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第1話、新しい場所へ


ハッキリ言おう、今俺がいる町の中には単身9歳の子供が移住できる場所なんて殆どない。孤児院は人が多く、スラムは言うまでもない。じゃあどうするか?


町から出ればいい。


どうやって町を出るか?この世界は剣と魔法のファンタジーワールド、ゴブリンやオークは勿論のこと、巨大なドラゴンやなんか強いデカい狼だっている始末、そんな世界で国と国、街と町、町と村、コレらを行き来するのは大変だ。


安全なルートはいくつかあるがそれでも不足の事態はいくらでも起きる。子供一人で移動するなんて『殺して下さい』と言ってるような物だ。


そんな時頼りになるのは、商団隊(キャラバン)だ。

いくつかの商会がチームを組んで荷物を積んだ馬車と共に移動を行う。当然傭兵や冒険者を雇う事になるがまとまって行った方が最終的に安くすむ。


その商団隊に参加するのは難しい話じゃない。

移動中の食料、移動中の仕事、手間賃、交渉次第で簡単に許可が出る。


俺は8000Gの参加費と荷積と荷下しの仕事を条件に参加を認められた。



「いやしかし、まだガキなのに大変だなぁ」


「まぁでもやれる事をやるだけですよ、クヨクヨしてたら死んじゃいますよ」


商団隊の人とは仲良く慣れた。今回どころか歴代でも最年少の9歳の俺はいろんな人に気にかけて貰いながら順調に旅路を進んでいる。


今は昼飯を終えて移動を再開したところだ。巨大な樹海を強引に木を切って作られた街道は百年前くらいに出来た公共事業の結果だそうだ。



そういうタメになる様な…ならない様な話しているのはパッチ商会のヘンクソンさんだ。今回はサツマイモやジャガイモの仕入れの為に商団隊に参加しているようだ。しかも発起人でもあるらしく、頭が上がらない。他にもはちみつの話をしたり最近の国の情勢、ヘンクソンさんの奥さんや来年に生まれる子供の話。色々聞いた。



さて、コレから向かうのはダーナ町というだ。ダーナ街は周辺に農業が盛んな村や町が多く、その中心地であるダーナ街は〈南の食糧庫〉なんて呼ばれ方もするらしい。


「なんかあったら言うんだぞ?」そう言って俺から離れるヘンクソンさんは他の商会の人の元へ向かった。




「ふう」と一息ついて周りを見渡す、横幅10メートル位の伐採後中央5メートルくらいが道になってる。石が余りなく馬車もあんまりガタついて無いが、アスファルトの道路と比べるとガタガタだ。


伐採されていない森の奥を見ると、薄暗くて何か出てきそうだ。



「敵襲!!敵襲!!!」


商団隊の戦闘で冒険者の人が叫ぶ。


「ゴブリン8、援軍不要!周囲警戒体制!!!」


ゴブリンの姿は見えないが緊張感が高まる。その辺にあったピンポン玉サイズの石を3つ拾って辺りを警戒する。


「ゴブリン6体仕留めた!残りは逃走!!!」「追撃はするな!」


しばらくすると冒険者の声が聞こえて戦闘が終わったらしい。ホッとして拾った石を荷台に置いて座り込む。


少しの時間冒険者と商会の人が話し合って道を進む事になった。



少し進むとゴブリンの死体が見えた、首を刎ねられたものや肩から脇まで斜めに真っ二つになったものまでたくさんあって…死体のゴブリンと目が合ってしまった。向こうは動いていないから、目が合ったのはたまたまだった筈だが、気持ち悪くなって吐き気が…




「落ち着け、落ち着け、上を向いて息を吸え。雲の形を見ろ、雲の数を数えろ、下は見るな」




冒険者の一人が俺の近くに来て背中をさすってくれた。彼の言う通りにすると幾らか気分が落ち着いた。





次の日、昼飯時少し前に俺はヘンクソンさんと話をしていた。


「お前頭いいな。どうしようも無くなったらうちに来い。計算役か丁稚で働けるぜ?なんなら番頭見習いから支店長だって狙えるかもな」


まぁ前世では大学生だったしな〜なんて思って話している。この世界では大人で掛け算割り算できれば上等とされている。9歳でできるなら将来有望のエリートの卵、そんな感じらしい。因数分解とかし出したらどうなるんだろうか?



とにかく旅は上手いこと進んだ。



そしてその日のはゴブリンの襲撃は無く、平和に進むことが出来た。




さらに2日後、移動の最終日今日の昼過ぎにはダーナ街に着く予定で、俺はどこへ向かうかは大体決めていた。


ヘンクソンさんはかなり本気で俺を雇いたいらしく、面倒をよく見てくれたが、ヘンクソンさんとの話で俺にはやりたい事ができた。失敗するかもしれないが、挑戦してみたい。



『ドーーン!!!』と遠くから音が聞こえた。


「不味い…全速力でダーナ街へ向かえ!走れる者は全速力で!カイン!!馬でダーナ街へ先行して軍を呼べ!!




“ドラゴンが来るぞ”!!!』




俺達は意味が分からず走った。しかし2分もしない内に後方から“ドラゴン”が現れた。


太ったトカゲに翼を付けた様な姿を何十倍も大きくした姿の赤いドラゴン。口から火の粉の様なもの混ざった息が溢れている。


とにかく走る!後ろを振り返るとその間に死ぬ気がする




「ギャオオオオオォ!!!」とドラゴンの咆哮で俺たち耳を塞いで立ち止まる。


耳の鼓膜にヒビが入った様に痛い。








ふと荷台を見ると、

ピンポン玉サイズの石が置いてあった。





ゴブリンの時に拾ったもので、今まですっかり忘れていた。




気がつくと俺は石を握って“ドラゴンに投げつけていた”



「こっちだマヌケ!クソトカゲ!!俺を捕まえてみろ!!!」


俺はダーナ街とは逆方向へ走り出す。

悔いはない。


いや、ある。



でも決めた。



俺が囮になる。



「ほらほらどうした!!弱っちいトカゲは追いかけっこも出来ないか!!!」



口と喉が勝手に動く。



「行くぞッ」


商団隊の誰かが小さな声で、しかし全員が聴こえる声で言い放つ。


みんなが走り出す、それでいい。




みんなが助かるなら



後ろを見るとドラゴンは俺を追いかけている、もう3メートルもない。一息で潰されるだろう。



「死んでたまるかー!!!」


ほぼ直感的に前へ飛び込むと、『ガスン!!!』とドラゴンの前足がすぐ後ろに叩きつけられた。


きっと死んでた、でもまだ生きてる。


そして直感を信じるままに左へ転がりながら走ると、さっきまで俺がいた場所に巨大な火の玉が撃ち込まれ、爆発する。



『キィイイィーィーン』

と耳鳴りが鳴って水の中にいるかの様に他の音が聞こえなくなる。


(やばい!鼓膜が!!!)


ドラゴンと目が合う。


(もうダメか?)


ドラゴンが“息を吸った気がした



「まだだ!!!」


前へ!ドラゴンの口の下まで飛び込むと、火の玉が放たれる。這う這うの状態でドラゴンの下を脱出して、とにかく走り出す、大きな風が吹いた、何が起きたかは分からない。


地面をコロコロと転がって空が見えた。


いつか見た空と同じで、雲がいくつかあって、いろんな形をしてる。


少し手を動かすと、木の棒が指に当たった。枝が切れたのだろうか?1メートルあるかないか?それくらいだ。



その木の棒を杖代わりに立ち上がると、再びドラゴンと目が合う。


(あーくそ、逃げられんのかコレ?)


足が重い、ヨタヨタと立つのが精一杯。


ドラゴンは口を大きく開ける、奥には炎が見える火を吐くか?このまま噛み付く気か?何するかは分からないが俺を殺す気だろう。


両手で木の棒を握る。


意味が無いのは分かるが、最後に一度だけ、ドラゴンに挑む事した。




「ッ!」



ドラゴンに向けて走…れない、杖をつきながらドラゴンへ向かう。最後に一撃、無駄だとしても一撃喰らわせてやる!



そう思って前へ進む。




そして、





「大した根性ですね。でもここからは私の仕事です。」



『パスンッ』とドラゴンの首に剣を振り下ろす女性がいた。












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