第一章 交通事故
普通に大学生活を送っていた青年、白石亮太が交通事故で瀕死の重傷を負った。
事故の時、亮太は必死に頭を庇った。
その結果、胸部と腹部を強打した。
柔道や空手などの格闘技を得意としていた亮太の体は頑丈で死亡しなかった。
病院で目を覚ました亮太は医師から、「頭部は軽傷ですが、殆どの内臓に致命的な損傷があり、多臓器同時移植は不可能です。数日間の命でしょう。但し、医学の実験台になる事を承知頂ければ助かる可能性はあります。どうされますか?」と現状説明後、確認された。
亮太は、「そんなん、考える余地はないだろう。誰でも死にたくないだろう。医学の実験台になります。」と死にたくないと強調した。
病院側は時間がないので詳しい説明をせずに、本人の了解が得られた為に手術承諾書にサイン依頼をして手術した。
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手術後意識が戻った。
亮太は自分の手を見て、ゴツゴツした手ではなく、美しく、きれいな手でしたので、手術の影響なのかな?と不思議そうに、自分の手を眺めていた。
やがて、看護師から、亮太の意識が戻ったと報告を受けた医師がきて、病院側から説明があった。
執刀医の長谷川医師は、「手術前は、白石さんの生命の時間が限られていて、詳しい説明をしている時間がありませんでしたので、実験台としか説明しませんでした。この手術は、イギリスで脳死状態の人間同士で成功しているだけで、健全な人間で手術したのは初めてです。」と説明を始めた。
亮太は、「人間同士って、この手術には、二人の人間が必要なのですか?どんな手術なのですか?」と声が女性のような声だったので、自分がどんな手術をされたのか気になっている様子でした。
長谷川医師は、「人間の頭部と胴体を入れ替える手術です。頭部を強盗に殴打され、脳死状態になった人間がいて、こちらも数日で心臓が止まる可能性があり、本人はドナーカードを所持していました。家族が、内臓を取り出さずに体がそのまま残るのであればと、この手術を了承されました。考える時間もなかった為に手術しました。白石さんの首から上は二十一歳の男性ですが、首から下は十七歳の女性です。これはセックスチェンジではありませんので、白石さんは今月から生理もあり妊娠出産が可能です。声も女性の声に変わっているでしょう?」と現状説明した。
亮太は、「ちょっと待って下さい。突然そんな事を言われても困ります。何故手術前に、説明して頂けなかったのですか?」と目の前が真っ暗になり、かなり動揺している様子でした。
長谷川医師は、「手術前に説明すれば、悩んでいる間に白石さんは死にます。ですから、時間がなかったので実験台とだけ説明したと先程説明したでしょう。取り敢えず、生理の対処方法など女性の体の事を看護師に説明させますが、女性の機能が正常に働く保証はありません。その他の臓器も正常に働く保証はない為に、しばらく入院して検査後、今後の事を相談しましょう。」と検査結果により今後の対応を検討する事を説明した。
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病院スタッフが病室を出て亮太一人になると、全裸になって自分の体を確認すると女性でしたので一晩中泣き明かした。
その後、現状を受け入れるしかないと諦めた。
何も考えられなかった為に、誰かに今後の事を相談しようとした。
親兄弟もなく、友達に相談する事にした。
男友達に相談すると、信用できないと体を調べられておもちゃにされる可能性があると判断して、信頼できる仲のよかった女友達に相談する事にした。
動けるようになると病室の外に出て、病棟や病室などを確認して、女友達の熊川泉さんに相談する事にした。
泉は女友達というか、俺が片思いしている惚れた女だ。
告白しようかと迷っている間にこんな事になってしまった。
電話だと声が違うので信用されないと判断した。
幸い、携帯電話は壊れていなかったので、泉にメールして病室に呼び出した。
泉は亮太から、交通事故で入院したとのメールで驚いて病院に行った。
亮太は身長も変わったので、布団で体を隠して泉に会った。
いつも亮太に守ってもらって、か弱いイメージの泉は、病室で亮太から説明を聞いた。
信じられなかったので、亮太の体を調べて絶句した。
亮太は、「泉、俺はどうすればいいんだ?何も考えられない。」と混乱している様子でした。
泉は、「声は違うけれども、顔は確かに亮太ね。なんて言ったらいいのかわからないわ。私も混乱しています。しばらく考えさせて。」とどうすればいいのか解らない様子で帰った。
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その後、亮太は連日検査を受けて、全ての臓器や神経などについて調べられた。
一週間後、全ての検査結果がでて、現在のところ、特に異常は見られなかった。
退院する事になり、毎月通院する事になった。
退院日が決まった。
服を確認すると、事故時に着ていた服は破れていた。大きさも今の体には合わない。
服は購入しても、この体で以前住んでいたアパートに白石亮太だと名乗っても誰も信用してくれないだろう。
いろいろと考えると、俺は退院後どこへいけばいいんだ。
混乱して考えがまとまらない。
泉に相談した。
「やっぱりね。そうなる事はわかっていたわ。だぶだぶの服でも、上にコートを着れば、わからないわよ。退院が冬でよかったわね。あとは私がするから、亮太は何も心配しなくても大丈夫よ。」と安心させた。
退院日は、泉が病院まで迎えに来た。
泉は、「大学に戻れば興味本位で見せ物にされるわよ。亮太は童顔だから退学して、女性として生きていけばどうかしら。戸籍は市役所に相談しましょう。一緒に行ってあげるわ。」と今後の事について相談した。
亮太は、「誰が大学に退学届を出しに行くのだ?」と簡単な問題ではないと悩んでいる様子でした。
泉は、「大学は、ほっとけば退学になるわよ。それが嫌だったら、亮太が妹だと説明して、兄は動けないので代理で来たと亮太が学生手帳を提示して、退学届を提出すればいいでしょう。顔がそっくりだから疑わないでしょう。」と提案した。
亮太は、「泉、先日混乱していると言っていたが、俺はもっと混乱している。今は何も考えられない。」とまだ混乱している様子でした。
泉は、「無理ないわ。でも生活していかなければいけないでしょう?考えがまとまらないようなので、私がリードするわ。」と一人住まいなので、亮太を自分の部屋に連れ込んだ。
亮太は、「いいのか?二人っきりだぜ。泉の部屋に入るのは初めてだな。」ともの珍しそうでした。
泉は、「そんなにキョロキョロしないでよ。自分は女性だと自覚を持ちなさい。」と現状を受け入れるように説得した。
亮太は、「体は女でも頭は男だぜ。」と心は男だと説明した。
泉は、「子宮から女性ホルモンが分泌されているのよ。心も女性になるのは時間の問題よ。」と亮太がこの先、どうなっていくのか予想した。
亮太は泉に片思いしていて、その心だけは失いたくないと思っていた。
泉は、「今日はゆっくり休んで。今の亮太のサイズに合う服は、病院で買ったその服だけでしょう?それ、男物じゃないの。明日は、女性の服を買いに行きましょう。その上で、市役所に戸籍の事を相談に行きましょう。こんな話は信じて頂けないと思うので、病院からも口添えして頂けるように依頼します。」と今後の予定を説明した。
次回投稿予定日は、2月9日を予定しています。