第八章 新学年
やがて大学から成績表が郵送されてきた。
啓子は、亮太に教えてもらった方法が有効かどうか心配でした。
恐る恐る成績表を開けると、優秀な成績で、無事に進級できていたので一安心した。
やがて春休みも終わり、啓子達は田舎から戻ってきた。
久しぶりに顔を合わせて、田舎の両親や同級生の事などを話し合っていた。
突然啓子が、「私は両親から、女子大を卒業する頃には良い歳になっているからとお見合いを勧められたわ。良い歳って、私はまだ二十歳よ。自分の結婚相手ぐらい自分で捜すわと断ったけれども、両親は勝手に話を進めているようなのよ。」とうんざりしていた。
あかりが、「女子大卒業後、就職もせずに結婚させるのだったら、啓子さんの親は何故啓子さんを女子大に進学させたのかしら?」と不思議そうでした。
亮太は、「学歴が大卒だと、良いお婿さんと結婚できる可能性が高くなるのよ。啓子に将来幸せになって貰いたいという親心ね。でも相手によるわね。好きな異性と結婚するほうが貧乏でも幸せだと思うよ。」と泉の事を考えていた。
啓子が、「でも今からお見合いしていると、彼氏とのデートなどで独身時代を楽しめないわよ。彼氏と一緒だとバカな事もできないでしょう。」と不満そうだ。
亮太は、「そうね。お見合いの場合、お互いに猫を被って相手を観察しているからそうかもしれないわね。恋愛の場合は、お互いに自分を出して、結構バカな事をしている場合もあるわよ。あかりも啓子のように、もっと青春を楽しめば?」と泉とバカな事を色々したと昔の事を思い出していた。
あかりは、「何で私の話になるのよ。それは啓子の問題だから、啓子がどう判断するかね。でも相談には乗るわよ。今までの陽子さんの話は、結構参考になると思うわよ。」と自分で今後の事は考えるように促した。
啓子は、「それもそうね。陽子さん、どうすればいいかしら。」と悩んでいた。
亮太は、「現段階では相手の事がわからないからなんとも言えないわ。写真と経歴を渡されたら見せてね。それからね。」と啓子の相談に乗ろうとしていた。
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あかりが、「しかし、陽子さんは今までの話から、恋愛経験がありそうね。一度彼氏を紹介してね。」と亮太には恋愛経験があると感じて、男性だった頃に泉さんと燃えるような恋愛をしたのかしら、と思っていた。
亮太は、見抜かれている。やはり、あかりは鋭いな。啓子もいるから泉が恋人だとはいえないな、と考えたあげく、「昔の事よ。高校時代の同級生で、別の大学に進学したから自然消滅したわ。」と誤魔化した。
泉が、「別の大学に進学したから自然消滅ね自然消滅・・・」と亮太を横目でチラッとみた。
啓子は、「みんな、相談に乗ってくれてありがとう。帰郷した時に高校の同窓会があり、私の友達も同じような事を言っていたわ。中には、そんなお見合い断ればいいじゃない。お見合いを強行に決められたらスッポかせばいいじゃないと、陽子さんみたいな強行意見もあったわ。ところで話は変わるけれども、皆、成績はどうでしたか?」と話題を変えた。
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亮太が教えた方法で全員無事進級できていた。
亮太が、「えっ!?あかりも俺が教えた方法を使ったのか?真面目なあかりがそんな事をするとは思わなかったわ。」と予想外の事に驚いていた。
あかりは、「そんなに驚かなくても、前期試験の時も使ったと言ったじゃないの。後期試験も、そんなバカな事をするつりもなかったんだけれどもいざ回答すると、量が少なく感じて陽子さんの秘策を思い出して、真ん中あたりから将来の展望について書いたら優だったわ。」と苦笑いした。
啓子が、「私も一般教養は陽子さんに教えてもらった方法で全て優だったわ。ところであかりさん、将来の展望って将来何になるの?」とあかりの将来の展望を知りたそうでした。
あかりは、「私はOLのように、人に顎で使われる気はないわ。かといって、科学者や何かの会社を設立する自信もないわ。だから、どこかの企業に就職してキャリアウーマンになってバリバリ働くわ。啓子はどうなのよ。」と将来の夢ついて語り合っていた。
啓子は、「そんなのしんどいだけよ。上手くいかずに責任問題になるのは嫌だわ。OLは単純作業が殆どだから、流れに任せてのんびりと生きていけばいいじゃないの。陽子さんは?」と、あくせく働くつもりはない様子でした。
亮太は、「そうね。仕事は啓子と同じで、OLでもしながら人生の余暇を楽しむよ。」と将来の事は、まだ何も考えられない様子でした。
あかりが、「単純作業は誰にでもできるわ。代わりはいくらでもいるのよ。会社が傾けば即リストラ対象になり、会社が持ち直せば新人を入社させるでしょうね。要は、いつクビになるかわからないわよ。私はそんなの嫌だわ。私は、やりがいのある私にしかできない仕事をしたいわ。陽子さんの友達の泉さんはどうなのかしら。陽子さん、知っている?」と亮太なら、泉の事を知っているだろうと確認した。
亮太は、「たしかに、代わりはいくらでもいるわ。だからクビにならないように会社が傾かないような大きな会社に就職すれば問題ないわよ。一生会社で働く女性は少ないわ。殆ど結婚退職しているわ。それまでに傾かなければ問題ないわよ。泉はOLとしてもう就職したよ。大会社ではないけれども、そこそこ大きな会社よ。業績は右肩上がりで伸びている会社だから全く問題ないわ。今頃は入社式に参加しているか、新入社員研修を受けている頃だと思うよ。」と泉から聞いた事を説明した。
あかりは、「それじゃ、今後泉さんとは、週末にプライベートでどこかで会う事はあっても、大学で会う事はなくなるのね。」と休みの日に合う程度だと思っていた。
亮太は、「泉が就職した会社は来週創立記念日で休みらしいわ。だからここに来ると言っていたわ。」と来週泉が女子大に来ると伝えた。
あかりが、「そろそろ、授業の時間よ。行きましょう。」と教室に向かった。
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教室で啓子が、「最初はどんな授業なのかしら。」と考えていた。
亮太は、「新入生じゃあるまいし、去年の事を考えればわかるだろう。最初は次回から使う教科書の事や雑談だけだろう。一般教養なんてそんなものよ。」と考えていた。
授業終了後、亮太達は授業で使う教科書を買いに行った。
亮太が古本屋に入っていったのであかりが、「陽子さん、どこへ行くの?本屋さんはこっちよ。」と亮太の考えている事が理解できない様子でした。
亮太は、「一般教養の教科書なんて、殆ど古本屋で入手可能よ。たまに専門課程の教科書も売っている事があるわよ。」と去年教えたのに、もう忘れたのかと呆れていた。
亮太と同じ事を考えている先客がいて、入手できなかった教科書があった。
古本屋数軒回ったが、入手できなかった為に、この教科書だけは購入するしかないかと諦めた。
亮太は、「まだ先輩達が古本屋に売ってないのかもしれないわ。慌てなくても大丈夫だから、数日待って、それでもダメだったら本屋さんで購入するしかないわね。」としばらく様子を見ようと考えている様子でした。
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啓子が、「それじゃ、今日はどこかに遊びに行こうよ。」と亮太とあかりを誘った。
亮太が、「スキーの時に知り合ったグループ、誰だったかな?昨日女子大の近くで見かけたわよ。啓子、狙われているわよ。以前のように飲まされて、酔わせて何か善からぬ事を考えているかもしれないから、声をかけられたら私の携帯にメールして。」と啓子を守ろうとした。
あかりが、「そうね。啓子は・・・」とあかりも啓子の事を心配していると、啓子は子ども扱いされているようで不愉快そうでした。
啓子は、「何よ!私、もう子どもじゃないわよ。一人で大丈夫よ。」と切れた。
亮太は、「子どもじゃなかったら何故歩けなくなるまで飲むのよ。一人で帰れないのは立派な子どもよ。異性と飲む前に自分の限界を知っておく事ね。どう?今から私のところにこない。全員無事進級できた事をお祝いしましょう。女ばかりだから酔いつぶれても大丈夫だよ。泊まっていけばいいから。」と啓子とあかりを誘った。
アルコールやつまみなどの買い出しをして、亮太のマンションに行った。
職場から帰ってきた泉に説明して、泉も一緒に飲んでいた。
その夜は、啓子もあかりも亮太のマンションに泊まり、翌日そのまま女子大に向った。
翌日亮太は女子大で、いろいろと同級生に声をかけていた。
そんな亮太の様子を見てあかりは、「ナンパする陽子さんは男そのものね。でも今は女性だから、誰もナンパだと気付いてないわ。」と笑いをこらえていた。
一人の同級生が、「陽子さんの友達の啓子さん、昨日と同じ服ね。彼氏の家に泊まったのかしら?」と呟いた。
亮太は、「違うよ。あかりも同じ服だろう。昨日は俺の部屋で女子会をして、そのまま俺の家に泊まったからよ。」と啓子が誤解されないように説明した。
次回投稿予定日は、3月9日を予定しています。