2ー①夢一夜
なんだか、甘い夢を見た。
夢の内容は忘れてしまったけど、最後に優しく笑いかけてくれた顔には見覚えがあった。
「は~、いい年して、乙女な夢見た気がする」
ベッドで一つ伸びをして、立ち上がる。
多分一昨日久しぶりに見たアルバムと時を忘れての回想が原因だろう。
着替えて、朝食の用意だ。昨夜から数ヶ月前に家を出た娘が帰ってきている。
LINEで告白され、一年間付き合ってきた彼氏と今は同棲をしている。
「おはよう」
「おはよう」
朝の洗顔をしながら娘も挨拶を返す。
「今度はいつ来るの?」
「う~ん、後2、3日はこっちに帰ってきていい?」
「喧嘩でもしたの?」
「してないよ、むこうが用事で2、3日留守にするって言うから」
「うちは構わないよ」
「うん」
(喧嘩じゃなくて良かった)
結婚ではなく、同棲…
今は当たり前になっているようだけど、親としては妙な気分だ。
嫁にやった訳ではない。
でも家にいた時と同じか、と言われると、微妙に気を遣っている自分がいる。
(自分の若い頃は一般的じゃなかったしね)
もし、当時から一般的だったら、私は元彼と同棲したのだろうか?…
日常にとんでもない考えが浮かんできて、思わず首をふる。
「今日は帰り何時頃になるの?」
「 残業ないから早めに帰れるよ」
「じゃ、晩御飯家で食べるね?」
「うん」
他愛もない会話をしながら、味噌汁を作った。
夜、夫も娘も帰ってきた。
夫はとても子煩悩だったが、娘にも過剰な干渉はせず、良き父親だった。娘も思春期特有の父親への反抗はなかったし、良い親子関係を築いてきた二人だ。
いつも通り、二人は馬鹿話しをして、晩酌を楽しんでいる。
私は今はあまり飲まない。
娘は夫に似たようで、かなりの酒豪だ。
彼氏は飲めない人らしく、娘もあちらではあまり飲んでいないという。
嗜好の違いは、どこかで溝を生んだりしないものなのだろうか…少し心配になる。
娘曰く、同棲とは「お試し」だそうだ。
同棲してお互いに相性を確かめる。ダメそうなら別れるという事らしい。
「そう簡単に割りきれるものかなぁ?」
私が言うと
「結婚してダメになるより傷は浅いと思うよ」
娘は淡々と語る。
LINEで告白、お試しの同棲…
まぁ、古い人間にはわからない感性なのかもしれない。
「でも、相手をないがしろにして、後で自分が後悔だけはしないようにね」
つい、老婆心ながら、娘に忠告をした。
「そんな事しないよ~」
とりあえず、普段はあまり家にも寄り付かず、うまくやってはいるようで安心はしている。