1ー⑤初恋
その日の帰り、あの男の子は立っていなかった。
友人と一緒にテストの話や、洋服の話をしながら駅に向かう。
いまだに「ありがとう」の意味する事がわからず、モヤモヤした気分を抱えていた。
なんだか告白する前より、嫌な気分だ。
友人と別れ、上り電車のホームに降りた私に、先にいた彼が近づいてきた。
「あのさ…」
「あいつと話をして、納得してもらったから…」
「俺と付き合ってもらえないかな?」
「……えーっと…」
また出た枕詞に彼は反応しない。
口をついて出た言葉は
「…ありがとう…」
「…って、どっちだよ?」
意外な反応に眼を見開く。
「朝、同じ事言ったよね!1日中、悩んでいたんだから…」
「ごめん…でもあの時はああ言うしかなかったから」
「…えーっと…こちらこそごめん。状況が違うのに、意地悪言った」
「で……」
「?」
「返事は?」
「もうわかっているでしょう?」
「ちゃんと聞きたい」
「…えーっと…お願いします」
「好きだよ。大事にするから」
彼はそう言いながら、真っ赤になっている私の頭を撫でた。
嬉しいし、恥ずかしいし、ほっとした反面、心配になったのはあの男の子の事だ。
「サークルやめないよね?」
「大丈夫、あいつから言われたよ。ちゃんと大事にしろよってね」
今になれば、やめない方があの男子にとっては辛い事だと思えるが、その当時の私はそこ迄思い至りはしなかった。
それから、サークル内では今迄と変わらない付き合い方だったが、二人の距離はどんどん近づいていった。
(あの頃は本当に良くも悪くも純粋だったなぁ)
ふ~っと息を吐いた。
いつの間に身体だけでなく、心にも贅肉がついたのだろう?
「まぁ、年なりだよね」
言い訳がましく、ひとり言を呟き、再び回想を始めた。