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浅い眠り

 目覚ましを掴み上げて針の指す数字を確認すると、(なる)はもう一度全身から力を抜いた。鳴り始めるまでには、半時以上も余裕がある。重みで指から剝がれ落ちた時計もまた、傍らに深く沈み込んだ。

 少しずつ温んでくる空気が、じっとりと背中に貼りつく。それを毛布代わりに目を閉じて、生暖かい不快感の中へ意識を放り出した。

 夢と現を漂う浮遊感が頭の中に薄く膜を張り、いつか不快感を陶酔に似た心地良さにすり替えていく。

 日常を始める前の、このほんのささやかな自堕落は結構気に入っていた。



 そのふゆ さいしょに ふるゆきの

 いちばん はじめの ひとひらを

 てのひら ひろげて うけとめたなら

 ねがいが ひとつ かなうだろう



 不意に、耳の奥に子守唄がよみがえってくる。

 幼い頃の殆どを病院のベッドで過ごした成にとっては昔から耳慣れている類のものではない。未也子(みやこ)を笑顔で脅す情景に直結する。

 たびたび遅くなる帰宅のフォローを人質にとっては、唄って欲しい、と要求を突きつけると、苦々しく表情を崩す彼女が楽しい。帰宅時刻が、誰かに左右されているという事実を含めても、尚。

 そこまで思考を馳せたところで、急に半端にとろけていた頭が冷めた。ぱちりと目を開けると、遠慮なく明るい光が瞳孔に差し込む。

 結局、ベルの音を聞かないままに目覚ましを止めて、起き上がる。

「未也子の時計も、止めちゃおうかな」

 まだもう少し、彼女を載せる掌でいることを譲る気はない。

文藝越人六〇〇第57回お題「浅い眠り」投稿作品。

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