第四章 前期試験
亮太が帰ってしばらくすると泉が帰ってきた。
「亮太、先程あかりさんから着信があったわ。スカート姿で大股開いていたそうね。人が大勢いて啓子さんも一緒にいたので啓子に気付かれると都合が悪いので言えなかったそうよ。私から伝えておいてと言っていたわ。女子大なので女性ばかりだからよかったけれども、その他の場所でそんな事をしたら、男性が興奮して襲われるわよ。亮太も若い女性のそんな姿を見たら興奮しない?」と指摘された。
亮太は、「そうか。昔は興奮したかもしれないな。今は、そんな姿を見ても興奮しなくなってきた。女性ホルモンが分泌されている為だろうな。でも泉を愛している心だけは失いたくない。好きだよ、泉。」と泉の手を握った。
泉は一瞬言葉に詰まり、「私も亮太が好きだったわ。亮太が男性だった時に、その告白聞きたかったわ。私は恋人でなくても亮太を友達として好きになろうと決めたのよ。私達はずっと一緒よ。」と泉も告白した。
亮太は、「ありがとう、泉。こんな時に告白してごめんね。」と泉を一生大事にしようと誓った。
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泉は、「女性のそんな姿を見ても興奮しなくなってきたって本当?先日こっそりと、自分のスカートの中を鏡で見ていたでしょう?足を大きく開いてね。」と亮太を疑っていた。
亮太は、「俺の事が信用できないのか?太ももの内側が痒かったから見ていただけだ。虫に刺されたようだ。」と泉に見せた。
泉は、「御免、疑って悪かったわ。大股開いて寝ているから虫に刺されるのよ。人前で、そんな所を掻かないでよ。」と心配していた。
亮太は、「我慢できない痒みだったらどうすんだよ。」と我慢できなければ掻く事もある様子でした。
泉は、「そうなる可能性があるのだったら、予め痒み止めの薬を塗っておくとか、何か手を打っておけばいいじゃない。」と人前で、へんな事しないように促した。
亮太は、「わかったよ。そうするよ。それでも我慢できなかったらどうすんだよ。」と最悪の場合もある事を仄めかした。
泉は、「そんなん、トイレですればいいじゃないの。」と手がかかるなとうんざりしていた。
亮太は、「近くにトイレがなかったら?」と確認した。
泉は、「もう、いいかげんにしてよ!トイレぐらい、捜せばどこにでもあるわよ。トイレが我慢できなかったらどうするのよ。同じようにすればいいでしょう!」と切れた。
亮太は、「わかったよ。」と泉が切れたので、からかいすぎたと反省していた。
泉は、「それと、あかりさんから歩く時は大股で歩かないほうがいいとついでに言っていたわ。」と付け加えた。
亮太は、「そうか。だから女は歩くのが遅いのか。」と納得していた。
泉は、「女は歩くのが遅いって、亮太も今は女なのよ。それと、乱暴な言葉は使わないで。女ではなく女性よ。それと、亮太は生理の処理がまだ上手くできないので、大学で生理が始まれば面倒みてやってね。と頼んでおいたので、大学で生理が始まれば、あかりさんに相談しなさいね。もうそろそろでしょう?」と先が思いやられていた。
亮太は、「えっ?また始まるのか?」と不安そうにしていた。
泉は、「自分の生理の周期ぐらい覚えなさいよ。」と手がかかるなとうんざりしていた。
亮太は今日の体育の授業の話をして、「俺の体は四歳若くなったので、老化現象が始まるのも四年遅れる事になるな。」と若返った事に喜んでいた。
泉は、「若返ったって、たった四つ若返ってだけで何そんなに喜んでいるのよ。体育の授業と言えば啓子さんが、亮太がすごいシュートをしたと言っていましたが、女性の体でそんなに力が出るの?」と不思議そうに確認しだ。
亮太は、「確かに力は弱くなった。だから、腕立て伏せや腹筋や屈伸運動などをして毎日体を鍛えているよ。柔道の道場にも、道場破りではないが挑戦している。動きは頭が覚えているので筋力アップすれば以前と同じように柔道ができたよ。だから、筋力アップさえすれば、すべて以前と同じことができる。」と筋力アップしている事を伝えた。
「道場破りって、なぜ道場に通わないのよ。」と不思議そうでした。
「女相手だと物足りない。誰も俺に敵わなかった。男装して男にも挑戦したが、男も俺に敵わなかった。」と道場に通わない理由を説明した。
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翌日亮太は啓子から、「そろそろ前期試験の準備をしないといけないわね。一緒に勉強会しない?」と依頼された。
亮太は、「一年生は殆どが一般教養で、専門課程がすくないから焦らなくても大丈夫だよ。」と落ち着いていた。
啓子は、「勉強している陽子さんは落ち着いているわね。」と余裕だと感じていた。
亮太は、「何も勉強してないよ。」と啓子の発言が理解できない様子でした。
啓子は、「陽子さんの教科書は使いこんでいるじゃないの。」と亮太が勉強していると判断した根拠を説明した。
亮太は、「ああ、これ?教科書は古本屋で買ったからだよ。誰も、こんな事を勉強する気がないから、最後に古本屋に売っていると思ったんだよ。古本屋も、その事情は理解していて売れると判断して買い取ったのだと思うわよ。啓子は真面目に教科書を買ったのか?」と教科書が古い理由を説明した。
あかりはその会話を聞いて、亮太は男性だった頃に大学生だったので、試験の要領を亮太と二人っきりの時に聞こうと思った。
しばらくすれば啓子がトイレに行った。
あかりはチャンスだと判断して亮太に試験の要領を聞いた。
亮太は、「そんなの考えればわかるだろう。一般教養は、体育館みたいな広い場所で講義するのよ。何人の学生が授業を聞いていると思うのよ。そんな授業をいくつか担当していれば、何人の学生の採点をするのよ。他の大学でも講義していればさらに人数は増えるわよ。大学に報告する期限があるから、内容はちゃんと見てないわよ。男だった頃に通学していた大学では、一般教養は最初にそれらしい事を書いて、あとは即席焼きそばの作りかたを書いて、最後にそれらしい事を書けば優だったよ。専門課程は、その教授の講義ノートなどが売られているよ。ポイントなども書いているから、それで勉強すれば問題なく単位はとれたよ。」と試験の要領を説明した。
あかりは、「それは要領ではなくさぼっているだけじゃないの。」と呆れていた。
亮太は、「女は真面目だな。」と感心していた。
あかりは、「陽子さんのそんなところは男性ね。」と諦めていた。
亮太は、「あかりだったら、化粧の事などについて書けばどうや。」と助言した。
あかりは、「書く内容に困ればそうするわ。」と笑った。
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前期試験が終わり、しばらくすれば成績が発表された。
啓子は、「陽子さんもあかりさんも、成績いいじゃないの。自信があったから、私が勉強会しようと誘っても乗ってこなかったのね。」と二人の成績を聞いて納得していた。
あかりは、「そうじゃなく、陽子さんから、大学の試験の要領を聞いただけで勉強してないわよ。」と良い成績だった理由を説明した。
啓子は、「陽子さん、何故あかりさんにだけ教えるのよ。私にも教えてよ。」と不満そうでした。
亮太は、「特に理由はないよ。あかりには聞かれたから答えただけで、啓子には聞かれなかったからだよ。」とその理由を説明した。
啓子は、「なぜ、そんな要領を知っているの?どんな要領なのよ。」とその要領を知りたそうにしていた。
亮太は、まずい、と焦った。
亮太の焦っている様子を見てあかりが、「泉さんに教えてもらったのよね。一般教養の試験の事、私も半信半疑だったんだけれども本当だったのね。私、途中で書く内容に困り、中程から化粧や口紅の事を書いたら、あんな良い成績だったわ。」と驚いていた。
亮太は、「だから言っただろう。採点する人数と期限を考えればわかると。最初の二~三行見て、あとは書いている量ぐらいしか見てないよ。」と笑っていた。
啓子は、「本当なの?後期試験の時に実験してみるわ。」と半信半疑の様子でした。
あかりは、「これで後期試験も一般教養はなんとかなりそうだわ。なんだか陽子さんと付き合っていると悪の道に誘い込まれそうだわ。」と呟いていた。
亮太は、「何が悪の道だ。大学受験も同じ事だろう。教科書や参考書だけで勉強している受験生は殆どいないと思うよ。傾向と対策を研究しているよ。専門課程はズバリそれだよ。先輩達が講義ノートを業者に売っていて、俺達はそれを買うんだ。つまり、傾向と対策だ。」と悪ではないと、あかりを説得していた。
あかりは、「授業もロクに聞かずによく言うわね。」と呆れていた。
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その後啓子はアルバイトがあると帰った。
亮太は、「最初の頃はわからなかった。素晴らしい内容を書いた学生より、適当な事を書いた学生のほうが成績良かったから、扇風機の前に答案用紙を置いて、遠くに飛んだ答案用紙は優にしているのではないかとか、紙飛行機を折って、飛距離から、成績を決めている噂もあったよ。つまり、飛んだ距離により成績を決めているのではないのかと根も葉もない噂だ。さすがにそれはないだろうと思い、色々と考えて、結局、先日あかりに説明した内容に落ち着いたんだ。成績がよかったから間違いないだろう。でも教授によっては、一般教養だからと真剣に採点していない教授もいた。俺の友達が、最初から、お酒の事について書くと、さすがに教授も気付いて、“先日の試験、ウオッカの特集は面白かったよ。次回の試験は、何の特集か楽しみに期待しているよ。”と言われたらしい。」と説明した。
あかりは、「大学の一般教養なんて、そんなものなのかしら。」と諦めた。
次回投稿予定日は、2月23日を予定しています。