神話篇第一話 飛来してくる彗星の話
昔、星がまだ凍っていたころ、神々は月の上に宮殿を作って住んでいました。
宮殿を治めていたのは天の主サレイドとその妃。二人は再び星が解凍していくのをゆっくりと見守っています。ある日のことです。遠い宇宙から七面鳥の尾のような色の飛礫を飛び散らせながら彗星が飛んできました。彗星の角度は月の方に向けられていました。
彗星は瞬きすればもう目の前に来るぐらいの速度でこちらにピンポイントにむかってきました。
星の守り人の任をうけていた若き日のグレンは彗星を確認すると、宮殿のてっぺんに転移して、そこから彗星を打ち落とそうと弓を引き絞って、その頭部に狙いを定めて、三色の矢を放ちました。
亜光速の弾丸は高速で飛来している彗星に見事命中させました。本来であれば、魔法の矢は彗星のエネルギーごと、異空間に削り取ってしまうのですが、全く別の物が盾を作って、魔法の矢の一撃を受け止めました。
盾に着弾している一瞬の出来事です。
三色の矢は圧縮されると、盾との着弾部分が溶けて、プラズマを発しながら虹色の波紋となって広がりました。こぼれた波紋は、彗星の盾の力の弱い部分を削りとっていきました。
矢は徐々に白い光の熱玉になって、鈍い衝撃波が虹色輪っかになって、やがて小さく縮小していき、消えました。彗星は矢によって削り取られ、姿かたちを変えました。
彗星の中には大きな卵が入っていました。鳥や蛇が生むような卵の中心部に哺乳類の卵が埋め込まれていました。卵の殻はとても丈夫にできていました。卵の中にいる何かが瞬きをしました。
進路を凍り付いた星の方に向けました。
若きグレンは卵を確認すると、
「あの卵はまずい」と直感的に理解して、筒から二本目の矢を抜きましたが、弓が拗ねて矢を放ちませんでした。
グレンは苦笑しました。必中のグレンの弓は肝心な時に矢を噛んで、うたせてくれないのです。
その間にも、卵は彗星の飛礫を周囲に飛散させて、もう見えなくなりました。
サレイドの王様が宮殿の上によじ登ってきました。王様は事の始まりから終わりまで知っていました。
「すみません、撃ちそこないました。」
「いや、いいんじゃよ。おぬし以外にあの彗星を撃ち落とすことはできなかったからの。
よくやってくれたグレンよ」
「あの卵はどうなるでしょうか」
「わからぬ。彗星の殻を失ったことで、大気圏の熱に耐えられず死んだと思いたいが……。
今我々は星の毒によって、降りることができぬ状態にある。星が目覚めた後にその死を確認するしかあるまい」