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 リウの予知から数日が経った。まだ事件は起きていなかったが、とうとうティスアも同じ予知を見たらしかった。

「最悪……」

 研究室前でいつもの様にティスアの実験が終わるのを待っていると、暗い顔の彼女が出てきた。ひどく青ざめた顔をしているため、彼女も同じものを見たのだろうとすぐに気付いた。

「だ、大丈夫?」

「大丈夫じゃない」

 どさりと廊下のソファーに座り込むティスア。エイトは立ったまま話しを続けた。

「……ティスアも、見たの?」

「たぶんね。でも」

「でも?」

「顔が見れなかった……ほんと最悪」

 どうやらティスアは事件の内容よりも、犯人が分からなかった事に気落ちしているようだった。

「……博士やビルさんは、何か言ってた?」

「何も。警察に守ってもらうべきですよねって言っても、色々理由つけてはぐらかすし、意味分かんない」

「そうなんだ……」

 ワタナベ博士やビルの思惑は分からないが、警察にも頼れないとしたら、リウも気が気ではないだろうなとエイトは思った。

「とりあえず、疲れたからラウンジに寄ってから帰ろ、エイト」

「あ、うん」

 ぱっと立ち上がってずんずんと歩いていくティスアの後をエイトは追いかけた。

 ラウンジは研究棟の一階、ロビーから続く廊下の先にあった。広く小綺麗な雰囲気で、軽食や飲み物の自販機も置いてある。昼時は研究所の職員が多いのだが、夕方のこの時間は人がまばらだった。

「あれ、リウ?」

 ティスアが思わず声を上げる。ラウンジの奥にあるテーブルにリウがぽつんと一人で座っていた。

「どうしたの? 今日休んだんじゃなかったの?」

「ああ、ティスアか……」

 そう言って力なく返事をしたリウは、疲れ切ったような顔をしていた。何か言われるのではとエイトは思ったが、意外にもリウはエイトを一瞥しただけで何も言わなかった。

「親が行けってさ。今日も実験だった。同じのしか見なかったけど」

 リウはいつもの覇気も無くそう言って項垂れた。

「え、親に言わなかったの?」

「言ったさ。本当は駄目だけど、見たこと全部伝えた。それでも研究の方が大事でしょって言うんだ。人に役に立つ事が使命だって。ほら、うちの親、教育熱心だから」

 はは、と力なくリウは笑った。

「それに、犯人は機械人形だって言ったら馬鹿にしてきたんだ。機械人形は人を殺すことはできないのに、何言ってるんだって。そんなの信憑性が無いって」

 いつになく沈んでいるリウを見て、エイトは始めてリウのことを不憫に思った。だが、何を言って良いか分からないため、ティスアの後ろで黙っていることにした。

「……警察には言ったの?」

 ティスアがそう聞くと、リウは馬鹿にしたような目でティスアを見た。

「ビルさんから聞いてないのか? 予知で見た事件はいつも警察に報告書を出してるんだよ」

「え、そうなの?」

 ティスアが驚いた様子で聞き返した。エイトもそれは初耳だった。

「どうやって事件の予知の精度を測定してると思ってたんだ? 警察からは報告書のフィードバックをもらってるんだよ。研究所側はそれと予知の内容を比較して、当たってるのか、外したのか判断してる」

 リウは呆れたような顔でティスアにそう言った。予知精度は研究室に置いてある高そうな機械を使って、何やら想像もつかないすごい理論で測定しているものだとエイトは思っていた。ティスアも同じ様な事を考えていたのか、意外そうな顔をしている。

「ふーん、あれって地道に測ってるんだね」

「まったく」

「……ってことは、警察は事件のこと知ってるんだ? じゃあもう安心だね!」

 嬉しそうな様子のティスアに対して、リウはまた不安げな表情に戻った。

「安心じゃない。警察は起こるかどうか分からない事件に、人員を割くことはできないんだよ。だから、警察は動かない」

「あり得ない! なんでよ!」

 途端に怒り出すティスア。リウも納得がいかない様子だった。

「予知が外れる可能性もあるだろ。ティスアはどうか知らないけど、俺は毎日新しいのを何十個も見る。それ全部に人を付けるなんて無理なんだよ。それが起きる日付も、起きるかどうかも分からないのに」

「じゃあ、機械人形は? 人の代わりに機械人形を使えば良い!」

 語気を荒げて得意げに言ったティスアだったが、リウはいつもの心底馬鹿にしたような呆れ顔をした。

「機械人形を使うにしてもコストがかかるだろ。機械人形もタダじゃない。人形一体にいくらかかるか知ってるのか? 昔より安くなったとは言え数十万だぞ? それを大量に用意するのか? 警察が? ただの、いち研究のために? 少しは考えてから言ってくれよ、馬鹿だな」

「……」

 肩掛け鞄の紐を握りしめて、ティスアはわなわなと身をふるわせている。

「とは言え、今は警察にも頼れないから、博士が用意してくれた人形をボディガード代わりにうちに置いてるけどな……」

 リウはティスアの様子に気づかず、宙を見つめながら独り言のように続けた。

「あれは、絶対に機械人形だった。絶対に。だから、本当は機械人形なんて家に置きたくないのに……」

「リウの方が馬鹿でしょ! 機械人形は人を殺すことはできないの! リウの予知は間違ってる!」

「な、なんだと?」

 いきなり大きな声を出して喧嘩腰になったティスアにリウはたじろいだ。しかし、彼も自分の能力を馬鹿にされたことが許せなかったのだろう。途端に怒った様な顔つきになる。

 また喧嘩か、とエイトは思った。エイトには二人の喧嘩を止めることも収めることもできない。ただ嵐が過ぎ去るのを待つのみである。

 こういう時にビルさんが居てくれれば、とエイトは思って、煩い二人を尻目にラウンジを見回した。すると丁度、ラウンジの入口からワタナベ博士が入ってきた。

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