平凡な僕が、美少女の隣でも目立たない方法
僕は、クローゼットに所狭しと詰まっている色とりどりの服を見ながら悩んでいた。
この状況からわかる人もいるかもしれないが、僕は女友達に今週末遊びに誘われた。それも校内で1位2位を争う美少女にだ。
そんな美少女である若月梨紗と僕、立花湊の出会いは特別なものじゃない。転校してきてすぐ、移動教室の場所が分からず迷子になっていた若月を案内したのが最初だった。それからお礼言われたり、お昼を共に過ごしたりしているうちに仲良くなった。
今でも男子どもの射殺さんとばかりの嫉妬や憎悪の目線は慣れない。そう、僕は男子から大量の嫉妬を貰うぐらいには、これといって突出した点もない普通の人間なのだ。それも、人付き合いを避けてきた世間一般で言う陰キャという肩書き付きだ。
そんな僕がどんなに着飾ったて、若月の隣には釣り合ってないし、学校の奴らに見られたら最悪だ。二人っきりで出かけてるなんて、他人から見たら恋人同然だし、翌週にはいろんな噂が校内を駆け巡るだろう。
そうなったら、自分が面倒なだけでなく、若月に迷惑がかかる。だから僕は、若月の隣に居てもそこそこ不自然でないかつ、知り合いに見られてもバレない格好という高難易度ファッションを考えているわけだ。
しかし、服だけでは難しいことだ。それこそ、整形でもしないと別人には見えないだろう。
そんな難しい任務だが、僕の頭脳はひとつの解決方法を導き出していた。正直いって、この方法はあまりやりたくないなぁ。
そんなことを考えながら、夜はふけていった。
私は初めて男性をおでかけに誘った。いや、わたしはデートだと思ってるし、デートつもりで誘っている。今日は、初のデート記念日だ。
湊君は、私が初めて好きになった人だ。私は男の子が嫌い。みんなの顔に、声に、立ち居振る舞いに、下心が滲み出ているようで、いつからかとても醜く見えるようになった。そんな中、湊君はフラットな、感情のないロボットのように困っている私をたすけてくれた。
だから、自然とお礼を言おうとおもったし、興味がでた。それから、私達は仲良くなった。湊君は、結構な変わり者だった。だから、一緒に居て飽きることはないし、居心地が良いと思った。
そんな湊君と今日はデートなのだ。服装は、誘った時からずっと悩んでるし、心臓は、少し休めと言いたくなるぐらい忙しなく働いている。きっと、いま私の脳をみたら、オキシトシンやら何やらで埋め尽くされてるだろう。
そんな下らないことを考えながら、私は身支度を整える。ハンカチ、ティッシュはオッケー。お菓子も300円まで、と。あとは、運気が上がるらしいなにかしらのぬいぐるみをかばんに突っ込んで。スマートカードをもったらお終い。
「いってきます!」
私は、これから始まるだろう一日に想いを馳せながら、ドアを開いたのだった。
「おねいちゃん可愛いね〜、これからオレ達と遊ばない」
「一緒にお茶を飲むだけでもいいからさ」
待ち合わせ場所には、ガラの悪そうな2人とそれに話しかけられてあたふたしている女の子がいた。
可哀想に、あんなのに目をつけられるなんて。そう思ってみていると、ちょうど男の一人が女の子の手を掴もうとしていた。
それを見ると、何故だか私の足は勝手に動いていった。
「ちょっとあなた達、その子嫌がってるよ」
私は、何故こんな面倒ごとに自ら首をつっこんでしまったのだろう?自分の行動を振り返ろうとしたが、そんな悠長なことをしているひまはないようだ。
「なんだぁ?ってあんたも可愛いなぁ?あんたが代わりに俺たちと遊んでくれるのか?」
「この前あそこに新しいホテルができたのしってる?そこでゆっくりお話しでもしようぜ〜」
あー、こんな下品な輩に自分から近づいていくなんて、最悪だ。でもあの娘を見捨てるなんて、もっと気分が悪かっただろう。だからこれでよかった。
しかし、怖いもんは怖いわけで、あしがふるえそうだ。ここからどうしようかと考えていたとき。
「ゲス野郎どもが」
どこからか、声がきこえた。
「今度は誰だよ、って!?ほんとに誰だ!?」
「隠れてないで、出てこい!」
男達は、どこから聞こえているか分からない声に困惑しているようだ。それは私も同じだが、それと同時に安堵した。なぜなら、その声は、湊君のものだったからだ。
「その子に指一本でも触れてみろ、僕がお前たちを殺すぞ」
「誰なんだ、お前は!」
「気味が悪いですよ。もういきましょうよ」
「ああ、そうだな。」
そう言って、男達は去って行った。私は安心して、腰が抜けそうになったが、湊君がいることを思い出してなんとか持ち堪えた。
「今の声、湊君だよね。どこにいるの?」
「ここだよ」
声がした方を見てみると、私が助けた(助けようとした?)女の子がいた。そういえば、さっきの騒動の時に、この子だけはなにもしていなかったような気がする。つまり、そういうことなのだろうか?
「湊君は、いつも男装してたの?」
「え?そうなるの?
僕は若月さんと並んでも不自然でなく、知り合いにバレない服装で来ただけだよ。あと、今日は僕のことを奏ちゃんと呼んでくれ」
私は、いろんなことが頭に浮かんだが、シンプルな感想をひとつ口にした。
「めちゃくちゃ可愛いね。全部自分でやったの?」
「ああ、昔母さんと姉ちゃんにちょっとな。一人暮らし祝いでもらった、メイクセットと女性者の服が役立つ日がくるなんて思ってもなかったよ」
始まりから、だいぶ濃い出来事があったが、今日はまだまだ始まったばかり。これから起こることに胸を躍らせながら、私は一歩を踏み出すのだった。