第0話・スタート
俺はゴルド・マッカート。転生者だ。
なんで転生したのか?とか、前世の名前は?とか、質問はないよな?前世で流行ってたなろう小説はそんなの読み飛ばすやつの方が多かったんだから。
さて、俺が転生したゴルド・マッカートは子爵家の息子だった。子爵って言うと爵位が低いように感じるかもしれないが、実際はそれなりに偉い。たしかに上には上が居るのは認めるが、会社で言えば課長だ。しかも俺が居るシングランド王国はかなり大きな国で、言うならば大企業だ。偉くないわけがない。
話が逸れた。何が言いたいかって言うと俺は貴族のいいとこのお坊ちゃんとして第二の人生が始まった。
まぁ俺を産んだ母さんはすぐに死んでしまって、その母さんも実は本妻じゃなくて側室だった訳なんだけどな。
この世界に転生して7歳になって、しばらく経ったある日。俺は庭でとある作業をしていた。
俺はマッカート家の死んだ側室の子という微妙な立場から本館と呼ばれる俺の父親やその奥さんが住んでる場所では無くて、本館から少し離れた庭の中に一軒家のような場所に住んでいる。
朝昼晩と食事の時間になるとメイドが食事を届けて、たまに執事とメイドが来て掃除と俺の読み書きや勉強を教えてくれる。
比較的自由にされてるんじゃないかと思う。
しかし一つだけ言うとするなら、
「暇だなぁ」
と、この一言に尽きる。
ハッキリ言って退屈だ。ロクな話し相手もいない。家を出るのも自由だけど、とにかくやる事がない。
だから前世の知識を生かしてチートの一つでもやろうと考えたけど、この世界ではチェスに似たボードゲームはあるし、トランプに近い薄い木の板を使ったカードゲームもある。
他に何かできるか?と言えば良いものは思いつかない。そう思っていたある日、いつも勉強を教えてくれる執事のシェルパーが街の散策に連れていってくれる事になった。
まず驚いたのは住む場所がない人が多い事だ。スラムというべきだろうか?道端で施しを待つだけの人も多い。
しかし、そういう場所は避けているのだろう、裏道は通らず出来るだけ治安の良い通りを進むと、商会が軒を連ねる場所に出た。そこではちみつが250mlにも満たない小瓶1つで50000Gで売られているのを発見した。感覚的に1G=0.5円くらいの価値だと認識していた俺は驚いてシェルパーに聞くと、「アレははちみつと言ってとても高価な甘味ですね。この辺りではたまに採れますからこの値段ですが、王都に行けば黄金と同じ値段で取引されます」と言われた。
どうやらこの世界では養蜂はされていない様だ。
なら、やるしかねぇよなぁ?
しかも中学の頃の遠足っぽいモノで養蜂場で収穫体験した事があったのをなんとなく思い出しながら、手探りながらもなんとなく必要な物は分かっている状態からスタートできた。
しかも時間はいくらでもあった。コツコツと試行錯誤を繰り返し、年を越して、嵐が来て心が折れそうになりながら、失敗とその対策を練って次の実験を繰り返す。
そして限られた資金と材料で四苦八苦しながら9歳になって、
「完成ッ!!」
俺の目の前には黄金色に輝くはちみつが1瓶。おおよそ1リットルと少しあるだろう。この中で半分くらい次の年の蜂達の育成に使えば、さらに蜂を増やせば倍々ゲームが如く大量生産が出来るようになる。
「クックック、異世界転生主人公はこういう気持ちなんだなぁ…コレから薔薇色の人生だぜ!!!」
そう思っていた俺は心底甘かった。
『バゴンッ!バギィ!』と何かが壊される音が聞こえたと思えば『バチバチ』と何かが燃える音が聞こえる。
急いで外に出ると、俺が作った蜂の巣箱が粉々にされ、燃えていた。そしてその犯人は俺と同い年の父親と父親の本妻の息子のエルランドだった。エルランドが炎の魔法を使って俺の蜂の巣箱を壊していた。
「おい!何やってんだ!!!?」
「俺が虫退治してやってるんだよ!かなり前から俺の家の庭で何してたかと思えば虫遊び?さっさと出てけ!」
そういうと、エルランドは俺に向けて炎魔法のファイアーボールを撃ってきた。バレーボールくらいの大きさの火の玉が俺に向かってきて、咄嗟に伏せる。
頭の上を通り過ぎる熱の塊はどこにも着弾せず、少しづつ小さくなり、数メートル先で自然に消えた。
「ちっ、まだ慣れてないか。まぁ良い!喰らえ!!」
連続でファイアーボールを俺に撃つエルランド。しかし、俺はあることに気がついた。
ファイアーボールが放たれるリズムに一定のテンポがあること、そして直線でしか進んでないことだ。
それに気がついた俺はとにかくジグザグに逃げながら本館へと向かう。流石にこの状況を見れば誰かが止まるだろう。
「おい!逃げんな!卑怯者が!!!」と言う声を無視して本館へと向かっていると、異常に気がついた兵士達が現れて俺とエルランドを取り押さえた。
少し乱暴にされていることは不満だけど、なんとかなると思っていた。
しかし、数時間、父親に呼び出された俺は「家を出て行け」と言われた。
なぜかと聞けば俺が虫を育てていた事は問題になっていたらしい。今回の件、エルランドが暴走した面もあるが正義感もあったらしい。
どうやら昨日、ファイアーボールを初めて教わって気が大きくなっていたとの事。また、ここだけの話腹違いの母も俺の事を疎んでいたらしい。
まぁ厄介者扱いしてたのは本当らしい。
「すまない、俺の身勝手なのは分かってる。屋敷を出てってくれ。」
と父親は頭を下げた。そして8万Gを渡された。手切金だろう。
「分かった。今までお世話になりました」
と俺は頭を下げてこの屋敷を出る事になった。
俺が住んでいた場所の持てるだけの物を持って屋敷を出る。
そして、俺はニヤリ。
「昨日だったら泣いてたな」
なんたって俺ははちみつ作りに成功してる。
蜂の巣箱は壊れたけどまた作れば良いし、蜂を一から集めるのも大変だけどできない事じゃない。
「よし!やってやるぞー!!!」
そして俺は色々考えた末、南へ向かう事にした。
何かご意見あれば下さい。というかこんな感じでいいんでしょうか?