、4人の冒険者、12人の一般参加者により編成された商団隊につられてあらわれた模様。


一般参加者の少年1人が囮となり時間を稼いだ事によりダーナ街が離れた場所で銭湯が行われており、アリア騎士爵が現場に到着しドラゴンを討伐。

少年は気絶していた様だがヤルトマ医師によれば軽度のかすり傷と鼓膜の破裂以外の外傷は無し。


よって今回の被害は、

死傷者0名、負傷者一名、街道の一部破損


以上




報告書を読んだ私は一種の感動を覚えた。

レッサードラゴンはこのダーナ地方でたまに見るモンスターだ。ドラゴンの中で弱いとは言え一つの町を簡単に滅ぼすモンスターでアリアがウチに来る前は追い返すのがやっとだった。

しかし、彼女が学園時代の私の勧誘に乗ってくれてからは討伐が可能になったのだ。しかし、それでもドラゴン発見から彼女が現場に向かう時間の中でどうしても被害は出てしまう。


だが今回は街道の一部破損と負傷者一名のみ、運がいい。


しかも負傷者一名も少年という事だが、鼓膜の破損とかすり傷ならヤルトマの腕で今頃治っている頃だろう。



「会いに行ってみましょうか」


少年は城内の病室にいるらしい。もともと私は休みだったんだ。ならドラゴン相手に囮となった勇敢な少年を一眼見てもいいじゃないか。



そう思って病室へ行き、少年を見ると金縛りにあった様な感覚になった。



王都の学園時代、私に出来た最後の親友。カレン・クルシースに。



髪の毛の色と鼻の形、似てるのはそれだけ、顔の輪郭は幼くはあるが、何より雰囲気が似ている。


「彼女の、子供?」


風の噂で聞いた事があった。カレンがマッカート家の側室になったと、側室が子供を産んだと、そして、子供が産まれた直後に死んでいたと。


カレンの実家であるクルシース男爵家は先の戦争でみんな死んでしまった。唯一の生き残りは嫁入りしたカレンだけ、しかもそのカレンも権力者や王都への人脈が無いからクルシース家は実質的な断絶状態だった。


少年の持ち物である荷物を見ると、貴族しか手に入らない様なものが幾つかあり、マッカート家由来の荷物も幾つか見つかった。


そして、瓶に並々と注がれたはちみつと【はちみつの作り方】というノートが見つかる。中を見ると、蜂を育ててその巣からはちみつを取り出す方法が記されていた。


(有り得ない…と言うには説得力がある。)

コレは直感だ。多くの貴族や商人と渡り合って得た直感はこのノートを「本物だと」言っている。


少年を見る。ほぼ確実にカレンの子だ。


彼女の顔を思い出す。どんな時でものほほんとした雰囲気に不敵な笑みを携え、気がつくとみんなの先頭にいる。まるで世界が彼女を中心に回っている様にあらゆる事象が彼女の都合の良い方に傾いていく。思い起こせば彼女には色々とシコリもある別れをしてしまったし、借りもある。そんな彼女の子なら…




(賭けて見る価値は十分ね、女辺境伯としてここが限界だと思っていたけど…上を目指す鍵が来た。)


「この子について調べなさい。どんな細かいことでも構わないわ」


「かしこまりました。」と近くに控えていたメイドが頭を下げて部屋を出ていく。そして少年の荷物を持って執務室へ向かう。




「まさか、こんな形でカレンの子に出会うなんて…コレも運命かしら?」




《南の魔女》は悪戯っぽく笑う。


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