1ー⑦それから
その後も何度も機会は訪れた。
が、結局やはり最後迄はいけなかった。
多分、私はひどい事をしているのだろう…そう思いながら彼の優しさに甘えていた。
仕事にも慣れ、頼られ、やり甲斐も見つけて、私はどんどん仕事にのめり込んでいった。
時には土日の休日返上で、彼と会う時間も段々減っていった。
そして、久しぶりのデートの日
彼は目を伏せ、申し訳なさそうに言った。
「ごめん、他に好きな人が出来た」
「えーっと…」
すぐには他に何も言えなかった。頭が真っ白だった。
それでも、どんな人なのか、もうやり直せないのか、聞いたのだと思う。
「会社の取引先の女性で年上なんだ。ミキに嫌われていると思って何気なく相談していたら…ごめん」
後は何も言ってくれなかった。
6年間いるのが当たり前だった彼がいなくなって辛かった。
胸に穴があいたようだった。
通勤電車の中でも時々涙が溢れてきた。
電話の声だけでも聞きたかった。
でも自業自得だと自分を戒め、もう二度と恋はしない…と誓った。
元彼と写る笑顔の写真をみながら、色々と過去の事を思いだしていた。
今は、いろんな意味で残酷で阿保な娘だったな…と冷めた眼で自分の事をふりかえれる。
何が怖かったのだろう…ふと思う。
行為自体が…いや、父の影響だろう。『嫁入り前の娘が…』父の口癖だった。
今の世の中では笑い話だが、まだまだ世の中、昭和の考え方が強かった。
もし子供が出来たら…父が、世間が、会社が私をどう思うか…それが怖かったのだろう。
元彼に張り合って年下の夫と結婚した訳ではないが、結婚してからのセックスレスの悩み…
(罰が当たったのかも)
ふとそんな事を思って、時計を見るともう深夜の2時を回っていた。
「ヤバい!旦那明日早番だ!起きれるかな…」
そこには過去の幸せや過ちを頭から追い出し、現実に慌てる50半ばの私がいた。