1ー④告白
その男の子は、特に意思表示をするでもなく、ただ通学路で待っていた。
これは今告白されたら、まずいと思った私は、とりあえず通学路を変え、そして、人生初の博打をうつ決心をした。
ダメ元で彼に先に告白する事にしたのである。
元々通学電車は同じ路線だったので、たまに同じ車両に乗り合わせる事もあった。
その日は私が待ち伏せて、彼の姿を確認した上で同じ車両に乗った。
「おはよう」
「おはよう」
いつものように声をかけると彼はニコニコしながら応えてくれた。
「変な事聞くけど…いい?」
「何?」
その時の私はおそらく少し挙動不審だった。
「えーっと………」
暫く無言になった私を見つめて
「ぷっ!」
彼が吹き出した。
「な、何?」
「えーっと、って初めて話した時も最初に言ったよな?」
言った、多分…
あわてている時や、あがっている時の私の枕詞だ。
「変な事覚えているね?」
「えーっと、誰でしたっけ?はなかなか忘れられないよ」
笑いをこらえながら言う彼の姿に、少しカチンときて
「見た目に反して、結構毒舌だよね」
(しまった!また失言した)
「あ~昔からよく言われた。黙っていればいい男だけど、口を開くとうるさいラジオみたいだって」
「自分でいい男って…」
「俺が言った訳じゃない」
なんだか、変な緊張感が解けた。
「…彼女もしくは好きな人いますか?」
下を向き小声で尋ねると、暫く沈黙が続く。
「いるよ…好きな人…」
(あ~博打に負けた!)
変な雰囲気にならないように、この場をどう取り繕うか、必死に頭を回転させる。
「…なんと言うか…本当は告白したいんだけど、俺以外にもいるんだよね」
「はぁ?」
頭のフル回転が止まった。意味がわからない。
「前にさ、サークルの仲間でぶっちゃけ、彼女や好きな子の話したんだけど、被っちゃったんだよね」
「はぁ…」
「…じゃ、反対に聞くけど…」
暫くの間をおいて
「…彼氏もしくは好きな人いますか?」
パッと顔をあげると、意外にも真剣な表情でこちらを見つめている。
「えーっと…」
今度は枕詞に反応しない。
顔を伏せ、恐る恐る人差し指を彼に向けた。
「……ありがとう……」
それきり、会話が途切れた。
なんだか気まずい雰囲気で、一緒に通学路を歩く。
途中、いつもの男の子がまた立っていた。
「ちょっと、あいつと話があるから、先に行ってよ」
彼の言葉に小さくうなずいて、そのまま歩く。
「ありがとう…って…?」
その言葉を咀嚼しかねて、ただ足を動かした。